春!新しいことを始めたくなる本【KUSHIDA】

更新:2021.11.12

今月は、試合でオーストラリアにやってきました。 初めて訪れる国や日本全国各地でプロレスをするのはとても刺激的です。プロレスラーにならなければ出会わなかった人、見られなかった風景がそこにあるわけで、まさに一期一会。最近、手に取る本にも同じことを感じます。毎月、何千何万と出版されている本のなかで偶然今月、手にとって読んだ3冊の本にも何か意味があるのかも、と。そんな今月は「春に向けて何か新しいことを始めたくなる本」をご紹介します。

ブックカルテ リンク

ニューヨークで考え中

著者
近藤 聡乃
出版日
2015-04-25

先日、電車に乗っていたら隣の男性に声を掛けられました。いや、正確にはヘッドフォンをして音楽を聴いていまして「ちょっといいですか?」と、肩をトントンと叩かれました。プロレスファンの方かなと思ったら、そうではありませんでした。

「あの……すいません。その靴、ナイキのエアフォースですよね? 見たことないんですが、凄くカッコイイっすね!」

と、そう言われたのです。

当然、褒められたら嫌な気はしません。日本ではなかなか経験したことがない出来事。むしろ、ここは外国か?とも思いました。

海外に行くと見知らぬ歩行者に声を掛けられます。体感的には結構な頻度で。身に付けているものに対し、「ワァオ! 見たことがない靴だわ! とてもクール♡」だったり、「その帽子、どこで買ったの? ステキ♡」などと、これは本当に冗談抜きで信号待ちの交差点やエレベーターの中など……海外では男女問わず、日常のふとした瞬間からコミュニケーションが始まるのです。不思議なものです。日本人と外国人の“人と人の距離感”っと確実に違うよなぁ…なんてことを考えていたら、やはりこの本にも同じ記述が出てきました。

「見知らぬ人に靴を突然褒められる」というのは、全世界的にみてよくあることなのだろうか?

この本からリアルなニューヨークという街の息づかいが聞こえてきます。海外あるあるが詰まった、思わずニヤリさせられるコミックエッセイ。海外に住んだことのある人をウンウンと唸らす一冊です。

孤独と不安のレッスン

著者
鴻上 尚史
出版日
2011-02-09

カナダ・ウインザーという街は、冬になるとマイナス20度まで冷え込みます。2009年の5月から1年間、プロレス修行のため、この街に住んでいました。現地のプロモーターが凄くいい人で、当時はアパートを無償で貸してくれました(涙)アパートの湖は見渡す限り、凍っています。練習に行くのも命がけ。凍りついた道路をマウンテンバイクで走り、なんとかジムへ。その街にあるどこのジムにも必ずサウナが付いてました。

練習後、サウナに入ります。

サウナは壁に囲まれた無音の洞窟。そこで頭をもたげて考えるのが「ここで地震が起きて、もしこのサウナが瓦礫の山となったら? 叫んでも誰も気がつかれない。扉が開かなくなったら? 裸のまま、野たれ死ぬのか……」という猛烈な孤独感でした。しかし、その孤独感を味わえたことこそが修行の最大の成果。まさに、この本に肯定してもらえたかのようです。

プロレスラーの海外武者修行にあるのは夢と時間だけ。お金はないけど、時間はある!の状況でコーヒー一杯で潰していた時間は、今考えてみると自分を練り上げるために必要な時間でした。これが本書でいうところの「本当の孤独」です。

著者の鴻上尚史さんはスマホ依存しがちな現代人が明らかに不足してるのは孤独感。その重要性をこの本で説いています。「友達のいない人は問題ある人」という価値観が仲間外れにされることを過剰に怯える原因とし、イジメのひとつの原因が、この「友達100人絶対至上主義」だという考え方にも深く頷かされました。「孤独」をキーワードに現代社会が、世界が、日本が、人間が、浮き彫りになる一冊です。

ブルックリンでジャズを耕す

著者
大江 千里
出版日
2018-01-19

大江千里さんの現在進行形の自伝とでもいいますか、挑戦するのに年齢は関係ないんだなと思いますし、一歩踏み出さないのは全部言い訳なんだと己に喝を入れられたかのような、何かこう、ガツンとくる一冊。前作『9番目の音を探して』から起業し、レーベルを始めた紆余曲折のブルックリンの日々。喜びも悲しみも受け入れて人生を謳歌してる感が言葉の端々からほとばしって伝わります。

人生は充実感よりはむしろ不安のほうが多く用意されていて、それをどれだけプラスに変換できるかで光の分量は大きく変わってくるのだな

冒頭のプロローグでこう書かれていて、ピンと頭に引っかかったのが先月のホンシェルジュ「コーヒーを飲みながら自己会議するのに最高な本」で紹介した、さとうみつろうさん著作『神さまとのおしゃべり』。この本でも「人間は不安がる天才」という話が出てきて、読んだ本と本がシンクロしました。最近よくあるんです。言わんとする本質は同じことなんだよなぁ……と考えると、全ての本は繋がっているとも言えるのかも!? 何しろ、自分が経験することのない領域を生きている人の本を読むことによって、どこか自分と共通するところはないか? それがあったとき、共感する表現がでてきたとき、ボクは本の角に折り目を付けます。

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