『週刊少年マガジン』で連載中の漫画『ベイビーステップ』は、アニメ化もした大人気作品です!綿密な取材と作者の経験をいかした本作は、地道な努力や戦略で試合を勝ち進むテニスプレイヤーの成長物語。今回は47巻までの見どころを紹介します!
『週刊少年マガジン』で連載中のテニス漫画『ベイビーステップ』は、アニメ化もした大人気作品です。作者の勝木光がテニス経験者であり、綿密な取材をした本作は、現実的な技術や戦術、トレーニングによって成長していくリアルなテニスプレイヤーの姿が描かれています。
主人公の丸尾栄一郎が高校からテニスと出会い、独自の方法で急激な成長を遂げ、テニス歴3年でプロとなるストーリーで、45巻では日本代表選手とも対戦。普通はありえない成長スピードですが、ひたすらまじめで几帳面な主人公が、自分や相手を分析して、課題にぶつかる毎に地道に試行錯誤をくり返す方法で成長するため、とても説得力があります。
経験が浅く、格上の相手との対戦がほとんどですが、実力差を覆すために冷静な分析と多彩な戦略で、どんな時も諦めずに活路を見出す主人公の戦い方は魅力的です。
- 著者
- 勝木 光
- 出版日
- 2008-02-15
相手の選手も特殊な技や才能ではなく、それぞれのプレイスタイルを活かした多彩な攻撃を仕掛けてきます。再戦の時には相手も弱点を修正し、成長を感じさせる努力をしてきているので、応援したくなる登場人物ばかり!
ストーリーだけではなく、現実的なメンタルの鍛え方や戦略の考え方はテニス以外にも応用できそうなものばかりで、目標に向かって頑張りたいと思っている方にピッタリな作品です。
この記事では全巻の流れをまとめてご紹介し、その魅力をお伝えします!ネタバレを含むので未読の方はご注意ください。
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ベイビーステップの主人公は丸尾栄一郎(まるおえいいちろう)。まじめで几帳面な性格で、誰もが認める優等生ですが、それをひけらかさない栄一郎は高校でも皆から慕われています。特に、デザインにまでこだわり、完璧に内容をまとめた「エーちゃんノート」は他クラスから借りに来る生徒がいるほどです。
毎日自分の設定したスケジュールをきっちり守って勉強に打ち込んできた彼ですが、運動不足解消のために、高校から運動をしようと考えます。母親の勧めでたまたま近所のテニススクールに見学に行くことにし、それが今後の人生を変える大きなきっかけとなりました。
見学先のスクール生は皆本気で、栄一郎はウォームアップについていくことすらできません。彼が訪れた南テニスクラブ(通称STC)はプロのテニス選手を育てる名門スクールだったのです。プロを目指していると臆することなく言う、同じ高校の美少女、鷹崎奈津に、これまで勉強だけだった栄一郎は衝撃を受けました。
その後毎日走り込みをして体力をつけた彼は、1週間後に再びSTCを訪れます。なんとかウォームアップを完遂し、奈津の誘いで同じ学校の先輩、江川逞(えがわたくま)と軽く練習することになりました。最初は逞の威力のあるサーブに触れることすらできませんでしたが、簡単なフォームを教えてもらい、1球だけ確かな手ごたえで返球することができました。
その手ごたえと気持ちよさを忘れることのできなかった栄一郎は、どんどんテニスにはまっていきます。もらったアドバイスや、1球1球の軌道とフォームを記録した「エーちゃんノートテニス版」を使用し、試行錯誤をくり返しながら、圧倒的な集中力で何時間も壁打ちを続けます。その姿を見た奈津は、彼がプロを目指している自分や逞よりも強くなることを確信するのです。
STCに入った栄一郎は、4ヶ月目に神奈川ジュニアサーキットに出場します。初試合の相手は第5シードの大林良で、基本のストロークのみしか身につけていない栄一郎には勝つ見込みはありません。しかし動体視力の優れる彼は、大林が打つ前にラケットや腕の動きからボールが来る方向を予測して、最後まで食らいつきます。そのしつこさを見た大林やSTCのコーチは、栄一郎の持つ才能の片鱗に気付きました。
1回戦で敗退した栄一郎ですが、全てのボールの軌道や、ボールを打った時の感覚をノートに書き続け、1球1球の経験を最大限に上達に向けて活かしてきたために、たった4ヶ月でシード選手を苦しめるほどに成長を遂げることができました。さらに、誰よりも壁打ちをくり返したため、すでに基礎はしっかりと身についています。それからは、1年後の神奈川ジュニアサーキットに照準をあわせ、狙ったところに打てるように、技を増やしました。
そして迎えた1年後の神奈川ジュニアサーキットでは、シード選手を含めた強敵を相手に次々と連勝します。テニス歴1年の彼がシード選手を相手に勝つことができたのは、相手の得意とするプレイ展開に巻き込まれることなく、相手をよく観察して選んだ戦法や、自分のプレイスタイルがないからこそ柔軟にいろんな選手の戦法を取り入れられたことが、結果的に相手の弱点を突いたからでした。
第5シードの宮川卓也や第3シードの岩佐博水(いわさひろみ)にすら勝った栄一郎は、ついに準決勝まで進みます。
準決勝の相手は第2シードの荒谷寛(あらやひろし)。彼は逞のことを、子供のころから勝つことができない長年のライバルと認めており、今回の大会で勝てなければプロを目指すのを辞めると宣言するほど、この大会に人生を賭けている選手です。パワーとスピードのあるカウンターショットを得意にしています。
栄一郎は逞から、荒谷は立ち上がりが弱いという弱点を教わり、ハイペースで序盤から攻めるのですが、彼の目論見に気付いた荒谷はすぐに自分のペースに持ち込んでしまいます。テニス歴の浅い選手からすれば、県でも上位の実力を持つ荒谷の弱点などは無いに等しいようなものですが、栄一郎はあきらめずにフォームや軌道を徹底的に観察し、ただではやられません。しかし、それがきっかけとなり、荒谷は焦ると自分の感情がコントロールできなくなるという弱点を克服してしまいます。
今までパワーとスピードで相手をねじ伏せる事しか考えていなかった荒谷が冷静に相手を見て攻撃するようになり、栄一郎は彼を追いつめたものの敗退してしまいます。
結局今大会では逞が荒谷を破って優勝。しかし栄一郎との試合でまだまだ強くなれると確信した荒谷は、プロを諦めると言った宣言を撤回。誰が相手でも自分のできることを精一杯やりきって戦う栄一郎の試合は、彼自身だけでなく、相手の成長にもつながり、戦った選手たちとは良いライバル関係を築くことができました。
本格的にプロを目指すため、1年後の全日本ジュニアでの優勝を目標に据えた栄一郎ですが、全日本ジュニアに出場するためには、まずいろんな大会に出場して選手ランクを上げる必要があります。2ヶ月という最短時間でのハードなトレーニングで肉体改造をした彼は、STCカップ神奈川大会に第8シードで出場します。この大会は以前出場した神奈川ジュニアテニスサーキットと同グレードの大会です。
ハードなトレーニングで筋肉痛も肉体疲労もピークに達したまま1回戦に臨んだ栄一郎。最初はぎこちない動きでしたが、動くにつれて体が軽くなっていくのを実感します。実は体中に充満した疲労物質は、軽い運動で血流を動かし洗い流すことで、圧倒的な早さで回復するのです。
ハードなトレーニングを通して1度壊れた体は、もう壊れないようにと強靭な体をつくり、骨格、筋肉、心肺機能のすべてを強くしていくので、試合中も含めて肉体改造が完成します。身体能力が格段に向上した栄一郎はとんとん拍子で勝ち進み、強い選手の出場が少ない大会だったこともあって難なく初優勝!今後の試合に向けてもこの筋肉改造は続き、体を進化させることでアスリートとして生きていくための肉体を作っていきます。
次の大会はいよいよ全日本ジュニアに向けての選抜予選です。通常の予選よりひと足先に、選抜メンバーだけで全国の舞台をかけて戦う大会で、関東のジュニアランク上位32名に入っていなければ出場することができません。大会で成績を残した栄一郎は見事選抜され出場が決まりますが、ギリギリの成績で選抜された栄一郎の初戦の相手は、第1シードの難波江優(なばえゆう)。前回の全日本ジュニアの優勝者でもある強敵でした。
難波江は前回の全日本ジュニアで、逞を相手に勝利しています。彼は逞の苦手とするプロ選手、池爽児(いけそうじ)に酷似したプレイスタイルで戦う選手でした。栄一郎と同様に相手を冷静に観察する難波江は、ありとあらゆることが得意と言えるレベルでできる技術を活かし、相手次第でプレイスタイルを変えることができるという強みを持っているのです。
栄一郎は、難波江がテニス歴の浅い自分のデータをまだ集められていないことを利用して、序盤から積極的に攻めます。しかし、試合でラリーを続けるなかで、「反応が良く基本に忠実で守備的」という自覚もしていなかった弱点を見破られ、心が読まれているのかというほど圧倒的に点を奪われてしまいます。彼が対応に追われているうちに、急激にテンポを変えるサーブ&ボレーのスタイルに変化し、ますます攪乱され、あっという間に1ゲーム奪われてしまいました。
追い込まれた栄一郎は、「全ての球に追いつき、それをコントロールできれば理論上は負けない」というコーチの教えを思い出し、コートを64分割して、狙ったところに確実にボールを返すという方法で少しずつ点数を重ねていきます。
自分のプレイスタイルがやっと定まりますが、とても繊細なテクニックが要求されるため、1試合中に何とかなるようなことではなく、結局ストレートで負けてしまいました。しかし難波江からは、メンタルはA評価で、技術もこれから化ける可能性がある、との評価をされており、「全日本ジュニアの本戦でまた戦うことになりそう」と認められたようでした。
全日本ジュニアでも通用する力をつけるべく、2週間アメリカに留学し、全てが整った環境でテニス漬けの日々を過ごした栄一郎は、理性だけではなく、本能の衝動も活かして戦う戦略を身につけます。ポイント間の20秒を最大限使って相手の戦略を理論的に分析したら、実際に戦う時はごちゃごちゃと考えず、本能に任せて相手の動きを予測して攻撃することで、次の攻撃への動きが今までよりもスムーズになりました。プロ選手とも対戦し、ますます成長した栄一郎は、いよいよ人生を賭けた大目標の全日本ジュニアの県予選大会に挑みます。
1回戦は荒谷のクラブの後輩にストレートで快勝し、勢いに乗ります。2回戦目は栄一郎と同じくプロを目指し、この大会に人生を賭けている第3シードの宮川との戦いです。以前の栄一郎との試合で自分の弱点に気づき、スランプを乗り越えて新しい武器を身につけた宮川との戦いは苦戦を強いられますが、精密なコントロールだけではなくスピードも身に着けた栄一郎の方が成長スピードも実力も上で、お互いに1歩も譲れない真剣勝負は、栄一郎が制しました。
3回戦、4回戦、さらには準決勝までストレート勝ちで駒を進め、ついに決勝は、以前敗れた荒谷との再戦になりました。フィジカルに恵まれ、全国ベスト8の荒谷のスピードとパワーのある球を返すのはむずかしく、さらに対戦経験の少ない左利きプレイヤーの対応に追われた栄一郎は1セットを落としてしまいます。
2セット目から栄一郎は、正確なコントロールでの攻撃と動体視力を活かしたチェンジオブペースというスタイルに挑戦します。返球スピードに緩急をつけ、相手のペースを乱して戦うスタイルのため、スピードとパワーで戦う荒谷のような選手には優位な戦略でしたが、思考をフルに働かせながら動いた栄一郎は、肉体よりも脳に疲労が先にたまってしまい、ギリギリのところで敗れることとなりました。
半年で荒谷を追いつめるほど驚異的な成長した栄一郎ですが、それでも彼自身にとっては「勝てなければだめだ」と悔しさの残る試合でした。
短期の集中トレーニングで心身ともにさらに成長した栄一郎は、関東ジュニア大会に挑戦します。1回戦を難なく勝ち進んだ彼の2回戦の相手は、全国でも上位のプレイヤーの井出です。彼は観客を味方につけるカリスマ性があり、アウェーの中での戦いとなりましたが、試行錯誤の中でプレッシャーを味方に戦う方法を身につけて勝利し、全日本ジュニアへの切符を手にします。
3回戦の相手である第4シードの高木朔夜は、難波江に勝つことを目標に卑怯な戦法すら身につけてきた選手です。精神的に揺さぶりをかけられますが、自分のスタイルに忠実に戦った栄一郎が勝利しました。
そしていよいよ準決勝は難波江との再戦です。ゾーンともいえるほどの調子のよいスタートを切ることのできた栄一郎は1ゲーム目を先取しますが、やはりまだ圧倒的な実力差があり、先を読まれて2ゲーム目は難波江にあっさりと奪われてしまいます。
しかし、圧倒的に強い相手を眼の前にしてもあきらめず、新たなスタイルを創造しようと模索するのが栄一郎の強みです。今回も分析が得意な難波江が対応できないよう、チェンジオブペースの新しいパターンをその場で創りだします。これまで自分がやってきた練習を思い出し、自信を持って難波江を追い詰めますが、精神力も技術もプロレベルの彼を破ることは叶わず、栄一郎は関東予選ベスト4で敗退しました。
坐禅での精神コントロールや体幹トレーニングなどの最後の調整を終え、栄一郎はついに全日本ジュニアに挑みます。テニスを始めて2年半という驚異的なスピードで全国まで勝ち進んでくることができたのは、基礎練習を怠らない几帳面な性格と、レベルの高い眼と分析力で、1球1球から得るすべての情報を自分の中に蓄え、高いモチベーションで常にプレイスタイルの試行錯誤を図ってきたからです。
しかし、実績も少なく知名度も低い栄一郎がプロになるためには、全日本ジュニアは優勝することが必須。人生を賭けた大会です。
全日本ジュニアは各地の大会を勝ち抜いてきた強豪たちが集まる大会なので、1回戦から気が抜けませんが、彼はこれまでに蓄えてきた経験と練習成果を存分に生かして自分のスタイルを崩さずに戦います。対戦相手も自分のスタイルに磨きをかけ、メンタルも強靭なプレイヤーばかりですが、格上の相手と対戦しても、すぐさま新しい試みに挑戦し、フルセットまで粘る戦い方で強豪たちを相手に準決勝に進みます。
特に2回戦の岡田との戦いは3時間かけた異例の長さでしたが、最後まであきらめずに活路を見出して粘った栄一郎が勝利しました。
いよいよ迎えた全日本ジュニアの準決勝では、全国ナンバー2の神田と対戦します。彼はもともとレベルの高い選手でしたが、転校を機に鹿梅工業高校のテニスクラブに所属したことで、メンタル、技術、フィジカルの全てでさらなる成長を遂げていました。
栄一郎は、神田の立ち上がりから強烈に攻めるペースの速さと、強靭な下半身を使ったエッグボールという打点を合わせにくい独自のショット、そして冷静な分析をする落ち着いたプレイに翻弄されます。
彼はすぐさまエッグボールの攻略を考えはじめ、いろんな球種をくり出し、相手の反応から対応策を導き出します。ジャンプショットやスピンの効いた高めのロブでエッグボールを打たせないようにして、第1セットを奪い取りました。しかし、それだけで容易に勝たせてくれる相手ではなく、自分の最高のプレイで破れたことをあっさり認めた神田も、今までに使ったことのない攻撃を果敢にくり出してきます。
栄一郎は神田の、技術とフットワークを最大限に活かして冷静に技を使い分けてくる攻撃に苦戦します。得意のチェンジオブペーススタイルで神田のペースを乱し、サーブゲームをキープするのですが、相手のサーブゲームでは強打の連続と天性のテクニックでペースを乱されるため、反撃の機会すらありませんでした。
強気で常に自分の限界を超え続けようとする神田に、栄一郎のデータから次の手を予想する戦略は通用せず、第2セットを奪われてしまいました。
破れた第2セットの経験を元に、敗因と自分に足りないものを分析してファイナルセットに臨んだ栄一郎は、さらに正確なピンポイントコントロールでの強気な攻撃に挑戦します。どんなにボールを返されてもデータを上書きし続け、「勝つビジョン」を描き続けた栄一郎ですが、24ゲームを超えるファイナルセットを制し、決勝に進出したのは神田でした。
決勝は難波江が神田を破り、全日本ジュニアの2年連続覇者となりました。
全日本ジュニアの優勝を逃した栄一郎は親との約束通りプロを諦めましたが、全日本ジュニアの成績からプロも出場する全日本選手権の出場権を得たことで、再度プロに挑戦することにしました。出場までの2ヶ月間は、もう1度アメリカに渡り、世界ランク10位以内の池のもとでみっちりと練習します。
プロも出場する国際大会に出場し2回戦敗退となりましたが、プロ相手にも十分戦えることを実感した彼は最高のコンディションで全日本選手権に臨みます。
自分のテニスで相手のペースを乱し、予選を勝ち進んだ栄一郎は、いよいよ本戦進出を賭けた予選3回戦に進出。10年以上プロの世界で戦い続ける浅野芯と対戦します。彼は過去に日本のトップランクだった頃よりは体力、パワーは落ちましたが、35歳になった今も現役で戦い続けることを重視している選手です。パワーやフィジカルでは勝てない外国人選手にも、パワーとテクニックを融合することで通用すると考え、自分のスタイルを世界で確立することを目標にしています。
栄一郎の、データで相手を分析しながら緻密なテクニックとスピードの使い分けで隙を突くスタイルは、浅野が何年もかけてたどり着いた目標のスタイルそのものでした。栄一郎は相手の経験や卓越したテクニックを活かした攻撃の多彩さに対抗するために、次々と新しい戦略パターンを増やして応戦します。浅野は先の読み合いに勝つことができず、栄一郎は初めてプロを相手に勝利しました。
まだまだ現役を続けるつもりだった浅野ですが、栄一郎のように自分が目標としたスタイルのプレイヤーが世界の頂点に立つのであれば、自分自身でプレイしなくても良いのかもしれないと考え、コーチとしての道を選択肢します。この2人の試合は、今後の世代交代を象徴する試合となるかもしれません。
難波江や井出など、まだプロでない高校生も本戦を勝ち進んでおり、新たな世代がすでに力をつけていることを印象付けました。さらに、栄一郎はSTCに入った頃から圧倒的に差があった、日本ランク9位の江川逞と初の公式戦に挑みます。実力差のある逞を相手に、しつこく隙を突いてミスを誘うプレイで食らいつき、挑戦的な攻撃を仕掛け続けます。
しかし調子を上げ続けた逞は、日本人最速の241キロのサーブをたたき出し、栄一郎は手も足も出せません。できることをすべてやっても敵わない相手であることを悟りますが、それでもあきらめずに戦い続け、1度だけ230キロ越えのサーブからリターンエースを奪ったのをきっかけに逞の調子を崩すと、そのまま第2セットを奪い取ります。
ファイナルセットでも最後まで勝てると信じて自分のすべてを出し切り、タイブレークもしつこく食らいついて、なんと勝利。その後も勝ち進んだ栄一郎は、予選から出場した高校生としては史上初のベスト4進出という快挙で、一気に話題の選手となりました。
全日本テニス選手権でベスト4となった栄一郎ですが、シード選手との対戦や準決勝でのスコアが悪かったことから、スポンサーと契約するには高校卒業までに試合で結果を出すことが必要となりました。また、上位の大会に出場するためには下位の大会で勝利し、ポイントを貯める必要があります。
彼は自ら企業に駆けあってスポンサー契約を結び、遠征費用の都合をつけると、環境にも慣れるために海外で行われる、1番下位のフューチャーズの大会に出場することにしました。
栄一郎は最初に、オーストラリアで行われたフューチャーズの大会に出場します。言葉もおぼつかないので、体を慣らすための練習相手も見つけることができず、天候やコートの環境に苦しめられ、自分のプレイができなかった彼は、1回戦で惨敗してしまいました。
その後も環境の差に苦しめられ、本戦までは出場できるようになりましたがフューチャーズの層の厚さを実感し、3ヶ月で得たポイントはわずか1ポイントでした。
フューチャーズの試合でなかなか結果の出せなかった栄一郎ですが、負けた分の研究と対応策の練習は欠かさず、経験として蓄え、思い切ってワンランク上のチャレンジャーの試合にも挑戦することにしました。
慶稜大学が主催する慶稜チャレンジャーは報酬も多く、世界中から実力のある選手が集まるレベルの高い大会ですが、彼にとっては慣れた日本での試合ということもあり、久しぶりに本領を発揮します。オーストラリアで惨敗したアルバーに快勝して勢いに乗った栄一郎は、上位ランカーを次々と倒して難なく本戦出場を決めました。
本戦1回戦は中国のプレイヤー王偉(ワンウェイ)と対戦します。16歳でありながら堅実に攻める世界ランク300位以台の選手で、1400位台の栄一郎よりもかなり上位のため、フューチャーズの大会で対戦した時は負けています。しかし彼は、次々にリスクの高い攻撃をくり出し、王偉にペースをつかませません。
王偉は相手の反応から次の動きを予想するスキルに長けた選手で、栄一郎の動きも予想し、レベルの高い頭脳戦となります。しかしコントロールを維持したまま攻撃のテンポを上げた栄一郎の返球についていくことができず、栄一郎は1セット目に先に王手をかけます。王偉は球のスピードに慣れることを最優先し、応戦するのですが、ぎりぎりのところで1セット目を奪ったのは栄一郎でした。
スコア上は栄一郎がリードしていますが、ランク上位の王偉の方が戦略的にも経験的にも勝つ可能性は高く、優位です。ポイントを重ねながらも前後左右に走らされた栄一郎には疲労がたまり、苦しい展開となってきました。しかし自分を支えてくれている人たちを思い出すことで気力を振り絞り、応戦します。
栄一郎は、あえて王偉の優位な戦略の中で勝負を仕掛け、苦しい闘いを続けます。固定観念にとらわれない攻撃をした彼が王偉との頭脳戦を制し、圧倒的な実力差を跳ね返して勝利しました。2回戦の相手も、格上の選手を相手に勝ち進んできた選手でしたが圧勝し、3回戦の対戦相手も試合途中で棄権したため、ついに準決勝へ進みます。
45巻ではいよいよ栄一郎が慶稜チャレンジャーの準決勝に挑みます。対戦相手は世界ランク161位、日本代表選手の渡邊で、かなり実力差のある選手になります。
格上の選手を相手にしても諦めず食らいつく戦いをする栄一郎が今回はどんな試合を見せてくれるのでしょう?
- 著者
- 勝木 光
- 出版日
- 2017-06-16
準決勝の前に格闘技の選手から話を聞いて、命がけのテニスをすることがゾーンに入るためのヒントになるのではないかと閃いた彼は、自分の武器を出し惜しむことなく、序盤から積極的に挑戦します。
「命を懸けるモード」と「命がかかっていないモード」を状況に合わせて切り替えることで思い切りの良いテニスができるようになった栄一郎はどんどんと調子を上げ、ポイントを重ねていきました。
狙ったライン上への正確なコントロールも次々に決まり、冷静に対処できている栄一郎は、相手の動きだけでなく、心理さえも完璧に読むことができています。プロになってからこれまでの試合すべてで身につけてきた心・技・体のすべてを使って挑み、6-0で第1セットを奪うことに成功します。
ここまで筋書き通りの展開で進めることのできた栄一郎ですが、日本代表を相手に、2セット目以降はどう戦うのでしょうか?その詳しい内容は作品でご確認ください。
試合後、1400位台だった栄一郎が渡邊に勝ったことで盛り上がる場内。ついに栄一郎は決勝へと駒を進めたのです。
しかし彼に喜びに浸っている暇はありません。次戦のクリシュナは何と1時間ほどで圧勝して決勝に向かうというのです。
早速彼の試合内容を見て分析する栄一郎と青井、そして明日にはアメリカに旅立ってしまうナツ。
細い体格ながら豪腕の相手に押し負けず、同じやられ方をしないという頭脳派な面も持ち合わせているようです。しかしナツの発見から、彼は感覚派ではないかとの考えも。
栄一郎はナツに聞かれ、フロリダのIMGでルームメイトになった時のことを思い出します。自分が英語が話せないので必然的に大人しくなってしまうように、同じ雰囲気を持ったクリシュナもそうなのだろうと親近感をもつ栄一郎。
しかし実はクリシュナは英語がペラペラ。なぜそんなに落ち着いているのかと聞くと、彼は「自己主張するのが下手」だからだと返してきたのでした。
そんな彼が目標を持てたことで強くなったのではないかという推測のもと、その後もクリシュナの分析を進めます。
その後敦士に電話をかけた栄一郎は、彼からクリシュナが吹っ切れた原因を聞いて……。
ついに決勝戦が始まりました!クリシュナの行動に合わせて戦略を練りながらそれに向き合う栄一郎ですが、相手は何やら余裕の笑み。苦戦をしいられることが容易に想像できる展開です。
クリシュナが強さを身につけるきっかけになったエピソードは、凡人からしてみればかなりうらやましいもの。頭が良いだけに、青井とナツとの分析からも分かるように、頭が良いのでバランスもいいみたいです。詳しい内容は作品でご覧ください。
また、45巻ではナツと離れ離れになってしまったものの、プロポーズまがいの告白まで!?ぜひふたりの初々しい様子もお見逃しなく。
ついに始まったクリシュナとの対決。完全に自分の考えが読まれ、栄一郎はまったく歯が立ちません。
そしてあっとうい間にブレイクタイム。そこで栄一郎はノートを見返し、自分が頭でなんとなく分かっていることをクリシュナが試合時点で完璧に理解していたことを悟ります。
記憶力のいい頭に、的確な判断力と性格な対応力、感覚も論理的思考も優れていて、技術があって力には力で対抗できる性能のいい身体、しかも有利な左利き、と栄一郎は自分の考える完璧なオールラウンダーの姿を彼に見ます。
- 著者
- 勝木光
- 出版日
- 2017-09-15
そこから意思的にプレイポジションを下げた栄一郎。球威が一定以下になることによって速球に強いクリシュナの強みを抑え、自分の狙いを大雑把にして先読みされにくくします。
しかしまったく考えなしにプレイする訳はありません。一球一球に意思と判断をのせ、点をとられたものの、クリシュナやりづらい流れをつくっていきます。
そしてそこからクリシュナのプレイ位置に合わせて自分も動くという戦略を立て、ついに頭の回転の速さで叶わなくとも、安定感でなら勝てるという希望の光を見つけ出し……。
クリシュナを追いかけている新聞貴社の言葉を借りるならば、ここからは敏腕経営者と職人の戦いとなります。
全体像を把握し、天性の才能で判断を下すクリシュナに、ひとつひとつの可能性をつぶし、正確な球運びで毎回狙い通りの場所に打つ栄一郎。それぞれの強みを最大限に活かし、一球一球を予測して打つというスマートさがありつつも、白熱の試合展開で引き込んできます。
ほんのわずかな差で勝敗がつくスリル満点の試合内容をぜひご覧ください。
お互いがそれぞれの良さを最大限に活かした結果、ほんとうにごくわずかの差で一瞬先の未来を正確に描けるかが勝敗の鍵を握ることとなりました。試合は両者1セット獲得で、ついに最終戦へともつれこみます。
次の一球の根拠を一瞬でも早く見出すために、情報からリアルに想像しようとする栄一郎と、目と感覚をフル稼働させ、力でも妥協しないクリシュナ。
ふたりが実際に描く動きは、両者が想像した通りになり、あらかじめ決められているとも言える動きはどこか美しさすら感じさせます。
そして方法は真逆ながらも結果的に相手の動きを予測するという同じ強みを持つふたり。英一郎はそこで自分の戦略ブレイクスルーする想像力(アイディア)を手に入れ……。
- 著者
- 勝木光
- 出版日
- 2017-12-15
慶稜チャレンジャーでの試合が終わった後、英一郎の身の回りはめまぐるしく変わっていきます。日本代表(ナショナル)には選ばれなかったものの、データテニスの彼にぴったりな大学の研究機関を紹介され、コワモテながらも実は良い人のエディというコーチについてもらいと、様々なサポートを受けられることになりました。
そして英一郎はエディに力強く1年以内の世界ツアーデビュー、さらにそこから1年以内にグランドスラム本戦出場が目標だと告げるのです。
そしてそこから英一郎の準備の年、そして目標に掲げていたプロ2年目の様子が描かれます。
最終巻となってしまった47巻ですが、とても良い意味で今までとやっていることは変わりません。プロとしてチームで彼を支える体制が整い、より英一郎の成長スピードが上がったことは事実ですが、タイムごとにノートに真剣に向き合い、笑われても気にしない、というより気づかない彼の姿にファンとしては心が和みます。
最終回は英一郎の世界ツアーデビュー初戦。勝負の相手は世界ランキング37位で、同世代であり、将来の世界ナンバーワン候補との呼び声高いジェームズ・ファウラーです。
強力な肉体に才能、英一郎は序盤圧倒され続けますが、いつもどおり自分の行動を淡々となし、徐々に調子をあげていきます。
これからの英一郎の活躍をまだ見てみたい気もしますが、残念ながら物語はここで終了。10年間の英一郎の物語のひとまずの結末をぜひご自身の目でご確認ください。これからも彼の人生が続いてくことが感じられる感慨深い内容となっています。
『ベイビーステップ』はテニスの経験がない人も、ハマること間違いなしの熱いテニス漫画です!現実的で説得力のある、飽きさせないストーリーの面白さももちろん、選手たちの姿勢や、最後まであきらめずに前向きに考え続けるメンタル、試合の戦略方法など、学ぶこともたくさんある、とてもおすすめの作品です。
46巻が発売された今も連載中ですが、時間を忘れて一気に読んでしまうこと間違いなし。ぜひ読んでみてください!