戸籍に学校に道路に水道。人が生活していくうえで必要なあれこれをとりまとめてくれる市役所や区役所。実は、人間が死んだ後にも「しやくしょ」があります。それが「死役所」。 そこには死因ごとに担当の部署が設けられています。病死や事故死、自殺から他殺まで、さまざまな人生の最期を迎えた人たち。そんな彼ら一人ひとりに人生のドラマがあります。 そして、死役所を訪れる人がいれば、また死役所で働く職員たちがいます。彼らもそれぞれに事情を抱えてここで働いているのです。 人生を考えられさせる漫画『死役所』は、2019年10月放送でドラマ化することも決定しました。スマホアプリから無料で読むことができますので、気になった方は下のボタンからご利用ください。
死んだ人間が必ず訪れる場所「死役所」。死んだ人間はここで手続きを行わなくてはなりません。その手続きの方法は死因によって異なりますが、基本的には書類に必要事項を書きこむだけ。そして、その案内をしてくれるのが、総合案内のシ村です。
ぴっちりと七三分けにした黒髪に、黒い背広と黒いネクタイ。黒縁めがねの下には、糸のように細い目。貼り付けたようにVの字にあがった口角……。言葉づかいは至極丁寧で、決め台詞は「お客様は仏様ですから」。
そんな不思議な雰囲気を持つ彼も、もちろん死んだ人間です。死因は何なのか、どんな人生を送ってきたのか、謎につつまれたシ村の過去は巻を重ねるたびに少しずつ解き明かされていきます。
死んだ人間は、どうなるのでしょうか。
辿り着くのは天国か、それとも地獄か。どちらにしてもこの世界では、死んだ者が一番最初にやらなければいけないことがあります。それが「死役所」での手続き。
ここでは、死因によって提出する申請書が異なります。死役所に来るのは誰もが初めてですから、とまどうのは当然のこと。そこで声をかけてくれるのが「総合案内」のシ村なのです。
彼の案内で死者は無事に手続きを終え、成仏の道へと進みます。その途中で、ここに来た人がどんな人生を生きてきたのかを知ることになります。
毎話語られるさまざまな人生と、少しずつ見えてくる職員たちの過去から目が離せません。
そんな不気味な世界が魅力の本作が、なんと2019年10月にテレビドラマ化。シ村役に松岡昌宏、その他にも黒島結菜、ジャニーズJrの織山尚大などが出演。豪華なキャストでも話題となりました。放送時間は深夜帯と、作品にぴったりですね。
1巻では4つのストーリーが収録されています。
第1条「自殺ですね?」は、いじめで自殺した少年の話。
第2条「命にかえても」は、恩人をかばって死んでしまった女性が主人公。
第3条「あしたのわたし1」、第4条「あしたのわたし2」で2話にまたがって語られるのは、虐待によって死んだ女の子の話です。
第5条「働きたくない」は、死刑になった男性・江越が死役所にやってきます。
この巻は、死役所のおおまかな仕組みと今後もよく登場する主な職員たちの紹介も兼ねて物語が進みます。さっそく、1番最初の話である「自殺ですね?」を詳しくご紹介します。
- 著者
- あずみきし
- 出版日
- 2014-04-09
主人公は中1の男の子。いじめを苦に飛び降り自殺をしてしまいました。足は折れ、両目から血を流した状態で、どこかの室内にいます。
「こんにちは」「自殺ですね?」と声をかけてきたのは「総合案内 シ村」と書かれた名札を首から下げた男性。全編を通じて登場する『死役所』のメインキャラクターです。
彼は「自殺の方はこちらです」と、男の子を「自殺課」に案内します。カウンターがあり、内部では職員たちが働き、山積みにされた書類やノートパソコンがあって、まさに生者の世界のお役所の雰囲気です。
手渡された「自殺申請書」に記入をする際、男の子は受けたいじめを思い出し、怒りと悔しさに声を荒げますが、シ村は顔色ひとつ変えずに「成仏するのに必要な手続きですので」と流してしまいます。
男の子はそのまま書類の記入を続け、遺書の有無で「無し」にチェックをして、遺書の代わりに日記を置いたと伝えました。シ村は笑ったようなVの字の口のまま、「遺書がないと裁くことも難しいでしょうし」「おそらく皆すぐに忘れてしまうでしょうねぇ」と続けるのです。
シ村がパソコンで調べると、男の子の両親は離婚しており、母が社会的地位の高い男性と再婚している家庭だということがわかります。義父が恥じて日記を処分するかも、とシ村が言うと、男子はふらふらとどこかへ行ってしまうのです。
とはいえ、死役所の外には出られないらしく、階段の途中で座りこんでいます。気が付くと、彼がここに来た日からかなりの日数が経っていました。そして、書類の手続きの締切日となってしまったのです。
そこへ、彼をいじめた相手・牛尾が他殺課に来ます。男の子の義父がいじめの事実を知って、いじめの首謀者を轢き殺したというのでした。
男の子は驚きました。きっと生前、義父とはうまくいってはいなかったのでしょう。そのあたりのことも、轢き殺されたという場面も、本作では一切描かれることはありません。ただ男の子がシ村にこう言いました。
これに対してシ村は「よろしいですよ」「お客様は仏様ですから」と答えます。
そしてその後、男の子といじめっ子は……。
最後のページを埋め尽くすのは、男の子の生前に撮られたたくさんの写真。中学校の入学式、小学校の運動会や遠足、友達と笑いあう姿、無垢な幼児の顔……。
この生前の写真で埋め尽くされるページは、各話の主人公となるキャラクターが成仏する際に必ず描かれます。このページがあることで、キャラクターとその人生にさらなる深みを与えます。読者は思わず、キャラクターの、そして自分の人生に想いを馳せることでしょう。また、作者のキャラクターへの愛情がよく伝わってきますね。
このほかにも、管轄外のことはノータッチというシ村の徹底的なお役所対応など、ここには書き切れない見どころも満載です。
そして、この巻の5条「働きたくない」では、ひとつの真実が明かされます。
この話の主人公である男の死因は、死刑。そんな彼にシ村は死役所の採用試験を受けるように勧めます。
そうです。この死役所で働く者たちは皆、生前に犯罪を犯し、死刑となった者たちだったのでした。
- 著者
- あずみきし
- 出版日
- 2014-04-09
1巻では、シ村たち職員の正体が明らかになりました。続いて2巻には4つのストーリーが収録されています。
第6条「腐ったアヒル1」、第7条「腐ったアヒル2」では、とある漫画家の死因について。
第8条「男やもめ」は、妻に先立たれた男性・襟川の話。
第9条「石間徳治」これは時代を少しさかのぼって、職員のイシ間が死刑となった事件について語られます。
第10条「初デート」は、ある交通事故死の話です。
第9条では、他殺課に勤める人情家で涙もろいおじさん、イシ間が主人公となります。彼はどんな事件を起こしてこの死役所に勤めることになったのでしょう。
大変気になる第9条ですが、ここではその話ではなく、ちょっと珍しいシ村の表情が見られるストーリーをご紹介します。
- 著者
- あずみきし
- 出版日
- 2014-09-09
第10条「初デート」はタイトルどおり、15歳の男女のドキドキの初デートが描かれます。
顔を赤らめながら映画やゲーセンで過ごす様子は、微笑ましい限りです。しかし、これは『死役所』ですから、読者は「一体どちらが死ぬのか」とハラハラしながら読むことになります。
デート中の女の子・夏加が靴ずれをしてしまい、手を引いてと頼むと、男の子は「こっ断るっ」と返答。照れているのでしょうか。
男の子が絆創膏を買いにコンビニへ行くため、2人は離れてしまいました。夏加が告白した時のことを思い出しているところへ「キ……」という音がかぶります。
「ドン」という大きな音に男の子が振り返ると、夏加がいたはずの場所にはなぜかトラックが……。
彼女の名を呼びながら、トラックの下をのぞきこむ男の子。男の子の顔からは一気に血の気が引き……、舞台は死役所の交通事故死課に移ります。
交通事故死申請書に必要事項を記入する夏加。「あたし…」「死んだんですね…」「しかも」「こんな姿で…」と言うその姿は、実に痛ましいものです。
他の職員が自分のことを見てギョッとする様子に傷つく夏加。そこへ総合案内のシ村が「申し訳ございません」「その者にはお客様に失礼がないよう指導しておきます」と言いながら現れました。
状況を知り「デート中に」「恋人の前で亡くなられたんですね」とシ村が言うと、夏加は違います、とデートの真相を語ります。このデートは、実は普通のデートではなかったのです。
シ村はそれを聞き、その姿で亡くなったことについて、このように言います。「姿はどうであれ」「誰かの心に残り続けるならば喜ばしいことなのではないですかねぇ」と。
夏加はシ村をひっぱたきます。シ村のめがねが飛んでしまうほどの勢いで。そして叫びました。
それを聞いて、シ村の口元からV字の笑みが消えます。
死にたくなかった、とむせび泣く夏加。めがねをかけ直したシ村は、少し悲しそうな顔で彼女をみつめます。かける言葉もない様子です。
交通事故死課の松シゲが、彼女に「大丈夫か」と声をかけた後、シ村には「あんたもう少し考えて喋んねーと駄目だわ」と言います。
確かに、今回はこれまでずっとお客様に寄り添ってきたシ村らしからぬ対応でした。松シゲに「生きてた時のことでも思い出してたか?」と聞かれて「いえ……」と答えるシ村の口元はもうV字に戻っていますが、シ村の頭にはある情景が浮かんでいます。
横たわった女性、その指は不自然に曲がっています。そしてその横にたたずむ男性は、シ村の生前の姿なのでしょうか。シ村にも、心に残り続ける誰かの死があるのでしょうか。
この相手が誰なのか、この情景は何を意味するのか、その謎が描かれるのはまだ先のことになりそうです。
死役所 2 (BUNCH COMICS)
2014年09月09日
3巻では3つのストーリーが収録されています。
第11条「カニの生き方1」、第12条「カニの生き方2」、第13条「カニの生き方3」は、売れない芸人をしていた若い男が主人公の話です。
第14条「前を見て」。歩きスマホをしていた女子高生は、なぜ足を踏み外したのでしょう。
第15条「成仏しません」では、急性アルコール中毒の女子大生が死役所でクレームをつけます。
ここでは、職員たちと大きく関わる第15条の「成仏しません」をご紹介しましょう。
- 著者
- あずみきし
- 出版日
- 2015-03-09
生活事故死課に来た、三樹ミチル。「事故じゃないんです絶対」「絶対絶対絶〜〜〜〜〜対っ!!」と大騒ぎです。
「どうかされましたか?」と様子を見に来た総合案内のシ村に、「お役所ってムカつく!」と一言。
たらい回しにされたことや、わからないから聞いているのに説明してくれないことなど、不満を述べます。死役所は知らなくても、お役所を知っている私たちも思わずうなずいてしまいますね。
シ村が頭を下げると彼女は機嫌を直して、騒いでいた理由を語りました。事故ではなく殺されたと主張して、殺人だと認めてくれないなら手続きをしない、とすねてしまっていたのです。
ここで、彼女の死の顛末が描かれます。大学のサークルで、20歳になった彼女は調子に乗ってどんどんお酒を飲んでしまい、急性アルコール中毒で死亡。生活事故死課へと来ることになりました。
彼女が言うには、同じサークルの女性がミチルのかわいさに嫉妬して殺した、とのこと。描かれた生前の様子では、そのようには見えなかったのですが……。
シ村も調べてみますが事故死として登録されており、データを書き換えるわけにはいかないと伝えます。ミチルはなおも食い下がるのですが、シ村もこういう相手をあしらうのは手慣れた感じで「申し訳ございません」をくり返すのみ。
最終的に「今後は何らかの対応が出来るよう充分に検討いたします」とお辞儀をすると、ミチルも「そうですよーお願いしますよ!」と納得した様子でした。
しかし、職員たちは「ああ言って何もしないんだけどね」「おおーさすがシ村さんすね」とこっそりささやき合ってます。さすがお役所ですね。
生活事故死申請書を書きはじめたミチルですが、ここで職員のハヤシの失言に再び怒りが再燃。殺人と認められるまで手続きはしないと言い放つのでした。
そこで、仕方なくシ村が「手続きをしないとどうなるのか」を説明します。
49日経って成仏しない場合、「冥土の道」という真っ暗な道を永久に彷徨うことになるのです。しかしミチルはめげません。「そうならないためにも、あたしのこと殺人で手続きさせてくださいねっ」と、にこにこ笑うメンタルの強さは見上げたものです。
「そうですねぇ」と笑うシ村の笑顔に何かを感じたミチルは、役所の中を勝手に見回ることにしました。
「癌死課」「心臓病死課」「病死課」など、重なっているように見えますが死ぬ人の多さによって課を分けているのだと納得します。「交通事故死課」「他殺課」「人為災害死課」などを巡った後、ミチルがたどりついたのは「死刑課」でした。
そこで職員のハヤシと世間話をするのですが、話題はシ村について。あの笑顔に違和感がある、とミチルは言います。無理矢理笑顔を貼り付けてるみたいだ、と。
きっと何かあるよ
あの笑顔の裏にはさ
(『死役所』3巻より引用)
ここで、この話は終わります。そう、ミチルの話もシ村の謎も続くのです。それは4巻で明かされることになります……。
死役所 3 (BUNCH COMICS)
2015年03月09日
4巻では4つのストーリーが収録されています。
第16条「吊す者 吊される者1」、第17条「吊す者 吊される者2」では、シ村の生前のほんの一部が明かされます。
第18条「堕ちる」は、刺激を求めた主婦の話です。
第19条「人を殺す理由」は、突然現れた男・原島に刺殺された男性・真澄が主人公。
第20条「シ村さんの過去」では、死役所にいるミチルがシ村の謎に迫ります。
4巻では、3巻に登場したミチルが相変わらず死役所の中をうろうろしています。
やはり気になるのは第20条「シ村さんの過去」ですね。それでは、この話を詳しく見ていきましょう。
- 著者
- あずみきし
- 出版日
- 2015-09-09
ミチルは、ここで働く人たちは自分の死に方と同じ課にいるのだと予想しています。
読者には既に明かされていますが、ミチルの予想は外れ、死役所の職員は元死刑囚です。
ハヤシとの会話のなかでミチルは、自分もここの職員になろうかと言ったところ、ハヤシが「はあ?何言ってんの」「死刑にもなってないのに……」と口をすべらせてしまうのです。
手続きの締切まで間がないこともあり、彼はミチルに、自分は人殺しだと打ち明けます。
ミチルは彼のことを「最低」となじりますが、ハヤシは平然とした様子。死役所で出会った殺された人の激しい怒りを思い出し、ミチルは彼の反省のなさに困惑するのです。
そして気がついてしまいました。
シ村さんも
人殺しってことだよね?
(『死役所』4巻より引用)
ハヤシが詳細は知らないと答えると、ミチルはシ村を探し当て「どうして人殺しなんてしたの!?」とくってかかりました。シ村は「申しわけありませんが」「個人的なことはお答え出来かねます」と頭を下げて去ろうとしますが、ミチルは「自分はこんなところで悠々と過ごしてるんだよね?」「人殺しのくせに」と追いつめるのです。
ミチルに腕をつかまれ、振り返ったシ村が見せたのは、ぞっとするような冷たい表情。
ミチルがひるんだところで、「失礼いたします」とシ村は職務に戻ります。足しか見えていませんが、他の人に「お客様どうされましたか?」と話しかける彼はきっと、V字の笑みを浮かべているに違いありません。
ミチルは死刑課に向かいます。そこは職員不在で、死刑で死んだ人のデータがあります。「伊達に49日うろうろしてた訳じゃないもんね」と、ファイルを探しはじめました。
そこには、職員たちの人生史もファイリングされています。その詳細を見ながら「皆殺人犯だ…」とそれぞれの顔を思い出す彼女の表情は悲痛です。
イシ間のファイルを見た時は「こんなの相手が悪いんじゃん……」「でも」「殺人犯は殺人犯か……」と心が揺れます。
そして、ついにシ村のファイルにたどり着きました。
それを読み、ミチルはつらそうな顔で涙を流します。
何が書いてあったのか気になりますが、ここではまだ、読者には開示されません。
彼女は「成仏許可書」に記入をします。「これを持って成仏課に行けばいいんでしょ」と、少し投げやりな様子です。いったい何枚書類が必要なのでしょうね。
シ村に会っても落ち着いていて、「お世話になりました」と挨拶。その後のミチルの台詞は、シ村の過去についての重要な言葉となっています。どんな台詞だったかは、ぜひ実際に読んでたしかめてください。
最後まで明るく元気に去っていったミチルの生前の写真がここでようやく披露されて、この話は終わるのでした。
死役所 4 (BUNCH COMICS)
2015年09月09日
5巻に収録されているのは3つのストーリーです。
第21条「林晴也1」、第22条「林晴也2」、第23条「林晴也3」では、死役所の職員であるハヤシがどうして死刑を宣告されるほどの犯罪を犯してしまったかが語られます。
第24条「命の放送」は、動画配信をする男が病気になってしまう話です。
番外編「ヒーローごっこ」、ヒーローであろうとした少年は、なぜ亡くなったのでしょう。
ここでは第24条「命の放送」をご紹介していきましょう。
- 著者
- あずみきし
- 出版日
- 2016-02-09
病死課に「手続きお願いしまーっす」とやってきたのはまだ若い男性でした。「キタコレ」「マジ草でしょ!」「人生BANされたわー」などと次から次へと口にするのはネットスラング。シ村を含む職員たちとの会話はちょっと噛み合わないようです。
そんな彼は、生前、自分の生活を生配信していました。その様子が定点カメラの画面のように描かれます。
「暇な男と雑談しようたいむ☆」「【初見歓迎】持ってる漫画朗読しようたいむ☆」など、残念ながらあまり人気はないようです。「【車載】ノンストップチャリ コメで行き先決める【夜】」では、閲覧数8とあります。コメントはもっと少ないですね。
それから少し間があいて「暇な男が闘病生活を始めてみた」となります。病室らしきところから「入院生活暇なんでーちょこちょこ配信しようと思ってまーす」と、表情はさほど深刻そうではありません。
「【闘病】絶対安静なのに病院をうろついてみた」から、コメント数が増えはじめます。「寝とけよ」「病気って嘘だろ」などと、閲覧者のとまどいが伝わってきます。
それからも配信は続き、さらにコメントは増えていくのです。
「【闘病】お見舞い凸待ち!!」では実際にお見舞いに来る人たちもいて、コメントも画面いっぱいになっています。配信する本人もお見舞いに来る人も、そしてコメントも深刻そうではなく、コメントには「www」が多く見られます。
見舞い品がたくさん飾られた病室での配信が続いていましたが、突然画面が途切れました。
死役所で、自分の最後の一週間が昏睡状態だったことを知ると、男性はその時間がもったいないと言います。
一週間あれば絶対もっと視聴者数増やせてるわー
(『死役所』5巻より引用)
シ村が、その間に家族や職場の方もお見舞いに来ていたと教えると、男性はハッとします。家族にも職場にも見放されていたのに、と。しかし、「やっぱオレネ申だから!?」と切り替えます。そして「視聴者の皆〜死んじゃってスマソ〜〜!!」と叫んで成仏に向かうのです。
どこか、彼には最初から最後まで地に足がつかないような印象を受けます。本人が見放されていたと語る家族や職場の様子は、一切描かれません。ただ、配信をしている彼はいつも笑っているのでした。
そして、この作品には珍しく、主人公が死んだ後の現実が描かれます。それは「【闘病】よしあきの葬儀に凸してみた【終了】」という配信画面として。
「やめろ」「不謹慎すぎワロエナイ」というコメントもあれば「さらばよしあき」というコメントもあります。そして「何これこわい」という書き込みで唐突に終わるのです。おそらく、これまでの経緯を知らない視聴者の書き込みなのでしょう。
この『死役所』の特徴のひとつでもある淡々とした雰囲気が、よく出ている一篇です。
死役所 5 (BUNCH COMICS)
2016年02月09日
6巻には3つのストーリーが収録されています。
第25条「彫刻さん1」、第26条「彫刻さん2」はホームレスが主人公の話です。
第27条「手羽先」、セクハラから守ってくれる女友達の真意とは?
第28条「愛する人1」、第29条「愛する人2」では、高齢の女性が病死で死役所に来ますが、話のメインとなるのは、とある殺人事件です。
ここでは「彫刻さん」をご紹介しましょう。
- 著者
- あずみきし
- 出版日
日払いの清掃の仕事をするひとりのおじいさん。丸顔が印象的な彼はホームレスでした。
ある日、市役所の道路河川課に勤める若くて元気のいい女性・広本が、上司に連れられてホームレス指導に向かいます。彼女は就職のあっせんを!とやる気に満ちていますが、一方上司は市民からの苦情に「対応しています」と言うためだけに話をしに来ただけでした。
コンクリートの土手にある橋の下には、ホームレスの人たちが暮らしています。広本は、ホームレスのひとりが持っていたお地蔵さんに興味を持ちました。「お 作った本人が来たぞ」という言葉に、丸顔のおじいさんのホームレスが登場。対岸に暮らす彼は「彫刻」と呼ばれていました。お地蔵さんは彼が作ったものだったのです。
広本は社会復帰を勧め、力になろうとします。しかし、彫刻はホームレスになったきっかけはリストラで、再就職に失敗したのだと語りました。そして、そうなる前は人事課でクビ切りをしていた、とも。
そう語る彼を、広本は悲しみと悔しさが入り混じった表情で見つめます。そして市役所に戻ると、「市役所の職員がホームレスと楽しそうにしてた」という苦情が来たと聞き、憤るのです。
上司からも「世間一般のイメージは、怠け者、汚い、怖い……」と言われてショックを受けるものの、彫刻の元へ行き「何か支援が出来ないか考えます!」と宣言しました。
そして彼女は、ゴミの不法投棄問題があることを知り、ひとつの解決策を思いつきます。それは、彫刻のお地蔵さんを市が買い取り、不法投棄の多い場所に置くというもの。それでゴミが減ったという事例があるんです、とワクワクした様子です。
いったんは却下しかけた上司ですが、彼女のその案に乗ってくれることになりました。
彫刻は日々コツコツと何かを制作しています。諦めかけていた人生に希望を見いだしかけては、過去の自分のしてきた仕打ちにまた打ちひしがれ、揺れています。
それでもさまざまなことがうまくいきそうになっていた矢先、台風が上陸。川の水が「ド」と彫刻を襲いました。
台風が去り、何も知らない広本たちが彫刻が暮らす橋の下に訪れると、彼の家は流されて、跡形もありません。
その代わりにあったのは、土手の壁に彫り付けられた見事な千体地蔵。彫刻の作品に圧倒される広本の耳に届いたのは、台風による男性の訃報でした。
こうして、彫刻は死役所の自然災害死課にたどり着きます。迎えてくれたシ村にいつもお地蔵さんを彫っていたと話し「罪滅ぼし……いえただの自己満足ですね」と静かに続けました。
舞台は再び現世に戻ります。千体地蔵は果たしてどうなったのでしょうか。
いい話も悲しい話も『死役所』では平等に扱われます。それが人生ですね、と淡々と言うシ村の顔が浮かぶようです。
死役所 6 (BUNCH COMICS)
2016年07月09日
7巻に収録されているストーリーは3つです。
第30条「加護の会1」、第31条「加護の会2」、第32条「加護の会3」では、優秀な弟にコンプレックスを抱いている兄・寺井が宗教団体に救いを求めますが……。
第33条「気遣い」の単身赴任の男性は、なぜ火事で死ぬことに?
第34条「新入職員」は、死役所に新しい人材がやってきます。
「加護の会」は3話にわたり語られます。そして、シ村の生前、そしてシ村がこの死役所にいる理由とも少し関わりがあるようです。
ここでは、死役所に新人が来る第34条「新入職員」を見ていくことにしましょう。
- 著者
- あずみきし
- 出版日
新しく来た新入職員候補は若い男性でした。長髪に三白眼の彼は、先輩職員であるハヤシが「ども」と笑いかけると、無表情のまま何もいわずにぺこと会釈するだけで、通りすぎていってしまいます。
ハヤシは「どこの課に行くんだろ」「てかちゃんと受かりますよね」となんだかワクワクしている様子。隣にいるやはり職員のニシ川はもう少し冷静ですが、「そりゃ試験といっても簡単な面接だけだし」と答えます。
いったい誰が面接をしているのか、試験の様子は描かれないため不明です。いつか明らかになるのでしょうか。
新入職員はハシ本といい、他殺課に配属されてきました。着ているものも、それまでの私服からネクタイにベストという公務員らしいものに変わっています。
そこへ「新採用職員研修について」のお知らせが文書で来ます。さすがにお役所です。研修講師はシ村。ホワイトボードを背にし、「研修は一回では終わりません」と最初の研修をはじめました。テキストもあるようなのですが、いったいどんな内容なのでしょう。
廊下では、先輩職員が立ち話をしています。他殺課のイシ間、自殺課のニシ川、生活事故死課のハヤシ。彼らは皆、どんな理由で殺人を犯して死刑となったのか、すでに語られた人たちです。
ニシ川は生前の話を拒否してその場を去りますが、人情家のイシ間と軽い印象のハヤシは、ニシ川が自分のことを話したがらない、とその後ろ姿を見つめていました。
ハヤシが「自分のこと見つめ直したいとかないんすかね」と言うと、イシ間は「もっともなこと言うじゃねぇか おめぇはどうなんだ?」と尋ねます。ハヤシはこう答えました。
俺 今実践中なんすよ
他人の心を考えられるようになる為に
シ村さんに言われたんす
そうすれば罪を反省することが出来るって
(『死役所』7巻より引用)
そう言う彼は、ここで働くことによって確かに変わりつつある人物です。それに対し「お互い いい成仏が出来るといいよなぁ」と言うイシ間もまた、自分の罪について今も悩んでいました。
さて、新人のハシ本は、1回目の研修を終えて窓口業務につきます。早速現れたのは、怒鳴り散らすご老人のお客様。イライラとするハシ本ですが、イシ間がお客様との間に入ってくれたおかげでその場はやりすごします。しかし、口うるさい隣の職員に文句を言われると、手元にあったカッターを職員に向かって振り回してしまいました。
ハシ本がイシ間に抑えつけられた隙に、職員はカッターを取りあげて彼の喉を切り裂きます。ハシ本は終始無言のままですが、出血もせず痛みもないことに驚きます。既に死んでしまっていますから、血は出ないし痛みも感じませんが、その傷は治ることもありません。
研修2回目、傷をふさぐために首に縫い目のできた彼が、シ村に初めて口を開きました。「死にたい」と。しかし、シ村に「われわれはすでに死んでいます」と言われ、「成仏したい」と言い直します。
そこで、シ村はハシ本に淡々と説明をするのです。
心なしか、ハシ本の顔色がさらに悪くなっているように見えます。
ここでようやく、なぜこの職員たちが元死刑囚たちなのかが察することができます。多くの人の死に触れることで、彼らは自分がしたことを何度も振り返ることとなるのでしょう。
「お客様は」とシ村が言うと、「仏様です」とハシ本が続きを言います。「それだけは覚えました」と言う彼の顔は見えません。
まだどんな経緯で死刑になったのかもわからないハシ本ですが、まったく見込みがないわけでもなさそうですね。
そしてこの話のラストで、イシ間にある辞令が来ます。それはこのようなものでした。
辞令 他殺課 イシ間 殿
任期満了に伴い本日より49日以内に成仏するものとする 以上
(『死役所』7巻より引用)
職員の任期は一定ではないと、以前に語られています。いつ来るかわからない辞令が、ついに来たのでした。
死役所 7 (BUNCH COMICS)
2016年12月09日
8巻には4つのストーリーが収録されています。
第35条「母1」第36条「母2」、不妊治療をする夫婦の元に、赤ちゃんは来るのでしょうか。
第37条「愛を買う」で風俗に入れあげている男はいろいろ勘違いをしているようです。
第38条「理想の家族」の男の子は、両親が揃っていながら孤独でした。
第39条「お気を付けて」で、ついにイシ間が成仏します。
ここでは第38条「理想の家族」について詳しく見ていきましょう。
死役所 8 (BUNCH COMICS)
2017年03月09日
立派な一軒家で宿題をしている小学生の男の子、尾ヶ崎秀哉。夜8時ごろに母親が帰宅します。秀哉はまだ食事をしていませんでした。それを知ると母親は顔をしかめます。そして冷凍庫を開け、何がいいかを面倒そうに聞いてくるのです。
秀哉が「何でもいい……」と答えると、母は「何でもいいが一番困るのよね−」とチャーハンの袋を渡し、「自分で温めてねー」と言いました。秀哉は思います。
お母さんと一緒に食べられれば何でもいい……
(『死役所』8巻より引用)
明日は土曜日だから、と秀哉は父が帰ってくるまでパジャマ姿で待っています。「ただいまー」という声に、彼は顔を明るくしました。玄関まで出迎えに行きますが、父は「まだ起きてるのか 早く宿題して寝なさい」と、やはり少し顔をしかめるのでした。
深夜、トイレに起きた秀哉は、両親の言い争う声を聞いてしまいます。2人は彼の学校行事を押しつけ合っていたのです。互いに仕事が忙しい様子ですが、母は「秀哉が産まれてから私ばっかり犠牲になってるじゃない!」と叫び、それを聞いてしまった秀哉は寂しそうに部屋に戻りました。
翌朝、彼はベッドに寝たまま自分の変調に気づきます。体が重く、風邪のようです。
父がドアの外から声をかけます。「お母さん仕事に出てお父さんもちょっと出かけてくるから」「留守番頼むな」と言われ、彼は「わかった……」と答えますが熱がありそうです。
体温計で測ると38.5度ありました。赤い顔をした彼は「今我慢してたらきっとあとで褒めてもらえる……」と考えます。しかし時間が経つとともに、体調はどんどん悪くなってしまいました。
「このまま死んじゃうんじゃないかな……」と思う一方で、
死ぬ前に
よく我慢したね偉いぞって
褒めてもらってそれで
いっぱい心配してもらって
(『死役所』8巻より引用)
両親に抱きしめられ、看病してもらうことを空想します。
午後7時半すぎに帰宅した父が見たのは、痙攣している秀哉です。慌てて妻に電話をしているようですが、気が付けば男の子は死役所にいました。
彼を案内したのはいつものシ村ではなく、イシ間。付き添って病死課に行くと、死因がインフルエンザだったとわかります。
秀哉は自分が死んだ時のことを尋ねました。シ村が資料を見ながら「2日間昏睡状態だったんですね」「ご両親はその間尾ヶ崎さんにつきっきりだったようです」「随分ご心配されていたようですよ」と伝えると、秀哉は「そうなんだ……」と、少しほっとした顔になりました。
シ村が「生前はご両親が忙しくよくお一人でいらしたようですが」「最期は一緒にいられてよかったですねぇ」と言い、それに秀哉が「はい」「よかった……」と笑うと、イシ間が机を大きく叩いて叫びました。
何がよかっただ!
おめぇわかってんのか!? 死んじまったんだぞ!
死んでから愛情確認して喜ぶなよ!
(『死役所』8巻より引用)
そう言いながら、涙が机にこぼれ落ちます。
もっ……かっ勘弁してくれよ……
子供が死ぬのは見てらんねぇ……
(『死役所』8巻より引用)
秀哉は、そんなイシ間を不思議そうに見つめていました。
現世では両親が、今度は責任を押しつけ合っています。もう、この人たちは一緒には暮らせないようです。
心を落ち着かせたイシ間は、書類の記入を終えた秀哉の頭を大きな手でなでてやり「今までよく頑張ったな」と笑いかけます。秀哉もほっとした顔になり、なでられた頭を自分で触れて照れくさそうです。
そんな彼に、イシ間は「俺と一緒に成仏するか?」と聞きます。「今までずっと1人で寂しかったもんな」「成仏くらい誰かと一緒がいいよなぁ?」と確認すると秀哉も「うん!」と答えました。
この時イシ間は、自分に成仏の辞令が届いていたことを皆に初めて告げるのでした。
この話に続く、第39条「お気を付けて」では、2人が一緒に成仏する姿が描かれます。しかし、成仏したその先は明かされません。
イシ間の行き先が、天国なのか地獄なのか。それは成仏の扉をくぐった彼にしかわかりません。しかし扉をくぐる時の表情は、とても晴れ晴れとしたものなのでした。
9巻には4つのストーリーが収録されています。
第40条「託す1」、第41条「託す2」は家庭内介護の話です。それは殺人と呼ばれるものなのでしょうか。
第42条「遺すべきもの」では、癌死の母親と遺された子供の行く先について。
第43条「自己判断」は自殺を巡る話です。
第44条「隠しごと」は成人した息子を持つ母親の突然の脳卒中死が描かれます。
ここでは第43条「自己判断」をご紹介しましょう。
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死役所の自殺課はいつも混雑しています。
そのうちのひとり、若い男性は血だらけです。気の弱い人為災害死課職員の岩シ水が「あの人飛び込みですか? 想像するだけで痛いですね」と言っていると、自殺課のニシ川がその彼、上田の申請書を渡します。
そこには自殺の理由として「誰からも必要とされていないから」とありました。
ここから、上田の生前の様子となります。
会社で上司にミスを指摘され「すいません」と答える上田。上司は「上田くん最近小さいミス多いから気を付けてね」と言いますが、上田の返事は「すいません」。
上田はずっと「すいません」「すいません」と心の中でくり返しています。
独り暮らしの自宅マンションに帰ると、瓶ビールをラッパ飲み。散らかった部屋で、ひとり顔を覆って「またミスった 駄目人間だ」「役立たずでごめんなさい」「本当にすいません」とつぶやくうちに「死にたい……」と思い詰めてしまいました。
テレビの交通事故死のニュースを見て「ここにいれば」「俺が車に轢かれて死んでたのに」「……そうすれば……」「テレビの向こうで誰かがかわいそうにって思ってくれるのに……」と涙を流します。
そして自分には生きている価値がないと考え、コートを着て外に出ます。「俺は誰にも必要とされていない」「俺がいなくても誰も困らない」そう思いながら警報音が鳴り響く踏切の中に入り「楽になりたい」という思いで近づいてくる電車と向き合うのでした。
ここまではどうやら死役所のファイルにも載っていたようです。ファイルから目を離した岩シ水は「あのー」「これただの主観ですよね」「こんなの自殺の理由として受け付けていいんですか?」と疑問を口にします。
自殺課のニシ川が「そりゃ自殺の理由なんだから主観なのは当たり前でしょ」と答えると、「そっかー 結構適当なんですね」と納得し、血だらけの姿の上田に「今って死ねて嬉しい感じですか?」と聞くのです。
「いや……別に……」という上田の返事に、岩シ水はどんどん無神経な質問を重ねていき、シ村も「上田さんが死んで悲しむ人はいません」と言い切ってしまいました。
そして岩シ水が「せっかく死んだのに全然意味ないですね」と断定すると上田は小さく口を開けて、ショックを受けた様子になりました。
その後上田は成仏したとわかるのですが、シ村、ニシ川、岩シ水の3人は彼について思うところがあるようです。
シ村は言います。
上田さんの自殺理由は主観であり思い込みです
上田さんには自殺という道しか見えていませんでした
(『死役所』9巻より引用)
ニシ川は「心理的な視野狭窄ですね」と冷静に分析し「自殺しといて後悔してる人よく来ますよ」と言います。
一方、現世では、上田の上司が自宅のパソコンで「部下のようすがおかしいと感じた時」というページを見ていました。
「迷惑なんかじゃないから」「頼ってほしいなあ……」と考え、「それと」「上田くんがいないと困るってこともちゃんと伝えよう」と決意していたのです。
ほんの少しタイミングがずれていたら上田の自己判断が間違いだったとわかったのに。そう思わざるを得ない、切ない話です。
10巻では4つのストーリーが収録されています。
第45条「岩清水直樹①」、46条「岩清水直樹②」では人為災害死課で働く岩シ水の過去、どこか人間味のない彼の考えが明かされます。
第47条「ダイエット日記」では痩せたいという思いに疲れた女子大生が死してなお、その気持ちに取り憑かれている話。
第48条「しるし」ではどうやら生前シ村と面識のあるお婆さんが亡くなったようです。
番外編「よりよい社会を目指して」では同一人物に殺された人々が次々と他殺課にやってきて……。
ここでは第48条「しるし」をご紹介します。シ村の過去に触れることができるエピソードです。
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ある日、ハヤシとニシ村が椅子に座りながら唸っているお婆さんを見つけます。彼女は自分を案内してくれたシ村の下の名前を聞きます。ニシ村が知らないと答えると、どこかで会ったような気がする、でも思い出せない、と言うお婆さん。
ハヤシは話していれば思い出すかもしれないから、昔話に付き合おう、と言い、ふたりはひとまず結婚の話から聞くことになりました。
お見合い結婚で遠縁の男性と結婚することになった彼女。左目のあたりに大きなあざがあることから破談になった経験のある彼女は、自分の顔を見ようともしない、無口な見合い相手・義一に不安を覚えます。
しかし無事そのお見合いは成功し、弁当屋を営む彼の家に嫁ぐことになります。結納の品は、彼女が好きで、義一の得意料理だという卵焼きでした。
そしていよいよその家で働くことになるのですが、仕事場で義一はかなり厳しく、彼女は何度も叱られてしまいます。そのあと今日一日の反省をしながら銭湯からあがるとすでに義一は出て待っていました。
彼女が遅くなったことを謝ると、義一はそっぽを向きながら「いい 女は長湯するもんや」と言います。そんな彼の言葉に、無口で無愛想ながらもまっすぐな優しさを感じた彼女。
そこから平凡ながらも幸せな日々を過ごします。しかしある日、彼が白血病だと診断されてしまい……。
普段は無口な義一が、その宣告をされた日に彼女に言った言葉は彼らしい不器用な優しさが伝わってくるもの。彼と彼女の過ごした日々の実感を読者にも感じさせます。そしてタイトルの「しるし」の意味がここで感慨とともに読者に明かされるのです。
それを話し終えた後も、シ村のことが思い出せないお婆さん。ニシ村からご主人が似ていたのでは、と聞かれ、そういえば目元がにていたかもしれない、ということでいったんは話がおさまります。
しかし実は彼女も思い出せないシ村との関わりがあったことが、そのあとで明かされます。シ村の生前の職業や、妻がいたことなど……。義一の弁当屋の卵焼きが絶品だと微笑む彼は、やはり死刑になるような極悪人には見えません。
彼はなぜ人を殺めてしまったのか。ますます今後の展開が気になります!
11巻には3つのストーリーが収録されています。
第49条「裁きの先に①」、50条「裁きの先に②」、51条「裁きの先に③」ではあるむこうみずな男の「割に合わない」事件が描かれます。
第52条「自責」では、ある男が幼少期から今もなお引きずっている過去が明かされました。
第53条「ハロー宇宙人」では、女子高生2人が宇宙人に会うという目的のため、ある行動を起こしてしまいます。
今回は、第52条「自責」をご紹介します。シ村の過去にまつわる重要なシーンも描かれました。
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ある日、死役所にやってきたのは、幼少期から足が不自由だったおじいさん。彼は成仏許可書をもらったあとに、何だか気がかりそうな表情をして、シ村にかつて自分の担任だった印南清子(いなみきよこ)という女性について聞きたい、と話します。
幼少期に屋上で危険な遊びをしていた彼は、はずみでそこから転落。気がつくと病院のベッドの上にいました。そしてその横には印南が。いつもどおりにふざけながら彼女を起こすのですが、骨折したことにもあっけらかんとしている彼に、印南は涙を流しながらこう怒鳴ります。
あなたわかってるの!?
屋上から落ちたのよ!
今生きているのは奇跡なのよ!
人間は簡単に死んでしまうものなの!
(『死役所』11巻)
そこに医者が入ってきて、印南はその場を後にしました。医者からずっとつきっきりでいてくれた彼女にあとでお礼を言っておきなさいと言われながらも、彼はそのタイミングをつかめず、そのまま日々が過ぎていきました。
足が不自由になってしまったものの、それを気負うことなく過ごしていた彼ですが、印南の家庭環境を知ったのと時を同じくしてある事件に出くわし……。
その事件から、ずっと印南のことを気にしていたおじいさん。しかし、彼女についてのことは、個人情報なので教えてもらうことができません。
おじいさんにいつもどおりの事務的な対応をとるシ村ですが、脳裏では彼と自分が死んだ時の姿と重なって見えて……。
真実を知ることが、本当に本人のためになるのかということを考えさせられるこのエピソード。シ村にもまた、明らかにしたい過去があるようで、それがこれからのストーリーにどのように関わってくるかに注目です。
12巻には3つのストーリーが収録されています。
第54条「かわいそうな人①」、55条「かわいそうな人②」では持病を抱えて苦しむある生真面目な女性が描かれます。
第56条「おててつないで」では、まだ話すこともできない赤ん坊の死因から、死役所で働くそれぞれの思いが窺える内容でした。
第57条「夜ノ目町爆弾事件①」、第58条「夜ノ目町爆弾事件②」では、真実を抱えたまま約20年も耐え続けた男が、ついにシ村の過去を明かすきっかけとなります。
今回は、「夜ノ目町爆弾事件」に繋がる伏線にもなっている、第56条「おててつないで」をご紹介します。
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生活事故死課のハヤシのもとにやってきたのは、名前も、ましてや死因すら言えない幼い女の子でした。靴下から「こうせいももこ」という名前だということは分かっているのですが、どこの課でデータで探してもその名前は見つかりません。
それもそのはず、実は彼女はそれぞれ書かれている名前の違う衣服をまとっており、性別も男の子という、何のてがかりもない状況だったのです。
そのさまざまな課をまわるなかで、ハヤシはシ村の子供慣れした様子に、自分がかつて殺した子供とその親の姿を重ねます。
そして、いまだ自分のしたことは正しいと思っている彼に、シ村は笑顔は崩さないものの、初めて自分の心の内を見せるかのように反論するのです。
そしてシ村が抱えている過去が、12巻の最後に収録されたエピソード「夜ノ目町爆弾事件」で徐々に語られはじめるのです。
いつも同じ笑顔と丁寧な口調を崩さず、いっさいの隙を見せることのないシ村が抱える過去はいったいどんなものなのでしょうか?
これまでの巻には、複数のストーリーが収録されていました。しかしこの13巻では、ただ1つのストーリーが丁寧に描かれています。それは、シ村の過去にも関わることでした。
第59条 「幸子①」、60条「幸子②」、61条「幸子③」、62条「幸子④」、63条「幸子⑤」と、1巻まるまる全てを使って、彼の生前の妻「幸子」と娘の「美幸」についての回想が語られます。
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自分と同じように冤罪で捕まっている金子に問われ、シ村は初めて自分の過去を語り始めます。
市役所を訪れたひとりの老いた女性。彼女は職員に邪険にあしらわれ、追い返されるようにして帰りますが、途中、足に怪我をしてしまいます。そこに通りがかり、おぶって家まで送り届けてくれたのがシ村でした。彼は送り届けた老婆の家で、後の妻となる若い女性(幸子)と出会います。
絵を描くことを生きがいとしている幸子に惹かれるシ村でしたが、老婆は幸子のことをなぜか「恥さらし」と呼んでいました。その理由は明かされないまま老婆は死去し、そののち2人は結婚します。
娘の美幸も誕生して順調かと思われましがた、彼女の様子がおかしくなりはじめまです。5歳になっても乳離れできず、そればかりか絵の具や土、草花などを食べだしてしまうのです。
困っていたシ村と幸子は「加護の会」という団体と出会い、美幸について相談しますが、「愛情を注ぎなさい」などの教えばかりで、具体的な解決策は得られないまま。あげく、幸子が加護の会へ行ったきり戻ってこなくなってしまい……。
加護の会から不穏な展開になりますが、このあとさらに衝撃的なシーンが描かれます。これまで、シ村が生前を語らなかった理由の核心に、徐々に近づいていきます……。
今巻の見所はなんと言っても、いつでも笑顔で素性の分からなかったシ村の内面に迫っていくところにあるでしょう。
このあとの衝撃の展開は、ご自身でご覧ください。14巻ではシ村の過去の全貌が明らかになるのでしょうか……!期待が高まります!
「マンガZERO」で無料で読むことができる『死役所』。本作のほかにも無料で読めるおすすめ漫画を紹介した<無料マンガアプリおすすめ6選!アプリごとの特徴や魅力を徹底紹介>の記事もおすすめです。
1話ごとにあるひとりの人生を追いながら、職員たちの過去の話も気になる本作。特に、まだまだ謎が多いシ村の存在。いったい、どんな事件にどう関わっていたのでしょうか。いよいよ核心に迫る今後の展開が気になります。
死をテーマに描かれる本作。丁寧に描かれた絵は少し不気味ではありますが、悲壮さはあまり感じません。
基本的に1話読み切りなので、一気読みでも、ちょっとずつ読んでも楽しめるでしょう。
漫画アプリから無料で読むこともできるので、気になった方はそこから読んでみてはいかがでしょうか。