錦繍の山々。いいですわねえ日本の秋。あの風景の中に身を置いたならさぞかし~とは思いつつ、山って、実際行くとなるとなんかハードル高くないですか? そこで。こたつにぬくぬく入ったまま、しかも山へのあこがれを目だけで満足させてくれる本をご紹介。
山粧う(やまよそおう)。
あらなんて、すてきな日本語なんでしょう。
わたくし山がわんさかある長野県に嫁いではや5年、しかも盆地なのでまわりは全部山、高い山、なにこの囲まれてる感、ちょっとマジ威圧感すごいんですけどォ~などと思いつつ、それでも毎日ベランダで洗濯物干しながら、ああー今日もお山がきれいだっぺな~ハァ、遠くに見えるお山はさぞかし名のあるお山、すっかり雪かぶってるずら~、とただただうっとりするばかりですよ。
思えばまったく山に無縁の人生を送ってまいりました。
せいぜい小さい頃に家族で行ったハイキングくらい。中学の自然教室のコンテンツに登山があったけれど、リュック背負って延々山道歩かされて、なんだかよくわからないままぼんやり頂上でお弁当食べて、でも特に景色がいいとかヤッホーとかそんな盛り上がる要素は何一つなく、また引率されてとぼとぼ下山、ああなんだかつまんなかったねえ~さあそんなことよりキャンプファイヤーの準備、準備~。
という記憶のみが残っており、そうすると芋づる式に、そのキャンプファイヤーの各クラスの出し物で、火を囲んでみんな広く円形に座ってるっつーのになぜかわたしの班はうさぎとかめを題材にしたコントをやり、まったくセリフ聞こえないわ何やってんのかも見えないわでまったく、ほんとに、ひとっかけらもウケず、あまりのこっ恥ずかしさに穴掘って埋まりたいと思ったことであるなあ、とそんな思春期の暗黒メモリーまでが浮かび上がってきちゃってなお辛いわ。くっそう、山め……!
とはいえ、やけに山のニュースが話題に上る地域に住んでると、それでもじわじわ山が気になってくるというか、気がつきゃ目の端にとらえてるというか、あれ、もしかしてこれって……恋?
意味なくモンベルの上着買ってみたり。刷り込みってこわいですね。
ちなみに、長野県で生まれ育った夫はもちろん中学・高校と本格的登山行事に参加させられており、それ以来本気で登山というものを嫌いになった、我が生涯二度と山に登ることはない、ネバー!と強く申しております。教育って、むつかしいなあ。
まずはほんのちょっと、山をかる~く経験してみたい。
しかしなんだか特別な知識やら装備やら、いろいろ準備が大変そうだ。しかも山道具って、お高いんでしょ?
まあとりあえずこたつに入って、山の本とか眺めてみますか。なんせ本はすうひゃくえんから。ありがてえな!
- 著者
- 角田 光代
- 出版日
- 2007-07-14
2004年刊行「あしたはドロミテを歩こう」より改題。イタリアアルプスのトレッキング紀行文。
相変わらずの角田ボヤキ節炸裂です。見知らぬ人からの「イタリアの山で、トレッキングしませんか?」とのFAXに、イタリアに山ってあるのか、トレッキングってどのようなことなのか、そのどちらもわからないまま「行きます」と返事してしまう。
それというのも、いつもの一人旅ではやれないけれど、大人数ならいろんな料理やらワインやらをシェアして、おいしいものをしこたま堪能できるじゃないか! 行くとも!との目論見から。山はどこへいったんだ。
これ、あれやないの、あとに続く受難への、完全な前ふりやないの。
案の定、山のなかをお花など摘みながらお散歩するんだろう~くらいに思っていたトレッキングが、じつは重装備で道なき雪山をずうっと、ずううううっと歩くことになったり、地名かなんかだと思っていたフェラータが、ヘルメット着用、岩壁をつたうワイヤーに体に巻いたザイルをつなげて歩くこと、だったり。
そのたび「何かへんだ」「やっぱり何かへんだ」と頭に??をたくさん浮かべたままあれよあれよと状況に流されていくさまは、そして「帰りたいなあ」「なんだかたいへんなことになっちゃったなあ」とぼやくさまは、もう、芸ですよ芸。
ぼやきつつそれでも、いろんな人に出会って、いろんな風景を見て、角田さんの感じたこと考えたことが頭にすっと入ってきて、その言葉の選び方がこのひとの紀行文の魅力の一つなのだろうなあ。紋切り型ではない、自分の言葉に置き換えること。山頂に立った、そのときの心持ちとか。
もちろん、おいしそうな食べ物もたくさん出てきますよ。たとえばポルチーニのクリームソーススパゲティ。牛肉のシチュー。南瓜のニョッキ。山羊と豚のハーブ焼き。そしてもちろん何種類ものワインに、食後のグラッパ。
食いしん坊のひとの書く食事って、ほんっとにおいしそうなんだよなあ~。
- 著者
- 石塚 真一
- 出版日
- 2005-04-26
小栗旬主演で映画にもなってる、ご存じ山マンガ。長野県の北アルプスが主な舞台となっているからか、県下の図書館には置いてあるところが多い気が。たとえばわたしの住んでいる市は全18巻を3セット所蔵。おっ、本気だね。
主人公・島崎三歩は、民間の救助ボランティア団体「山岳遭難防止対策協会」(遭対協)の救助隊員。北アルプスの山の中で、テント生活をしている。かつて多くの世界の名峰を登頂してきた、その豊富な登山経験と知識、技術で、北アルプスで遭難した人々を、そりゃあもう、ものすごい馬力で、助けてくれます。
要救助者を担いで山下りる、崖のぼる。クレバスから引き上げる。ビール4箱担いで山小屋届ける。気は優しくて力持ち。無双ですよ。山をココロから愛していて、その大好きな山に登るひとたちのことも愛していて、だから遭難者のことを責めません。
「よく生きててくれた! ありがとう!」
「よくがんばった!」
と労りの言葉をかけてくれます。そして数々の遺体にも。あああ。
こう書くとほんとにアホみたいであれなんですけど、山で遭難死、ということについて、たとえば昔からコントやらテレビやらで「寝るなー! 死ぬぞ-!」みたいな、あとは道に迷って山から出られず衰弱して~みたいな、そういうのばかりをイメージしてたのですが、実際は、落石にあったりとか、滑落したりとか、それで上半身で切断されてたり、足片方なくなってたり、手足とかあらぬ方向に曲がってたり、まったくそういう外傷による死を想像していなかったので、なんだろうな、読んでて、びっくりしました。
あれ、言葉にすると余計アホみたいですね。
三歩さんは(もはや「さん」付け)実際に2013年春から、長野県の遭対協の特別隊員に任命されていて、長野知事から任命状も受け取っています。作者が。そんで、長野県のウェブサイトでは
島崎三歩の「山岳通信」
というのが週に1度配信されており、長野の山岳地域で発生した遭難事例を伝えて安全登山のための情報提供をしています。
「また山においでよー!」
ありがとう、三歩さん。あなたがいてくれるから、北アルプスはもう安心。
山で働いているひとたち、まじリスペクト。
山に登るひとたちも、まじリスペクト。
みなさんよい登山をお楽しみください。
この本で学んだ豆知識を一つ。雪崩にあって埋もれたら、口の前に両手で隙間を作ってエアポケットを確保し、息ができるようにすること。
……雪崩にあいたくない!
- 著者
- 出版日
- 2011-09-19
- 著者
- 出版日
- 2012-10-22
ふだんから山に登っている、スタイリスト、写真家、イラストレーター、料理研究家、エッセイスト、などなどおしゃれ女子8人の、こだわりの山道具やウェアを紹介。
などなど。さらに、最初にそろえるべきウェアと道具や、山歩きの基本、パッキングの方法など、入門書としても。
その人ごとに特集しているので、個性が出ていて興味深いです。まったく山登るつもりなくても、眺めてるだけで楽しいですよ(すでに登る気ゼロか)。
オサレな人々のこだわりウェアですのでね、そろいもそろって、なんせステキ。いわゆる登山用の服って、当然のことながらどうしたって機能重視でデザインがちょっとアレなものが多いですけども、その中でこの人たちいったいどうやって見つけてくるんだ。ステキでかつ機能的なものがいっぱい。街着でも全然いける、合わせ方、色の使い方とか。
この本みてから、普段の生活でもカバンにつねに「行動食」を携帯するようになりました。小腹を満たす、ちょっとしたもの。ナッツやらドライフルーツやら、小袋になってるビスコやら、数種類の飴やら。
はっ……飴……!? ま、まさか、関西のおばちゃんがかならずカバンに入れてるあの飴ちゃんはもしかして、おばちゃんの「行動食」なのでは。おばちゃんはやはり、いつなんどき遭難したって、どこでも強く生き抜くのでは。
どうですか。山、気になってきませんか。おりしも、これから本格的な冬山シーズン突入ですよ!
と言いつつそれは初心者にはムリなので、わたしはとりあえず当分こたつに入っていますが、機会があればまずは夏山から。それも人のある程度多いところで、なおかつ初心者向きの低山、それでも頂上からの眺めがいいほうがモチベーションも上がるだろうし、できれば付近にほどよい温泉もほしい、行き帰りの交通の便がよいのはマストだし、帰りには地元のお酒をきゅっとやりつつおいしい郷土食を食べたいです。どこか知りませんか。
もうこれからは山ファッションでしょ、機能性に優れてて~、ポケットいっぱいあって~、と勢い込んで吉祥寺のICI石井スポーツで片っ端から山ズボンを試着したところ、似合わなすぎて笑いました。そして泣きました。メーカーに責任はまったくありません。わたしの下半身の問題です。やっぱり、山なんて……!
やまゆうのなまぬる子育て
劇団・青年団所属の俳優山本裕子さんがお気に入りの本をご紹介。