組織をまとめるためには欠かせないと言われるマネジメントスキル。では、マネジメントとは具体的に何を指しているのでしょうか。また、マネジメントスキルを身につけるには何が必要なのでしょうか。それらを手軽に学べる本を厳選しました。
「マネジメント」という言葉にはさまざまな意味が含まれており、一言で説明するのは難しいものです。マネジメントの祖であるP・F・ドラッカーは、「組織に結果を出させるための道具、機能、機関」と定義しています。
その機能をさらに整理・分類すると、次の3つになると考えられます。
1.「目標・成果・進捗」の管理
組織はそれぞれ特有の目的と目標を持ち、それを達成することによって成果を上げることを求められています。そのためにはマネジメントを行う「マネジャー」が進捗を管理し、進む方向にずれがないかなどを確認する必要があります。
2.「人材・組織(コミュニケーション)」の管理
2つ目は人材・組織の管理です。組織が結果を出すには、働く人たちが生産的に働けて、個々の能力の総和以上の力を引き出せる環境、つまり職場での個々のコミュニケーション、適正なチーム編成が欠かせません。
3.「その他」(リスク、フェーズなど)の管理
3つ目はリスク管理など、短期的には直接の業務とのかかわりは薄いものの、おろそかにすると組織全体が崩れかねない事態に備えることです。マネジャーは短期と長期、個人と組織の両面を見ながら、コントロールしていかなければなりません。
このように、「マネジメント」という概念はさまざまな要素が重なり合ってできています。マネジメントを深く理解し、必要なスキルを身につけるためには、目的に合った本を読み、実践を通して学んでいくことが必要です。
そこでマネジメントの基本、実践で使えるスキル、覚えておきたい事例などを学べる5冊のおすすめ本をご紹介します。
マネジメントの重要性を説いたP・F・ドラッカーの名著『マネジメント』は、マネジメントに関する書籍の中で最もベーシックな本です。当然、真っ先に押さえるべき本ではありますが、なにせ原著は日本語版で上下巻合わせて1300ページもある大作です。そこで今回おすすめするのは、この「エッセンシャル版」。内容は原著のエッセンスを凝縮してまとめてあり、普段ビジネス書を読まない方にも手を付けやすいボリュームと言えるでしょう。入門として、おすすめです。
- 著者
- ピーター・F・ドラッカー
- 出版日
- 2001-12-14
マネジメントの日本語訳に多い「経営管理」という言葉からは、マネジメント本来の意味が想像しにくいのですが、ドラッカーはマネジメントとは「実践」であり「成果をあげること」だと言っています。つまり、ただ単に部下の行動を管理するだけではマネジメントとはいえないのです。
また、マネジャーには根本的な素養として「真摯さ(integrity)」が必要だと言います。「真摯さ」は、正直さや誠実さに近い意味の言葉。マネジャーは成果をあげる上で、スキルだけでなくこうした人間的な素養も求められる仕事だということです。
本書を読めばマネジメントの基本的な役割や、マネジャーの資質・心構えなどが理解できます。マネジメント職にあるすべての方にお読みいただきたい一冊です。
マネジメントの機能の1つとして、「目標・成果・進捗」の管理を挙げました。この『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、タイトルの通り、成果を出すために参考にしたい本です。原書は1984年に書かれ、数々の名経営者に読まれてきました。2017年1月に、待望の復刊を果たした名著です。
- 著者
- アンドリュー・S・グローブ
- 出版日
- 2017-01-11
『マネジメント』の著者ドラッカーも絶賛しており、Facebookの創業者マーク・ザッカーバーグも影響を受けた本だと言います。著者はインテル社の第1号社員であり、後に社長も経験したアンドリュー・S・グローブ氏です。
グローブ氏は、マネジャーの責任は「部下から最高の業績を引き出すこと」であり、それは個人のアウトプットよりも「チームのアウトプット」として達成されるものであるといいます。そのため、「チームの業績の最大化」のための具体的な事例が本書には多く盛り込まれています。
協調性を発揮してチームで働くことが得意な日本人ですが、それは高生産性の仕事をして成果を最大化するためであるという視点は見落としてはいけない点ではないでしょうか。部下の教育の必要性なども書かれており、対象読者であるミドルマネジャークラスにはヒントの多い一冊となるはずです。
マネジメントの機能の2つ目、「組織・人材」の管理については、この本をおすすめします。なぜなら、あらゆる悩みや問題の原因となる人間関係の基本がぎっしりと詰まっているからです。
- 著者
- デール カーネギー Dale Carnegie 山口 博
- 出版日
- 1999-10-31
原書は1936年に出版されてすぐに各言語に翻訳され、世界で1500万部以上の売り上げを誇る古典的名著。自己啓発書やビジネス書の原点になったとも言われています。
著者は、自己開発や企業トレーニング、スピーチなどに関するコースの開発者、デール・カーネギー氏です。カーネギー氏には他にも有名な著書はありますが、『人を動かす』は、生きていく上で誰もが避けられない「人間関係」を築く上での原則を読みやすくまとめてあるため、段違いに多くの人に読まれています。
①人を動かす3原則
②人に好かれる6原則
③人を説得する12原則
④人を変える9原則
の4パートからなっており、組織のマネジメントを行う方にとってはどれも気になるタイトルだと思います。また、終章に入っている「幸福な家庭をつくる7原則」は、家庭を持つ方にぜひ参考にしていただきたいパートです。
もう1冊、「組織・人材」の管理に関する本をご紹介しておきます。綿密な研究をもとに考察してあり、『人を動かす』よりも日々の仕事にフォーカスしているため、具体的な行動に移しやすい本です。
- 著者
- ["テレサ・アマビール", "スティーブン・クレイマー"]
- 出版日
- 2017-01-24
著者は序章で「35年の研究から導き出したマネジメントの新常識」について述べています。その「新常識」とは、「インナーワークライフ」という人間特有の要素だと言います。「インナーワークライフ」とは、「感情」「認識」「モチベーション」の3要素の総称です。
どんなにスキルや組織のシステムや戦略を磨いても、この「インナーワークライフ」を高めなければ成果は出ないという考えのもと、マネジャーやリーダーがすべき仕事とは何かを論じています。
「インナーワークライフ」を高めるために必要なことはずばり、「小さな進捗」です。進捗というと、ビジネス現場では常に意識されていますし、当然のように管理しているという方もいると思いますが、読み進めるうちに、自分は本当にできているかを問い直すことになるでしょう。本書の中で「進捗」は「管理する」ものではなく「サポートする」ものとされているのがポイントです。
部下の仕事に対するコミットメントを高めたいと考えている方は、ぜひご一読をおすすめします。
ここまでは、マネジメントとして「こうすべき」という学びのある本を紹介してきましたが、最後は、「こうしない方がよい」という学びの観点から選びました。リスク管理についての参考になる書籍です。『失敗の本質』は、日本がなぜ第2次世界大戦(本書では大東亜戦争)で負けたのかを、組織の特性から分析した本です。日本という国が取り上げられていますが、そこで描かれているのは「組織」であり、それは企業に通じます。
- 著者
- 戸部 良一 寺本 義也 鎌田 伸一 杉之尾 孝生 村井 友秀 野中 郁次郎
- 出版日
1章では戦争の発端となったノモンハン事件から、終戦直前の沖縄戦まで、6つの作戦それぞれを「プロローグ」「作戦の経過」「アナリシス(分析)」の順で構成し、失敗の原因を探っています。2章では、6つの作戦に共通する敗因が「戦略」と「組織」の2点から分析され、3章にはそれらを教訓としてどのように活かせるかがまとめられています。
戦略的な失敗要因は主に「あいまいさ」や「主観・経験」に頼った決定であること、組織的な失敗要因は、「属人的な組織」「プロセスや動機を重視」というような、現代の日本企業にも当てはまる耳の痛い指摘が数多くなされています。
組織の失敗にはさまざまな要因が絡まり合っているため、起こってからでは対処しにくい部分がありますが、過去の大きな過ちを知ることで、その道を回避することができます。その点で日本軍の失敗は、日本人にとって学ぶべき好例となるでしょう。