直木賞受賞作であり、映画化もされた『何者』。そのほかの朝井リョウの作品も読んでみたいという方におすすめの作品を7作紹介していきます。
朝井リョウは1989年生まれ、岐阜県出身の小説家です。早稲田大学文化構想学部を卒業しています。
大学在学中の2009年に『桐島、部活やめるってよ』でデビューし、2013年に『何者』で平成生まれ初の直木賞受賞作家となりました。2015年までは会社員をやりながら執筆活動にあたっていましたが、退職し、一時的に専業作家になることを発表しました。
学生時代や就職活動における現代社会の闇や歪みのような部分を洗い出し、揺さぶられる登場人物の心情を描くことを得意としています。
あらまし
朝井リョウが作家生活10周年を記念して刊行した『正欲』。「多様性」という言葉を、マジョリティの側から都合よく解釈しているのではないか?というテーマを突きつけられる作品です。
生き延びるために、手を組みませんか。いびつで孤独な魂が、奇跡のように巡り遭う――。
あってはならない感情なんて、この世にない。それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ――共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か? 絶望から始まる痛快。あなたの想像力の外側を行く、作家生活10周年記念、気迫の書下ろし長篇小説。
(朝井リョウ『正欲』作家生活10周年記念作品 特設サイトより引用)
- 著者
- 朝井 リョウ
- 出版日
ここが見所
不登校の息子に悩む検事の父親、学祭で「ダイバーシティ」がテーマのフェスの実行委員となる学生、など複数の登場人物らの一人称で物語は進みます。各登場人物らの人生それぞれにスポットが当てられリアルである点は、『桐島、部活やめるってよ』に見られるような朝井リョウのお家芸だといえるでしょう。読者は身近な人物で脳内で実写化しながら読むことができます。
登場人物らはいわゆる「LGBTQ」のさらに外側にいます。言葉で概念のフレームを作ってしまうことの暴力性を誰もが感じるでしょう。
結末でも、マジョリティ側の人物らとメインの人物らが理解し合うことはなく終わります。ただ、唯一希望を持てるとしたら、「理解し合えるわけないよ」ではなく「対話することが必要だ」と訴える人物がストーリーの途中で登場すること。「今生活が安定している」と思う人にこそ、読んでいただきたい作品です。
デビュー作となるこの作品。2012年には映画化もされ話題になりました。
男子バレーボール部のキャプテン・桐島が部活をやめることから始まる、同級生5人の日常の変化について描かれた作品です。
5つの短編からなっており、それぞれの登場人物の視点から物語は進みます。またタイトルで出てくる「桐島」は直接作中に出てくるわけではなく伝聞形式で描かれています。
- 著者
- 朝井 リョウ
- 出版日
- 2012-04-20
この作品で気になるポイントが「スクールカースト」。カースト上位に位置する桐島がいなくなったことにより波紋が広がるカースト上位の生徒たち。一方、普段から桐島と関わりのないカースト下位の生徒たちには特に変化はありません。そんな生徒たちの物語が交錯していきます。
2012年の映画では大胆なアレンジがなされており、原作とはまた違った魅力のある作品に仕上がっています。原作を読んだ後は映画も是非。
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「何者」のアナザーストーリーとなるこちらの作品。6つの短編からなっています。「何者」の世界の過去や未来の話となります。
表題にもなっている「何様」では、「何者」で出てきた就活生・松居克弘が、「何者」での就活生だった立場とは真反対の人事部の面接官となり、採用される側から採用する側になります。自分に人を評価し選定する資格があるのだろうか、自分は「何様」なのかと葛藤していく姿が描かれます。
- 著者
- 朝井 リョウ
- 出版日
- 2016-08-31
「光太郎が出版社に入りたかったのはなぜなのか。」と本書の帯に書いてありますが、最初の物語「水曜日の南階段はきれい」では、「何者」で光太郎が出版社に就職することを熱望していた理由が明らかになります。
2編目の「それでは二人組を作ってください」は女性の二人暮らしをテーマにした作品。二人組を作ることができない人間には恐怖のフレーズであると思いますが、この話の主人公はまさにそのタイプです。それを改善すべく必死にもがいていく主人公のお話になります。
父親を亡くした6人の兄妹とその母親が、父親の遺した喫茶店「星やどり」を舞台に織りなすハートフルストーリーです。6人の兄妹がそれぞれ各章の主人公になっています。
鎌倉をモチーフにしていそうな、 東京ではない海見える町・連ヶ浜。ここで描かれる町並みや風景が美しく、引き込まれます。
- 著者
- 朝井 リョウ
- 出版日
- 2014-06-20
「雨から身を守ることを【雨宿り】っていうだろう。だから、今にも落ちてきそうな星の光を受け止めるための【星やどり】」
(『星やどりの声』より引用)
という亡き父親の素敵なセリフにより作られた星型の天窓やブランコ形の席などかわいらしいお店となっています。
家族の絆を感じさせられる作品。帯にある「ラスト10ページで溢れる涙」をぜひ体感していただきたいです。
高校生活の最後となる卒業式の1日を少女7人の目線から描いた作品。その舞台は廃校となる高校。7人それぞれの別れに焦点を当てた青春小説です。
好きな人への告白や、別々の地への進学による別れなどをテーマに女子高生の感情をリアルに描いています。
2編目の「屋上は青」ではこんなフレーズがあります。
「これから高校生とは呼ばれない時間を生きていくことになる私たちの道のりは、きっともう本当に、二度と交わることはない。」
(『少女は卒業しない』より引用)
別れというテーマでこのような表現をする朝井リョウに心奪われました。
- 著者
- 朝井 リョウ
- 出版日
- 2015-02-20
4編目の「寺田の足の甲はキャベツ」は女子バスケ部の後藤と男子バスケ部の寺田が話の中心になります。後藤が東京に進学をするのを理由に、地方に残る寺田は後藤に別れを切り出し……。
主に別れが描かれる作品ですが登場人物はみんなキラキラしていて、こんな青春過ごしたかったと思わされる作品です。
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中編の表題作と短編の「レンタル世界」が収録されています。
「レンタル世界」では主人公の雄太が出席した結婚式で、ある女性に出会います。その女性は“レンタル友達”としてその披露宴に出席していました。それまで、自分を偽ることなくすべてをさらけ出すことが人間関係を作る上で大切だと雄太は考えていました。そんな雄太の価値観に反することを行うこの女性に雄太は惹かれます。彼女を変えたいと考える雄太でしたが事態は思わぬ方向に進み……。
雄太は比較的純粋で、まっすぐな青年です。読んでいると痛快にすら思える性格ですが、そんな雄太の考えと正反対の考えをもつ女性と意見を言い合う場面はとても面白いです。誰もが抱いているような、自分のいやな部分をグサグサ突いてくるような感覚にさせられます。
- 著者
- 朝井 リョウ
- 出版日
- 2016-04-11
表題作「ままならないから私とあなた」は雪子と薫が大人になるまでの物語です。自分にしかできないことをしたい、意味のないことも大切だと考える雪子。無駄なものは必要ない、意味あることのみ重要と考える薫。親友ながらお互いに違和感を抱き成長していく2人がその違和感をぶつけ合うシーンは圧巻です。
薫と雪子がそれぞれ主張することは、どちらが正しいとも言えないし間違っているとも言えません。しいてゆうなら雪子は理想論、薫は現実をつきつけてきます。誰もが見て見ぬふりをしているいやな感情を丁寧に描いていて、“あるある”と思う一言に出会えるのではないでしょうか。
読んだ後はいい意味でモヤモヤします。日々進化する社会のあり方や、価値観など正解がない問題を提起してくれる作品です。ぜひ次の一冊にいかがでしょうか?
日常生活に焦りと不安を抱えた大学生を中心とした20歳前後の男女5人の物語。
3編目に収録されている「僕は魔法が使えない」では美大に通う新が主人公となります。不慮の事故で父親を亡くしてから1年も経たないうちに、新は母親に新しい交際相手を紹介されます。
新の放ったとても前向きで印象的なセリフがこちらです。
「悲しみや希望や無念や様々な感情はあるけれど、微笑みがどの感情よりもほんのちょっとだけ多いような、そんな人物画を描きたい」
(『もういちど生まれる』より引用)
母親との関係をうまく紡いでいけない新が懸命に向き合おうとする姿に心打たれます。
- 著者
- 朝井 リョウ
- 出版日
- 2011-12-09
表題作の「もういちど生まれる」は、双子なのに美人の姉より劣っていると思っている梢が主人公。
美人の姉は推薦でR大学に進学できたというのに、自分は未だ浪人中。コンプレックスを抱えつつも日々生きていく梢はある日姉になりすまして……。
読み終えた後に単行本の表紙を見ると、爽やかな感動がこみあげてくることでしょう。
今回紹介した朝井リョウの作品はそれぞれにつながりがある連作短編集となります。高校生や大学生など若者の心理描写が秀逸なので、登場人物と同年代の読者の方は共感できる部分が多々あるのではないでしょうか。そうではない方も、あんな青春が送りたかった、となる作品たちです。