競争の激化や市場の飽和、人材不足などにより、企業は常に課題を抱えています。課題を解決し、市場に勝ち残るためには、中長期的な見通し、つまり経営戦略が必要となるでしょう。そこで経営戦略についての概要と、初心者でも読めるおすすめ本をご紹介します。
企業が競争の中を生き抜いていくためには、自分たちの強みや弱み、競合の状況、顧客ニーズなどの環境変化を把握し、適切な戦略を立てて実行していく必要があります。企業が目標に対して、どのように歩みを進めていくのか、その中長期的な筋道を示したものが経営戦略です。
経営戦略をつくることは、目標を立てたり環境分析したりすることそのものを指すのではなく、それらをどう活かし、どんな結果を得るかを考えることが必要となります。
たとえば、日本企業とアメリカ企業では異なる文化的背景があり、それゆえに戦い方も変わってくるでしょう。ところが、国内だけにフォーカスしても、ひとつとして同じ状況の企業はありません。そのため、経営戦略において「セオリー」はあってないようなものと考えた方が良いでしょう。
しかし、セオリーがないからこそ、他社で成功した戦略を学んでおくことが経営者にとって大きなヒントになります。それを自社に落とし込んでどう応用するかで、経営の良し悪しが決まってくるのです。
経営戦略を構成する要素は、大きく分けて4つあります。
1.事業領域(ドメイン)
自社がどの分野で事業を行い、社会に貢献していくのかということです。ここを決めないことには何もスタートしません。
2.資源展開(ヒトモノカネ情報)
領域が決まったら、自社にあるヒト・モノ・カネ・情報という資源を把握し、どのように分配していくかなどを考えます。
3.競争優位
自社の商品サービスは他社とどこが違うのか、「ウリ」になる部分を決めて、競争優位を作り出します。ここがないまま事業を行うと、他社との比較段階でふるい落とされてしまうでしょう。
4.シナジー(相乗効果)
シナジーとは、2つ以上のものが関連することで、それ単体であるときよりも大きな効果を生むことを言います。足し算ではなく掛け算の論理です。新規事業を立ち上げる際や、生産規模の拡大などを行う際に、塾考すべき点でしょう。
経営戦略を策定する際、自社を取り巻く環境や内部を分析する必要があります。そこで役に立つ代表的なフレームワークや概念を5つご紹介します。
1.SWOT分析
Strengths:強み
Weakness:弱み
Opportunities:機会
Threats:脅威
の4つからなるフレームワークです。
目標の達成に貢献する自社の強みと外部環境(機会)、障害となりうる弱みと競合などの環境(脅威)をそれぞれマトリクス上に書き出し、分析していく方法。内部と外部それぞれのプラスとマイナス要素を整理することで、プラスを生かしマイナスを抑える方法を論理的に考えていくことができます。
2.コア・コンピタンス分析
コアは核、コンピタンスは能力という意味があり、企業の中核となる能力・強みのことを表しています。自社の強みを分析し、その中でも中核となる強みを抽出するのがコア・コンピタンス分析です。
3.3C分析
Company(自社)・Customer(顧客)・Competitor(競合)の頭文字を取った3C分析は、自社の属する市場分析の際によく使われます。市場をつくっている3者の関係性を明確にすることが可能です。
4.PEST分析
Politics:政治
Economy:経済
Society:社会
Technology:技術
の4つからなるPEST分析は、自社に関わる外部環境を分析する方法です。世の中の動向を大局的に把握し、戦略に役立てることができます。
5.PLC(プロダクトライフサイクル)
PLCはある製品やサービスを導入してから、成長、成熟、飽和、衰退していくまでのプロセスのことを言います。フレームワークそのものではなく、概念として理解しフレームワークに応用したいものです。
導入期には差別化を意識し、新しさを打ち出していく弱者の戦略。成長・成熟期になるにつれて、新しさよりは「安心感」などを打ち出す強者の戦略に移行する、といったようにPLCを理解しておくことで地に足の着いた戦略を立てることができます。
さてここから、経営戦略についてわかりやすく書かれた本の紹介です。選ぶ基準は、初心者が読んでも理解できることと、本質的な内容で役に立つこととしました。中には500ページを超える大著もありますが、読んでみると意外と読み進められるものが多いはずです。
20世紀初頭から現在まで、100年の間に企業の経営戦略がどのように変化してきたのかを一望できる1冊です。本書「経営戦略全史」は、その時代に大きく成長したり、トレンドとなった経営戦略を紹介しています。
- 著者
- 三谷 宏治
- 出版日
- 2013-04-27
それぞれの企業が大事にした「コンセプト」とともに戦略を読み解く本書。ひとつひとつの事例を学び吸収するだけでなく、時代ごとの大きな流れをつかみながら、ビジネスがどのような歴史をたどってきたのかを知ることができます。
ビジネスモデルや戦略の変遷を知っておけば、ビジネス史上での自社の立ち位置も意識することができ、より大きな流れの中で戦略を練ることも可能です。事例が「ストーリー」として語られていることもあり、はじめての方でも抵抗なく読める1冊でしょう。
経営戦略にはセオリーがないと解説したように、書籍もケーススタディを中心とした本が多いのが特徴です。しかしその中でも本書は、大枠の部分を概略化した教科書的な1冊になっています。
- 著者
- (株)日本総合研究所 経営戦略研究会
- 出版日
- 2008-11-13
全社戦略、事業戦略、機能戦略といった経営戦略の種類、SWOT分析・PEST分析などの代表的なフレームワーク、策定から実施までのプロセスなど、必要な知識がひとつひとつ解説されており、要所で図解もついているため、理解が進むでしょう。
盛りだくさんの内容を約200ページにまとめてあるため、細かい部分は他の書籍と合わせて読みたいところ。その意味では、まずは経営戦略の概要をざっくりと知りたい、という人に最適の1冊と言えます。
本書で紹介する「プロフィットゾーン」とは、その名の通り「利益が出る領域」のこと。ここに集中して事業を行うことが経営戦略のカギだと著者は述べています。
- 著者
- ["エイドリアン・J. スライウォツキー", "デイビッド・J. モリソン"]
- 出版日
利益が出る部分に集中するのは企業として当たり前のことのように感じますが、「どうして利益が出るのか」という理由を詳細に分析している企業は多くありません。本質的にそこを理解していなければ、永続的に利益を得ることはできないのです。そこで、「プロフィットゾーンを見出す12の質問」を自社に問うことで、実践的な経営戦略が生まれます。
さらに理解を深めたい場合は、同著者の『ザ・プロフィット』という本もおすすめです。本書の内容をストーリーにしてあり、知識をおさらいしながら学び直すことができます。
戦略にセオリーはない、ということは、フレームや法則に当てはめて整理することが難しいということでもあります。自社の戦略は、あくまで自社に合わせてつくるしかありません。そのために必要な視点が「ストーリー」だと著者は言います。
- 著者
- 楠木 建
- 出版日
- 2010-04-23
戦略策定に必要なのは、構成要素を埋めていくことではなく、読んでいてもおもしろい「お話」をつくること。合理的なだけではおもしろい話はできない、ということを繰り返し述べている1冊です。
本書自体も、体系立てて書かれたというよりは、著者が目の前で「お話」しているような臨場感があります。はじめから通読するのはなかなか大変ですが、長めの物語を読んでいる感覚で読んでみるのはいかがでしょうか。
P&Gがなぜここまで世界的な企業になれたのか、戦略面から分析した1冊です。企業成長を目指すには、「戦うために戦う」のではなく、「勝つために戦う」ことが重要だといいます。
- 著者
- ["A・G・ラフリー", "ロジャー・マーティン"]
- 出版日
- 2013-09-06
はじめに著者は多くのリーダーがおかしがちな悪手を紹介。大切なのは戦略の本質を見極め、そして勝つことである。そのうえで、「勝利とは何か」を定義するところから、どうすれば「勝機を高める」ことができるのかまで述べられています。そして、明確に定められた「勝利」を手にするために「戦略」が必要になるのです。
企業として勝つだけでなく、ひとつの現場レベルで勝つこと、あるいは個人の生活の中で選択を迫られる際にも生かせる内容となっています。