読書したいけど何から手をつけていいかわからない……こんなふうに思ったことはありませんか?そんな時は、まずは名作と呼ばれる作品を読んでみてはいかがでしょうか。この記事では、毎月200万人の本好きが訪れるサイトで選ばれた、国内で名作と呼ばれている小説を【ミステリー】【どんでん返し】【ファンタジー】【恋愛】【泣ける】【青春】【SF】【ホラー】【歴史・時代】【ライトノベル】というジャンル別に紹介していきます。お気に入りの一冊を見つけてみてください。
人間の右腕が公園のゴミ箱から発見されました。それは、行方不明になっていたある女性のもの。
娘の生存を信じていた母親は半狂乱となり、祖父は犯人への憎しみを募らせます。しかし非道な犯人は、そんな遺族をさらに苦しめる罠をしかけてきて……。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
人気小説家・宮部みゆきによる大長編ミステリー。1995年に刊行されて以来大人気を博し、映像化もされました。2001年には毎日出版文化賞特別賞を、2002年には芸術選奨文部科学大臣賞文学部門を受賞しています。
ある猟奇的な殺人事件を、被害者側や事件を追う記者、刑事など複数の視点から描いたミステリー作品。3000ページを超える超大作で、読むのにもそれなりに体力を使いますが、それを補ってあまりある迫力が本作にはあります。複数の視点から描かれているので物語をいろいろな角度から眺めることができるでしょう。
発表されたのが1995年なので、報道や情報の扱い方が現代とは違う部分もありますが、犯罪被害者が受ける大きな傷や、そんな被害者の傷をえぐる世間の空気などはどんな時代でも通じるものがあるのではないでしょうか。犯人は一体どんな人物なのか、その正体を巡るミステリーの面白さはもちろん、社会派な一面もある作品です。
ラストはまさかこんな形の対決になるとは……と思うような展開なので、ぜひじっくり腰を据えて読んでみてください。
1979年、綱島。占星術師の御手洗潔は、そこで占星術教室を開いていました。
ある日彼のもとに、飯田美沙子という女性が訪ねてきました。御手洗に見せたいものがあるという美沙子が持ってきたのは、亡くなった元警察官の父親の持ち物だという手記。そこには、40年前の恐ろしい猟奇殺人に美沙子の父親が関わっていたという事実が記されていて……。
- 著者
- 島田 荘司
- 出版日
- 1987-07-08
数々の人気ミステリーを発表している島田荘司のデビュー作であり、人気シリーズである「御手洗潔」シリーズの第1作目にあたります。江戸川乱歩賞を受賞しました。
物語の根幹となる事件は、40年前に起きた猟奇殺人です。ある姉妹が殺されバラバラにされた挙句、どうやらそれがひとつの人間の形に組み上げられたらしい……という何とも不気味なもの。そんな事件の謎を解き明かす探偵役が、主人公の御手洗潔です。
御手洗は占星術教室を開く占星術師なのですが、これがなかなか個性の強いキャラクター。いわゆる変人なのですが、それが天才らしさを感じさせ、名探偵らしい雰囲気を漂わせています。クセは強いですが、そのぶん引きこまれてしまう方も多いのではないでしょうか。
ちなみにこの物語は、読者に挑戦状を叩きつけているミステリーでもあります。謎を解く鍵が作中に散りばめられ、読者が謎解きをするための情報がすべて与えられているとてもフェアなミステリーなのです。手に取った際は、ぜひ作者の挑戦を受けてみてください。
弁護士の藤井は、借金取りの男を殺した女・鵜川妙子の弁護を引き受けていました。実は多恵子、藤井がまだ学生だった頃に下宿していた畳屋の妻で、司法試験の勉強に苦しんでいた彼を励ましてくれた存在でもあったのです。
恩ある彼女の罪を何とか軽くしようと、藤井は殺人が正当防衛であると主張するのですが……。
- 著者
- 米澤 穂信
- 出版日
- 2014-03-20
山本周五郎賞を受賞したほか、本屋大賞や直木賞にノミネートされるなど高い評価を受ける米澤穂信のミステリー短編集です。さまざまなところで評価されただけあって、その面白さはまさにお墨付き。短編という読みやすさもあるので、ミステリーをあまり読んだことのない方の入門編としてもよいのではないでしょうか。
ミステリーとしてはもちろん、ストーリーの面白さでも万人を引きこみます。借金取りを殺した妙子の正当防衛を巡る表題作「満願」をはじめ、多くの事故が発生する峠を訪れるライターを描いた「関守」、異性を引きつける謎の男と結婚した美女が人生を翻弄される「柘榴」など、さまざまな人物の視点から描かれる短編が全部で6編収録されています。
読みやすい文章も魅力的で、読書に馴染みのある方ならあっという間に読んでしまいそうです。反対に、読書やミステリーなどに普段はあまり馴染みのない方も、奇妙なショート映画を観ているような感覚で読めるので、ぜひ気軽に手にとってみてください。
日本の首相が公選制によって選ばれるようになった時代。ひょんなことから有名人になった青柳雅春は、親友の森田森吾から奇妙な忠告を受けました。
それは、「オズワルドにされる」という意味のわからないもの。青柳が不思議に思っていると、首相が暗殺されるという事件が発生。暗殺犯として指名手配されたのはなんと青柳で……!?
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2007-11-29
2008年に本屋大賞、山本周五郎賞を受賞、2009年には「このミステリーがすごい!」で第1位を獲得した伊坂幸太郎の大人気作です。
物語は、ひょんなことから有名人になっていた元宅配業の男・青柳が、なぜか身に覚えのない首相暗殺犯の罪を着せられ、警察やマスコミから追われるというもの。この一連の事件を、まずは当事者以外の視点から描き、事件から3ヶ月後や20年後と時や舞台を移しながら当事者の視点から見たストーリーを描きます。
複数の視点から描かれるミステリーは数多くありますが、本作では冒頭で当事者ではない人から見た事件が描かれるので、まるでテレビのニュースやドキュメンタリーを見ているような感覚で読むことができます。
ちなみに、作中で出てくる「オズワルド」というのは、あのケネディ暗殺の犯人といわれている人物の名前。実際に「オズワルド」に関してはさまざまな都市伝説があり、謎に満ちています。そんな名前がキーワードとして出てくると、現実と小説の境界線がどこか曖昧な感覚にもなるかもしれませんね。
絶体絶命の状況のなかで、なんとか活路を見出そうとする青柳の逃亡劇、渦巻く陰謀、事件の謎を巡るミステリーと、ハラハラドキドキする要素が盛りだくさんの本作。最後まで一気に読みたくなること間違いなしです。
研究者の犀川創平は、ある日自身の研究室のメンバーと、犀川の恩師の娘の西之園萌絵とともに、愛知県の妃真加島(ひまかじま)へ向かいました。そこには優秀な研究者が集まる真賀田研究所があります。
しかし、研究所のトップであり天才研究者の女性・真賀田四季博士と思われる人物が死体となって発見されるのです。その死にざまはとても奇妙なもので……。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 1998-12-11
メフィスト賞を受賞した推理作家・森博嗣のミステリー小説です。海外ミステリーを思わせるようなタイトルに魅力を感じる方も多いのではないでしょうか。
物語は、コンピューターに支配された研究所という密室空間で起きる、不可思議で残虐な殺人事件を巡り展開されます。密室という王道でありながら決して解けない謎をはじめ、謎が謎を呼ぶミステリーは、コンピューターという専門的な設定もあってなかなか難解。
そんな謎を追うのは、犀川研究所の創平を含む個性的なキャラクターたちです。自分の研究以外に興味がない創平、暗算の天才でお嬢様な萌絵、そして何より本作のキーパーソンである真賀田四季などいずれも一筋縄ではいきません。
研究所という場所柄もあり天才肌のキャラクターが多く、それだけでも他の作品とは違う面白さを感じられます。最後に明かされる真相はとても衝撃的。まさか!?と思う方も多いはず。何がそんなに衝撃的なのか、それはぜひ手に取って確認してみてください。
1986年3月26日、無人島・角島(つのじま)。そこを訪れたのは、K大学の推理小説研究会に所属する大学生たちでした。
彼らの目的は、半年前に角島で起きた殺人事件の現場である「十角館」を見ること。しかしそこにかつて研究会のメンバーだった女性の死を巡る謎が絡んできて……。
- 著者
- 綾辻 行人
- 出版日
- 2007-10-16
ミステリ界に「新本格」という新たなジャンルを生み出した推理小説家・綾辻行人。本作は彼のデビュー作です。
無人島という舞台設定や緻密に作り上げられたトリック、怪事件や怪人物など古典的なモチーフを用いつつも新たなジャンルを切り拓き、本作の発表以降本格ミステリに継ぐ新しい本格ミステリとして、「新本格」という言葉が使われるようになりました。古典ミステリーの面白さと新要素がミックスされ、往年のミステリーファンから初心者まで楽しめるでしょう。
登場人物はお互いのことをエラリー・クイーン、エドガー・アラン・ポーなど海外の推理小説家の名前からとったコードネームで呼び合っています。元になった小説家を知っている方にとっては、クスリと笑えるポイントかもしれませんね。
ちなみに本作は、アガサ・クリスティの名作『そして誰もいなくなった』のオマージュとしても知られています。もしまだそちらを未読であれば、ぜひ合わせて読んでみてはいかがでしょうか。
事故死した資産家令嬢・朋美を忍ぶため、ある山荘に集まった男女。朋美の婚約者の高之や、父親、親戚などの8人です。
当初は彼女の思い出を振り返るなど穏やかな時間を過ごしていた高之らでしたが、そこへ突然、銀行強盗が逃げこんできて……!?
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1995-03-07
推理小説家として多くのヒット作を発表している東野圭吾。映像化されることも多く、読んだことはなくても名前は聞いたことあるという方も多いのではないでしょうか。そんな東野が1995年に発表したのが本作です。
物語は、ある山荘を舞台にして、銀行強盗に監禁された男女が思わぬところから朋美の死の真相を探っていくというもの。最初は監禁された高之たちが山荘から逃げ出す脱出劇かと思いきや、物語が進むにつれて別の展開を見せていきます。
事故死とされていた朋美ですが、彼女の死には多くの謎が残されていました。強盗はただの強盗ではなく、朋美の死もただの事故死ではなく、その真相に集まった8人が絡んできます。読者の予想を裏切り続ける展開に、もう途中でやめることはできません。
舞台がざされた山荘、クローズド・サークルなのも魅力のひとつです。キャッチコピーは「スカッとだまされてみませんか」。謎を解く楽しさと騙される快感をぜひ味わってみてください。
「ドッキリスト」と「ビビリスト」。ドッキリを仕掛けるのが何よりも好きというマコトと、そのターゲットになってばかりの「俺」の肩書きです。
幼馴染の2人が30歳になったある日、マコトは「俺」にあるドッキリを決行すると宣言し……!?
- 著者
- 行成 薫
- 出版日
- 2015-02-20
行成薫のデビュー作で、小説すばる新人賞を受賞した作品です。物語は、「俺」の幼馴染でドッキリが大好きなマコトが、一世一代の「プロポーズ大作戦」を決行すると宣言したところから始まります。ただコメディタッチのドタバタ劇ではなく、笑えるポイントがありつつも淡々とした雰囲気を醸し出しています。
時系列がバラバラで、読者は今自分がどの時間軸を読んでいるのだろうかと惑わされてしまうでしょう。バラバラになっているストーリーを組み立てながら読むのはパズルのような面白さがあります。
「エンドロール」とは、映画の最後に流れる出演者の名前や協賛のこと。読後にはなぜタイトルにつけられたのか、その意味がわかるはずですよ。
30歳になる姫川亮は、高校時代の友人たちとアマチュアバンドを組んでいました。亮はギター、ボーカルの竹内にベースの谷尾、そして5つ年下の桂がメンバーです。
桂は、2年前までバンドの紅一点だったひかりの妹で、彼女が脱退した後に加入しました。
ある日、亮たちの行きつけのスタジオでひかりが急死して……!?
- 著者
- 道尾 秀介
- 出版日
- 2010-07-08
数々のミステリー小説を発表している直木賞作家・道尾秀介による作品です。物語は高校時代の仲間で結成されたアマチュアロックバンドの元メンバーが死亡したところから始まります。
死んだのはひかりという女性で、主人公の亮とは交際している間柄でした。亮には事故死してしまった姉がおり、2つの事件は絡み合いながら真実へと向かっていくことになります。
全体的に物悲しい雰囲気の漂うミステリーですが、それは犯人と思われるキャラクターたちの切実な感情が描かれているからでしょう。感情のままに動く彼らに翻弄され、読者はなかなか真犯人へと辿り着くことができません。
ああでもないこうでもないと、ページをめくるたびに新しい展開が待っており、最後までワクワクしながら読むことができるでしょう。物語の途中でラストを予想できる人はきっと少ないはず。まさにどんでん返しを楽しめる作品です。
2003年、東京。女子高生2人が喉にハサミを突き立てられるという残虐な方法で殺され、世間はその手口から犯人を「ハサミ男」と名付けて騒いでいました。
猟奇殺人をおこなう犯人は一体どんな人物なのか……。そんななか、「ハサミ男」は次なる犠牲者を選出するべく動き出していましたが……!?
- 著者
- 殊能 将之
- 出版日
- 2002-08-09
1999年にメフィスト賞を受賞した作品で、殊能将之のデビュー作です。2005年には映画化もされました。個性的な作家や作品を多く輩出することで知られているメフィスト賞ですが、本作も例にもれずなかなかの奇想天外な話で、事件を追いかけるのは何と犯人である「ハサミ男」本人なのです。
もちろん「ハサミ男」が追いかける事件は自分が犯した事件ではなく、自身の手口を真似られた事件。つまり、ハサミ男とは別にもうひとりの犯人がこの物語には存在しているのです。
作中には複数の事件が存在し、さらに読者に対してもさまざまなトリックが施されているのが特徴。
すべてがわかった後にもう1度読んでみると、これまで感じていた細かな違和感に合点がいくでしょう。
主人公の中嶋陽子は、いたって普通の女子高生。しかしある時から恐ろしい夢を見るようになり、悩んでいました。
そんなある日、陽子の目の前に見たこともない格好をした男が現れます。訳のわからない状況に戸惑う彼女でしたが、そこへ追い打ちをかけるように異形の獣が襲ってきて……!?
- 著者
- 小野 不由美
- 出版日
- 2012-06-27
ハイファンタジー作品のなかでは抜群の知名度と人気を誇る「十二国記」シリーズ。いまだに完結していない長編シリーズですが、アニメ化やドラマCD化など多くのメディア展開もされ、その人気はとどまるところを知りません。
物語は、普通の女子高生である陽子がいきなり中華風の異国の地へ飛ばされ、さまざまな試練を乗り越えていくというもの。ハイファンタジーの設定としては王道ですが、頼もしい仲間に恵まれ、苦しくも楽しくて恋愛もあって……というわけにはいかないのが本作です。
陽子に与えられる試練はどれもかなり過酷なものばかりで、読んでいるこちらが辛くなってきます。決して楽しいばかりではなかったはずの日本に戻りたい、と願う彼女の気持ちが切ないです。ただそんな過酷な試練を乗り越えていくからこそ、陽子は頼もしく成長していきます。
内容が濃密なので、読後の満足感はかなりのもの。ハイファンタジーならではの世界観や設定などの解説がありますが、ストーリーのなかで自然と頭に入ってくるので飽きることなく読み進めることができるでしょう。ファンタジー好きなら1度は読んでおきたい決定版です。
デルフィニア王国。その辺境の村で子爵の子として生活をしていた青年・ウォルは、ある日突然、デルフィニア王国の国王になるように告げられました。実は彼の母はデルフィニア国王の妾であり、ウォルは国王の血を継ぐ王子だったのです。
父である国王の死、さらに王子や王女の相次ぐ死によってウォルは王位を継ぐことになりますが、それは命を狙われる日々の始まりでした……。
- 著者
- 茅田 砂胡
- 出版日
ライトノベル作家・茅田砂胡によるヤングアダルト系ハイファンタジー。元々は「キャプテン翼」の二次創作として書かれていて、その後オリジナル作品として改変、発表されるという経緯を持つ作品です。
ひょんなことからデルフィニア王国の国王となったウィルが、王位を狙う陰謀に巻き込まれて命を狙われ、逃亡。その道中で謎の少女リィと出会い、王位をめぐる戦いに身を投じていくという物語。仲間を増やし大きな陰謀に立ち向かっていくというのはファンタジーの王道ですが、リィの生い立ちなど随所にちょっとびっくりしてしまうような斬新な設定もあり、王道の安心感と新しい驚きとを合わせて楽しむことができるでしょう。
テンポのよいコメディタッチな会話、作りこまれた世界観などは読みやすく、全18巻と大長編ではありますがサクサクと読むことができます。主人公のウォルやヒロインのリィをはじめ、登場するキャラクターも個性的で魅力があるのもポイント。ストーリー、世界観、キャラクターとすべてに満足できる作品です。
短槍使いの女・バルサは、ある日、ひょんなことから新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムの命を救いました。
これをきっかけにチャグムの母である二ノ妃とも知り合ったバルサは、彼女から皇帝であるチャグムの父が、ある理由から息子の命を狙っていると聞かされます。ニノ妃からチャグムを連れて逃げるように頼まれるのですが……!?
- 著者
- 上橋 菜穂子
- 出版日
- 2007-03-28
多くの児童文学を手掛ける作家・上橋菜穂子の「守り人」シリーズ。NHKでドラマ化されたことでも話題になり、上橋作品のなかでは特に高い知名度を誇っている作品です。ジャンルとしては児童文学に分類されますが、作りこまれた世界観やストーリーの面白さから、子供に限らず大人からも支持を集めています。本作はその第1巻。
物語は、主人公の女短槍使いバルサが、ひょんなことから命を狙われている新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムとともに逃亡するところから始まります。彼が命を狙われる理由はぜひ本編を確認して頂きたいのですが、命を狙われているということは敵が多い、すなわちアクションシーンも多いということ。バルサはとても強い女性で、彼女がバタバタと敵を倒すシーンは臨場感にあふれています。
ちなみに作者の上橋菜穂子は武術を習っているそうで、そういった実体験が活かされているのかもしれません。
そんな描写の素晴らしさは、もちろんアクションシーン以外でもいかんなく発揮されており、生き生きとした情景描写や思わずツバを飲みこんでしまいそうな食べ物の描写など、読者を引き込む圧倒的な文章力を最初から最後まで楽しむことができるでしょう。
ファンタジーとはいえ、どこか現実と通じるようなシリアスさ、不条理さなどもあり、そういった面が子供のみならず大人も引きつける魅力になっています。児童文学なので小難しいことはなく、ファンタジー好きはもちろんですが、普段ファンタジーに馴染みのない方の入門としてもおすすめです。
17世紀、素乾国。新たに皇帝が即位するにあたり、後宮が作られることになりました。後宮とはすなわち皇帝の妻や側室が住まう場所。そこに仕える宮女たちは、専門の教育を施されることになります。
新しい宮女として後宮にやってきた天真爛漫な14歳の少女・銀河は、その教えを独自の解釈で学んでいきますが、しだいに宮廷に渦巻く陰謀に巻き込まれていき……。
- 著者
- 酒見 賢一
- 出版日
- 1993-04-25
1989年にファンタジーノベル大賞を受賞した作品であり、作者の酒見賢一にとってはデビュー作にもなります。その高い完成度は、当時新設された同賞のレベルそのものを引き上げることになりました。
完成度の高い本作の舞台は、素乾国という中国を思わせる架空の国。主人公は天真爛漫な性格でどこか型破りな少女・銀河です。すべてが架空の設定であるということに驚きはないのですが、本作の特徴は、作りこまれた架空の世界がまるで本当の歴史のように感じられる点です。
年代や宮廷のシステム、生活スタイルなど、細かいところまでまるで作者が本当にその時代を生きてきたかのように描かれており、ファンタジーというよりも歴史小説を読んでいるな気分になるでしょう。発表された年代がやや古く、文章もストーリーも密度が高いので読みごたえも抜群。読み終わった後は必ず満足できるはずです。
一冊で完結しているので、ハイファンタジーを読みたいけど、何巻分ものシリーズを追いかけるのは大変と思っている方にもいいかもしれません。
ちなみに、ファンタジーノベル大賞の受賞作はレベルが高いと言われており、本作の後にもさまざまなヒット作が生まれています。本作を面白いと感じた方は、ぜひ他の受賞作もチェックしてみてはいかがでしょうか。
聖遷歴1213年、カイロ。平穏に見えるその町は偽りに満ちていました。カイロの町に忍び寄るのはナポレオン率いる艦隊。ナポレオンの侵攻に対抗するために奴隷のアイユーブが見つけ出したのは、読む者の狂気をあぶり出す「災厄の書」でした。
- 著者
- 古川 日出男
- 出版日
日本推理作家協会賞、日本SF大賞を受賞した古川日出男の奇書。「アラビアンナイト」や「千夜一夜物語」などの作品は多くの人が知っていると思いますが、本作は、夜な夜な語られる物語と現実の歴史が入り組みながら進んでいく複雑で奇妙な物語です。
複雑なストーリーこそ本作の魅力。展開が読めず、読めば読むほど裏切られ、引きこまれていきます。
異世界を舞台にしたファンタジーですが、ナポレオンの物語は歴史を感じさせます。2つが同時に語られることによって、自分が読んでいるものがファンタジーなのか歴史物語なのかわからなくなるような不思議な感覚になれる一冊です。
中学生の森本隼子は、国語教師との禁断の恋に身を落としていました。
何もない小さな田舎町で、ただ出逢い、ただ恋をし、ただ傷ついていく……自分ではどうしようもできない感情に堕ちていく少女の行く先とは……。
- 著者
- 姫野 カオルコ
- 出版日
- 2007-02-24
直木賞にノミネートされたことでも話題になった姫野カオルコの恋愛小説。主人公たちが小学2年生の時から始まり、中学生、大人へと成長していく姿を描いています。
小学生とか中学生の恋愛というと初々しくてちょっぴり切ない青春物語なのかと思う方もいるかもしれません。しかし独特な文体の恋愛描写は過激で背徳的。ヤングアダルト向けではなく、かといって大人が読むとあまりにリアルでちょっと引いてしまう……かもしれません。
しかしそれも、痛みや葛藤、現実の残酷さや切なさがリアルだからこそ。そして痛々しい中学時代を過ぎて大人になると、それぞれのキャラクターの成長がこれもまたリアルに描かれています。
どこか遠くにある話のようで実はとても身近な、普段は心の底に隠している感情に触れられる一冊です。
男子高校生の和泉勝利は、3年生になったある日、父の仕事の関係で突然5歳年上のいとこ・花村かれんと同居することになります。しばらくぶりに再会したかれんは、記憶の中の彼女よりもずっと美しい女性でした。
しかも勝利が通う学校の美術教師として赴任することになり……家で、学校で、一緒の時間を過ごすうち、密かな想いを抱くようになります……。
- 著者
- 村山 由佳
- 出版日
- 1999-06-18
多くの恋愛小説を発表している村山由香の人気シリーズ。1994年に1巻が発表して以降、2018年3月現在も単行本の刊行が続いています。ラジオドラマ化などもされており、その人気の高さがうかがえますね。
基本的には、勝利とかれんの日常と恋愛の物語。派手な展開よりも日々の出来事やキャラクターの心情が丁寧に描かれています。シリーズを重ねるごとに、2人以外の登場人物にスポットライトを当てたものも増えてきて、シリーズを通してみると群像劇のような楽しみ方もできるかもしれません。
もともとライトノベルとして発表されているためか、全体的に読みやすく、ピュアな雰囲気が漂います。一方で、誰もが抱えるような悩みや葛藤を丁寧に、なおかつ等身大なリアルさで描くのはさすが村山由香といえるでしょう。派手さはありませんが、だからこそ共感できる部分も多く、読者は心の中で小さく頷きながら読むことができます。
気負う部分も拳に力を入れて読むような緊張感もないので、おいしいコーヒーでも飲みながら気軽に読むのに最適な一冊。刊行ペースが遅いこともあり、今から追いかけるのもさほど難しくありません。1巻を気に入った方はぜひ続刊もチェックしてみてください。
「先輩」は「黒髪の乙女」に片想い中……。何とか彼女に気が付いてほしい「先輩」は、彼女の視界に入るべく、日々追いまわし、彼女との「出会い」を演出します。
しかし彼女はどこまで鈍いのか、どう見ても作為的な偶然の出会いを、本当に偶然としか受け取ってくれません。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2008-12-25
山本周五郎賞を受賞、直木賞ノミネート、そして本屋大賞では第2位にランクインするなどさまざまなところで高い評価を受けた作品。累計発行部数130万部を超えるベストセラーです。アニメ化もされており、その独特な雰囲気で多くの人気を得ている森見登美彦の作品のなかでも特に人気、知名度ともに高い作品だといえるでしょう。
物語の舞台は京都。主人公は大学生の男で、後輩である「黒髪の乙女」に片思い中です。持てあましている気持ちを何とか成就させようと奮闘するもののなかなかうまくいかない……と、これだけ書くとよくある青春系の恋愛小説かなと思うかもしれません。ですが、そこは独特な作風で知られる森見登美彦なので、そう簡単にはいかないのです。
文章表現もさることながら、登場するキャラクターや出来事も突飛。森見作品を初めて読む方は、受け入れるまでに少し時間がかかるかもしれません。しかし1度その奇妙な雰囲気にハマってしまうとなかなか抜け出せない中毒性があるのも魅力です。
クセはあるもののストーリー自体は割とシンプル。まずは1度読んでみてください。
阪急電車今津線……片道わずか15分しかない関西のローカル線です。たまたま電車に乗り合わせた人々は、よく行く図書館で見かけたことのある女性だったり、因縁ある相手の結婚式に白いドレスで乗り込もうとしている女性だったり……偶然の出会いが引き起こす連作短編集です。
- 著者
- 有川 浩
- 出版日
- 2010-08-05
ベストセラー小説『図書館戦争』で知られる小説家・有川浩の作品で、2012年にはオリコン文庫部門で100万部を突破、映画化、ラジオドラマ化、漫画化など幅広いメディアに展開されている人気作です。
舞台となるのは、タイトルどおり関西のローカル線である阪急電車、その今津線という路線です。宝塚と西宮北口駅を繋ぐ片道わずか15分という短い道のりを走る車内で、たまたま乗り合わせた乗客たちが織りなす人間ドラマを連作短編という形で描いています。
各短編はそれぞれ異なる乗客の視点で描かれているのですが、同じ時間と場所を舞台にしていることは変わらないので、あっちの短編で話していた会話がこっちの短編でも描かれている……といったことが起こります。
さらにこっちの視点ではこういう意味の会話だったのが、あっちではまた違うドラマを生み出していて……と何気ない会話や出来事がすべての話にうまくからみ合い、読み終わる頃には思わずため息を吐いてしまうそうになります。
電車の中というのは、意外と他の人の会話が聞こえてくるものですよね。ある意味で特殊な空間を上手に使った作品だといえるでしょう。ちなみに阪急電車今津線は実在する路線なので、近在の方は本を片手に乗りに行ってみるなんて楽しみ方もあるかもしれません。
親から愛情を与えられずに育った水無月は、やがてその心を「恋」に支配されていきます。過去の失敗から2度と人を愛さないと決めていた彼女の前に現れたのは、親子ほど年が離れ、複数の愛人を持つ小説家・創路でした。
そんな彼女の前に現れたのは、親子ほど年が離れ、複数の愛人を持つ小説家・創路でした。閉ざしていたはずの心に躊躇いなく踏み込んでくる創路に、水無月の心は再び開かれていきますが……!?
- 著者
- 山本 文緒
- 出版日
山本文緒の描く恋愛小説で、吉川英治文学新人賞を受賞した作品。2000年にテレビドラマ化もされ、恋愛小説の最高傑作と名高い人気作です。
主人公の水無月は過去に恋愛で失敗をくり返した女性。彼女は愛した男にストーカー行為をくり返してしまっていました。自分でも抑えられない衝動を抑制するため、水無月は2度と人を愛さないと誓います。
そんな彼女の前に現れたのが、小説家の創路です。彼は水無月の尊敬する小説家であり、親子ほども年が離れているうえ、妻の他に何人もの愛人を抱えているという型破りな人物。どんな人の心にも強引に足を踏み入れてくるようなタイプですが、どこか憎めず人を安心させる何かを持っています。
人を愛さないと決めていた水無月も、しだいに惹かれていくようになるのですが、それこそが彼女を再び狂気に誘いこんでしまうのです。
1度愛してしまうと自分の感情をコントロールできない水無月。その行動は常人にとっては理解できない類のもの。それなのになぜか共感できる部分が随所にあり、だからこそ読者の心に恐怖や衝撃、そしてもしかしたら自分も彼女のような狂気を秘めているのかもしれないという不安を残してくれます。
読後感は決して爽やかなものとはいえないかもしれませんが、心を抉るような衝撃の恋愛小説を読みたい方は、ぜひ1度手に取ってみてください。
中学校で国語の非常勤講師として働いている村内先生は、ひどい吃音でうまく話すことができません。そんな彼の教え子たちのなかには、親から捨てられた生徒や親が自殺してしまった生徒、またいじめに加担してしまった生徒などさまざまな悩みを抱えている者がいました。
そんな彼らに、村内先生は勉強よりも大切なものを教えてくれて……。
- 著者
- 重松 清
- 出版日
- 2010-06-29
心に突き刺さる小説を多く発表している小説家・重松清。本作は、村内先生をキーパーソンにした連作短編集です。2008年には表題作である「青い鳥」が映画化され、多くの人を感動させました。
さまざまな悩みや葛藤、問題を抱えた生徒を取り上げた数編の短編集は、どれも読んでいて心が痛くなるものばかり。しかし同時にそれらを包み込むような村内先生の優しさがあり、思わずホロリとしてしまう方も多いのではないでしょうか。
村内先生のセリフには、心を打つものが多くあります。たとえば彼は、嘘を吐いている生徒を怒りません。ただ信頼を寄せ、嘘を吐くという行為は悪なのではなくただ寂しいからだと伝えるのです。
吃音だということを置いておいても、彼は教師としては万能ではありません。授業もそれほどうまくなく、人とのコミュニケーションも苦手なタイプで、勉強を教える立場としては欠点もたくさんあります。
しかし、そんなことよりももっと大切な、「ひとりではない」ということを村内先生は伝えてくれるのです。これこそがまさに本作のテーマ。子供から大人まで幅広い方の心へ届く小説なので、ぜひ手に取ってみてください。
離婚したうえに親にも勘当され、行く場所を失ってしまった元シェフの渡辺毅。再婚した夫の連れ子を一生懸命育てていたのに結局離婚し、子供とも引き離されてしまったキャリアウーマンの児島律子。
大切なホームを失ってしまった2人が、新しい大切なホームを求めて奮闘する2つの物語です。
- 著者
- 鷺沢 萠
- 出版日
- 2006-08-29
人々の感情の機微や日々のきらめきを繊細に描く女性小説家・鷺沢萠の作品。2つの物語が収録されていて、ひとつは元シェフの渡辺毅の物語、もうひとつはキャリアウーマンの児島律子の物語。それぞれの物語に2つの家族が登場します。
離婚したうえ親からも勘当されてしまった毅は行くあてもなく、親友のヒデとその息子の家に居候させてもらっています。父子家庭であるヒデの家で、毅はヒデの息子を世話したり家事をこなしたりする、いわゆる主夫生活です。
一方の児島律子は、離婚して離れ離れになってしまった娘との再会が描かれています。娘といっても実の娘ではなく、夫の連れ子。しかし結婚生活を送っている間は実の子のようにかわいがって育てていただけに、律子もそう簡単に割り切ることができません。愛情を持って育てていたのに、血の繋がりがないという理由で引き離されてしまったですから、心中穏やかではないのでしょう。
2つの物語で描かれる家庭は、いずれも一般的な形ではありません。しかし血の繋がりはなくても、普通とは違う形でも、そこに「おかえりなさい」といえる愛情があればそれはまぎれもない家族なのだと感じさせてくれるのです。
家政婦の「私」は、ある日「博士」という男性のもとに派遣されます。彼はある事故の後遺症で、記憶が80分しか持たなくなってしまった元数学者でした。
数学以外には興味のないという変わった「博士」とどう接したらいいのかと戸惑いますが、ある日「博士」が「私」の息子を連れてくるようにと言い出して……。
- 著者
- 小川 洋子
- 出版日
- 2005-11-26
心温まる作品を多く発表している小川洋子による小説で、読売文学賞を受賞、本屋大賞の第1回では1位を獲得したベストセラー作品です。映画化もされており、読んだことはなくてもタイトルは聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
「博士」が数学者という設定なので、作中には数式などが登場します。数字は苦手……という方にとってはそれだけで何となく難しそうなイメージを抱くかもしれませんが、本作の数学は難解なものとして描かれているわけではなく、「博士」が愛している美しいものとして描かれているのです。
実際に読んでみると驚くはず。数字が多数登場するからといって身構える必要はまったくありません。
物語は、家政婦である「私」と、「博士」、そして「私」の息子である10歳の男の子を中心に語られていきます。「博士」は息子のことを「ルート」と呼ぶようになり、3人は穏やかで温かな時間を過ごすのですが、日常のなかにはさまざまな困難があって、それらをひとつひとつ乗り越えていくたびに3人は絆を深めていきます。
不器用で、頑張っても報われない……だからこそ多くの人の心に切ない感動をもたらすのでしょう。悲しみではなく温かい気持ちで泣きたい時におすすめの作品です。
交通事故によって、右腕の皮膚感覚以外すべて五感を失ってしまった「私」。目も見えず耳も聞こえず、味覚さえもない永遠の暗闇に囚われてしまった「私」には、もはや他人とのコミュニケーションをとることも困難でした。
ピアニストの妻は、「私」の右腕を鍵盤代わりに演奏することを思い付きますが……。
- 著者
- 乙一
- 出版日
若者を中心に高い人気を誇る乙一の短編集です。表題作である「失はれる時間」では、事故で右腕の触覚のみを残してすべての感覚を失ってしまったという男の、絶望の時間が描かれています。暗闇に囚われた「私」が感じることができるのは、妻が右腕の上でピアノを弾くように動かすことで伝わってくる日々の想いだけ。
かなり特殊な設定で、感情移入するにはイメージが難しいと感じることもあるかもしれませんが、それでも巧みな描写で描かれる男の気持ちを読み進めていくうち、不思議と物語に引き込まれていきます。
表題作の他には、不思議な力を持つ男を描き映画化もされた「傷」、携帯電話を持っていない女子高生が携帯を欲するあまり妄想の着信音が聞こえるようになる「Calling You」、衝撃と笑いのわずか4ページのショートショート「ボクの賢いパンツくん」など7作品が収録されています。
乙一特有のさまざまな面白さが詰め込まれた短編集なので、乙一作品の最初の一冊としてもいいかもしれません。
小説家をしている治は、恋人の柿緒をリンパ腫という病気で失ってしまいました。悲しみにくれる治ですが、残されたのは彼だけではありません。柿緒の弟である賞太と慶喜もまた、姉を失った悲しみを抱えていました。
2人の弟と悲しみを共有しながら、治は在りし日の柿緒のことを思い出していき……。
- 著者
- 舞城 王太郎
- 出版日
芥川賞に何度もノミネートされる実力派小説家の舞城王太郎による恋愛小説。本作も芥川賞候補になった作品で、受賞こそ逃したもののその評価は高く、インパクトのあるタイトルもあって多くの人気を得ています。
本作の特徴は、7つに分けられた章立ての構成です。治と柿緒の物語の間に、2人とはまったく関係のない物語が挟まれており、一見すると短編集のようにも思えます。挿入されているのは、謎の寄生虫に寄生されていまった女を描いたものや、夢の中に出てくる少女に恋をした男の話、神と戦う男女の話など、ファンタジーのようであったりSFのようであったりする不思議な話です。
どう読んでも治と柿緒とは関係ないように思えるのですが、治が小説家であるという設定から、彼の書いた小説なのではないかと言われています。愛する人を失った治が書いたものとして読むと、物語からまた違う印象を受けるでしょう。
ただの純愛小説に終わらない、愛を追求した一冊です。
天才的なサッカーの才能がある兄をもつ神谷新二。彼自身は複雑な思いの果てにサッカーを諦め、陸上競技を始めることにしました。
親友の連とともに陸上部に入り、スプリンターの道を歩み始めますが……。
- 著者
- 佐藤 多佳子
- 出版日
- 2009-07-15
2007年に吉川英治文学賞、本屋大賞を受賞し、青春スポーツ小説の代表格として扱われることも多い佐藤多佳子の小説。テレビドラマ化もされています。全3冊で、それぞれに「イチニツイテ」、「ヨウイ」、「ドン」という副題が付いています。
第1部は、天才的なサッカーの才能を持つ兄・健一に対する複雑な思いと、親友である連の美しい走りに感動したことから陸上競技を始めることになった高校1年生の新二の姿が描かれます。第2部は2年生、第3部は3年生です。
陸上部が舞台で専門的な用語も出てきますが、主人公の新二が初心者なので、陸上に詳しくない読者も読みながら競技のことを理解することができるようになっています。知らない人は新鮮さを、知っている人は共感を持って読むことができるでしょう。
物語は青春小説らしい友情や努力、仲間やライバルとの関係や初々しい恋愛など王道なもので、展開にハラハラドキドキするというよりも、最後まで爽やかな雰囲気をじっくり楽しめるというもの。特に競技の描写はスピード感や躍動感にあふれており、実際に観戦しているような気分になれます。
読んだらきっと自分も頑張ろうと思える、まさに王道。青春小説を読みたいと思い立ったら、まずはぜひこの作品をチェックしてみてください。
池袋西口公園……カッコつけて呼ぶと「ウエストゲートパーク」。週末になるとどこからともなく男女が集まってきて、そこはナンパコロシアムにさま変わりします。
池袋に集まるのは、ギャングや不法滞在の外国人、風俗勤めと表社会からはちょっと外れた者ばかり。そんな彼らが池袋を舞台に巻き起こす事件とは……。
- 著者
- 石田 衣良
- 出版日
- 2001-07-10
石田衣良の代表作でありデビュー作。オール読物推理小説新人賞を受賞した後、その人気の高さからシリーズ化され、さらにテレビドラマ化、漫画化と幅広いメディア展開がなされました。
主人公は、実家の青果店を手伝っているマコトという人物です。彼は世の中を斜めに見ているタイプで、周囲とは一線を引いているようなクールなキャラクター。作中ではいろいろな事件が起きますが、マコトの淡々とした目で見るとどれもまるで日常の出来事のように思えるのが不思議なところです。
テンポもよく、読書に慣れていない人もすんなりと読むことができるはず。シリーズもので続刊も出ているので、まだまだ続きを楽しむことができるのも嬉しいですね。
空手一家に生まれた佐々木飛鳥と、芸能一家に生まれた東響子。ある日、怪我をして入院をいていた飛鳥は、その時に見たテレビドラマをきっかけに、演劇に興味を持ちました。
他人になるとはどういうことか、あの舞台の奥に広がる世界はどんなものなのか知りたいという衝動に駆られた飛鳥は、演劇の世界に飛びこんでいくことになります。
一方で幼い頃からさまざまな役を演じてきた響子は、自分の居場所に疑問を抱くようになっていて……。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
- 2011-06-23
直木賞や本屋大賞も受賞した小説家・恩田陸が描く演劇界を舞台にした少女たちの物語です。
メインとなるのは佐々木飛鳥という空手一家に生まれた少女と、幼い頃から数々の役をこなす演劇界のサラブレッド・東響子です。他にもベテラン女優やアイドルなどが登場しますが、いずれも個性と才能にあふれた人ばかりで、それだけでもワクワクしてくるものがありますね。
物語は、伝説の映画プロデューサーが開催したオーディションに飛鳥たちが参加するところから動き出します。ある役をかけて少女たちが全身全霊の演技をぶつけあうさまは迫力があり、思わず引き込まれてしまうでしょう。
作中では、役の奪い合いをはじめ、芸能界や演劇界という特殊な環境を生き抜く少女たちの戦いを描きつつ、人はどうして演じるのか、なぜ演劇を求めるのか、演じた先には何があるのかということも描かれています。
現実と現実ではない場所の境界線があやふやになってしまうような世界観は恩田陸作品にはよくあるものではありますが、本作もそういった特徴の例に漏れない作品です。1度ハマったら抜け出せない、そんな中毒性のある恩田ワールドにぜひ触れてみてください。
日本の普通科高校に通う高校3年生の杉原は、在日の両親を持つ在日韓国人です。そのことで学校では差別を受けることもあり、父親から教えられたボクシングを武器に悪友とケンカをしたり悪さをしたりする日々を送っていました。
そんななか、ヤクザの息子である加藤に誘われて参加したパーティーがきっかけで、日本人の少女と恋人関係になり……。
- 著者
- 金城 一紀
- 出版日
小説家や脚本家として活躍する金城一紀の青春小説で、2000年に直木賞を受賞した作品です。翌年2001年には映画化もされ、数々の映画賞を受賞しました。
主人公の杉原は、在日韓国人だという自らの出自のせいでいわれのない差別を受け、それでも父親仕込みのボクシングを支えにして、ヤンチャをしながらも精一杯日々を過ごしていました。
そうしているうちに日本人の友人や恋人もできるのですが、彼らとの関係にも「在日」が壁になり立ちはだかるのです。
「差別」という重たいテーマで考えさせられる内容でありながら、文章はテンポが良くて読みやすく、青春小説として素直に楽しむことができるでしょう。
原作はもちろん映画も非常に高い評価を受けているので、もし原作を気に入ったらぜひそちらもチェックしてみてください。
男子高校生の榎戸川(えどがわ)は、夏休みの補習授業に参加していました。何気なく目をやった窓の外を、ひとりの少女が落下していきます。
少女の死は自殺として処理され、学校内ではその話題に触れること人もいなくなりました。そんなある日、榎戸川に、由良と名乗る少年が声をかけてきます。少女がどうして死んだのか知りたくないかと……。
- 著者
- 柴村 仁
- 出版日
- 2014-10-15
電撃小説大賞で金賞を受賞した作品で、柴村仁のデビュー作です。当初はライトノベルとして発表されていましたが、後に一般文芸としても刊行され、より幅広い層から注目されるようになりました。
物語は前半と後半に分かれていて、前半は主人公の榎戸川が由良と出会い、自殺した少女の死の真相を探っていくというミステリー。探偵役になるのが榎戸川に接触してきた由良というキャラクターです。これが実に自由で変わり者。榎戸川は由良に振り回されつつもしだいに真実へと近付いていくことになります。
後半は、自殺した少女と由良の物語です。少女がまだ生きていた頃、所属していた美術部で由良と交流していた時の話が描かれます。こちらはあまりミステリー色はなく、どちらかというと恋愛ものとして楽しむことができるでしょう。
ただ本作の残酷なところは、そんな恋愛ものが後半になっているので、少女の死が絶対の事実になってしまっているところです。この女の子が死んでしまうのだ……と思いながら読むと切なくてたまらない気持ちになる方も多いはず。
このような構成の影響もあって全体的に暗い印象の漂う作品ですが、実は3部作になっており、他に『ハイドラの告白』、『セイジャの式日』と2冊が刊行されています。本作1冊でもまとまってはいるので楽しむことはできますが、残り2冊を読んで初めてわかることもあるので、ぜひ続きも読んでみてください。
バーのマスターが作った女性型アンドロイド「ボッコちゃん」。美人だけど頭は良くなくて、客との会話はいつもオウム返しです。
しかし話を聞いてもらいたい多くの客はボッコちゃんに惚れこみ、バーに通うようになりました。そんななか、ひとりの青年がボッコちゃんに恋をして……。
- 著者
- 星 新一
- 出版日
- 1971-05-25
「ショートショートの神様」と呼ばれている小説家・星新一。そんな彼が自ら選んだショートショート50編が収録された短編集です。
人の言葉を語尾だけ変えてオウム返しする美人なアンドロイドと、バーの客の恋を描いた表題作の「ボッコちゃん」や、潜入捜査を命じられたスパイの男が、身の周りのすべてのことを疑うあまりだんだんとおかしなことになっていく「程度の問題」、その他に「よごれている本」、「キツツキ計画」、「おーい、でてこーい」などユーモアあふれるものからスリリングなもの、ちょっと考えさせられるものなど、とにかく盛りだくさんな一冊です。
ごくごく短い話なのに、どれも人の記憶や心に残るインパクトやアイディアがたくさんあって、思わず夢中になってしまうはず。SFのジャンルに分類はされますが、難しいことは一切なく感覚的に読めるので、普段あまりSFに馴染みがない方も、そもそもSFに興味はないという方でも気軽に読むことができるのではないでしょうか。
短い話なのでちょっとした空き時間に読むことも可能です。ただ短いからといって物語が軽いわけではなく、短時間でこんなにも深みのある作品が読めるのかとお得な気分になります。表題作の「ボッコちゃん」は数ある星新一の作品のなかでも特に有名なので、読んだことのない方はぜひ1度チェックしてみてください。
2019年――世界規模の戦争と未知のウイルスによるパンデミックによってすべてが崩壊した世界。新しく作られた統治機構「生府」は、健康と幸福を第一義に掲げ全国民に飲酒や喫煙の禁止など厳しい医療経済社会を築くようになりました。
そんななか、女子高生の霧慧トァンは政府への反発心を隠せず、同じ志を持つ御冷ミァハとともに自殺を企てますが……!?
- 著者
- 伊藤計劃
- 出版日
- 2014-08-08
星雲賞、日本SF大賞を受賞、さらにSF作品のベストを選ぶ「ベストSF2009」で第1位を取るなど圧倒的な評価を得ている伊藤計劃の長編小説です。
物語は、「大災禍(ザ・メイルストロム)」という大規模な世界崩壊を起こした後、人々の健康と幸福を第一とする医療経済社会として復活した世界を舞台にしています。それだけ聞くととても素晴らしい世界のように思えますが、統治期間である「生府(ヴァイガメント)」の目的は、健康的な国民が社会に貢献すること。そのためにも、体に有害とされる飲酒や喫煙、さらにはカフェインなどの摂取も禁じられ、人々の体は常に監視され、病気になるとすぐに治療させられます。
健康的で穏やかな世界は一見するとユートピアですが、自由を制限され不満を募らせる登場人物たちを見ていると、ディストピアのように見えてきます。
主人公のトァンは、同じ気持ちを持つ3人の少女とともに自殺を企てますが、失敗。トァンともうひとりが生き残り、ひとりは死亡してしまいました。
崩壊した世界を舞台にしたSF作品は他にもたくさんありますが、理想郷に思える世界を壊すという設定やストーリーは斬新で、さらにそこに隠された真実を巡る展開が迫力のある作品になっています。
トァンの視点から描かれる文章はわかりやすく、自然と物語に入り込むことができるでしょう。SF好きなら1度は読んでおきたい傑作です。
高度な文明を失った世界で、人々は特殊な能力を手に入れ暮らしていました。それは、テレポーテーションやテレパスなどいわゆる超能力と呼ばれるもの。
そんな世界を、ラゴスという名前の男が旅を続けていました。自身の一生をかけて旅をする彼の目的とは……?
- 著者
- 筒井 康隆
- 出版日
- 1994-03-01
小松左京や星新一とともに、「SF御三家」と呼ばれる小説家・筒井康隆。本作は、文明が崩壊し特殊能力を得た人々が暮らす世界で、旅するひとりの男・ラゴスの一生を描き出した作品です。
筒井康隆の作品というと、『時をかける少女』や『パプリカ』など、SFに慣れていないと少しわかりにくく感じるものもあって、ややハードルが高く感じるかもしれませんが、本作には難しい設定もなく、超能力というわかりやすく面白い要素もあってSF初心者の方も楽しく読むことができるでしょう。
もちろん本作のメインである、ラゴスの一生涯を追いかける波乱万丈の旅物語も最後まで目が離せません。年数にすると約20年以上の時を描ききっているストーリーはとても壮大でため息もの。ページ数はそこまでありませんが、大長編を読んだ感覚になります。筒井康隆作品を読んだことのある方もない方も、ぜひチェックして頂きたい一冊です。
葛城山麓にある古墳で発見された謎の砂時計。砂が無限に流れ続けるというとても奇妙な仕組みをもったものでした。
見つかったのは、中世時代の地層。理論物理学研究所で助手として働く野々村は、調査のため現場に向かいました。しかし帰ってくると彼をはじめ関係者が忽然と姿を消してしまい……!?
- 著者
- 小松 左京
- 出版日
SF界でその名前を知らないものはいない作家・小松左京による長編で、時代も世代も超えた根強い人気を誇っている作品です。
主人公格の野々村が突如として姿を消すという衝撃的な展開から始まるストーリーは、場所も空間も時間もすべてを超越し、どんどん複雑に、そして壮大なものになっていきます。SFの傑作として名高い作品であるだけに、その内容はかなり重厚なもの。読みごたえがあります。
慣れていない方も、時間をかけて読んでみてください。壮大なストーリーと複雑な構成ゆえに一読目では内容を追いかけるのが大変ですが、それを理解したうえでもう1度読むと、作品の面白さをより感じることができるでしょう。日本を代表するSF作品として読んでおきたい作品です。
地震、台風、そして「怪獣災害」。怪獣や妖怪が原因で起こる災害が当たり前の自然災害として捉えられている日本では、それに対応するべく気象庁内に「特異生物対策部」、通称・気特対と呼ばれる部署が設置されていました。
そこに所属するのは、怪獣対策のスペシャリストたち。危険で過酷で、それなのに世間からは批判されることも多いなか、任務をまっとうするべく奮闘します。
- 著者
- 山本 弘
- 出版日
- 2010-06-24
山本弘による本作は、雑誌「ミステリーズ!」で2005年より連載が開始され、2009年には傑作SFをランキングする「SFが読みたい!」の国内編で第2位を獲得、その他、日本SF大賞にノミネート、ドラマ化など人気の高い作品です。
舞台となるのは、怪獣災害が自然災害と同じように当たり前に存在する世界で、なかでも日本は特に怪獣災害の多い国でした。その規模は、MM(モンスター・マグニチュード)という単位で現され、自然災害という扱いのために対応するのは気象庁です。タイトルの「MM9」というのは、怪獣災害の規模を表しているんですね。
気象庁のなかには、怪獣災害のスペシャリストが所属する気特対という部署があり、彼らの活躍がメインで描かれていきます。作中には大小さまざまな怪獣が登場します。巨大化する少女だったり植物怪獣だったり……怖いけどどこかユニークで憎めないのも魅力のひとつでしょう。
大手生命保険会社で査定業務を担当している若槻慎二は、ある日、保健加入者である菰田重徳に呼ばれて自宅を訪ねました。
しかしそこで見たものは、重徳の子供が首を吊って死んでいるという惨劇。事件性があるため保険金の支払いを保留にした慎二でしたが、それがきっかけで慎二と彼の周りの人々の恐怖の日々が始まったのです……。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
日本ホラー小説大賞を受賞した貴志祐介の作品。ミステリーやSFも多く手掛ける貴志ですが、本作では人間が人間を脅かす恐怖を描いたホラー作品になっています。自身が保険会社勤めをしていた経験もあるそうで、そのためか保険金殺人や保険会社での仕事などにリアリティがあります。
本作の恐ろしいところは、何といっても常識では考えられない犯人から純粋な殺意を向けられるところでしょう。ホラーというと目に見えない幽霊などの恐怖を想像しますが、本作で描かれるのは人間の恐怖。そのため、フィクションとはいえ今にも自分たちの身の周りで同じことが起きそうな恐ろしさを感じることができます。
重徳の子供の死に対して保険金殺人を疑うわけですが、このあたりのエピソードでは犯人探しというミステリー要素も加わってきます。
とにかく波乱に満ちた展開で、最後までハラハラドキドキしながら読むことができます。1度読み始めると先が気になってページをめくる手がとまらなくなってしまうこと間違いなし。ぜひ時間のある時に一気読みしてみてください。ただ、寝る前に読んでしまうと恐ろしい夢を見てしまうかもしれないので要注意です。
雷太は11歳。身長が195cm、体重が105kgという規格外の容貌をもち、その巨体からくり出される怪力と狂気は常識外です。
2人の兄の利一と祐二は、日々エスカレートする雷太の暴力に耐えきれず、ついに弟の殺害を決意しました。
しかし自力では到底かないません。2人は村はずれに住む異形のモノたちに雷太の殺害を依頼しようとするのですが……。
- 著者
- 飴村 行
- 出版日
日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した飴村行の小説。その特異な設定と衝撃的な内容から問題作として扱われることもあります。
物語の舞台となるのは、戦時中の日本。ある村に住む一家が異形の姿をした弟の暴力に命の危険を感じ、長男と次男が弟の殺害を決意したところから始まります。
殺害を依頼する相手というのが、何と河童。河童は人間を殺すことなどなんとも思わない怪物なので殺害を頼むには最適かと思われたのですが、ここで問題が発生するのです。
河童が交換条件として兄弟に突きつけてきたのは、可愛い女の子と思う存分イヤラシイことをしたいというもの……そのための女の子を差し出せ、と言うのです。彼らはしかたなく河童に差し出すための少女を用意しますが、これがまた新たな悲劇の始まりでもありました。
内容はかなりのエログロ系。異形の弟と河童の戦いや、少女に対する拷問などの描写は凄まじく残酷なので、耐性の無い方は注意が必要です。
人間でありながら人間離れした雷太や、河童、神様なども当たり前のように存在するファンタジーな世界観ではありますが、狂気が狂気を呼び、肌が粟立つような恐怖と気持ち悪さに襲われること間違いなし。
それでも怖いもの見たさで読んでみたいと思った方、手に取る際は明るい日中に読むことをおすすめします。
蒲生稔という男は永遠の愛を求め、次々と猟奇殺人をくり返していました。
彼はどうして人を殺すのか。その時男の家族は、警察は……それぞれが追いかける先にある衝撃の真実とは……!?
- 著者
- 我孫子 武丸
- 出版日
1989年に小説家デビューを果たした我孫子武丸。小説の他に漫画の原作やゲームシナリオなど幅広く活動しており、なかでもゲーム「かまいたちの夜」は本格ミステリーな内容で人気を博しました。
本作は1993年に「このミステリーがすごい!」で16位に入るなど我孫子作品のなかでも人気の高い作品で、ホラー作品にミステリーとしても楽しめる高度なトリックが仕込まれています。
物語は、猟奇殺人犯の稔の他、もう2人の登場人物の視点から描かれていきます。犯人の視点から描かれる殺人の様子はまさにホラー。グロテスクが苦手な人は要注意です。
最後まで読んだときに、まさか!?という見事な展開が待っているので、ぜひ実際にお手にとってみてください。もう1度最初から読みなおしたくなるはずです。
11月7日、水曜日。女子大生の藍は、この同じ1日をもう幾度となくくり返しています。終わりのない無限ループに捕らわれ、いくら何かを変えようとしてみても、1日が終わればすべてまた元通り……。
ある日、牢獄にも思えるこの日から抜け出すためには、北風伯爵に捕まるしかないということを知るのですが……。
- 著者
- 恒川 光太郎
- 出版日
- 2010-09-25
2005年に日本ホラー小説大賞を受賞してデビューをした恒川光太郎の作品。恒川の作品は恐ろしいだけではなく、美しく幻想的な雰囲気が特徴ですが、本作もその例にもれず美しくも切ない物語になっています。
主人公は、藍という名前の女子大生。11月7日という1日に囚われ同じように無限ループをしているという「プレイヤー」と出会い、11月7日からの脱出を試みるのですが、そのためには北風伯爵という謎の存在に捕まるしかないとわかります。
ただ北風伯爵に捕まると殺されるという噂もあって、それでも一縷の望みをかけて伯爵の存在にすがるストーリーです。
表題作の他に、「神家没落」、「幻は夜に成長する」も収録。「神家没落」は、動く家から出られなくなった男の話、「幻は夜に成長する」は、幻術を使える不思議な力を持つ少女がある組織に捕らわれてしまう話です。
これらに共通するのは、何かに捕らわれているということ。捕らわれたものからどうやって解放されるのか、解放されるというのはどういう意味なのか、恐ろしくも切なく、そして読み終わった後にふと何かについて考えさせられる作品です。
不幸な死を遂げた人々の遺品をコレクションする謎の男・オギー。彼に雇われた「俺」は、ある女との接触を試みます。その女は、我が子の首を切断して殺した過去を持っていました。
懲役を終え、今は残った2人の息子と暮らしているという女に近付いた「俺」の目的は、彼女にインタビューをすることで……。
- 著者
- 平山 夢明
- 出版日
小説やエッセイ、実話系のオカルト本の執筆の他、映画監督や映画評論など幅広く活躍している作家・平山夢明の小説です。
不幸な死を遂げた人の遺品を集めているという謎の男から、「俺」がある依頼を受けるところから物語は始まります。男のコレクションは、たとえば屋上から放り投げられて殺された少女の衣服だったり、交通事故で凄惨な死を遂げた被害者の乗っていた自転車だったり、常軌を逸したものばかり。そんな彼が次に欲したのは、我が子を殺した美しい母親へのインタビューでした。
グロテスクな描写が多いので苦手な方もいらっしゃるかもしれませんが、本作で注目してもらいたいのは、平山作品の特徴でもある軽妙な会話です。ハードボイルドでカッコイイ反面、どこか普通ではない雰囲気や微妙にズレている内容などが奇妙な恐怖になってじわじわと読者に迫ってきます。
全編をとおして歪な空気の漂うホラーの小説の傑作、ぜひ1度チェックしてみてください。
新選組副長・土方歳三。局長の近藤勇を支え幕末の動乱生き抜いた土方ですが、新選組になる前は、薬屋の行商をしていました。
しかしひょんなことから人を斬り、ある人物との因縁が生まれ、新選組として動乱の京都で戦い、明治維新が起こり……と時代と運命に翻弄されていきます。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
歴史小説家のトップをひたはしる司馬遼太郎の代表作。読んだことはなくても、その名前は知っている方がほとんどでしょう。
新選組の副長として活躍した土方歳三の生涯を、新選組になる前に多摩で暮らしていた時代から箱館戦争で戦死するまで、みっちりと描いています。血なまぐさい戦いが描かれる一方で、想いを寄せる女との恋愛や趣味の俳句などにも触れ、土方のお茶目な部分を垣間見ることができるでしょう。
もちろん沖田総司まど他の有名な新選組メンバーも登場。新選組ファンならぜひ読んでおきたいところです。上下巻に分かれた大作ですが、文章は美しく、どんどん読み進めることができます。日本文学の名作のひとつとしてぜひ読んでおきたい作品です。
12世紀初頭の中国。悪政によって乱れた国の民たちは、恨みと苦しみのなかでもがいていました。そんな国の姿を憂いた小役人の宋江(そうこう)と、世直しのために独自に動いていた晁蓋(ちょうがい)らは、盗賊からアジトを奪って自らの拠点とし、梁山泊と名付けました。
やがて2人のもとには108人の英雄が集まり、腐った国に立ち向かっていきます。
- 著者
- 北方 謙三
- 出版日
- 2006-10-18
中国の伝奇小説「水滸伝」を原作にした歴史小説で、北方謙三の代表作。「北方水滸」と呼ばれ親しまれ、司馬遼太郎賞を受賞しています。原作はありますが北方独自の解釈や創作、構成がされているのが特徴です。
108人の英雄をはじめ、実にたくさんのキャラクターが登場。敵もあわせると膨大な人数になりますが、それをうまく視点を切り替えながら描ききるところに作者の筆力を感じます。
全編をとおした主人公がいるわけではなく、章ごとにメインとなるキャラクターが変わる仕組み。彼らの死に際まできっちり描かれるので、読者は愛着のあるキャラクターの死を幾度も味わうことになるでしょう。切なくもありますが、命を生き抜くその姿に感動する方も多いはずです。
本編だけで全19巻と長く、密度が濃いので読破するのはなかなか大変かもしれませんが、読後は必ず満足巻を得られる作品。ぜひチャレンジしてみてください。
海坂藩に居を構える普請組の牧助左衛門の息子・文四郎は、まだ元服前の15歳。父を尊敬し、道場の友人とたまにヤンチャをし、隣人の少女に淡い恋心を抱いている普通の少年です。
しかし彼の平穏な日常が、ある日突然崩れてしまいました。父が死罪となってしまったのです。孤独になった文四郎は……。
- 著者
- 周平, 藤沢
- 出版日
数々の名作時代劇を書いている藤沢周平ですが、そのなかでも特に有名なのが本作です。テレビドラマ化もされているので、名前を知っているという方も多いのではないでしょうか。
物語はいたって平穏な生活をしていた文四郎という少年の父親が、藩の世継ぎ騒動に巻き込まれ切腹させられたことで一変します。父を失い、淡い恋心を抱いていた少女とも離れ、藩からは虐げられる日々。文四郎はうっ憤を晴らすように剣の修行に打ち込むようになります。
亡くなった父は、文四郎と血の繋がりのない養父なのですが、彼はそんな父のことをとても尊敬していました。切腹させられた後もそれは変わらず、周りからどれだけ虐げられようともその想いと剣に支えられて生きていくのです。
辛い状況なのに根性を曲げることもなく、懸命に真っ直ぐ生きようとする少年の姿が、情緒豊かな文章で表されていきます。心理描写よりも情景を多く描いているのが特徴で、読者は知るはずもない江戸の風景をありありと思い浮かべることができるでしょう。父と息子の絆はもちろんのこと、ひとりの人間として成長していく彼の姿に思わず目頭が熱くなります。
心がじんわりと温かくなる感動作です。
時は享和2年。食処として知られる大阪のなかでも名店と誉高い料理屋「天満一兆庵」で、澪という少女が働いていました。彼女は天性の味覚の持ち主で、両親を亡くし天涯孤独になった今、一人前の料理人となるべく厳しい修行を積んでいたのです。
しかしある日、店が火事で燃えてしまいました。
店を失った主と女将は江戸にいる息子の元へ行くことを決め、澪も2人に付いていきますが、そこで待ち受けていた現実はとんでもないもので……!?
- 著者
- 高田 郁
- 出版日
- 2009-05-15
女性の料理人が主人公になった、高田郁の時代小説。いわゆる人情ものというジャンルで、心温まるエンターテイメントになっています。
両親を失い天涯孤独な少女が、その天才的な味覚を活かして料理人としての道を歩んでいく物語。最初は大阪が舞台になっていましたが、火事で店が燃えてしまうと、彼女たちは江戸で店を開いている店主の息子を頼ります。
しかし息子は放蕩三昧で、店を潰した挙句に行方をくらましていました。慣れない江戸の地で苦労しながらも健気に暮らす澪は、周りの人に助けられながら、料理人として一から成長していくことになります。
展開としては王道ですが、だからこそ安定感があり、最後まで安心して読むことができるでしょう。文章もまったく堅苦しくないので、時代小説に馴染みのない方でも読みやすいはず。人情もの時代小説の最初の一冊としておすすめです。
大正4年。ひとりの記者が、吉村貫一郎という男について調査を始めました。
かつて盛岡藩を脱藩し、幕末に新選組の隊士として働いた貫一郎の生涯とは……。
- 著者
- 浅田 次郎
- 出版日
綿密な取材のもとに執筆されたという本作は、浅田次郎の初めての時代小説として知られています。2000年には柴田錬三郎賞を受賞しました。
主人公となるのは動乱の幕末を生きた新選組隊士・吉村貫一郎。実在する人物ですが、彼を調べている記者は架空の人物です。物語は、記者が貫一郎のことを知っている人々に取材をし、回想するという形で進んでいきます。
面白いのは、取材先の人々が語る貫一郎の様子が、人によってまったく違うこと。取材を受けるのは元新選組隊士であったり教え子であったり、あるいは貫一郎の子供の親友であったりとさまざまな立場の人たちで、彼自身との関係の深さもまちまち。見る目が変わるのも当然なのかもしれません。
ただ数々の人が彼について回想することで、貫一郎の人物像がくっきりと浮かび上がってくるのです。彼について語る人々も個性的なのが面白く、当時をありありと思い浮かべることができます。
鹿島翔香はいたって普通の女子高生。ある日、自分の昨日の記憶がなくなっているいことに気が付きます。慌てて日記を見てみると、そこには自分の筆跡で、若松和彦に相談しなさいと書かれていました。
もちろん書いた記憶はありません。自分自身に疑問を持ったまま、翔香は学校一の秀才である和彦に接触しますが……!?
- 著者
- 高畑 京一郎
- 出版日
電撃ゲーム小説大賞を受賞した高畑京一郎の2作目。テーマはタイムリープです。ライトノベルとして発表されましたが、本格SFとしても評価が高く、同じくタイムリープをテーマにした『時をかける少女』と並び称されることもある作品です。
月曜日と思っていた日が実は火曜日で、翔香は自分の記憶がぽっかりと抜けていることに気が付きます。困った彼女が相談を持ち掛ける和彦は、学校一の秀才でなおかつ容姿端麗。目立つ存在なのですが、何となく冷たい雰囲気があって近寄りがたく感じていました。彼がタイムリープのパズルを解くために重要な人物になっていきます。
タイムリープものというのは時としてさまざまな矛盾が生じることがありますが、そのようなタイムパラドックスを正面から見据え、矛盾を解消するトリックや設定が練られているのが本作の魅力。全編にわたって伏線が散りばめられ、それを回収しつつ進んでいく構成は読めば読むほど読者を驚かせてくれます。
ストーリーが進むにつれて、翔香の命が狙われるというサスペンス的要素も加わり、物語はどんどん加速していきます。バラバラなピースを組み立てながら読むような作品なので、できれば一気読みすると、より面白さを感じることができるでしょう。
名門校ロウ・スネイアム記念上級学校に通うヴィルが、庭で読書をしていたところ、いきなり目の前に戦闘機が降りてきました。操縦していたのは、アリソンという名前の女性。彼女はヴィルとともに孤児院で育った幼馴染でした。
再会した2人は休暇を一緒に過ごそうとしますが、そんな時、戦争を終わらせることのできる宝が国境にあると言う謎の老人と出会い……。
- 著者
- 時雨沢 恵一
- 出版日
「キノの旅」シリーズで鮮烈なデビューを果たしたライトノベル作家・時雨沢恵一の作品。舞台となっているのは長く続いた戦争のせいで東西に分裂してしまった大陸で、そこに暮らす孤児院育ちの少年少女が、戦争を終わらせることができるという宝を求めて冒険に出る物語です。
続編も発表されており、一連の物語は「一つの大陸の物語」シリーズとして高い人気を誇っています。異世界を舞台にしたファンタジー作品ではありますが、主人公のアリソンが軍人という職業であることもあって、戦闘機や銃機器といったものがたくさん登場。魔法などのファンタジックなものはまったく出てきません。
ファンタジーは好きだけど、魔法や魔物にはお腹いっぱい……なんて思っている方にもおすすめです。
少年少女の冒険譚というストーリーはわかりやすく、タイトルにもなっているヒロインのアリソンは軍人、幼馴染のヴィルは優秀で頭のキレる学生というのもバランスが取れていて、読みやすいでしょう。
戦争を続ける2つの国、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上。ある日、レヴァーム自治区であるサン・マルティリアが天ツ上空挺兵団に襲われ、統治者であるディエゴは殺害、一人娘のファナ姫はさらわれるという事件が起きました。
ファナ姫の婚約者でレヴァーム皇国の皇子カルロは、彼女を奪還するため、空挺騎士団のエース・狩乃シャルルに極秘任務を言いわたします。
- 著者
- ["犬村 小六", "森沢 晴行"]
- 出版日
戦争状態が続く2つの大陸を舞台にした、犬村小六のライトノベル。王道なストーリー展開と、会話だけではない文章が幅広い層からの指示を受け、2007年には売上ランキングで1位を獲得する大ヒットとなりました。
本作の魅力は、やはり何といっても王道のボーイ・ミーツ・ガールであるというところ。主人公のシャルルが皇女である少女を守りながら冒険をする設定に惹きこまれてしまいます。
ところで本作を読んでみると、ジブリの名作「天空の城ラピュタ」を思い浮かべる方も多いかもしれません。実は作者もラピュタをイメージしたと公言しており、少年少女のハラハラドキドキする冒険、淡い恋心、空を駆ける世界観などは共通している部分と言ってよいでしょう。
王道だからこそ幅広い世代に支持され、人気作となった本作。ボーイ・ミーツ・ガール好きならぜひチェックしておきたい一冊です。
VRMMORPG「ソードアート・オンライン」(SAO)――プレイヤーはゲームの中に五感ごと入り込み、まるで現実のように仮想空間でゲームを楽しむことができます。
しかし、正式にサービスが開始された後にゲームが突如何者かに乗っ取られ、約1万人ものプレイヤーが仮想空間からログアウトできない事態に陥ってしまい……!?
- 著者
- ["川原 礫", "abec"]
- 出版日
ウェブサイトで連載されていた小説が書籍化され、シリーズ全体の発行部数が累計1300万部を超えるという大ヒット作品です。
物語は、約1万人ものプレイヤーがゲームを楽しんでいた仮想空間に閉じ込められてしまうところから始まります。脱出するためにはゲームをクリアする必要がありますが、ゲームオーバーすることは現実の世界での死を意味するため、プレイヤーたちは命掛けのデスゲームに強制的に参加させられることになってしまうのです。
周囲がパニックに陥るなか、ゲームのテストプレイヤーでもあった少年・キリトは、すぐさま状況を理解してクリアするために動き出します。
普段からRPGなどのゲームをしている方であれば、より一層物語を楽しむことができるでしょう。多少難しい専門用語もあるので、初心者の方は深く考えるよりもストーリーのなかで理解していくとよりスピーディに物語を楽しむことができます。
シリーズはすでに20巻を超えており、小説の他にアニメ化や漫画化、さらには別作者によるスピンオフ作品なども。その人気ぶりがうかがえますね。1巻が気に入ったら、ぜひ派生作品も楽しんでみてください。
比企谷八幡は、高校の入学式当日に交通事故に遭い、ひとり遅れて入学することになってしまいました。高校生活の出遅れは非常に痛く、八幡は2年生に進級した後も友達のいない「ぼっち」生活を送っています。
もはや開き直ってぼっち謳歌しようとする八幡でしたが、ある日生活指導の教師・平塚静から、「奉仕部」への入部を強制されてしまい……。
- 著者
- ["渡 航", "ぽんかん8"]
- 出版日
ライトベル作家渡航の2作目となる小説で、初めてのラブコメでもあります。主人公の八幡は、友達作りに失敗してひとりぼっちな残念系男子高校生。しかしそんな自分を正当化するため、妙なヘリクツをこねくりまわし、ぼっち生活を謳歌するのだと開き直っていました。
そんな彼を見かねた教師の平塚は、「奉仕部」という部活に無理矢理入部させるのです。
「奉仕部」というのは、生徒たちの悩みを聞き、解決する部活。所属しているのは学校一の才女で美少女の雪ノ下雪乃のみです。彼女は勉強のできる優等生ではありましたがコミュニケーションが苦手で、八幡と同じぼっち生活を送っていたのでした。
物語は奉仕部に持ち込まれる問題を解決しながら進んでいくのですが、性格や考え方の違う八幡と雪乃は衝突することもしばしば。しかし物語が進んでいくとヒロインになる女の子も増えて、ラブコメらしいドタバタ感やハーレム感を味わうことができます。
読む本に迷ったら、まずは人気作や名作をチェックしてみると、これまでにない発見があるかもしれません。お気に入りの作家がいれば、同作者の別作品を読んでみるのもいいですね。