会社経営やM&Aなどに携わっている人にとって、経営分析は必ずついてくるものです。たくさんの数字・数式が並び、難しいと思われている経営分析ですが、理解してしまえば意外とできるようになるもの。基本から実践まで徹底理解できる5冊をご紹介します。
経営分析とは、簡単に言うと「会社の健康診断」です。さまざまな指標から、会社の状態を把握し、どこが不調なのか、良好なのかを見きわめたり、危険な兆候を察知したりして経営に役立てるもののことを言います。
具体的には決算書に使われる財務諸表を分析することです。損益計算書、貸借対照表(バランスシート)、キャッシュフロー計算書に代表される財務諸表は、会社経営に関する数字を表していますが、それぞれのどの部分を抽出するか、自社にとって必要な要素は何なのかによって見方が変わってきます。
簡単な例でいえば、「売上は高いが利益率は低い」という場合、どこかに無駄なコストが使われているのではないかと考えることもできますし、もともと利益率の低い、薄利多売型の業界であるから今のところ問題ないと考えることもできます。また、企業によくあるのが、キャッシュフローがうまく回らず、売上は上がっているがキャッシュがなく借り入れがどんどん増えたり、新たな投資ができなかったりといった問題です。
会社の方針として、売上を重視するのか、利益を重視するのかといったことでも数字の見え方は変わってきます。自社の規模、業界、業態、扱っている商品・サービス、あるいは今後の経営方針、事業方針などに適した分析を行うことが、経営分析の目的です。
経営分析にはこうした定量的な部分のほかに、定性的な部分もあります。経営陣の手腕や社風など、目には見えないけれども経営状況に大きく影響してくるものです。ただ、この記事ではそこまでは踏み込まず、定量的な分析に絞って紹介していきます。
定量的な経営分析指標として使われているフレームがあります。それが「収益性」「安全性」「成長性」「生産性」の4つです。この4点から会社を分析することで、一般的な会社の健康状態を把握することができるのです。4つの分析については、それぞれによく使われる指標をご紹介します。
企業がより多くの利益を獲得するためには、商品・サービスがどれほどの利益を稼ぎ出しているのかを測らなければなりません。収益性を分析する基準は大きく分けて3つあります。1つ目は、売上からの収益力、2つ目は資産・資本からの収益、3つ目は資産の利用効率です。
例えば、「売上総利益÷売上高」で算出される「売上高総利益率」は、「商品の実力」をみることができます。「営業利益÷売上高」で算出される「売上高営業利益率」は、本業の収益力や、「営業力」を表します。
資産や資本の収益力を示すのは、ROAやROEと呼ばれる指標です。ROA (Return On Assets)は総資産利益率で、ROE (Return On Equity)は自己資本利益率のこと。これらを高めるには、収益性を上げることの他に、資産の回転率を上げる必要もあります。
資産だけでなく、企業のあらゆる回転率は「効率性」を表します。総資産回転率、売上債権回転率、自己資本回転率、株主資本回転率、経営資本回転率、有形固定資産回転率、棚卸資産回転率、固定負債回転率など、売上高をそれぞれの項目で割ることで算出されます。
安全性分析とは、会社が安定的に事業を行えるかどうか、つまり、「倒産リスク」を表したものとなります。具体的には、会社の支払い能力(長期的、短期的)を測ります。
短期的な支払い能力のことを「流動性」と呼び、流動比率は「流動資産÷流動負債×100」で算出します。もう一つ、短期的な支払い能力を測るものが「当座比率」で、「当座試算÷流動負債×100」で算出します。
長期的な安全性を見る指標には、自己資本比率(自己資本÷総資本×100)や固定比率(固定資産÷自己資本(純資産)×100)などがあります。
また、インタレスト・カバレッジ・レシオという指標は、利益を支払うべき利息で割る、つまり、利息分以上の利益をどれだけ稼いでいるのかという指標です。
③成長性分析
成長性を見るためには、会社の規模が拡大しているかという視点でとらえていくことです。当然ながら売り上げや利益がどのくらい伸びているのかを見ることになります。
例えば、「売上高成長率」は
“売上高成長率=(当期売上高-前期売上高)/前期売上高×100”
で算出します。
損益計算書の指標でいえば、他にも、「売上総利益成長率」「営業利益成長率」「経常利益成長率」「当期純利益成長率」などを分析していきます。見たいのは「伸び率」なので、当期の数値だけでは判断できません。必ず前期のものと比較して見ていくことが大切です。
また貸借対照表では、資産の伸びをチェックするために、総資産と純資産の増加率を算出します。その他には、従業員の増加率、一株当たりの純利益などの指標があります。
④生産性分析
生産性とは、投入した量に対する産出された量のことです。投入量が同じ場合、産出量が多い方が「生産性が高い」ということになります。もともとは工場などで使われる概念であり、投入されるのは原料や燃料、機械設備などでしたが、現在は労働者の時間当たりの生産量を指すことも多くなっています。
生産性分析には大きく分けると、従業員1人あたりの生産性、機械設備1単位あたりの生産性、投入資金1円あたりの生産性があり、それぞれ分析していくのが効果的です。
「従業員1人あたり」の指標には、売上高、営業利益、経常利益などがあります。それぞれを従業員数で割ることで算出します。この部分は、概念的にも理解しやすく、計算がしやすいため、現場の従業員にも意識付けしやすい指標と言えます。
「機械設備1単位あたり」「投入資金1円あたり」の生産性に関しても、基本的には算出方法は同じです。現場リーダーレベルには浸透させておいたほうが良い指標になるでしょう。
ここからは経営分析の手法を詳しく学びたい人のために、おすすめの本を紹介します。入門書なのか、実践の書なのか、自分の現状の理解度に合わせて選んでみてください。ただ、経験がある人でも、1冊以上は入門書を読んで頭の中を整理しておくことをおすすめします。
まずは、「この1冊ですべてわかる」シリーズの「経営分析の基本」です。会計本でベストセラー作家となった著者が、財務諸表3表の読み方、分析方法などを中心に解説していきます。
- 著者
- 林 總
- 出版日
- 2015-04-09
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書それぞれの分析方法を紹介した後、生産性分析、キャッシュフローの動態的分析、株式投資分析の方法も詳しく紹介。章のタイトルが、ポイントを突いたものになっており、その章で伝えたい大事なことをつかむことができます。
たとえば、2章は「貸借対照表(B/S)分析―基礎がしっかりしていない建物は長持ちしない」、3章は「損益計算書分析―努力すれば成果が出るのか、それが問題だ」となっています。貸借対照表を見ることで経営基盤をチェックし、安全性分析や収益性分析につなげ、損益計算書を見ることで、さらに細かく収益性を分析し、損益分岐点分析を行えるということなのです。
また、第1章では「会社経営の目的とは何か?」といった、根源的な問いから考えさせられます。日本航空やシャープなど、有名企業の実例がもとになっているので、よりその理解を深めることができるでしょう。
次も入門書的な1冊です。図解で決算書を読みこなせるようにし、経営分析に役立てるという本になっています。まずは決算書を5つの要素(箱)に分けるという切り口から解説し、続いて財務諸表の読みこなし方を紹介しています。
- 著者
- 高下 淳子
- 出版日
- 2007-01-27
経営分析を行うのは、必ずしも経営者だけではありません。経営コンサルタントや、M&Aに関わる人、あるいは、一般のビジネスパーソンでも、企業診断できるくらいのスキルを身につけておくことに損はありません。経営分析の本は、多くが文字だけの計算式で書かれていますが、本書の場合、図解されているので、まったくの初心者でも十分に決算書の構造を知ることができるでしょう。
後半には、生産性の高め方、採算管理の方法、資金繰りの改善方法など、経営の実践の場において非常に助かる内容が書かれています。健全なキャッシュフロー経営を行うために、こうしたさまざまな指標から会社を見きわめられるようになることはとても大切ですよね。読んだ後はすぐに実践したくなる1冊です。
次の本は「リアルな」経営分析という部分に焦点を当てて、実際の著者たちの経験から導き出した手法を紹介しています。会社が生きるか死ぬかの現場で神経を削って判断してきた経験から、本当に使える経営分析の方法を教えてくれる本です。
- 著者
- 冨山和彦 経営共創基盤
- 出版日
- 2012-02-17
著者の冨山和彦氏が代表を務める経営共創基盤(IGPI)が扱ってきたのは、ひとつの判断を誤れば、その会社と家族の人生に甚大なダメージを与え、さらに、私たち国民の年金や金融資産にも影響を与えかねないという重大な立場にある会社です。そんな重責のある、真剣勝負の現場では、小手先のスキルは意味を成しません。
シビアな現実と立ち向かってきたプロフェッショナルだからこそ、言葉に重みが出てきます。後半は「生き残る会社と消え去る会社」という章タイトルで、規模、範囲、密度の経済性などを考察し、「生き残る会社の数字のつくり方」を、実例をもとに紹介。経営分析をしていくと、数字だけでなく、人間的なドラマも見えてくるのだということに気づける1冊です。
次は約380ページもある大著ですが、事例の詳しさ、丁寧さはナンバーワンともいえる本です。経営分析するうえで重要な12の指標を取り上げ、有名企業のケーススタディを通して手法を学んでいける内容になっています。
- 著者
- 大津 広一
- 出版日
- 2009-09-11
取り上げる12の指標とは売上高総利益率、売上高販管費率、損益分岐点比率、EBITDAマージン、総資産回転率、キャッシュ・コンバージョン・サイクル、棚卸資産回転期間、有形固定資産回転率、固定長期適合率、DEレシオ、インタレスト・カバレッジ・レシオ、フリー・キャッシュフロー成長率です。
これらすべてが違う企業の事例となっており、ヤフーやオリエンタルランド、JR東日本、資生堂など、業界の違う企業を並べることで業界の特色を知るとともに、あらゆる業界、あらゆる立場の人が読めるようになっています。
また、経営分析は決算書の数字をもとに行われますが、すべての内容はそのもととなる「経営戦略」をベースに考えられています。経営層の方であれば、経営分析結果を目の当たりにすることで、自社の経営戦略を考え直すきっかけになるかもしれません。
最後は、分析をするだけでなく、それを実際の経営に生かしていくことができる本です。よく言われる「分析屋」のような、分析をして弱点を指摘して終わり、ではなく、それを生かしていた場合のインパクトなども書かれています。
- 著者
- 河本 薫
- 出版日
- 2013-07-18
「分析ばかりしても会社は変わらない」という意見はよく聞きます。しかしデータがあればこそわかることもたくさんあり、分析しないというのは現代においては致命傷にもなりかねません。だからこそ、本書のようなデータをいかに実践に生かすかという視点、そのための方策を示す本が役立ちます。
2013年にデータサイエンティスト・オブ・ザ・イヤーも獲得したことのある著者が、データ分析を武器にするための方法を説きます。内容は経営の分析だけにとどまらないため、より幅広い立場の人が読める本になっています。