堀江貴文氏の著書『多動力』が注目を集めています。やりたいことをやりながら生きるための秘訣が書かれている本書は、刺激的な言葉であふれ、一気読みしてしまう可能性大。学びが多く、エネルギーもわいてくる、その内容を紹介していきます。
日本では「石の上にも3年」という言葉があるように、昔から、1つのことをコツコツ続けていくことを美徳とする文化があります。その姿勢は、確実に経済発展を支えてきましたし、その他にも日本人に多くの恩恵をもたらしてきました。
ところが、最近はそればかりでは通用しない世の中になってきました。その理由は、インターネットが発達し、誰でも情報を手に入れられるようになったことにあります。
今まで職人芸と呼ばれていた技術も、情報さえ手に入れられればすぐに習得できるようになりました。情報を持っているというだけでは価値は生まれず、「この道一筋何十年」ということにあまり意味がなくなってきたのです。
本書『多動力』では、「寿司屋の修業なんて意味がない」というように、常識とされてきた考えをバッサリと斬り、次から次へと分野を超えていく力、すなわち「多動力」の習得を勧めています。もちろんイチロー選手や三浦知良選手などのように、一芸に秀でている人はその道をまっすぐ進めばいい。しかし、一流になれる才能のない人が一つの仕事にとらわれることは、価値が十分に発揮できないとてももったいないことなのです。
今回は『多動力』を通して、かつてないスピードで変わっていくこれからの時代の価値観や生き方について考えていきます。
著者堀江貴文氏は「はじめに」で、自らのある1週間のスケジュールを列挙しています。予定を見ると、月曜日はコンサルティングから始まり、地方に移動して講演会。火曜日はアプリやWebメディアの定例会。水曜日は編集者や投資家とそれぞれミーティング、といった多忙ぶり。1週間の中で、まったくジャンルの違う仕事を多数並行して進めています。
活動は多岐にわたり、移動距離も普通の感覚では考えられないほど長距離。このスケジュールをこなすには、複数の仕事を同時にそして高速で動かす力が必要です。
1つのこと、1つの場所に留まることをせず、移動し続ける「多動力」を身につけることで、自分の価値を存分に発揮できると述べています。
- 著者
- 堀江 貴文
- 出版日
- 2017-05-27
多動力の源泉となるのは、「好奇心と集中力」。「サルのようにハマり、ハトのように飽きよ」という言葉でも表現されています。好奇心と集中力を最大限に発揮するには、「ハマって飽きる」を繰り返すことが大切。堀江氏は幼少期から何をするにもずっと「ハマって飽きる」を繰り返してきたそうです。
日本の教育現場では、すべてをまんべんなくできる人が称賛され、そこを目指すように教育されてきました。ですが、その「バランス信仰」から脱却し、1つのことにハマってみることが大切だと言い切ります。
そもそも飽きやすいことはネガティブなことではなく、実は成長の早い人は皆、80点をとれるようになったら(100点に仕上げようとはせず)次の課題に移っている。そうして一見中途半端にやってきたことが、点として蓄積され、その点と点がつながって、いつの間にか線となっていくのです。
一点集中でとことんハマる時期をつくり、その後にあっさり次へと向かう。この涼やかな姿勢が業界や分野の壁を超える秘訣のようです。
皆さんは今、いくつの肩書きを持っているでしょうか。会社員であれば、「営業」「経理」「SE」など、多くの人の肩書きは1つだと思います。
しかし堀江氏が言うには、肩書きが2つ以下の人は、注意した方が良いのだそう。欲しい理想の肩書きを書き出してみて、どうしたらそれが手に入るのか、真剣に考えてみることをおすすめしています。
ではなぜ3つ以上の肩書きが必要なのか。インターネットによって産業ごとの「タテの壁」が崩壊し、ひとつの仕事であれば機械やAIに代替される時代になりました。そうなると、ひとつの肩書きに固執せず、自由に業界の枠を飛び越えられる「越境者」であることが重要になってきます。「越境者」は、フラットで開かれた世界でいくつもの肩書きを持ち、レアな存在として重宝されるのです。
今までは2つの仕事を両立させている人のことを、レアな存在の象徴として、「2足のわらじ」「二刀流」などと呼んできましたが、これからは2足のわらじどころか、3足以上のわらじを履くことも普通になってくるでしょう。
さらに、1人の人間が持つ肩書きは、似通った分野よりも遠い分野同士を組み合わせた方がより希少性は増します。どれだけ遠い肩書きを持てるかは、自分の好奇心の幅に比例すると考えられます。日頃からいろいろなことに目を向け、「点」をたくさんつくっていくことが大切なのではないでしょうか。
堀江氏自身はワクワクすることに次々と飛びついていった結果、たくさんの肩書きを持つようになりました。本文中にあげられているだけでも17の肩書きがあります。このような生き方をしていくと、その人は数億分の1の価値を出すことができ、唯一無二、替えの効かない貴重な存在になるのです。
今は一つのことしかしていない人でも、誰もがかつては多動力を持っていました。無邪気な子ども時代は、何に対しても好奇心があふれていたはずです。しかし大人になるにつれて、好奇心が薄れてしまい、バランスのとれた人間になる人が多いのです。
一方で、成功する起業家やクリエイターは、いい意味で無分別で、ストッパーが外れていると堀江氏は分析します。3歳児の頃の好奇心を失っていない人たちは、自分のやりたいことを自由に実現している。1つの型になんとなく落ち着いてしまうと、自分の世界を自分で狭めてしまうことになるのです。
“肉体のトレーニングを欠かさなければ健康を維持できるように、未知なる刺激に接し続けていれば、3歳児のような「多動力」もキープできる。”と堀江氏は言います。
今はテクノロジーが年齢の差をフラットにしたため、学びたいという意欲さえあれば、すぐに身につけることができる世の中です。そうやって未知の刺激にふれ続け、自分の枠を制限せずにどんどん広げていける人が、新しいものを生み出せる人になるということです。
そういう人になるためには「見切り発車は成功のもと」という言葉も覚えておきたいところです。何かを始めるときには周到な準備が必要だと考えている人も多いと思いますが、始めるのもやめるのも思っている以上にすぐにできるので、まずはやってみることが大事。
準備が足りていないからといって、出発しなければどこへもいけません。思いついたらはじめてみること。見切り発車してみて、トライ&エラーを繰り返していくことで見えてくるものがあるのでしょう。撤退するのは簡単なので、まずは実践あるのみ、という強いメッセージがここにあります。
本書は「Just do it」「やってみよう」という言葉で締めくくられています。1秒残らず人生を使い切るには、ずっと同じところにいるのはもったいなさすぎる。
『多動力』は、これからは好奇心のアンテナを高く張り、興味を持ったことにはすぐに飛びつける軽やかさを持つことが大事である、ということを教えてくれる良書です。興味のある方はぜひ読んでみてください。
- 著者
- 堀江 貴文
- 出版日
- 2017-05-27