ハングリーな季節!「サバイバル」をテーマにした本
先日、日課である大阪城公園の散歩をしていたところ、城の内堀を泳ぎながら藻を食べる、体長60cmくらいのカピバラのような、ビーバーのような獣を発見。初めて見る生物で、調べてみると「ヌートリア」という巨大ネズミでした。彼らはもともと毛皮用に南米から輸入され、捨てられ野生化し、西日本で繁殖したものだそう。

可愛い顔してヘビーな過去を持つサバイバーな彼ら。生態系的には悪かもしれませんが、懸命に生きるその姿は僕に一つ大切なことを教えてくれました。

そう、「サバイバル」という今回の連載用のネタです。

それから、今回から漫画も紹介させて頂こうかと思います。大体3000冊はあろうかという僕の漫画用の本棚が遂に火を噴くわけです。バンド活動などで他都市へ行く度に大人買いしてしまうのですが、しかしこれもまた退屈な移動時間などを活用する、僕の小さなサバイバル術。良い感じにまとまったところで本編へどうぞ。

漂流教室

著者
楳図 かずお
出版日
2007-10-30
“「ただいま」なんて普段気にも留めていない言葉だったけれど
とてもとてもとても言い切れないほど良い言葉だっ!!”

大和小学校に通う腕白な6年生・高松翔はある日、登校するや否や大きな振動に襲われ、見たこともない場所へ校舎ごと移動してしまう。そこは近代化の果てに環境汚染が進み、生植物は絶え、遂には完全に砂漠と化してしまった未来であることが判明する。果たして大和小学校の生徒862人の運命は!? 主人公・翔は現代へと帰り、「ただいま」と言うことができるのか!?

サバイバル漫画といえばこちら、巨匠・楳図かずお先生の『漂流教室』。ホラー漫画の第一人者と称される楳図作品の特徴は、他の追随を許さぬ「絶望感」でしょう。その正体はコントラストの強烈な画風。触ると刺さるんじゃね?というくらい尖ったフキダシ。

そしてなにより、この作品を名作足らしめているのは兎に角スピーディな展開だと思うのです。

水源を発見するや否や火山口に早変わり。花壇に生えてきたキノコは勿論毒キノコ。可愛いリスはペストを媒介していたりと、チラッと希望が見えたかと思えば次のページにはそれが新たな脅威として主人公たちを襲うその様は、もはや「ご都合主義」ならぬ「不都合主義」とでも言いましょうか。

目紛しく襲いくる試練に死者こそ続出しますが、そのテンポの良さとシュールさが相まって、意外と気分を悪くせずにすっきり読めるのが本作の不思議なところ。これを読めば何気ない日常も、愛しく思えてくるはず。

蠅の王

著者
ウィリアム・ゴールディング
出版日
1975-03-30
“「初めはうまくいっていたんです」と、ラーフが言った、
「でも、そのあとで、いろんなことがあって――」彼は言うのをやめた”

対戦の最中、イギリスから疎開した学童らの乗っていた飛行機が敵襲を受け、その胴体だけが南太平洋の孤島に不時着した。彼らは隊長を選び、無人島で秩序だった生活を目指すが、それぞれの性格や体格、価値観の違いから次第に軋轢が生まれ始め、小さな社会は崩壊していく。

「Aの行動がBのプライドをいたく傷つけたためにBは一定の行動に執着するようになり、それでBとCが対立し、その結果Aが疑心暗鬼に……」というふうに負の感情は連鎖し、最後に待ち受けているのは凄惨な抗争。初めは無垢だった彼らの運命が悪いほうへ悪いほうへと転がり落ちていく描写は、完成度の高いピタゴラスイッチを見ているようです。

この小説は前述の『漂流教室』と構成やテーマが非常によく似ていることから、今回セットで紹介。漫画『漂流教室』では「少年たちを襲う試練の恐ろしさ、それに立ち向かう勇姿」という、絵として映える派手な出来事が自然とピックアップされています。それに対し、小説「蠅の王」では、「漂流した少年たちの微細な心象変化」という絵では表現できないメンタリティな主題を追求していることがわかります。

2つの作品を読み比べて「漫画」と「小説」という表現手法の違いを実感するのも一つの楽しみ方ではないでしょうか。

アイアムアヒーロー

著者
花沢 健吾
出版日
2009-08-28
“俺は英雄じゃなくていいんだ。
せめて自分の人生くらい主役になりたいんだよ”

うだつの上がらない元漫画家・現アシスタントの鈴木英雄。彼の平凡な日常は唐突に終わりを告げる。周囲の人間が一夜にしてゾンビのような何かに変貌してしまったのだ。彼の同僚も、上司も、恋人も。自己防衛の為、恋人の首を切り落とした英雄はアパートを飛び出した。唯一の趣味だった、射撃用の散弾銃とその許可書と弾丸を持って。彼は非日常の中で、誰かのヒーローになれるのだろうか。

この漫画は全編通して面白いのですが、特に僕がお勧めしたいのは1巻。1巻は兎に角何も起こらない。そこが凄い。ゾンビパニックものにも関わらず、ただダメな男がずっとクダを巻いているだけ。冒頭で紹介した台詞も、命を賭した男の決め台詞とかではなく、合コンに失敗した英雄くんの愚痴です。

それ故に、ラスト数ページで漸く登場するゾンビの恐ろしさは読んだ人にしかわからない。1冊丸々使って読者は英雄に共感し軽蔑し、無意識に「日常」という積み木を積み上げる。それを最後の一瞬でブッ壊される爽快感と絶望感は、本能的な恐怖を覚えるのです。「そーゆー漫画」と知らずに1巻を読んでしまい、失禁しかけた読者は僕だけではないはず……ないよね?

実写映画化もして、国民的ゾンビ漫画としての地位を獲得した本作。映画は僕も見に行きましたが主演の大泉洋さんの素晴らしい演技は今も目に焼き付いています。あと想像以上のグロ描写やホラー演出に、館内のそこかしこで響いていた若い女性達の悲鳴も耳にこびり付いています。POPで愉快なゾンビ映画とミスリードさせる宣伝だったので、原作を知らない人はそりゃそうなるよね。

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