岩明均は『寄生獣』で人気を博しましたが、実はそれに追随する作品も数多く存在します。そんな彼のおすすめ作品を5つご紹介します。
岩明均は、1960年7月28日生まれの漫画家です。1988年から連載をはじめた『寄生獣』が多くのメディアミックスを生み出し、人気を博しました。
学生のうちは漫画を読むほうではありませんでしたが、文庫サイズの手塚治虫の作品を読んだことがきっかけで漫画に目覚めました。そこから上村和夫のアシスタントなどを務め、当時描いていた『ゴミの海』がちばてつや賞に入選し、漫画家デビューを果たします。
2000年以降は歴史物を描く事が多く、人物の心理描写や緻密で哲学的な世界観が秀逸です。生々しさ満点の作風で、人類の尊厳的なものを無視したかのようなグロテスクさが魅力となっています。
アニメ化・実写映画化を成し遂げた岩明均の代表作『寄生獣』。「モーニングオープン増刊」と「月刊アフタヌーン」にて連載されていました。
宇宙から飛来してきた寄生生物「パラサイト」が人間に取りつき、人間を食べるという世界が舞台。主人公の泉新一とパラサイトが不完全融合した結果、右手に意思を持ったパラサイトが生まれます。新一はその右腕を「ミギー」と名付け、ひとりと1匹が紆余曲折を経て、寄生生物達を倒していくという物語です。
寄生獣
1990年07月23日
寄生生物に乗っ取られた人間は、細胞が完全に変質し、顔が食虫植物のようになります。寄生された人間の無表情さと人を切り裂く描写は大変グロテスクで、見る者全てを恐怖に誘うのです。
自分だけがパラサイトの存在を知っている新一は、世間にあるがままを伝えるかどうかの葛藤に苛まれます。精神的に不安定になりながらも、人間味を増したミギーと支えてくれる仲間たちの力を借りて成長していくのです。
ただグロテスクなだけではなく、主人公を軸に繰り広げられる人間ドラマの深さが魅力的です。ヒューマンドラマ、SF、グロテスクを兼ね備えた名作をぜひ読んでみてください。
『寄生獣』の魅力を紹介した<漫画『寄生獣』を読む前に抑えたいキャラの魅力を名言とともにネタバレ紹介!>の記事もおすすめです。
『七夕の国』は「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていた作品です。超能力とミステリーを融合させた異色のジャンルとなっています。
戦国時代、とある集落で起きた因縁が、主人公の南丸洋二が暮らす現代まで続いていたところが物語のはじまりです。
南丸、通称ナン丸は、アイスピックで刺したような小さな穴を、物質の特性に関係なく開けることができる能力を持っています。そして、ナン丸が通う大学の教授、丸神正美も同じような能力を持っていました。
本作のなかで最も重要な拠点である集落、「丸神の里」と呼ばれる丸川町では、多くの人が特殊な能力を持っています。それが、「窓の外を見る」能力と「手が届く」能力です。「窓の外を見る」という能力を持っている者は怖い夢をみてしまい、「手が届く」という能力を持っている者は何でも消滅させることができるという残虐な力をもっています。
- 著者
- 岩明 均
- 出版日
- 2011-12-15
「手が届く」能力を使い続けると、額に血豆のようなものができ、さらにそれが硬質化して人間の姿とはかけ離れた異形になります。それが、グロテスクに定評がある岩明の描写によって気持ち悪く描かれているのです。
ある日丸神町で、頭部がスプーンで抉り取られるという殺人事件が起きます。それと同時に丸神教授も失踪。ナン丸とゼミのメンバーは、教授の失踪と殺人事件の調査に乗りだします。
登場人物のリアルな人間関係とシリアスな展開に注目です。古来より続く因果関係のなかで、超能力とミステリーが上手く調和された世界をお楽しみください。
『レイリ』は、原作が岩明均、漫画が室井大資の戦国時代物です。
長篠の戦いから4年、武田家の家臣・岡部丹波守に全面の信頼をおいているレイリによって物語は紡がれます。
レイリの一番の特徴は、武術に長けていて、死にたがりの性格をしていることでしょう。仕えている丹波のためになら、「敵を殺して殺して殺しまくる」と言っており、最後には盾にでも何にでもなると言っています。そこに、岩明の生み出したレイリの破たんした性格が見えてきます。その時の表情を室井がリアルに描き、レイリの凄惨な性格がより反映されているのです。
- 著者
- ["岩明 均(原作)", "室井 大資(漫画)"]
- 出版日
- 2016-11-08
レイリがそのような性格になったのは、織田軍の雑兵に家族を殺されて天涯孤独となり、憎しみを超えて「死にたい」と思うになったためです。いつも木刀で訓練をしていたレイリが、初めて真剣を握って敵を殺すときの目の中には狂気さが見え隠れしています。世界観と絵が見事にマッチしており、さすが岩明と室井のタッグと言えるでしょう。
戦闘シーンは非現実さがまるでなく、泥臭い戦いがこの作品に味を持たせています。
鬼才コンビによって描かれた緻密な戦国時代劇漫画をぜひ手に取ってみてください。
『ヘウレーカ』は岩明均が古代ローマ時代を主軸に描いた歴史漫画です。全6話の1巻完結と物語は短いですが、作品は濃密な世界観で満ちています。
舞台は紀元前の共和政ローマ、シチリア島です。主人公は、当時最強と言われていたスパルタという人種のダミッポス。しかしダミッポスは、軟弱で頼りがいのない優男で周りから侮られていました。一方でそれを補う頭脳の持ち主だということが、かの有名なアルキメデスにも認められています。
- 著者
- 岩明 均
- 出版日
- 2002-12-19
武力ではなく知能によって戦うダミッポスの姿は、彼が戦争を支配しているかのように感じさせます。そこに、この物語の深さが垣間見えてくるのです。単に斬り合いで決着がつくのではなく、濃密な頭脳戦や心理戦の勝敗が読者に爽快感を与え、感情移入がしやすくなっています。
5万人以上の大軍もひとりひとり綺麗に描かれており、そこに見えてくる人間臭さと、戦場に列を成して集結している姿は圧巻の一言です。
ちなみにタイトルにも使われている「ヘウレーカ」という言葉は、アルキメデスが「アルキメデスの原理」を見つけた時に叫んだものだそう。岩明均によって描かれた古代ローマ時代をぜひ感じてみてください。
岩明均がデビュー前から構想をしていた『ヒストリエ』は超人気の歴史漫画です。2010年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を、2012年には手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞という偉業を成し遂げています。
本作の舞台は古代ギリシア世界。マケドニア王国のアレクサンドロス大王に仕えていた書記官のエウメネスの生涯を描いた作品です。
ヒストリエ
2004年10月22日
物語は、エウメネスが少年時代に暮らしていた里へ帰り、自らの少年時代に思いをはせるところからはじまります。その後第1部でエウメネスの少年期から青年期までを、第2部でマケドニア国王に仕える成年期が描かれています。
聡明なエウメネスは、たび重なる波乱を頭脳と機転の良さでくぐり抜けていくのですが、そこには超常的なものは一切なく、だからこそ読者は彼に感情移入できるのでしょう。
エウメネスの生きる古代には倫理観というものは無く、その残虐性は岩明均によってリアルに描かれ、重厚で深みのある作品になっています。
『ヒストリエ』について紹介した<漫画『ヒストリエ』10巻までの魅力を徹底考察!【ネタバレ注意】>の記事もあわせてご覧ください。
グロテスクだけではない、濃密な世界観とそこから感じる人間ドラマがあるのが岩明均作品の特徴です。ぜひ彼の世界に没入してみて下さい!