連載が終了してから20年以上経過している漫画『うしおととら』。2015年にアニメ化もされ、その人気はいまだ衰えることのない名作です。ここでは、『うしおととら』の名言&名シーンを徹底的にご紹介いたします。
漫画『うしおととら』の魅力は、主人公のうしおととらが妖怪たちと戦う壮絶なアクションシーンでしょう。物語が進むにつれて、うしおたちが相手にする妖怪は強敵となっていきます。
登場してくる妖怪たちは個性豊かで、ストーリーは勧善懲悪的な退治物語であったり、時には涙を誘うような展開もあったりとさまざまです。
物語は、2000年前から人間や妖怪を殺してきた大妖怪「白面の者」をめぐる決戦へと終結していきます。その白面の者との最終決戦の際には、それまでの物語や登場人物の関係性が全て綺麗に収束していくのも、本作の大きな魅力といえます。
物語が始まった当初は単純に流していたようなシーンや名前、登場人物などは、実は伏線としてはられていたものであり、それらが最終決戦で綺麗にまとまる様子は読んでいて痛快ですらあるといえるでしょう。
また本作は、白面の者が誕生する2000年前のインド、中国、そして1000年前から現代にいたるまでの日本と、時間的にも長いスケールで描かれています。
その長大な構図のなかで、登場人物をめぐる長きにわたる宿命を知った時、涙なくして読むことはできないのではないでしょうか。本作は、単純な妖怪退治物としてだけではなく、妖怪と人間を巡るさまざまなドラマにも大きな魅力があるといえます。
『うしおととら』の他にも『からくりサーカス』など面白い作品を生み出している藤田和日郎。そんな彼のおすすめ作品を紹介する<藤田和日郎のおすすめ漫画ランキングベスト5!活躍を続ける巨匠>の記事もぜひご覧ください。。
- 著者
- 藤田 和日郎
- 出版日
- 2015-05-18
主人公は、とある寺の住職を父に持つ少年、蒼月潮(あおつきうしお)。14歳のある日、寺の蔵で妖怪と、それを繋ぎとめている槍を見つけます。槍を抜けと言う妖怪に対して、最初は聞く耳をもたなかったうしおですが、幼馴染の麻子と真由子が集まってきた別の妖怪たちに襲われているのを見て、彼女たちを助けるために槍を抜くことを決意。そして、槍に封印されていた妖怪は自由となり、彼女たちを襲っていた妖怪と戦うのです。
封印されていた妖怪は、うしおに「とら」と名付けられ、うしおはとらを封印していた槍、「獣の槍」を手にします。それは、どんな強い妖怪をも倒すことができるという槍でした。それを手にしたうしおを、とらは何とか食べてやろうとついてまわるのですが、槍があるから食べることはできません。
その結果、うしおを食べたいとらと、槍でそれを防ぐうしおが、次々に現れる妖怪をともに倒していく、という妙な関係性ができていきます。最初は言い争いをしながらも2人は近くに寄ってくる妖怪を倒していきました。その動きは、日本列島を妖怪から守ってきた仏教団体「光覇明宗」の目にとまることとなります。
実はうしおの父はこの光覇明宗の僧侶であり、獣の槍を監視する役目を担っていました。光覇明宗は獣の槍をうしおから奪還しようとします。
その槍が、実は死んだと聞かされていた母親と関係があり、また母はそれを使って殺すことができるとされる「白面の者」という最強の妖怪と関係がありました。そのことを知るうしおは、父に後押しされる形でとらと一緒に北海道を目指すことになります。
北海道への道中では、光覇明宗の者からは槍の奪還のために襲撃されたり、妖怪たちからは目の敵にされている母親の息子であるという理由で命を狙われもします。しかし、そんな戦いのなかで、妖怪や光覇明宗の中にも彼らの味方となり、うしおたちを認めてくれる者が徐々にあらわれるようになりました。
この旅によってうしおは、獣の槍が白面の者を倒すために中国で作られたということや、その白面を封印している者が自分の母親であることなどを知ることになります。それらを知ることで、白面や獣の槍をめぐる長きにわたる因縁に自身も巻き込まれていくのです。
また、彼らは東日本と西日本の妖怪たちの抗争に巻き込まれたり、アメリカの対妖怪機関「ハマー」に狙われたりもするのですが、そうした争いのなかで、徐々にうしおととらは信頼を得ていき、彼らを中心として各集団が、白面の者との最終決戦へ向けてまとまりを見せていくのです。
しかし、希望がわずかに見え始めたその矢先、白面の者は新型の妖怪「婢妖」によって人々の中からうしおの記憶を消してしまいます。
白面の者が人々の記憶を消した理由は、「希望」を奪い、「恐怖」を心に植え付けるためでした。「恐怖」を糧に強くなることができる白面の者は、妖怪や人間の「希望」となりつつあったうしおの記憶を消してしまったのです。
こうして、仲間や大切な人から忘れられ、孤立してしまったうしおととら。しかし2人はそれでも白面の者と戦おうと最終決戦に挑みます。
最後に明らかになるとらと白面の者との2000年にもわたる宿縁など、最終決戦では怒涛の展開となっていくのです。
絶対に外せないのが、こちらの名言。これを語らずして本作は語れないとも言える名シーンです。
白面の者との最終決戦。仲間たちの力を得て、2人は白面の者を倒すことに成功します。しかし、とらの身体は限界になり、徐々に身体が消失。そんなとらの姿に、うしおは泣きながら、
「バカヤロウ、とらァ、まだ死ぬんじゃねぇ。まだオレを喰ってねぇだろうがよォ」(『うしおととら 完全版』19巻から引用)
と彼にすがります。そんなうしおに、笑いながら「もう……喰ったさ」と返すとら。そして、
「ハラぁ……いっぱいだ」(『うしおととら 完全版』19巻から引用)
と言っていなくなってしまうのです。
うしおと出会って、さまざまな人間や妖怪と出会い、2人だからこそ色んな光景を見ることができたとらの最期の言葉。たくさんのものを貰ってきた、という意味でこう告げて消えていくとらの姿は、涙なくして見れるものではありません。
出典:『うしおととら 完全版』16巻
時空を超えることのできる妖怪、時逆(ときさか)の術によって、妖怪たちは白面の者との最終決戦において、うしおの獣の槍が壊される未来を見てしまいます。白面の者に対抗できる唯一の武器である獣の槍、それが破壊されるということは、すなわち白面に敗北するということを意味しているのです。妖怪たちは白面の者との戦いに勝利するため、新たな獣の槍を作ろうとします。
しかし、獣の槍は通常の作り方では作れないもの。その材料には、ひとりの娘の命が必要なのです。その材料として選ばれたのが、うしおの幼馴染であり、獣の槍が作られた時に自ら犠牲となったジエメイに似た井上真由子でした。
ですが、その真由子を助けようと、中村麻子がその身代わりとなるのです。
鉄をとかす火の中に飛び込む前、うしおの記憶がないにもかかわらず、彼への想いを募らせる麻子。うしおが止めに入った時は1歩遅く、彼女は火に飛び込んだあとでした。何とか救い出すことに成功したものの、全身大火傷を負ってしまった麻子に、うしおが言う台詞がこちら。
「ごめん……おまえがオレを忘れたっていい……オレがおまえを忘れてねえから……ずっとずっと忘れねえから……」(『うしおととら 完全版』16巻から引用)
うしおの麻子への純粋な想いに、胸が熱くなる名シーンでしょう。
出典:『うしおととら 完全版』17巻
物語のかなり冒頭から出てきていた光覇明宗の槍伝承者候補のひとりであった、秋葉流(あきばながれ)。うしおの兄貴分的存在でもあり、彼自身はとらの圧倒的な強さに惹かれ、本気で戦いたいと願っていました。その願いのために、最終決戦では、突如として白面側に寝返るのです。
しかし、とらと本気での決戦の末に、彼は絶命してしまいます。全ての力を出しきって、とらに敗れても満足感にみたされた彼が、
「あぁ……なんだ……風が……やんだじゃねぇか……」(『うしおととら 完全版』17巻から引用)
と言って死んでしまうシーンは、ナガレらしい場面でもあるといえるでしょう。
また、彼が死んだのを見届けたとらが、「ちくしょう……だから弱っちくてキレエなんだよ……人間は……」と呟くシーンでは、とらがナガレに抱いていた感情が垣間見れて、涙を誘う名シーンといえます。
いつも喧嘩ばかりの麻子とうしお。恋愛には疎いうしおが、初めてはっきりと麻子への想いを告げたこのシーンは、数ある2人の名シーンのなかでもダントツではないでしょうか。
最終決戦へ向かうため、潜水艦へと乗り込むうしお。そんな彼に、記憶をなくしたままの麻子が帰ってきてほしいと涙ながらに言います。しかし、最終決戦で獣の槍を使ってしまえば、うしおは人間の姿には戻れないことがわかっていました。
もう戻ってこれないことに無念を覚えながら、それでも麻子の涙をふりきって潜水艦へと乗り込むうしお。そんな彼に、麻子が窓の向こうから無事を願って彼に語りかけます。その彼女の手に窓ガラス越しに自分の手を重ねながら、うしおがこう告げるのです。
「麻子……大好きだ」(『うしおととら 完全版』17巻から引用)
涙を流しながら言うこの台詞に、うしおの悲しみが溢れていて、胸が痛くなります。この告白が、麻子には聞こえていないというのも、とても切ないシーンだといえますね。
- 著者
- 藤田 和日郎
- 出版日
- 2015-05-18
出典:『うしおととら 完全版』3巻
これはまだうしおがとらと出会って間もない頃の話。人間による土地開発で、すみかを奪われ続けていた鎌鼬(かまいたち)の三兄弟の真ん中、十郎の台詞です。長年住んでいた山がゴルフ場にされるということで、三兄弟は仙台の遠野付近まで逃げてきていました。
しかし、次男の十郎は、人間への憎悪をたぎらせて、兄の雷信や妹のかがりのもとを離れて、人を殺すようになります。うしおは、かがりたちの頼みをうけて十郎の行ないを止めようとします。そんなうしおが、十郎の心の痛みを知り「わるかったなあ。つらかったろうなあ」と涙するのです。
うしおの言葉と心に、十郎は自分が人間からその言葉をもらいたかったのだと気づきました。そして、自ら獣の槍に飛び込んで自死を選択。人間に故郷を奪われて道を誤ってしまった十郎のこの物語は、人間側も妖怪側も悪として描かれていない、寂しくも感動的な話となっています。この話の最後に、十郎は綺麗な笑顔でこう話すのです。
「雷信兄さんやかがりとずーーーっと、三人で暮らせたらいいなあ」(『うしおととら 完全版』3巻から引用)
十郎の兄妹思いの性格と、その最期が切なく表現された名シーンです。
獣の槍は、使い手の魂をエネルギーとしてその強さを発揮する武器。しかもその槍は、ひとりの女性の命が材料になっており、作り手の男が化身した槍でもあります。そんな槍を使っていると、使い手の命が槍に取り込まれてしまうことがある、そんな恐ろしい武器でもあるのです。
うしおが槍にとりこまれ、妖怪の姿のまま、理性を失ってしまったことがありました。そんな彼を救うには、うしおの母が彼のために残した櫛で、彼を想う女性がその髪をすけば、人間の姿に戻れるというのです。そうして、うしおに縁のある少女たちが集められました。
それぞれがうしおの髪をすいていくのですが、最後に彼の髪をすいたのは幼馴染の麻子。うしおが最も気にかけている少女でした。
いつもはうしおと喧嘩ばかりしている麻子が、泣きながら人間のうしおに戻ってきてほしいと願いをこめて、彼の髪をすくシーンでの台詞がこちら。
「あんたはバカで……考えなしで……落ち着きなくってケンカっ早いよ……けどさあ……あたし、あの、うしおがいいよう」(『うしおととら 完全版』7巻から引用)
いつもツンデレ気味の麻子が、はっきりとうしおへの気持ちを述べた最初のシーンではないでしょうか。
少しおどろおどろしい妖怪退治物語。そんな印象のあった本作を、一変させたシーンでもあり、本作を語るうえでも欠かせないのが、槍が作られた古代中国でのシーンです。
白面の者によって国が操られていたその時代の王朝。そこで白面の者を倒すために、国中の鍛治職人が剣を作ることを命じられます。そのなかで、ギリョウとジエメイという兄妹のいる四人家族もまた、その命を拝受しました。しかし、白面の者の攻撃によって、兄妹を残して両親は死亡してしまうのです。国の人々も多くが命を落としてしまいました。
兄のギリョウは強い武器をつくるための、ある暗黒の方法をうしおに語ります。それが、ひとりの娘の命を材料とする方法だったのです。しかし、そんなことはできないと考えていたギリョウに、ジエメイがこの台詞を言います。
「よい剣をーーつくってくださいましね」(『うしおととら 完全版』7巻から引用)
ギリョウの制止をふりきって、鉄をとかす炉の中に笑って身を投げたジエメイ。彼女が自ら犠牲になったことを受け止めて、兄のギリョウは鬼のように槍を打ち続けて、自らも槍となりました。
彼らが犠牲となって作られた獣の槍。その設定は、少年漫画にしては過酷なもので、この作品の奥深さを思い知らせてくれるものでもあるでしょう。
出典:『うしおととら 完全版』19巻
日本にやってきた白面の者を封印するため、強力な結界をはって、海の底で白面を封印し続ける役目を担う者、それが「お役目」でした。その役目を担う女性たちは数百年もの長い年月にわたり、力が尽きるまで白面の封印のためだけに生き、力が尽きると、後任の「お役目」と代替わりし、その後はゆっくりと老いて死んでいくという運命を背負っているのです。
最終決戦の際、うしおの幼馴染のひとりである真由子は、3代目であるうしおの母親の後任として4代目のお役目として選ばれます。
とらが敵の攻撃をうけて胸に穴が空き、動けなくなってしまった時のことです。うしおの母親に言われ、真由子は櫛を持ってとらを起こすために霊体で彼のもとへと向かいました。
彼女はとらの傷を癒して、起こすとともに、その髪を櫛でとくのです。それは、うしおが以前妖怪になってしまったときに、人間に戻すためにつかった櫛でした。
2000年前、人間として生まれたとら。その事実が最終決戦の際に明らかになるのですが、真由子はそれを知って、とらを人間に戻そうと試みるのです。そのため彼女は、妖怪になってしまった人間を元の姿に戻す力のある櫛をとらに使います。しかし、とらの姿は妖怪のままでした。
そんな彼を抱きしめ、彼女が彼に告げた台詞がこちら。
「とらちゃん……好きだよ……大好き」(『うしおととら 完全版』19巻から引用)
うしおには自分の気持ちを告げることのできなかった真由子が、とらには告げることのできた想い。彼女の綺麗な恋心に、とらもまた心動かされる様子は名シーンといえるでしょう。
出典:『うしおととら 完全版』9巻
2代目のお役目である日崎御角。現在は、お役目の任を下りて、うしおの母親にそれを託し、自身は光覇明宗のトップを勤めています。見た目は小柄で柔和そうな老婆ですが、300年もの長い間、白面の者をたったひとりで結界をはって封印し続けていた実力者です。彼女が、白面の者の分身である妖怪と戦ったときの言葉をご紹介します。
命をはって、彼女は妖怪を倒しました。しかし、もともと余命いくばくもなかった彼女はその戦いにより、命を落としてしまいます。多くの僧侶たちに見守られ、そしてうしおに抱かれながら言った台詞。
「みんな……仲良うせんとーーあかんよーー」(『うしおととら 完全版』9巻から引用)
亡くなってしまうことにも衝撃を覚えますが、最終巻まで読んで、妖怪も人間も一丸となってでなければ白面の者を倒せなかったことまで知った後、彼女のこの台詞の意味がわかってきます。きっと彼女は、白面の者との最終決戦まで見すえたうえで、このような言葉を遺したのでしょう。多くの僧侶たちの精神的支柱となった彼女の名言だといえます。
名前すらも出てこない彼女の存在は、とらを語るうえでは欠かせません。
最終決戦の際に明かされたとらの真実。実はとらは、2000年前のインドでシャガクシャという「呪いの子」と呼ばれた屈強な人間の男だったのです。
全ての者を憎しみ恨み続けたシャガクシャ。しかし、そんな彼が憎しみを抱きたくないと思った唯一の存在が、ラーマという少年とその姉でした。
純真な思いでシャガクシャに接する姉弟。シャガクシャは優しい彼らと接し、彼らだけは助けたいと人間らしい気持ちを抱くようになるのです。そんな姉が言ったこの台詞は、この漫画の主題でもあるといえるでしょう。
「憎しみは…何も実らせません」(『うしおととら 完全版』18巻から引用)
結果的に、憎しみにとらわれていたシャガクシャは彼女もラーマも失い、挙句にその身から白面の者を生み出してしまうのです。
- 著者
- 藤田 和日郎
- 出版日
- 2016-12-16
いかがでしたでしょうか。名作と名高い漫画『うしおととら』。王道の少年漫画らしくもありながら、伏線が回収される物語の展開も魅力的な作品です。未読の方はぜひ読んでみてください。