島流しが刑罰として認められた日本での物語を描いた本作。行き着いた島でのサバイバルにハラハラさせられる、サスペンス漫画です。今回は本作の魅力を徹底紹介!ネタバレを含みますのでご注意ください。
新たな法律が施行され、凶悪犯たちが島流しにされることになった近未来。そこにあえて自分から上陸した男がいました。
本作はそんな彼の、ある巨大な敵に立ち向かう様子を描いた作品です。
- 著者
- 落合 裕介
- 出版日
- 2009-10-28
最大の魅力はなんといっても、徐々に明かされる島の謎と、結末が想像できないストーリー。その設定をスリルたっぷりの展開と、迫力満点の絵で楽しむことができます。
男性向けの色が濃い作品かと思われる方も多いかも知れませんが、その本格的なサスペンスストーリーは性別関係なく楽しめるもの。確かに多少グロいと思われるシーンもありますが、先が気になる本格的な展開にどんどん読み進められるかと思います。
ぜひ主人公の御子柴とともに、島に隠された秘密の全容と、ストーリーの結末を見届けてみてください。
2009年。裁判員制度を導入した日本は、終戦60年以上変わることのなかった刑法に大きな変化の機会が訪れました。しかし状況が良くなった訳ではなく、世界経済の先行きの不透明さもあって、日本国内の凶悪犯罪は増加の一途。国内は大きな変化に荒れ、大変な状況に陥っています。
そんななか世界各国からの非難と世論の高まりを受け、日本は「倫理的理由」から死刑制度を廃止。そして死刑に代わる極刑として、1908年以来廃止されていた刑を復活させるのです。
それは罪の重さに応じて「近流」「中流」「遠流」に分けられる流刑、つまり「島流し」です。
その島では全てが自由。法も、権利も、国からの援助も無いそこは、日本であって日本でない場所。そして、そこに「国から共存することを拒絶された者たち」が送られてくるのです。
そんな世相のなかで、5人もの命を奪った殺人犯として「遠流」になったのが本作の主人公・御子柴です。誰もが絶望的な気持ちになるであろう刑罰ですが、彼はその判決を聞いた時、ニヤリと笑うのでした。
そして彼の、「天獄の島」でのある目的を果たす物語が始まります……。
船で輸送され、処刑人たちも知らないという流刑地の森へ歩いていく犯罪人たち。そして外界と島の中を繋ぐ扉を出てすぐ、先頭を歩いていた男の顔面に2本のヤリが刺さります。混乱する犯罪人たち、それをあざ笑うかのように次々と降りかかってくるヤリ。
周囲が混乱するなか、御子柴は冷静に風の動きを見て、不自然に動かない茂みに狙いを定め、そこに潜む敵を見つけます。
そしてそこにいた男に忍び寄り、一気に近づくと彼を片手で持ち上げ、問い詰めます。2本の矢が同時に飛んで来たことから、もうひとりがいるはずだ、どこにいるのか、と。するとその男はもうひとりの奴は服が欲しいからと他の奴を追っていった、と白状します。
服が欲しいからというだけで人を殺す島。相当物資や食料が不足していることが伺えます。
御子柴は何とか生き残ったもうひとりの犯罪人とさらに奥へと進んでいくと、そこに舗装道路や電柱を見つけました。ここは10数年前までは普通に人が暮らしていた場所なのですが、過疎化が進んで流刑地となったのです。
そして、なんと電柱のひとつひとつには死体が吊し上げられているのでした。異様な光景に恐れをなす連れの男ですが、御子柴は動揺せずに今の位置を分析し、進むべき方角を定め、こう言うのです。
「俺は自ら望んできたんだ
この 天獄の島に」(『天獄の島』1巻より引用)
果たして彼の目的とは何なのでしょうか?
流刑地の島に来てから初めての夜。一緒に付いて来た男が眠るなか、御子柴は焚き火の炎を見つめながらこう言います。
「出てきたらどうだ?
俺は眠りはしない」(『天獄の島』1巻より引用)
その言葉を聞いて茂みの中から出てきたのは、彼より頭ひとつ分背が高く、顔を包帯で覆った大男と、その取り巻きたちでした。どうやら昼間に白状させた男をわざと逃し、彼が所属する集団をおびき出したようなのです。
謎の集団に、この島について聞きたいと言う御子柴。彼の落ち着いた様子に興味を持った大男は、不気味にニタリと笑い、こう言います。
「島のことを話してやってもいい…ただし
お前が生きのびられたならな」(『天獄の島』1巻より引用)
そして、手に持ったオノをゆっくりと持ち上げるのです。
大男の言葉に表情ひとつ変えず、近くにあった木の棒をもって「いいだろう」と答える御子柴。そしてふたりは大男の取り巻きたちが野次を飛ばし、笑いながら取り囲んで観戦する異様な光景のなかで戦うことになるのです。
どう考えても不利な戦いですが、彼は戦いながら頭を働かせ、大男の動きを一瞬止めることに成功。そして、すんでのところで手を止め、トドメをささずにその勝負に勝利するのです。
負けを認めた大男から聞いたのは、ここから数キロ先にひとつの街があるということ。もともとそこにいたという彼らですが、思い出したくもないひどいところだったと振り返ります。
そしてなぜそこまでこの島のことを知りたいのか、と問われる御子柴。彼は大男に向かってこう答えます。
「俺はこの島にある男を探しに来た」(『天獄の島』1巻より引用)
静かに激情を感じさせる表情は、焚き火に照らされて凄みを増しています。そして彼の決意を感じた大男は、この先にある街へ自ら案内すると申し出るのです。男が口にしたその街の名前は、「天国」でした。
気になるストーリー展開の見所を2巻からご紹介します。
御子柴が「天国」で見たのは「無用人」として廃棄されそうになっている死にかけの人間や、やせ細ってゾンビのようになりながら街には入れない人々でした。彼らは街に入るための「課題」をクリアできなかった人々だと説明されます……。
- 著者
- 落合 裕介
- 出版日
- 2010-05-20
そんななか彼に出された課題は「6人の人間と殺し合いをしてもらう」というものでした。さらに「神の御前で」という謎の言葉もつけたされます。
そして連れて行かれた闘技場で、神として崇められていたのがひとりの少女だということを知ります。その彼女の横には、彼がずっと探し続けていたある人物がいて……。
そんな決闘場での戦いの決着がついた本巻。彼が探していた男は「榊」という名で、彼の父を殺した犯人であること、神と呼ばれていた少女は「一様」、「いち」と呼ばれていることがわかります。
さらに過去の回想から判明したのは、医師だった御子柴の父と、同じく彼のもとで働いていた医師の榊、「いち」という少女に繋がりがあったこと、彼らの研究がこの島の秘密を握っているであろうことでした……。
「仕事夫(しごとふ)」という奴隷によって生活がまわっており、サバイバルで血みどろの戦いがおこなわれている原始的な天獄島。しかし彼らを束ね、恐怖から思考能力を奪ってこの島を支配しているのは、最先端の研究している医師、科学者たちのようなのです。
大きな秘密を隠すため、使い捨てともいえる人々の原始的な暮らしでカモフラージュしている様子に、秘密の大きさを感じます。
ついに榊と対面したものの、区長殺しの疑いをかけられた御子柴は、そのまま仕事夫にされそうになります。そんななかこの島を統治している黒幕は、ある政府に関わる人間だということも前巻で判明。
そして本巻でついに明らかにされた、御子柴の真の目的。それは榊を殺すことではなく、彼が犯人ではないという推測をし、真犯人をその口から聞き出すことだったのでした。
実はこの島でおこなわれていた研究は、御子柴の父がガンを患ったいちという少女で成功させてしまった不老薬に関するもの。薬はガン細胞の成長を止めるとともに、健康的な細胞の成長をも止めてしまい、彼女の時間は幼いまま止まってしまったのでした。それが果たして本当に良かったことなのかと、御子柴の父は疑問に思います。
しかし、その研究に着目した政府はこの研究を利用することを決め、彼を脅します。そして着々と計画を遂行していくのでした。
そして天獄の島を設け、そこで「人間のリサイクル」という恐ろしい着想を実行をしようとしていたのです。それに気づいた御子柴の父はすべてを公にすることにしたのですが、その考えゆえに榊ではなく、国という大きな存在に殺されてしまったのでした。
果たしてそれを知った御子柴は、どんな行動を起こすのでしょうか。政府という巨大すぎる敵に勇敢に立ち向かう男の姿は、圧巻です。
彼の勇姿、「人間のリサイクル」の詳しい内容、ストーリーの結末は、ぜひ作品でお確かめください。簡単にハッピーエンドといえるものではなく、複雑な気持ちにさせられる最終回。しかしそこで見せられたいちの笑顔には、すべてを受け止めながらも生きていくのだと説得させられるような力があります。
全3巻という短いものながら、見ごたえたっぷりのストーリーです。
- 著者
- 落合 裕介
- 出版日
- 2010-11-18
短いながらも読み応え抜群の本作。謎に包まれた島、登場人物、政府の陰謀、ひと時も油断のできない展開、迫力満点の絵と、どんどんその世界観に惹き込まれていきます。
お伝えした作品の魅力はごく一部。詳しく作品本編でご覧いただくことにより、さらにその魅力が感じられるでしょう。
知れば知るほどに深い内容を楽しむことができる、魅力たっぷりの本作。結末は、ご自身でお確かめください!
『天獄の島』を含むおすすめのミステリー漫画を紹介した<ミステリー漫画おすすめランキングベスト15!隠された謎に迫る!>