女性にしか体験できないこと、それが妊娠です。妊娠、出産すると世界が変わると言われますが、体験しなければわからないことがたくさんあります。妊婦さんも妊婦さんに関わる人も、妊娠前後のことが良くわかる妊娠漫画をご紹介いたします。
晩婚化が進み、高齢出産率も上がっている現代の日本。30代で初産という人も珍しくはなく、40代、50代で初めての妊娠、という話も珍しくはなくなりました。高齢出産時の身体的リスクは、医療技術の進歩により軽減されてきていますが、子どもが成長したときの自身の年齢について考えてしまうものでしょう。
『セブンティウイザン』は、超高齢出産を迎え、子育てに奮闘する老夫婦を描いた作品です。夫は65歳、妻は70歳と、あまり例のない超高齢出産ですが、世界には症例もあり、不可能ではありません。
子どももなく、2人で過ごすはずだった老後に突然経験することとなった妊娠。2人は高齢出産をどう迎え、どう乗り越えていくのでしょうか。
- 著者
- タイム 涼介
- 出版日
- 2017-02-09
65歳の江月朝一は定年退職を迎えたばかりでした。妻の夕子は5歳年上、お見合いで知り合い、一目惚れして結婚。子宝には恵まれず、老夫婦に子はいません。老後は2人でのんびり旅行でも、と思っていた朝一ですが、最後の出勤から帰宅後、夕子から妊娠した、と思ってもみない言葉を告げられます。
揺るぎない夕子に対して、妊娠発覚後の朝一のうろたえっぷりは、コミカルですがリアリティがあるもの。妻と夫の間にあった出産に対する温度差が少しずつ埋まっていく姿に、年齢を重ねても関係性はあまり変わらないのかもしれない、と共感できる要素が増えていきます。
妊娠期間中には、妻を一生懸命守り、子どもを守り育てようとする意志が芽生える朝一の成長以外にも、夫婦の絆を感じられるエピソードが満載。特に、少し前に亡くなってしまった飼い犬のエピソードや、出産後の夕子の焦りや不安に対する朝一の答えをみると、夫婦の強い絆を感じ、自然と涙があふれてくるでしょう。
出産は不安ではあるけれど、2人と生まれてきた子どもがいれば乗り越えられると信じさせてくれる、優しい作品です。
誰にでも、初めて何かを経験する瞬間が必ず来ます。それが身体のこととなると、意識がそちらに向かってしまい、他の事には意識が回らなくなりがちです。妊娠となると、新たなる命を身体の中で育てることになるため、余裕ができるまでには時間がかかるのではないでしょうか。
とりあえず妊娠しているかも、と思ったら病院に行けばいいんでしょう、と思われがちですが、出産後に待ち受けているのは育児。子ども中心の生活です。育児に奔走しているお母さん方を見れば、あまり余裕がないのだろうなというのは、想像に難くありません。実は妊娠中というのは、出産後に向けて身体も周囲も準備を進めていくのに最適な期間なのです。
- 著者
- フクチ・マミ
- 出版日
- 2010-12-16
フクチマナミ『マンガで読む妊娠・出産の予習BOOK』は、その名の通り妊娠、出産それぞれに対する予習を目的として作成された作品です。身体の事はもちろんのこと、他人には確認しづらいお金の事や必要な書類。必須の赤ちゃん用品やマタニティグッズの紹介もされており、全てにおいて必要なものが一目で分かるようになっています。
作者フクチマナミが、実際に妊娠、出産時に知っておけばよかった、聞いておけばよかった、と感じたことを漫画として描いているため、かなり実用的であるというところがポイント。ざっくりと妊娠から出産、育児までの流れが見えるので、これからの生活がイメージしやすくなっているのも特徴です。
実際に先輩妊婦さんに話を聞くことができない、知人の手を借りられない、という環境の人も多いでしょう。先輩妊婦さんたちの体験談がたっぷり詰まった1冊は、きっと初めての妊娠、出産の頼もしい相棒となってくれるはずです。
赤ちゃんは当然ながら、誰かの手によって守り育てられなければ大きくはなれません。お腹が空いたと泣き、お尻が濡れていると泣き、眠いといって泣くなど、何らかの意思表示はするものの、何を必要としているのか、言葉で伝えてくるわけではありません。育児は意思疎通を図れない相手と付き合っていくという側面もあるのです。
つかさちずる『むすメモ!妊娠中~2歳』は、作者自身が運営しているブログに紹介された漫画を書籍化した作品。TwitterやFacebookといったSNSで紹介され、多くの出産を経験した母親たちから共感を得ています。
- 著者
- つかさ ちずる
- 出版日
- 2016-09-24
出産はそもそも男性では耐えられずに死んでしまう、というくらいの激痛を伴うと言われているもの。つかさちずる自身も激痛を経験して娘を出産しました。出産経験者は身体自体が変わる、とよく言いますが、命を生み出すということが、どれほど大変な事なのかが、のんびりとした絵にもかかわらず伝わってきます。
本作の大きな特徴は、育児を頑張っている自分ではなく、育児に対して不安や不満を抱いている自分を描いている点。誰もが自信満々で子育てをしているわけではありません。完璧な母親像を求められる中、世の母親たちはどこからともなく掛けられる母親のイメージというプレッシャーとも戦っているのだと、知ることができます。
子どもが怖い。
育児に対する不安を自身の母親に吐露する場面で、つかさちずるが呟いた言葉です。育児に対する不安や責任などを内包された呟きですが、このやりとりをみて、安心した母親は多いでしょう。父母は子どもの生育に責任を持たなければなりませんが、初産ならば自分の子どもを育てるという行為自体が初めて。その未知なる体験への第一歩は、やはり言いようのない不安に溢れているものなのです。
不安や不満だけではなく、娘とのやり取り家族とのエピソードなど、可愛くてほっこりするシーンも多め。育児は大変だけれども、喜びもある。肩の力を抜いて息をすることができる、誰かに寄り添ってくれる作品です。
初めての経験を前にして、不安にならない人は相当肝が据わっている人なのでしょう。大概の人は未知の経験に尻込みし、不安になって体に変調をきたしたりするもの。負の感情を表に出さないことが美徳とされている面もありますが、それで不安が解消されるわけでもないのです。
はるな檸檬『れもん、うむもん!――そして、ママになる――』は、育児のきらきらで輝かしい面が一切描かれていないという、ネガティブ出産育児漫画。『ママはテンパリスト』などで知られる漫画家の東村アキコのアシスタントを務めたはるな檸檬が、自身が経験した妊娠、出産、育児について描いています。
- 著者
- はるな檸檬
- 出版日
- 2016-03-28
マタニティブルーとは、妊娠や出産後に起こるもの。イライラする、不安に陥る、自分を責めるなどの感情の変化を主な症状としています。出産はホルモンバランスが大きく崩れることが多く、精神的に不安定になる人も多いでしょう。作者の不安定さはかなりのもので、育児への不安とともに様々な負の感情が増幅されている様子が伝わります。
体験談が多めですが、斜め上というよりは斜め下からの視点というのが多めの本作。マタヌティーブルー時の症状の参考にはもちろんなりますが、妊娠糖尿病になるなど、身体的にも大きな変化があり、自分の身体とどう折り合いをつけるのかについても学ぶことはたくさんあります。
帝王切開がどの程度痛いのか、授乳時の睡眠時間の少なさなどにも言及しており、ネガティブ全開。しかし、眠る我が子の姿を見て、幸せをかみしめている場面があるなど、幸せを感じる部分もきちんと紹介されています。育児は楽しいものではないけれど、幸せもあるのだと、そう感じる体験があることにも安心できる、インパクトの強い1冊です。
小さな頃の記憶というのは、成長するにしたがって薄れていきます。お腹の中に自分がいたことなどなかなか想像がつきません。
葉祥明『おなかの赤ちゃんとお話ししようよ』は、出産をテーマにした絵本。文章と柔らかなタッチの絵が描かれており、お腹の中の赤ちゃんがお母さんに語り掛けてくるという内容になっています。
- 著者
- 葉 祥明
- 出版日
作者の葉祥明は、妊娠、出産を人生を賭けて行われる聖なる営みと捉えています。だからこそ、これから子どもを産み、育てる母親たちが、生まれてくる子どもたちに、より強く愛情を感じることができるような言葉が散りばめられているのです。
育児は言葉が通じないからこそ、多くのジレンマや悲劇を生み出すことがあります。しかし、言葉が通じ合っていないだけで、心の奥では何か温かいものを感じているのではないか。それは愛情であったり感謝であったりするのだと、幼い語り口の言葉が教えてくれるのです。
絵が大半なので、文章もさらりと読めてストレスを感じさせないという点も良いところ。薄いピンクの表紙もかわいらしく、贈答用にも最適です。柔らかく温かな世界を感じることができる本作、優しい気持ちでページをめくってみてください。
子どもは主に母親が育て、旦那は外へ働きに行くものだというイメージがついています。中には主夫と呼ばれる存在もいますが、ごく少数。多くの育児漫画も旦那さんは昼間不在であり、少々非協力的ではないか、と感じる場面も。
人気キャラクター「リラックマ」の生みの親でもあるコンドウアキの、妊娠、出産、育児経験を綴ったコミックエッセイ『トリぺと―妊婦はじめました』は、クリエイター夫婦の育児奮闘記。夫婦ともにイラストレーターとして働くコンドウアキ、タロウイチの、妊娠発覚から育児をする様子までを時系列に紹介しています。
- 著者
- コンドウ アキ
- 出版日
- 2009-03-13
妊娠発覚時からかなり個性的であることをうかがわせた作者ですが、妊娠時の自身の変化についてはあまり自覚がなかった様子。旦那さんであるタロウイチの視点も含まれているため、妊娠時の妻の様子が何かおかしい、という客観的な情報が見られるのも特徴のひとつ。
コンドウアキが妊娠時に困ったこと、便利だったものも紹介されていますが、とにかく陣痛3日間というエピソードが強烈。大変なはずなのに、ちょっと笑ってしまうあたりが、コンドウアキならではの持ち味。出産後の初めての沐浴など、新米お母さんが戸惑う出来事も網羅されており、妊娠からの流れや起こりうる出来事が、よりはっきりイメージできるようになっています。
コンドウアキ視点だけではなく、稀に挟まれる旦那さんの目線も新鮮に映り、男性の育児参加を促すには良い教材ともなりそうな本作。笑ってゆるっと楽しめる、参考書としても、読み物としても素晴らしい作品です。
医療機関は専門科ごとに分かれていますが、妊娠、出産や女性の身体に関わる病気に関わる医療を担うのが、産婦人科です。医療関係者は、専門分野に関わらず、人の生死にかかわる仕事をしていますが、命が誕生する現場は産婦人科だけ。人が死ぬのに耐えられないから、と産婦人科を希望する医療関係者も多いのだとか。
しかし、生と死は隣りあわせだと痛感してしまう作品が『透明なゆりかご』です。作者である沖田×華の実体験が元になっており、命が誕生する幸せな場所であるだけではない、リアルな産婦人科の姿を見ることができます。
産婦人科は女性特有の器官の病気、もしくは妊娠時に訪れるところではありますが、本作で描かれている診察室以外で起こる出来事には、言葉を失ってしまうでしょう。
- 著者
- 沖田 ×華
- 出版日
- 2015-05-13
看護科のある高校に通い、卒業後も准看護師として働くことを希望していた沖田×華は、高校3年生のある日、産婦人科でアルバイトをはじめます。准看護師の勉強はしているものの、アルバイト中に医療行為をする場面はありませんのでご安心ください。医療知識のある、看護師だけでは手が回らない部分の雑用係といった認識で良いでしょう。
出産や診察に立ち会っている描写がありますが、なかでも衝撃的なのは堕胎された胎児を、小さなフィルムケースのようなものに収める場面。さまざまな理由により、望まれず生まれてこなかった命を、淡々と集める姿が胸に迫ります。
著者は発達障害を持っており、その影響なのか物事に対するリアクションや共感度が薄く、率直な物言いをしています。作中でも独特の表現が多く、動じない姿に医師が驚くほど。
しかし、エタノール漬けされた胎児を見てキレイだと表現する飾らない言葉が、創作と現実のはざまを、より現実に近づけてくれます。多くの命が生まれ、消えていく産婦人科という場所を軸に、多くの人の人生が交差する本作、ぜひ読んでみてください。
『透明なゆりかご』については<『透明なゆりかご』の名言を全巻ネタバレ紹介!看護師→風俗嬢になった作者?>で詳しく紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
誕生する子どもが五体満足で生まれてくるか否か、妊娠中の母親の気がかりな点のひとつでしょう。しかし、なかには何らかの障害を持って生まれてくる子どももいます。育児をするうえで、気をつけなければならない点は多く、どういった特性を持った障害なのか、両親はもとより、周囲の理解も必要となってくるでしょう。
ダウン症は、21番染色体が1本多いことにより発症する、先天的な疾患です。軽度の知的障害や、身体の発達に遅れが出るなどの症状があります。
生まれてくるダウン症の子どもが、皆同じ症状を持っているわけではなく、ダウン症だと診断されたお子さんを持つ両親は不安も多いことでしょう。しかし、実際に育児をしている人の体験を知ることで、不安が少しは和らぐのではないでしょうか。
- 著者
- たちばな かおる
- 出版日
- 2013-01-16
本書は、ダウン症と診断された男児の育児の様子が綴られた、コミックエッセイです。漫画家のたちばなかおるの実体験が元になっています。たちばな家は、たちばなかおると夫、そして男の子3人の5人家族。ダウン症と診断されたのは、長男のユンタ。ユンタの成長を中心に、たちばなかおるが考えたこと、感じたことが綴られています。
出産後、子どもがダウン症と診断されてから重苦しい表情も見せますが、行動をはじめてからは一転、たくましい母親としての姿を見せます。ダウン症児の症状に個人差があるため、一概にこれで上手くいく、というわけではありませんが、少しずつ成長していくユンタの姿にほろりとする場面も。子どもの成長を喜ぶという、当たり前のことが尊いのだと感じられるでしょう。
笑えるエピソードが多く、重くなりすぎず楽しく読めるのが本作の良いところ。しかし、たちばなかおるが、ユンタが成人した先、自分たちが死んだ後のことまで考えていることを赤裸々に綴っているため、漫画の中の出来事ではなく、ユンタは現実に生き、未来があるのだと改めて気付かされます。
育児は大変だけれど喜びは10倍、著者が育児を楽しむ姿に元気と勇気をもらえる作品です。
出産はスイカの大玉を鼻の穴にいれるほどの痛さ、とたとえられますが、人間を1人生み出すということは、それだけで大変なこと。お腹を痛めて産んだ、というのは例えではなく、まぎれもない事実なのです。
出産するときには必ず産婦人科を受診しますが、逆を言えば出産や女性特有の病気にならない限り、縁がない場所でしょう。そういうところ、という認識はありますが、男性など縁のない人にとっては謎に包まれた場所であることは間違いありません。
本書は、そんな産婦人科を舞台にした、本格的な医療漫画です。知られざる出産にまつわる、さまざまな人間ドラマが展開されます。
- 著者
- 鈴ノ木 ユウ
- 出版日
- 2013-06-21
主人公の鴻鳥サクラ(男性)は産婦人科医であり、正体を隠しベイビーという名前でジャズピアニストをしています。母親はサクラを生んですぐに死亡してしまい、彼は児童養護施設で育ちました。施設でピアノを習い、医師にもなった彼は、日々小さな命とその家族を守るため医療の現場に立ち続けます。
サクラは個人の産婦人科医ではなく、総合医療センターの産婦人科医です。緊急で搬送されてくる妊婦も多く、難しい判断を迫られる場面も多くあります。
当たり前に生まれてくると思っていた出産という行為が、実は死と隣り合わせだったと気づかされた時のショックは大きいもの。母親になる女性の強さを改めて感じることでしょう。
本作は実在の医師がモデルとなっており、登場するエピソードは作者の鈴ノ木ユウの創作ではあるものの、実際にありうることです。生きているものは、誰かに産んでもらえなければ、存在することはできません。だからこそ、作中で起こった出来事が他人事だとは思えなくなるでしょう。生と死が隣りあわせである、産婦人科で展開される人間ドラマ、命の重みを感じながら、ページをめくってみてください。
出産適齢期に出産できれば安全、というわけではありませんが、出産は年齢を重ねるにしたがって母胎にも子どもにも大きな負担がかかります。晩婚化が進み、30代をすぎて初産を迎える人は増加傾向にありますが、実際に高齢出産をした人の体験は、これから初産を迎える人の心の支えになるはずです。
本作は、38歳で結婚した漫画家、水玉ペリの妊娠、出産のエピソードが綴られたコミックエッセイです。本作の大きな特徴は、2度の流産についても語られているということ。流産経験者の方でも、共感できない部分がある可能性もあるため、辛い気持ちが残っているという方は、自身の気持ちとよく相談のうえ、手に取ることをおすすめします。
- 著者
- 水玉 ぺり
- 出版日
- 2014-05-16
水玉ペリ自身は子どもはいらない、と考えていたようですが、旦那さんたっての希望により、妊活を開始。しかし、最初の子どもは体内で心肺停止。2番目の子どもも流産、と授かっても無事に出産までたどりつくことができません。子どもを失うという体験をしていなくても、作者の辛い気持ちが伝わり、涙があふれてきます。
重苦しい雰囲気になるわけではなく、周囲の励ましや、妊娠のために起こした自身の行動の合間に、不意に不安や悲しみが襲ってくるという描写がとてもリアルに描かれています。水玉ペリはその後無事に子どもを授かりますが、出生前診断をするか否かなど、自分自身の選択に悩み続ける姿に、出産に正解はないのだと改めて感じることができるでしょう。
旦那さんが協力的だったり、流産したときの義母の言葉、実家の母親の明るい性格に救われたりと、周囲の人から受ける影響や、1人ではないのだと感じることができるところも本作の魅力です。悩まず、誰かに相談すること、誰かがそばにいるのだということを、改めて教えてくれる作品となっています。
テラフォーミングされた未来の火星、アクア。イタリアのヴェネツィア地方を模して造られた都市、ネオ・ヴェネツィアを舞台に、観光を担う水先案内人(ウンディーネ)を目指す少女の成長を描いた『ARIA』や、伊豆を舞台にダイビング部に所属する高校生の日常が展開される『あまんちゅ!』など、数多くの人気作を生み出してきたのが、漫画家の天野こずえです。
ふんわりと優しい日常系の物語を得意とする作者が、初めて手掛けたコミックエッセイが本作です。作者自身の初めての妊娠、出産が4コマ形式で綴られています。日常描写の達人らしく、登場するエピソードは、見逃してしまいがちな小さなできごとばかり。そんな日常の思い出が大切なのだと、実感させられます。
- 著者
- 天野 こずえ
- 出版日
- 2012-10-10
本作は天野こずえが体験した妊娠、出産、育児が綴られていますが、その独自な視点が魅力でしょう。まず、妊娠が発覚したときに心配したことが、子どもを猫以上に愛せるか否か、というところがかなり独特です。出産時の年齢が30代後半であると推測されるため、高齢出産に対する不安があるのかと思いきや、猫という斜め上な感想に、ツッコミを入れずにはいられません。
育児あるあるネタも多いですが、初見ではどこがオチなのか、判別しにくいエピソードもあります。経験者ならば共感することも多いですが、未経験者ではピンと来ない場面もあるかもしれません。
しかし、何度か読み返すうちに、これはこういうことなのか、と発見があり、自身も育児をしているような、不思議な気持ちを味わうことができます。
着眼点は微妙にずれているものの、優しい日常が綴られており、作者自身の考えが、少しずつ母親になっていくのが感じられるでしょう。1人娘以外にも、旦那さんや義理の両親など、個性的な人々が登場し、笑わせてくれます。
とにかく穏やかな気持ちになりたい、という時に最適な1冊、コミックエッセイでも変わらない天野こずえワールドにどっぷり浸ってください。
人間は十人十色、それぞれに環境も性格も、顔も違います。1つの話題をとってみても、考え方はまったく違い、ぴったりと重なることはなかなかないでしょう。頭では理解していても、子育てとなると、うちの子はこれで大丈夫なのだろうか、と不安になるものです。そんな時、誰かの話を聞いたり、悩みを打ち明けたりすることで、気持ちが軽くなることがあるでしょう。
現実的に相談する時間がない、相手がいないという方におすすめしたいのが本書です。ブログやTwitter、インスタグラムなどで人気の漫画家やイラストレーター、総勢19名の妊娠、出産、子育て体験が綴られたオムニバスコミックエッセイ集です。多くの実体験を、一度に読むことができます。
- 著者
- ["カフカヤマモト", "さーたり", "横峰 沙弥香", "前川 さなえ", "のばら", "やまもとりえ", "ホリー亜紀", "もづこ", "仲 恵麻", "あおむろ ひろゆき", "ネコおやじ", "ホリカン", "丸本チンタ", "きくまき", "ミハイロ", "そめた", "マルサイ", "吉本 ユータヌキ", "鈴木 し乃"]
- 出版日
- 2017-04-28
妊娠から出産、育児がテーマではあるものの、それぞれ状況が違うというのが面白いところ。高齢出産だったり、双子を育てていたり、継母だったり、海外で出産したりと、本当にここまでよくそろえたなと感心するほど、違った体験を知ることができます。
環境や状況が違うからこそ、新たな発見や共感する部分を見つけることができるでしょう。悩みは誰でも抱くものなのだと、ほっとした気持ちになれるのです。
出産や育児のコミックエッセイは、女性が作者の作品が多いですが、本作では男性の作品も収録されているところがポイントのひとつ。女性と男性の作品が両方収録されていることで、男女の考え方の違いを、客観的に知ることも出来ます。
漫画だけでなく、収録されている作家のインタビューや子育てに対する疑問などに回答するコーナーもあり、読みごたえは十分。知らない作家を知る機会にもなるでしょう。普段は知る機会のない、他人の子育てを覗き見できる本作、子育ては大変だけれど良いものだと、実感できる作品です。
本書は人気ブロガーであるイラストレーターの前川さなえが描いたコミックエッセイ。ブログでは育児の話がメインとなっていますが、本作ではより詳細にエピソードが描かれています。
前川家は作者と19歳年上の旦那さん、長男いっくん、長女はるちゃんの4人家族です。ブログでは子どもたちは小学校に入学していますが、本作は妊娠出産が中心に描かれています。
かわいい子供たちが誕生する以前の、つらい出来事が語られている本作。実は前川さなえは、2度の流産を経験していたのです。
- 著者
- 前川 さなえ
- 出版日
- 2016-03-10
流産の時のエピソードは、つらく悲しいもの。特に作者が妊娠時は20代とまだ若く、流産する可能性を考えていなかったからこそ、ショックは大きいでしょう。誰にでも起こりうる出来事に、やるせなさがつのります。
だからこそ、授かった子どもたちは特別可愛らしく感じられるもの。特にはるちゃんを妊娠中に見せる、いっくんの気遣いに胸がキュンとなってしまうでしょう。
前川さなえのコミックエッセイだけではなく、旦那さんのコラムが挟まれており、読みごたえは十分。流産時の心境についても言及されており、男性はどう感じるのか、あまり語られる機会のない、貴重な本音を知ることができます。
出産経験者からも、とにかく出産シーンがリアルだと太鼓判を押されており、臨場感もたっぷり。未経験者はちょっと及び腰になってしまうかもしれませんが、新たな命の誕生に、感動が広がっていきます。やっぱり母になるのは良いものだと、読めば子どもを産みたくなってしまうかもしれませんよ。
堀田家では、妻であるかよ子宮内膜症を発症しました。
「妊娠することが有効な治療方法の1つである」ということを聞き、こどもを作ることを決意した堀田夫妻の治療生活や家庭生活について、また当時の不妊治療や医師の対応などを知ることができるエッセイ漫画です。
- 著者
- ["堀田 あきお", "堀田 かよ"]
- 出版日
- 2011-06-01
こどもを作ると決意した時、堀田あきおは35歳。1990年代の不妊治療の現状を、よく知ることができる作品です。現在では考えられない、患者のことをないがしろにするかのような医師の対応は、きっと読者を腹立たせることでしょう!もちろん、今はそのようなことはないそうです。
「不妊治療は大変だったけど不幸だとは思っていません。」 「子供が居てもいなくても、それぞれがそれぞれの生き方で、喜び、認め合って助けあって、愉快に生きていけたらいいですよね。」(『不妊治療、やめました。―ふたり暮らしを決めた日』から引用)
上記の文でしめくくられる本作は、不妊治療をおこなっている人たちへのエール、もしくは治療をするか否かを考えるための参考書という役割を果たします。堀田あきおの妻に対する発言のなかには、時折厳しいものもありますが、それも妻・かよへの愛と思いやりがあったからこそではないでしょうか。
苦難と言える状況から、堀田夫妻はどのようにして現在にいたったのか。夫婦の厳しさと、たくさんの温かみを感じることのできる作品です。
女性はさまざまな身体的な特性により、出産の痛みに耐えられるようになっていますが、残念ながら男性は、その痛みに耐えられないといわれています。出産の痛みに耐えられる女性はもっと尊ばれても良いはずですが、女性は出産ができて当たり前という風潮になってしまっています。未経験のことを称賛するのは、やはり難しいのかもしれません。
本書は、そんな現状にもしもの可能性を提示する異色作品です。男性が妊娠できることが判明した世界で、実際に妊娠し、出産を経験する男性の姿が描かれています。この時点でボーイズラブを疑う人も多いかもしれませんが、本作は男女のパートナーの場合でも男性が妊娠する、という設定。同性同士の恋愛ものが苦手な方でも、安心して手に取っていただくことができます。
- 著者
- 坂井 恵理
- 出版日
- 2013-01-11
桧山健太郎は、部長の役職を得ている、若手のエリートサラリーマン。働き盛りであるのに、ある日突然妊娠が発覚します。男性でも妊娠することができると判明して、10年ほど。もはや都市伝説といわれるくらいに現実味のない出来事が、わが身に降りかかったことで、健太郎は困惑、しかし自身を「ウムメン」と称し、広告塔としてビジネスを立ち上げます。
転んでもただでは起きないところを見せる健太郎ですが、もしも男性が妊娠したら、という想像が具現化された世界を見ることができるのは、面白い体験です。特に、妊娠したプロセスについての疑問や、相手についての誤解など、ありそうだな、と笑ってしまうでしょう。
お腹の大きい男性、というビジュアルがとても不思議ですが、出産シーンはやはり感動的なもの。現実的には難しい設定ではありますが、男性だったらこうなる、という想像を通して、男性の妊娠、出産に対する考え方も変わってくるのではないでしょうか。男女の性差についても考えを巡らせる機会になる、そんな作品です。
人の姿形は様々ですが、妊娠、出産に関しても誰一人として同じ症状を持つひとがいないところが、人体の神秘のように感じられました。様々な状態から読み比べも楽しい、妊娠、出産のお供に最適な作品ばかりです。