犯罪者からのみ金品を奪う3人の青年の、友情と痛快な活躍を描いた『ギャングース』。不幸な生い立ちを持つ彼らは、どうしようもない貧困から抜け出すために「タタキ屋」という裏の仕事を選びました。登場人物や功名な犯罪の手口は、実話をもとに描かれています。彼らは負の連鎖から抜け出すことができるのでしょうか。 2018年に実写映画化されるなど、ますます注目が集まっている本作の魅力をご紹介していきます。
本作に登場する「タタキ屋」は、被害にあっても届けを出すことができないことから、犯罪者だけを相手にする窃盗団です。
実在する少年たちがモデルになっていて、犯罪、貧困、虐待の実態や、彼らの過酷すぎる生きざまが生々しく描かれています。
原作は、鈴木大介が貧困と少年犯罪の関係を取材したノンフィクション作品『家のない少年たち』。鈴木は漫画版のストーリー制作にも参加し、作画の肥谷圭介とともに完成させました。
2018年秋には実写映画化され、さらなる注目を集めている本作の魅力をご紹介しましょう。ネタバレを含むのでご注意ください。
- 著者
- ["肥谷 圭介", "鈴木 大介"]
- 出版日
- 2013-08-23
少年院で出会ったカズキ・サイケ・タケオの3人。皆18歳です。幼い頃から壮絶な虐待を受け、貧困の苦しみを味わってきました。
生まれた時から貧しい人は、もう這い上がることができないのか……?考えぬいた彼らは、「タタキ屋」と呼ばれる裏稼業を始めます。
被害に遭っても通報することができない悪どい犯罪者たちを狙い、彼らの高額な金品を盗むのです。
3人の武器は、巧妙な連携プレイと熱い友情。恐ろしい犯罪者たちを相手に、ダークヒーローとなって立ち向かいます。
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本作の原作は、裏社会や貧困問題に詳しいルポライターの鈴木大介が記した『家のない少年たち』です。虐待を受け、食べることや学ぶことができない子供たちが、生きるために犯罪に手を染めていった記録が記されています。
『ギャングース』に出てくる3人の少年も、実在する子供たちがモデル。それぞれ原作に登場する人物らしいですが、唯一カズキだけモデルがおらず、作画を担当した肥谷の生み出したキャラだそう。
原作者の鈴木は、実際にあそこまでポジティブでいられる不良はおらず、むしろ「折れることこそ」彼らのリアルな様子だと語ります。しかしカズキがいたことで、ストーリーの世界観が広がり、フィクションならではの魅力が引き出されたとも言いました。
- 著者
- ["肥谷 圭介", "鈴木 大介"]
- 出版日
- 2013-11-22
この他にも原作を読めば、そのほかのキャラのモデルも何となく想像がつくことでしょう。
そんな彼らは少年院で出会い、出所した後も帰る家がないという設定。悪どい犯罪者の金品であれば盗んでも警察には通報されないと考え、犯罪者専門の窃盗団「タタキ屋」となり、情報網を駆使して巧妙かつ大胆な犯罪に身を投じていきます。
登場人物は全員個性的で、3人の他にも犯罪者や犯罪に巻き込まれる人々の苦難や応戦も描かれており、彼らが実在すると考えると恐ろしい気持ちになってしまうかもしれません。ただここで理解しておきたいのは、彼らは元々は普通の子供で、貧しいがゆえに犯罪に駆り立てられてしまったのだということ。
私たちと変わらない普通の人々で、どうしようもない環境がそうさせてしまっているのです。ここにルポを原作とした物語ならではのリアルさがあります。
彼らの環境はこちらまで苦しくなるようなものですが、3人が熱い友情で結ばれていることや、むやみに弱者を傷つけない信念を持っていることが救いとしても作用しています。
『ギャングース』で描かれる凄惨な虐待や貧困の実態、さまざまな犯罪の手口はすべて実話がもとになっています。
本作の魅力のひとつに、犯罪や詐欺の膨大な情報が載っていることがあげられるでしょう。原作の鈴木が長年にわたって貧困問題や裏社会を取材して得た知識が活かされています。
- 著者
- ["肥谷 圭介", "鈴木 大介"]
- 出版日
- 2014-02-21
たとえば名前はよく聞く「振り込め詐欺」について。主人公のカズキたちは振り込め詐欺をおこなう巨大詐欺グループ「六龍天」、そしてそこのトップである安達と激しい抗争をくり広げます。
彼らは業務を細分化していて、リーダーの「番頭」、電話をかけて被害者をだます「プレイヤー」、だまし取ったお金を受け取る「ウケ子」など役割はさまざま。
トップの安達は、金主として、それらの詐欺をスタートさせる人物です。ここまでは、ニュースなどで理解をしている読者も多いでしょう。
本作の見所は、彼らをスカウトしたり面接や研修をしたりする人物までリアルに描かれていること。詐欺グループが一組織として優秀に機能していることがわかります。
また危険ドラッグは、海外からインターネットを通じて簡単に入手できるため、普通の学生たちが売人になりやすいことや、置かれている機材が高価なため工事現場の盗難被害が多いことなども詳細に描かれていました。
3人は、その安達をタタく(金を奪う)ため、カズキが不良者になりすまします。そして組織で出世し、トップである安達に近づこうとするのですが……。
本作ではリアルな犯罪が描かれていることはもちろん、エンターテインメント作品としても高い完成度を誇っています。「タタキ屋」の3人は何度も死にかけるほどスリルに満ちた展開に巻き込まれ、非常に刺激的。
リーダーをしているカズキは、デブで眼鏡。まったくイケメンではありません。しかしいつもポジティブで、「この国の未来を買う!みんなが普通に食べていける国にする!」と壮大な夢を口にします。
冗談のように見えますが、いつしか誰もが「カズキならやってくれる」と信じてしまう不思議な魅力を持っているのです。仲間たちが諦めかけた時でも予想外の活躍をみせ、不細工ながら絶対的リーダーとして慕われていきます。
サイケは、イケメンで情報収集の天才。タケオは車の運転が得意で、怪力なのが持ち味です。
3人に共通しているのは、心身ともに傷ついた経験がありつつも、今現在を楽しく生きようとしているところ。ギャグやユーモアを織り交ぜ、明るく振る舞います。
彼らがやっていることも犯罪ですが、極悪人をこらしめ、弱者には優しく接するその姿は、人知れず戦うダークヒーローにも見えるのではないでしょうか。
カズキらと巨大犯罪組織「六龍天」の壮絶な戦いは、いよいよ最終局面を迎えました。苦戦のすえになんとか「六龍天」のトップ安達を出し抜いて、100億円を手に入れます。
エレベーターと引越し屋をうまく利用し、現金を運び出す手段はかなり鮮やか。見どころになっています。
これで皆が幸せになれる……そう思ったのも束の間。強力してくれていた高田が、安達に囚われて瀕死の重傷を負わされてしまいました。「助けたいなら奪った100億持ってこい」という脅迫を受け、カズキは手に入れたばかりの大金を持って彼の元へ駆けつけるのです……。
- 著者
- ["肥谷 圭介", "鈴木 大介"]
- 出版日
- 2017-04-21
お金よりも仲間。当然のように高田を助けようとするカズキの友情に泣かされるでしょう。
追ってきたサイケとタケオは、ひどい暴行を受けたカズキを助け出しますが……。
ついに迎えた最終巻で、彼らは裏社会から抜けだすことができるのでしょうか。
最終回ではまさかの人物が病気で倒れます。しかしそこでくじけないのが、メンバーの強いところ。今生きている自分たちや、どうしようもない環境に生まれてしまった赤ん坊を助けることはできないけれど、まだ生まれていない子供の未来を変えることはできると、カズキは語りました。
最終回の結末は、彼が思い描いていた道へと続く内容となっています。貧困と犯罪の悲しすぎる負の連鎖は、断ち切ることができる、そんな希望を抱くことができるラストです。