尖閣諸島の領有権をめぐり、中国軍が日本に突如侵攻してきました……!あまりにもリアルな内容で、読んでいてフィクションだと気づかない方も多いのでは? 今回の記事では、そんな日中関係の「もしも」を描いた意欲作の魅力と、各巻の見どころをご紹介していきます。2019年に映画化が決定している注目作です。
2014年から「ビッグコミック」で連載中の『空母いぶき』。作者は『沈黙の艦隊』や『ジパング』などで知られる、かわぐちかいじです。
テーマになっているのは、尖閣諸島をめぐった中国との領有権問題。物語はフィクションですが、2010年には実際に尖閣諸島付近で、日本の巡視船と中国漁船が衝突する事件も起き、さらにたびたび中国船による領海侵犯もおこなわれていることから、現実味のあるストーリーになっています。
この記事では、2019年には実写映画化されるなど、ますます注目が高まっている本作の魅力と、各巻の見どころをご紹介。ネタバレを含むので未読の方はご注意ください。
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- 著者
- かわぐち かいじ
- 出版日
- 2015-09-30
中国による相次ぐ侵犯行為に危機感を抱いた、内閣総理大臣の垂水慶一郎(たるみけいいちろう)。日本で初めての航空母艦「いぶき」の建造と、それを旗艦とする「第5護衛隊群」を設立する「ペガソス計画」を、予定より前倒して完成させました。
いぶきの艦長には航空自衛隊のエースパイロット・秋津竜太(あきつりょうた)が、副艦長には海上自衛隊の新波歳也(にいなみとしや)が着任します。
各地で演習を重ねるなか、ある日中国軍が突然日本への侵攻を開始。武力衝突が避けられない事態となっていくのです……。
本作の魅力のひとつとして、リアリティの高さがあげられます。
2016年に雑誌「正論」で、衆議院議員の小野寺五典、元海将の伊藤俊幸、評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人が、本作をテーマに対談をおこないました。
小野寺氏が初めて防衛大臣を務めたのは、2012年から2014年のこと。当時も中国による威嚇行為や侵犯行為は頻繁にされていました。そんな彼も本作を読んで、「あまりにリアルで驚いた」「私たちが経験した緊張感を共有している」と述べています。
また伊藤氏も、「現場をよく知っている」と作者に感心していて、とくに船内での会話などは「自衛隊にかなりの協力者がいるのでは」と感じたそう。
もちろんなかには、現実では絶対にありえないような展開もあるそうですが、「安全保障環境の厳しさや防衛問題を知るきっかけとして、多くの人に読んでいただきたい」と、プロのお墨付きを得ている作品です。
日本と中国の両政府は、それぞれの根拠を掲げて尖閣諸島の領有権を主張します。日本側が「国連に提訴する」といっても、中国側は動じる気配がありません。またアメリカは、中国を相手に事を構えるのを良しとしておらず、積極的な介入はしないという状況です。
そうなると日本に残された選択肢は、自己防衛能力を強化すること。その具体策が空母「いぶき」でした。中国軍の侵攻に対し、いぶきを中心とした陸・海・空の自衛隊が戦っていきます。
この姿を見ると、日本を守るためには空母は必要だという意見にも納得できるし、その一方で空母を作ったことが中国を刺激しているのではないかという意見にも耳を傾けたくなります。
空母は本当に必要なのか、考えながら読むことで、本作をより楽しめるのではないでしょうか。
尖閣諸島への中国人上陸事件、日本の領海内における日中の船舶衝突事件など、立て続けに起こる中国の侵犯行為に対し、日本政府は空母「いぶき」を旗艦とする「第5護衛隊群」を設置しました。
艦長には航空自衛隊から海上自衛隊に転属してきた秋津が、副艦長には海上自衛隊の新波がそれぞれ着任します。しかし、2人の考え方には違いがありました。
- 著者
- かわぐち かいじ
- 出版日
- 2015-09-30
注目は、秋津と新波の関係性です。
艦長を務める秋津は、自らの自衛官としてのあり方を「軍人」と言い、会議で「第5護衛隊群」のあり方を問われれば「アジア最強」と答えるなど、武力には武力で対抗する考えを主張します。
一方の新波は、専守防衛を徹底し、人命を第一に考える姿勢を大切にしています。もともと2人は艦長の座を競っており、結果的に秋津が選ばれたものの、新波は彼の思想や言動に不信感を抱いていたのです。
しかし演習をしていくなかで、秋津が艦長として努力をしていることやリーダーシップを持っていることもわかり、しだいに評価を変えていきます。
今後の2人の関係性が、日本の命運を担うかもしれません。要注目です。
時は20XY年4月、「いぶき」が南鳥島沖で演習をしていると、中国軍が日本に侵攻を開始しました。先島諸島に上陸し、島民全員を制圧下に。陸自駐屯地までも占領され、自衛隊初の戦死者が出る事態に発展します。
一連の報せを受けた日本政府は、防衛大臣の命によって「海上警備行動」を発令しました。「第5護衛隊群」にも現場海域に向かうよう指示が出されますが、その行く手を中国海軍潜水艦2艦が阻もうとしてくるのです。
- 著者
- かわぐち かいじ
- 出版日
- 2015-09-30
見どころは、政府が自衛隊に下す命令について議論するシーン。正当防衛または緊急時にしか武器を使用できない「海上警備行動」なのか、外部からの攻撃に対して必要最低限の武力行使ができる「防衛出動」なのか、あるいは「防衛出動待機命令」なのか……。
あらゆる事態を想定して決断していきます。その複雑さに、政治家に課せられた厳しさを実感するでしょう。
また、「第5護衛隊群」と中国軍の潜水艦が対峙するシーンにも注目。「第5護衛隊群」の先島諸島到着を遅らせようと、潜水艦2艦がプレッシャーをかけてきます。中国軍が攻撃を仕掛けてくる可能性もあり、油断できません。
脅しに負けて迂回するのか、直進して正面突破を試みるのか……必見です。
中国軍の戦闘機による自衛隊偵察機の撃墜を受け、ついに日本政府は「防衛出動」を命じました。
一方、沖大東島沖で補給を受けている「第5護衛隊群」に向けて、中国軍空母「広東(かんとん)」から最新鋭機「殲20」が発進……!この攻撃を凌ぐことはできるのでしょうか。
- 著者
- かわぐち かいじ
- 出版日
- 2016-01-29
3巻では、2度にわたって戦闘機の襲撃がおこなわれます。
1度目はイージスミサイル護衛艦「あたご」と「ちょうかい」が対応し、2度目は空自最新鋭機「F35」が応戦。どちらもギリギリの攻防をくり広げており、「防衛出動」をきっかけにさらに戦いが激化してきたことがわかるでしょう。
また、占領下にある島民の解放をめぐる交渉シーンにも見どころです。中国側が「魚釣島の領有権が中国にあると認めることで島民を解放する」という姿勢を断固として曲げないため、話し合いは難航します。
しかしあることをきっかけに、中国の本音を引き出すことに成功しました。外交交渉における駆け引きや粘りも見ごたえがあります。
「防衛出動」下にもかかわらず、中国との交渉への影響を考慮し、戦闘を回避するように命じられる「第5護衛隊群」。矛盾する状況のなかで、潜水艦「けんりゅう」に向けて中国潜水艦「遠征」が魚雷を発射しました。
艦隊を守ろうと反撃しようとする「けんりゅう」ですが、その時もうひとつの潜水艦「せとしお」が、思わぬ動きを見せるのです。
- 著者
- かわぐち かいじ
- 出版日
- 2016-06-24
交渉に悪影響を与えうる戦闘を避けるように命じられているなか、「せとしお」がある意外な「戦い方」を見せます。それに「けんりゅう」も応え、中国「遠征」からの魚雷攻撃を凌いでいくのです。
2艦が見せる巧みな技能に注目してください。
占領された島々を武力奪還する作戦「はやぶさ」。空母「いぶき」の艦載機が現場海域の航空優勢を確保することに成功しました。
しかし中国軍駆逐艦2艦が先島諸島への行く手を阻みます。
敵艦を無力化するため、武装のみを破壊する作戦をイージス護衛艦「ちょうかい」が実行することになるのですが、果たして航空優勢を守り抜くことはできるのでしょうか……。
- 著者
- かわぐち かいじ
- 出版日
- 2016-10-28
5巻では何より「ちょうかい」の戦いっぷりに注目。艦長・浮船武彦(うきふねたけひこ)の的確な指示で、敵艦の兵装を次々と破壊していきます。
緊迫する状況でいかに最良の判断をすばやく下すことができるか、その重要性を思い知らされます。
また浮船は、「いぶき」の艦長である秋津を慕う人物でもあります。彼の回想によって、1巻で秋津が言った「アジア最強」という言葉の意図もわかるので、見逃さないでくださいね。
ついに与那国・多良間島の武力奪還作戦「はやぶさ」がはじまりました。ところが、自衛隊の「特殊作戦群」が上陸したことに気づいた中国軍が、想定外の対応をとったため、作戦は難航してしまいます。
時間の経過とともに追い詰められていく「特殊作戦群」。そんな彼らの状況を打開すべく、空母「いぶき」の秋津が、とある作戦を提案しました。
- 著者
- かわぐち かいじ
- 出版日
- 2017-02-28
上陸に気づかれてしまった「特殊作戦群」は、島民が分散収容されたことにより苦戦を強いられます。占領下にある彼らに自分たちの存在を知らせることで、安心感を与えることができたものの、中国軍のさらなる攻撃を受けてなかなか奪還することができません。
その状況を知った秋津は、空自の「F35」を護衛につけて物資を届ける作戦を提案しました。これは敵に迎撃される可能性もあるリスキーなものなのですが……。
トラブルにも見舞われ、恐怖に耐えながらもなんとか物資を届けようと全力を尽くす隊員たちの姿が印象的です。
尖閣諸島で進められている中国軍の基地建設。これを放っておくと領有が既成事実化してしまうため、一刻も早く阻止しなければなりません。
そこで秋津は、なんと建設中の基地に砲撃をする作戦を立てました。
しかし、尖閣諸島には1600名もの兵士がいます。そこに艦砲を撃ち込めば多数の死傷者を出すこと必至……。秋津は開始時間を決めて事前通告もすると主張しますが、中国軍がどう動くのかはわかりません。
最高指揮官である総理大臣の垂水は、葛藤のすえ砲撃を認可するのでした……。
- 著者
- かわぐち かいじ
- 出版日
- 2017-07-28
それまでの自衛隊は、中国軍に振り回され、後手後手に何とか対応している状態でした。しかし今回の砲撃は、日本から仕掛ける形となります。
「我々の断固たる意志の表明です」(『空母いぶき』7巻より引用)
秋津はこう位置づけました。
またこの作戦には、事前通告を受けて中国側がどのような動きを見せるか確かめる意図もあります。その動きしだいで、今回の日本への侵攻がどのような考えにもとづいておこなわれているのかが見えてくるというのです。
さて中国軍はどのような反応を見せるのでしょうか。
ついに尖閣諸島への砲撃がはじまりました。阻止しようとする中国軍潜水艦4艦と、砲撃を担うイージス艦「あたご」、そしてそれを守る「けんりゅう」自衛隊潜水艦3艦が対峙します。
両者ともが魚雷を撃ち合う「乱打戦」。戦いの行方は……?
- 著者
- かわぐちかいじ 惠谷治(協力)
- 出版日
- 2017-11-30
建設中の基地を守ろうとする中国軍潜水艦と、基地に砲撃する「あたご」、「あたご」を守る「けんりゅう」たちが、息の詰まる攻防戦を展開します。
しかし中国側が巧みな動きで「けんりゅう」を出し抜き、「あたご」に接近してきました。魚雷で狙ってきます。日本はこのまま基地砲撃作戦を続けることができるのか、要注目です。
砲撃作戦が終了した後、中国軍は空母「いぶき」を主敵と定め、艦隊を再編成してきました。日本の自衛隊の予想斜め上をいくものになっているので、ぜひチェックしてみてください。
また、中国の空母「広東」も「いぶき」と向き合おうとする気配が。初めての空母対決、どうなるのでしょうか。
「第5護衛隊群」と「広東」艦隊の間に割り込むようにして針路をとる大型台風。「第5護衛隊群」はこれを回避したのに対し、「広東」艦隊はあろうことかそのまま暴風圏に突入します。その狙いは日本、そして戦いを見守る世界各国に対して、艦隊の力を誇示することだったのです。
- 著者
- かわぐち かいじ
- 出版日
- 2018-03-30
9巻では、中国軍が再び日本にダメージを与えます。
台風を乗り越えて、尖閣諸島を目指す「広東」艦隊から繰り出される戦闘機「殲20」。それを見た「第5護衛隊群」は対空戦闘に備えます。
ところが、「殲20」のターゲットは艦隊ではなく、その拠点である下地空港だったのです。ここを叩くことで補給などを困難にし、「第5護衛隊群」を追い詰めようという意図があります。
さらに「殲20」は民間の飛行機もある宮古空港も攻撃。またしても日本国民の近くまで戦火が迫る展開に、緊張感が高まります!
中国は「殲20」を追加で投入してきました。これに日本側は、焦りを覚えます。
しかし、そんな状況でも、秋津はF35を発艦させません。ここで我慢して敵の攻撃に耐えることで、中国側が不安を感じ、動揺することを狙っての判断でした。
空母いぶき 10 (ビッグコミックス)
2018年07月30日
しかし、その後も敵から攻撃を受け続ける日本。さらに、そのなかで1基のミサイルが「ゆうぎり」に接近し、命中してしまうのです。その結果、日本側は13名の死傷者を出す事態となりました。
本巻の見所はそんななか、満を持して発艦したF35です。中国側に近づいてタイミングを見計らい、16基のミサイルを一気に放ちました。しかし、そこで大人しくしている中国ではありません。相手もミサイルを撃ってきたのです。
その結果、なんと日本側のミサイルがすべて撃ち墜とされてしまうことに……。絶体絶命に思える日本側ですが、ここから第2の攻撃に移ります。この局面をどのように乗り切るのか、必見です。
果たして、中国との戦いの行方は?
「いぶき」艦長・秋津は、艦載機F35JBによる 攻撃作戦を成功に収めました。続いて、 潜水艦「けんりゅう」に単独突入攻撃の命を下します。 しかし、相手の「広東」戦艦は潜水艦探知が容易な 浅海に……!
命を受けた「けんりゅう」は、一体どういう立ち回りを見せるのか……⁉
- 著者
- かわぐちかいじ 惠谷治
- 出版日
- 2018-12-27
潜水艦による極限の戦闘が描かれる11巻。いままであまり活躍のなかった「けんりゅう」が、今巻では主役です。
潜水艦探知が容易な浅海にて待ち構える中国「広東」戦艦を破ることはできるのか⁉日本軍の不利な戦況下で、「けんりゅう」がとった作戦とは……⁉
圧倒的逆境から無理難題を課せられた「けんりゅう」艦長、決死の戦闘は必見です!
果たして、「けんりゅう」の運命は……⁉
潜水艦「けんりゅう」による水中戦が繰り広げられていた前巻から一転。今巻では遂に空中戦が繰り広げられます。
総戦力は、いぶき11機vs広東35機!圧倒的に数的不利な状況の中、日本のとった決断とは……!
- 著者
- ["かわぐち かいじ", "惠谷 治"]
- 出版日
遂に幕をあけた、全面空中戦。 日本の空母「いぶき」に残された戦闘機は残り11機なのに対し、中国の「広東」が擁する機数は35!3倍以上もの戦力差を前に、決死の作戦がはじまります。
「自衛」という制限がある日本の作戦は、広東の甲板の破壊。 しかし、中国側には自衛という枷はありません。空母いぶきを沈めるための攻撃が、容赦なく続けられていきます。
さらに今巻では、政治に関する大きな動きがあるのもポイントです! 日本の首相・垂水が、この決戦について国民に公表することを決心しました。
一国の長として下した余りにも重い決断は、中国との戦闘にどのような影響をもたらしたのでしょうか……!
次巻、遂にクライマックスです!最終決戦の行方をお見逃しなく!