『ウォーキング・デッド』レボリューション』マッド・マックス』など、ポストアポカリプス(終末後の世界)もののドラマ、映画がブームとなっています。また、プレッパーと呼ばれる「危機から自力で生き延びること」を真剣に考えて備えている人々の存在にも注目が集まっています。自然破壊や戦争の先には、そういった世界が待っている可能性があるぞと、どこかで感じているからでしょう。 今回は、そんな終末後の世界でも生き延びるために使える本をご紹介致します。
『最新SASサバイバル・ハンドブック』は、イギリス特殊部隊で培われたサバイバル技術が詰まっています。著者のジョン・ワインズマンは、イギリスのSAS(Special Air Service=特殊空挺部隊)という世界の特殊部隊の手本となった凄い組織に26年間所属したサバイバルの達人です。
そんな彼の持っている知識・経験を全て注ぎ込んで書いてあります。内容は濃いですが、平易な言葉で解説してあるので、とても読みやすく素人でもまったく問題なく理解できるでしょう。サバイバルの原則、「水」の確保はもちろんのこと、食料の調達法、生き延びるために必要な道具の作り方、応急処置や移動のコツまで、網羅的に抑えています。
冒頭の「準備」についての項目は、本当に大事です。この本自体は、ポストアポカリプスを想定していません。旅行中に災害等に巻き込まれたことを前提にしています。なので、旅行前の準備を大切にしろ、と忠告しています。しかし、いつどうなってしまうか分からない昨今「事前の備え」をしておいて損はないはずです。
どんな状況下においても最低限の生活を確保するスキルが身に付いたでしょうか。サバイバル生活も落ち着いたら、次は「科学文明」を取り戻すことに挑戦します。
- 著者
- ジョン ワイズマン
- 出版日
- 2009-09-30
『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』は、いわゆる実用書ではなく思考実験的な内容です。題名の通り、文明世界が滅びた世界からどのように現在の生活レベルに戻していくか、順を追って丁寧に説明します。
まず興味深い箇所は、「農業」の章です。「一つの特定の植物だけを、その他すべての植物を取り除いた一角に隔離して単作で栽培し、純粋で均一な作物をつくろうとすることなのだ」という解説を読んで、農業がいかに人工的な作業なのかを再認識させられます。さらに読んでいくにつれて、農業が効率化された文明的な行為だということを知ることが出来ます。
次に興味を持ったのは、第十章です。ここではコミニュケーション、情報伝達の大切さを中心に文明の復興を目指します。人々は「筆記」という発明をすることで、文明を築きあげてきました。それまでは記憶頼りの伝達方法しかありませんでした。これには限界があります。そこで物理的な媒体(石や木から始まって紙など)に記録されることで、一気に距離時間を越えて意志や技術を伝達することが可能になりました。そうなると、「印刷技術」の再興は文明復興に欠かせません。非常に低コストで多くの人、遠くの人と情報を共有することが出来る優れたツールだということがわかります。
本書は、私のような文系人間には分かりづらい部分もありますが、先に挙げた『レボリューション』などのドラマ世界の住民が急に文明を持ったわけではなく、こういったことを1つずつ積み上げて再構築していったのか、そこはまずこれからやり始めないと駄目だ、などと考えながら読むと楽しめるでしょう。
- 著者
- ルイス ダートネル
- 出版日
- 2015-06-16
ここまでは、滅亡後の生き残り方、復興の仕方を一通り見てきました。次はより具体的に、世界が滅亡したときの対策を考えてみましょう。
日本では、地震・雷・火事・親父(親父は元々「大山風=おおやまじ」で台風のこと)と言う言葉もある通り災害大国だという認識があり、それらに対する危機意識は強い。しかし、世界に目を向ければ、紛争・戦争という脅威がまだまだ多くあります。『民間防衛―あらゆる危険から身をまもる』は、昨年東京都民に配布された『東京防災』のスイス版といえるでしょう。(こっちが元になっていると思います。)ですが、防災ではなく、防衛について書かれています。
スイス連邦内閣の要請で連邦法務警察省が発行したもの、と冒頭にあるように、国が国民に国土防衛意識を持ってもらうために作られた本です(平和に対する考え方についても節々で諭されますが、今回はサバイバルガイドという側面を取上げます)。ここには、非常に詳細に、いつかくるかもしれない侵略者たちへの対処方法が載っています。もちろん災害時と被る事象も多々あります。
前半は、いわゆる座学的なパートで、食料の備蓄、地域住民との自警団の結成、緊急時の連絡・指揮系統の注意点などが説明されます。そして、より具体的な「核攻撃」「生物兵器」それらに伴う火災・救助の方法を学べます。
とりわけ、「緊急時の連絡・指揮系統」については、先の震災時に日本でも問題になり、いまだに我々一人ひとりに提示されていないように思います。誰がリーダーになるのか、何を信じて行動すればよいのか、防災意識が高まったとはいえ、いま震災が起こればまた帰宅難民・車道の渋滞が起こる可能性が高いでしょう。また、「核攻撃」の項目も原発の多い日本においては共通する部分が多く思います。放射能に対する知識の少なさが過剰な行動へとつながってしまい混乱を生みました。
後半のパートでは、ある日戦争が起こったという設定で、シュミレーションをしていきます。前半で身に着けた知識を使って乗り越えていきます。そして侵略者たちに占領された後、抵抗勢力を組織して自国を取り戻すまでが描かれています。体験したことがないですが現実味があって読み終わったあとの徒労感は凄まじいものです。これは擬似体験としては贅沢なものだと思います。
本書でも備えの大切さが言及されます。そしてもう一つ大事なことが、「冷静さ」を保つということ。これこそ、非常事態において大きな武器となるはずです。
- 著者
- 出版日
- 2003-07-04
さて、視点を変えて、滅亡へのシナリオが、敵国による侵略ではなく、内部から増殖するタイプの「魔物」だったらどうでしょうか。
『ゾンビサバイバルガイド』は結構、本気です。その名の通り世界がゾンビで溢れてしまった場合の生き延び方を学ぶことができます。まず、ゾンビの特徴、見分け方、行動パターンから始まり、拡散経路・大発生の予見などについて触れます。
そして非常に大切な武器について。
「刀最強!」「チェーンソーでしょ」「やっぱりバールだよね」と様々な意見があるでしょう。ここでは、それらの武器のメリットデメリットを挙げていきます。結果的に、その状況下で手に入るものから選ばないといけません。そこで本書では次のポイントを武器選びの基準としています。「一撃で頭蓋骨を破壊できそうか」「もしできないなら、一撃で首を落とせそうか」「扱いやすいか」「軽量か」「耐久性はあるのか」以上。
攻撃方法のあとは、防御法です。これは大事です。ここでもいくつかの基準にそって、要塞となる場所を解説していきます。そして本当に大切なこと、それが「逃亡方法」だと思います。戦っても消耗しかありません。ゾンビが蔓延した場合は、逃亡と防御を繰り返して、生き抜くしかないのです。
本書の最後は、“本当にゾンビはいるよ”という証拠としての歴史的記述を参照するパートです。これはこれで娯楽として楽しめてよいでしょう。そう、どんな危機的状況でも人は娯楽を欠かしてはいけないのです。
- 著者
- マックス・ブルックス
- 出版日
- 2013-08-07
最後は総括のシュミレーションとして、あの名作漫画を読んで終末に備えましょう。
『サバイバル』は言わずと知れた名作漫画。巨大地震に遭遇した鈴木少年が、絶望の淵から生き抜こうとするサバイバル漫画です。次から次へと迫り来る困難を、試行錯誤を繰り返して乗り越えて成長していく様は、感動します。漫画としてのストーリーはさることながら、サバイバル知識も先に挙げてきた書籍と劣らないもので、自然と頭の中に入ってきます。
ポストアポカリプス的な世界において、何が本当の恐怖なのかをまさに身を持って体験できるでしょう。火の起こし方、魚の釣り方、はもちろん、移動の方法に生残った人々との関わり方についてまで。ずばり、この本に関しては読んでいただいた方が早い。
また、現在、同漫画のリバイバル『〜少年Sの記録〜』がマンガボックスに連載されています。こちらは現代に併せて主人公がスマホを持っているなど、原作の『サバイバル』に古さを感じ、入り込めない人はこちらを読んでも良いでしょう。
- 著者
- さいとう たかを
- 出版日
これらの本を読んできて、僕が強く感じたこと。本こそ最大の発明だ、ということです。
本がなければ、これほど簡単に知識を伝達、継承できるでしょうか。ここで紹介した本たちは、奪い合いになるかもしれません。早いうちに保管しましょう。