『透明なゆりかご』は看護学生時代の作者の産婦人科での体験をもとにした作品です。出産の喜び、中絶や流産の苦しみ、児童虐待など命の現実を包み隠さず描き、多くの女性の共感を呼んでいます。現実に向き合う作者の姿を通して命の尊さを感じる作品です。
20代〜30代の女性を中心に幅広い層から共感を得ている『透明なゆりかご』。2018年7月にTVドラマ化が決定している人気作です。
本作は作者の×華が看護学生時代にアルバイトをしていた産婦人科医院での体験をもとに作られました。日々起こる幸せな出産、しかしその一方では中絶などでひっそりと消える命もあります。作者はその現実に正面から向き合い、ありのままの真実を描いています。
命の輝きと、時に残酷な現実に懸命に向き合う×華の姿を通して命の尊さを感じる感動の作品です。
- 著者
- 沖田 ×華
- 出版日
- 2015-05-13
本作の作者は沖田×華(おきた ばっか)。看護師から風俗嬢、そして漫画家へ転身した異色の経歴の持ち主です。子供のころからADHD・発達障害と診断され、大人になってからはアスペルガー障害であることもわかりました。
両親の仲が悪かったり、実家が中華料理店で学校ではチャーハン臭いといじめられたりしていました。そんな苦労の中で障害を抱えながらも正看護師になりましたが、障害により職場でコミュニケーションをうまく取ることができず、自殺未遂をし、看護師を辞めました。
- 著者
- 沖田 ×華
- 出版日
- 2013-09-10
そして次に就いた仕事が風俗嬢でした。風俗の仕事では仕事仲間の本名も知らない希薄な関係を気に入っていたそうです。また、幼少期に家が貧しかったことからお金を貯めることにこだわりがあり、自分のことは自分でしたい、自分で稼いだお金で人生をまっとうしたいと思っているといいます。
そんな作者の作品は、『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』、『ガキのためいき』、『蜃気楼家族』など、自身が抱える障害や家族を題材としたものが多数あります。同じ障害を抱える読者からの感想や、障害を抱える子供を持つ家族から「障害への理解が深まった」という反響が寄せられました。
今回ご紹介する『透明なゆりかご』は、作者自身の障害ではなく、命の物語です。 7巻までの各巻の見どころをご紹介していきます。ネタバレを含みますのでご注意ください。
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1997年。当時看護学校生だった作者・沖田×華は産婦人科医院でアルバイトをしていました。看護師免許を持っていない×華の仕事は介助と雑用、そしてもうひとつ。……それは、中絶によって亡くなった赤ちゃんの「命だったカケラ」を集めることでした。
1巻では子供を病院に捨てた母親、×華の後輩の中絶手術、義父に性的虐待を受ける女の子など様々な事情を抱えた女性が登場します。女性達に×華はどのように向き合っていくのでしょうか。
- 著者
- 沖田 ×華
- 出版日
- 2015-05-13
1巻の見所は、×華が初めて体験する中絶手術と出産の立ち合い、そして「命だったカケラ」に対する思いです。
産婦人科医院の「××クリニック」でアルバイトを始めた看護学校生の×華。まだ看護師免許を持たない×華の仕事は介助と雑用、そして中絶手術で亡くなった赤ちゃんの「命だったカケラ」を容器に集めることでした。
やがて業者がやって来て、容器を引き取って行きます。形式上の火葬をしてくれるのです。×華は母親以外誰も悲しむことのない命に、毎日こっそりお別れを告げていました。淡々と仕事をする×華ですが、命を大切に思っていることが分かります。
そしてアルバイト初日、手術中に倒れた看護実習生の代わりに×華が手術の手伝いをすることになりました。その手術とは人工中絶手術。
次の日。昨日は中絶手術をした同じ分娩台で出産が行われます。同じ分娩台で消える命と産まれる命があることに、×華は不思議な気持ちになります。そんな中、気が立った妊婦さんに物を投げつけられたり、先輩看護師に「どいて!」と突き飛ばされたりと殺気立った出産の現場に呆然とするのでした。
やがて元気な泣き声が聞こえ、男の子が誕生します。手術室には「ハッピーバースデー」の歌が流れ、×華は感動で胸がいっぱいになり、滝のような涙があふれ出ました。
そしてまた、「命だったカケラ」を容器につめる×華。日の光を見ることもなく亡くなった赤ちゃんの命だったカケラにせめてもと外の景色を見せます。そして業者に引き渡すために病院内を進み新生児室の前に来たとき、×華はこういいます。
「またこの世界に戻ってきたら、今度はずっとここにいられますように」
(『透明なゆりかご』1巻から抜粋)
誕生を祝福される命とひっそりと消える命……。×華はいろいろな命のあり方を見てみたいと思います。それが自分にとって大切なことだと思えたからです。×華はこれから「命」にどう向き合っていくのでしょうか。
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2巻では妻が出産で命を落とし残された双子を抱えて途方に暮れる父親、不妊と名家の跡継ぎ問題に悩む夫婦、「ドゥーラ」と呼ばれる出産前後の付添人、とても不機嫌でワガママな妊婦、14歳の女の子の妊娠、やる気がない看護専門学校生などが登場します。
先輩看護師から最初はすぐ辞めると思われていた×華ですが、仕事にも慣れてきて、もっと命の輝きに心を打たれたいと思うようになりました。そして命の現場に立ち会う厳しさと覚悟の持ち方に気づいていきます。
- 著者
- 沖田 ×華
- 出版日
- 2015-10-13
ある日××クリニックに、41歳の女性・涼子が来院しました。涼子は4人の男の子を持つ母親です。とても落ち込んだ様子で中絶をしたといいます。先日まで「今度こそ女の子に恵まれるかも」と喜んでいたのに、一体何があったのでしょう。
院長が話を聞くと、家族に産むことを反対されたといいます。涼子にとっては何人いても大事な子供に違いないのですが、今さら子供なんていらないという夫、「キモい」と吐き捨てる子供たちなど、涼子の周りの誰も賛成してくれないことに傷ついていました。
×華は思います。妊娠は女性ひとりだけの問題ではない、相手にも同等、いやそれ以上の責任がある、相手あってこその妊娠なのに、なぜ女性ひとりだけがすべての責任を負わなければならないのだろうと。
×華に励まされもう一度家族を説得してみるといった涼子ですが、突然苦しみ出します。涼子は切迫流産の危険にさらされていたのです。そしてそのまま彼女は入院することになります。
入院中の涼子に夫と女性が訪ねて来ました。女性を見るなり涼子は激怒します。×華がふたりを帰らせたあと涼子に謝ると、涼子は事情を話しだしました。
訪ねてきた女性は夫の妹で久美といい、以前は仲が良かったのですが、涼子が子供を何人も出産すると「ハムスターみたいにぽんぽん産んじゃって」などとイヤミをいうようになり、絶縁したとのこと。久美に会ってナーバスになった涼子は中絶するか悩み出してしまいます。
容体が安定し、自宅療養をする涼子のもとに、久美が自分の夫とともに訪ねてきました。そして涼子に今までのことを謝り、涼子のお腹の子供を養子として育てさせてほしいというのです。
久美は不妊に悩んでいて、何の苦労もなく赤ちゃんを授かる涼子を見ては自分を責め、しだいに涼子を妬むようになったといいます。しかし、涼子の妊娠の話を聞いて自分がまだ子供を諦めきれていないことに気づき、大切に育てるから引き取らせてもらえないでしょうかと頭を下げるのでした。
涼子は自分が知らないうちに久美を傷つけていたことに初めて気がつきます。そして、赤ちゃんを久美夫妻の養子にすることを決意するのでした。
その後涼子は元気な男の子を出産し、退院の日がやって来ました。涼子を迎えに来てくれたのは、涼子の夫、久美夫妻、そして出産を反対していた子供たちでした。
涼子は久美に赤ちゃんを抱かせ、感極まった久美は涙を流しながら言います。
「無事に産んでくれてありがとう。産まれてきてくれて……ありがとう」
(『透明なゆりかご』2巻より抜粋)
赤ちゃんが結んだ家族の絆にとてもあたたかい気持ちになる×華なのでした。
3巻では7日間だけの命の赤ちゃん、周りの期待にプレッシャーを感じる妊婦、病院に置き去りにされた子供、自らが障害を抱えるハイリスク妊婦、病気で子供を亡くした母親など、子供に焦点を当てた話が多いのが特徴です。
そして×華のバイト先の院長の話も出てきます。辛い話も多い中、院長の話はホッと心を和ませてくれます。何事にも全力すぎる院長の話は必見です。
今回は×華がNICU(新生児集中治療室)で出会った赤ちゃんの話をご紹介します。
- 著者
- 沖田 ×華
- 出版日
- 2016-04-13
看護学校の実習で総合病院のNICU(新生児集中治療管理室)を訪ねた×華は、ひとりの赤ちゃんに出会います。赤ちゃんの名前はミノリ。鳥のヒナかと思うほど小さな430gの女の子です。
×華の手とほとんど変わらない小さな体にたくさんのチューブが付けられている姿はとても痛々しく、生きているのか分からないほど静かな姿に、×華はミノリがちゃんと育つのか心配になります。さらにミノリのお母さんがまだ一度もミノリに会いに来ていないことを知って驚きます。NICUの主任の丸井がお母さん代わりのように献身的に看護をしていました。
×華はミノリに話しかけてみました。すると、返事をするように体を動かしたのです。彼女はミノリが「わたしは生きているよ」と懸命にメッセージを送ってくれているかのように感じます。
そんなある日、×華は偶然ミノリの母親の病室に食事の配膳をします。そこで布団を被ったままピクリともしない母親を見て、×華はこのままミノリに会わないのではないかと不安になりました。
次の日から×華は配膳のたびにミノリの様子を母親に伝え続けました。すると母親の姉が現れ、母親がご飯を少しずつ食べるようになっていて、近いうちにミノリに会いにいくかもしれないというのです。
少し希望が持てた矢先、ミノリの容体が急変しました。×華は急いで母親のもとへいき、会いにいくよう説得を試みます。
そして次の日。なんと母親ががミノリに会いに来ていたのです。母親に会えたことで元気が出たのか、日に日に体重が増えていくミノリ。
そして×華の実習が終わる2日前。母親は初めてミノリその腕に抱きました。
「ミノリ大好きよ。世界で一番大好き。愛してる。愛してるよ」
(『透明なゆりかご』3巻より抜粋)
懸命に愛を伝える母親。しかし一度は容体が持ち直したミノリでしたが、再び容体は悪化し、そのまま息を引き取ってしまいます。
しかし彼女は最期、確かに母親の愛に包まれて、愛というものを知った上で息を引き取りました。ミノリとの出会いを通じてまたひとつ命の大切さを学んだ×華なのでした。
4巻では父親にまったく似ていない子供を産んだ母親、家の床下で暮らす男の子、「鍋バー」と呼ばれる名物婆さん、障害のある子供を見捨てた父親、何事にも計画的な妊婦、ゴミ山で出会った少女、ダメ夫に立ち会い出産をさせる妻などが登場します。
今回は、妻に逃げられひとりで娘を育てようとするダメ男の話をご紹介します。
- 著者
- 沖田 ×華
- 出版日
- 2016-10-13
×華はある日「もずくベーカリー」という子供の頃からの馴染みのパン屋にいました。するとそこに地元で有名な不良の拓真が妊娠中の奥さんとパンを買いにやって来たのです。万引き癖のある拓真にパン屋の五十井はちゃんとお金を払うよう注意します。それを見た×華はこんな父親で大丈夫なのかなと不安になるのでした。
その後無事に女の子が産まれ、「玲花」と名付けた拓真は娘にメロメロな様子です。ところがしばらくして拓真が玲花を連れてもずくベーカリーにやって来た時、まだミルクが必要な玲花にいきなりパンを食べさせるというのです。
居合わせた×華たちが事情を聴くと、彼は奥さんに逃げられたのだと言いました。ミルクがなくなってしまい、お金がない拓真は玲花にパンを食べさせようと思ったのだそうです。
定職にも就かず子育ての知識もない拓真に玲花を育てるのは難しいと思った五十井は、施設に預けることをすすめました。しかし拓真は「玲花と一緒にいるためなら何でもします。助けてください」と必死に頭を下げるのです。そこまで言うならと、五十井たちは子育てのサポートをすることにしたのでした。
拓真はバイトを始め、五十井たちもずくベーカリーのおばちゃんたちが交代で玲花の世話をするようになって1年が経ちました。夜中に五十井に電話をして玲花のウンチが真っ白だと大騒ぎしたり、玲花を連れて散歩に出ると警察から誘拐犯に間違われたりと危なっかしいことこの上ない拓真ですが、玲花への愛情は強く、きっとよい父親になるだろうと五十井たちはいいます。
ところがそんな矢先、拓真が万引きで捕まってしまいました。しかも万引きしたのがよりにもよって「もずくベーカーリー」があるスーパーだったのです。拓真によるとバイトから正社員になれたものの、プレッシャーに耐えられず思わず手を出してしまったといいます。
拓真の恩を仇で返す行為に、親身になって拓真を助けてきた自分たちのしてきたことは何だったのかと五十井たちは激怒します。拓真は会社をクビになり、玲花は親族に引き取られて、それきり会うことはありませんでした。
そして、事件から13年後……。 もずくベーカリーにひとりの少女が訪ねてきました。少女は玲花と名乗り、昔ここでお世話になったといいます。すっかり可愛らしい少女に成長した玲花に五十井たちは感激します。
玲花は引き取り先であまり愛情をかけてもらえなかったようで、辛いときはいつもパンの匂いを思い出していたといい、五十井たちにお礼をいいました。本当は拓真に会いに来たのではないかと感じた五十井は「お父さんに会ってみない?」と玲花に提案し、玲花は戸惑いながらもこくりとうなずきます。
玲花たちが拓真の家の前にやって来たとき、拓真がどこからか帰って来ました。ヒゲも髪も伸び放題のボサボサで服は薄汚れていて、玲花と別れたあと、厳しい生活を送ってきたことがうかがえます。
玲花に気づいた拓真は、震えながら「オレはいいかげんで関わってくれた人を裏切って、妻と娘を幸せにすることもできない本当にダメな人間だ」と涙を流します。しかし、そんな拓真に玲花はためらうことなく駆け寄り、こう言って抱きつくのでした。
「それでも私のお父さん。育ててくれてありがとう」
(『透明なゆりかご』4巻より抜粋)
どんなにダメな親でも玲花に対する愛情はちゃんと伝わっていたのです。子供が辛いときに支えてくれるのは、わずかでも幼いころの愛情のある思い出。そんなことを学んだ×華なのでした。
5巻では、中絶手術しかしない病院、前世の記憶を持つ男の子、母親との約束を果たす妊婦、×華と同じ学校に通う少女たちの妊娠、水子供養をする母親、女系家族に産まれる男の子、感情がない妊婦などが登場します。
今回はそのなかでも特に印象的な、妊娠にまつわる男性の責任を問う話をご紹介します。
- 著者
- 沖田 ×華
- 出版日
- 2017-05-12
××クリニックの駐車場に赤い車が頻繁に止まっていました。健診と中絶日に現れるのですが、連れてくる女性が毎回違うのです。×華は「何回も中絶させるなんてどんな男なんだろう」思っていました。
そんななか、×華が集めた「命だったカケラ」を引き取りにいつもどおり業者がやって来るのですが、新しく担当になった浅野はさわやかでとてもよい印象の人物でした。先輩看護師にもあっという間に馴染む彼は、人を巻き込む不思議な魅力を持っていました。
ある日×華は浅野から合コンに誘われます。どうするか迷った彼女は先輩に相談。すると師長が昔、浅野の出産に関わったことがあると明かすのです。浅野の働きぶりを見た師長は、浅野の母親が女手一つながら浅野を立派に育てたのだろうと感じたと言います。その師長の言葉に合コンに行っても大丈夫かなと思った×華は、友達のマイを誘っていくことにしました。
合コン当日、浅野が車で×華たちを迎えに来ました。×華は車をみてハッとします。いつも××クリニックに止まっている赤い車とよく似ていたのです。不安をおぼえつつ、必至に疑念を払おうとします。
そして海の見えるオシャレなレストランで合コンが始まりました。話は弾み、マイは浅野がいいといいます。そんな中とつぜん席を外した浅野と友人。胸騒ぎがする×華はこっそり後をつけました。
そこで聞いたのは、浅野が友人に、彼女を妊娠させたから病院に付き添わないといけないと語る内容でした。×華は飛び出し「××クリニックに止まってた赤い車は浅野だったの?」と問いかけます。すると浅野は悪びれもせず「それがどうかした?」と言うのでした。
自分は女性と話し合って中絶費用も出しているし、付き添いもしている。中絶を決めたのは女性で自分が強要したわけじゃない。ちゃんと責任はとっているというのです。×華は浅野に、子供はふたりの問題で、女性ひとりに産むか決めさせるような無責任な男の子供を産めるわけがないと言います。
それから浅野は仕事を辞めたらしく、×華は浅野と会うことがないまま1ヶ月が過ぎました。そんなある日、また浅野が女性と一緒にやって来たのです。浅野と女性は診察を受け、子供を産むと言っています。どういう心境の変化なのかと驚く×華に、浅野が声をかけてきました。
今の彼女は妊娠が分かったとき、浅野にひとりで産むといったそうです。自分とは遊びだと分かっているからと。そんな彼女に浅野は自分の母親を重ねます。
そして母親になぜひとりで自分を産んだのか聞くと、こんな答えが返ってきたことを思い出すのです。「妊娠がわかったとき初めて生きる意味を知り、一緒に生きていきたいと思ったからよ」と言った母の言葉。そして母親はさらに浅野にこう続けたのです。
「あなたが来てくれて幸せになれた。後悔なんてしてないわ」
(『透明なゆりかご』5巻より抜粋)
その言葉に浅野は自分がどれだけ母親に大切に思われてきたか知ったのです。そして仕事で引き取っていた箱の中身が中絶で亡くなった赤ちゃんであり、自分が中絶させた子供がこの中にいたのかと考えたら涙があふれてきたと語りました。
そして浅野は妊娠している彼女のため、母親のため、産まれてくる子供のために人生をやり直すと×華に語ったのでした。
6巻では子供を虐待するシングルマザー、父親の自覚を持てない男、自分のしこりと友達になった女の子、よい父親になろうとして空回りする男性、×華が子供のころの出会った姉妹などの話があります。
その中で今回は×華の先輩、××クリニックの中心的存在の師長のお話をご紹介します。
- 著者
- 沖田×華
- 出版日
- 2017-12-13
ある日のこと、××クリニックに緊急患者がやって来ました。甲本さやかは27歳の初産で、過去に一度流産した経験があります。今回は順調に育っていたのですが、とつぜん切迫早産の危険に見まわれたのでした。
院長が懸命に処置を行いますが、時すでに遅く、赤ちゃんは死産となってしまいました。以前にも流産を経験しているさやかのショックはとても大きなものでした。×華は泣きそうになりながらも、少しでも動いて役に立とうとベッドメーキングをします。その様子に、アルバイトを始めたころの×華と比べて格段に成長していることが分かります。
×華は冷静に対処する師長の姿を見て、どうしてあんな風にできるのか不思議で仕方がありません。そんなことを考えている時、彼女は師長に呼ばれます。そして師長は死産した赤ちゃんをさやか夫妻に会わせると言うのです。
赤ちゃんをキレイにしながら師長は新人だったころの自分の話を始めました。師長が勤めていた病院に池田という妊婦がいて、師長と彼女は友達のように仲良くなりました。やがて池田の出産の日がやってきて師長も立ち会います。しかし、残念なことに赤ちゃんは死産となってしまったのです。
麻酔から目が覚めた池田は赤ちゃんの様子を師長に聞きました。すると師長は涙をこらえきれず、池田にすべてを悟られてしまったのです。このことは病院でも問題となり、それきり池田と会うことはありませんでした。
先輩たちはいつまでも泣いてないで切り替えろといいますが、師長はなぜ先輩たちは平気なのだろう、慣れてしまえば当たり前になってしまうのかと悩みながら仕事を続けました。そんな時、厳しいばかりと思っていた先輩が、流産をした妊婦に優しく寄り添っている姿を見るのです。
×華に話をしながら師長は赤ちゃんの体をお湯であたため、顔色が良くなるように薄くワセリンを塗ります。そしてガーゼで体をくるみ、胸元に花飾りをつけました。そしてきれいになった赤ちゃんをさやか夫妻のもとへ連れていきます。
赤ちゃんを見たさやか夫妻は「かわいい……。パパ似かな」などと嬉しそうに話しています。家族3人で写真を撮ると、さやかは師長にこういいます。
「師長さん……この子の存在を認めてくれてありがとうございます」
(『透明なゆりかご』6巻より抜粋)
そのあと師長は×華に「看護師の仕事とはなにか」を教えます。
「一つは相手の悲しみや苦しみを受け止めて寄り添うこと。
もう一つは亡くなった子にも生きている子と同じように接すること」
(『透明なゆりかご』6巻より抜粋)
その言葉から、師長がどれだけの悲しみを乗り越えてきたのかと、×華は思いを馳せます。そして、医療従事者の仕事はとても尊く誇りある仕事だと思うのでした。
7巻では知的障害を持った女性、性的暴行に遭った女子高生と結婚目前だった女性、妊娠中にシングルマザーになる決意をした女性、産後うつになった女性など、胸が苦しくなるような話が収録されています。
その中で今回は性的暴行に遭った女性たちの話を紹介します。
- 著者
- 沖田 ×華
- 出版日
- 2018-08-09
クリニックの休憩時間のこと、ひとりの少女が診察室で暴れ始めました。それは昨日連絡がきて、人目を避けるようにしてやって来た沙知という女子高生でした。妊娠を知ったことでPTSD(心的外傷後ストレス障害)が突発したのです。
実は彼女は性的暴行に遭って、望んでいない妊娠をした人物でした。
それは3ヶ月前のこと。学校からの帰宅途中、夕方に人通りの少なくなる川沿いの農道で、自転車を漕ぐ彼女の横にいきなり車が停まり、沙知はそのまま車に引きずり込まれます。そして中にいた複数の男に山に連れていかれ、性的暴行を加えられたのです。
その最中に生徒手帳を見られ、体の写真も撮られ、このことを話したら写真をばらまくと脅され、そのまま山中に置き去りにされたのでした。
そして3ヶ月間そのことを誰にも言えず、ひとりで抱え込んでいたのです。
その後、犯人たちが捕まりますが、それ以前にもゲーム感覚で同じような被害を出しており、余罪も多くあったにも関わらず全員が未成年で初犯だったということで、ふさわしいと思えるような刑期にはなりませんでした。
この2年後に作者は同じように性的暴行を加えられたことを原因に別れることになった彼女と付き合っていた男性と付き合うことになり……。
女性であれば、少し読んだだけでこの犯罪の恐ろしさ、気持ち悪さが実感でき、苦しい思いを感じるであろうエピソードです。性的暴行は犯人にとっては軽い気持ちで体だけのことかもしれませんが、被害に遭った女性はその傷を一生抱えて過ごすことになります。
それに助けを出すことの難しさが、2人目の被害者のエピソードから感じられます。そして作者はこう考えるのでした。
「どんな過酷な状況でも
希望があるのだということに気づく人がいる
それを気づかせてくれる人がいる
そこに私は底知れない愛の強さと
湧き上がる生命力を感じずにはおれないのです」
(『透明なゆりかご』7巻より引用)
この犯罪に対する番人に通用する具体的な解決策はないものの、人の強さを信じたくなるようなエピソードです。
『透明なゆりかご』には重い話も出てきます。けれど、そのリアリティが、現実をしっかり受け止めることの大切さを感じさせてくれます。