幕末の魅力のひとつに、個性的なキャラクターがあります。日本人の誰もがサザエさん一家を知っているように、多くの人が坂本竜馬や天璋院篤姫、新選組のメンバーを知っています。 しかし名前は知っていても、そのキャラクターのおもしろいエピソードやちょっとしたトリビアなどは、意外に知られていないもの。ふとした時に知ると、興味をひかれるものでもあります。 職場で、家庭で、友人との集まりで、幕末の志士の話をしてみませんか?ついつい熱くなってしまいますよ。
2008年に放送されたNHK大河ドラマ「篤姫」は、平均視聴率が24.5%で、それまでの10年の大河では最高の数値を記録したといいます。それまで「幕末もの」は視聴率が取れないとされていたのですが、なぜ突然に高視聴率を上げたのでしょうか。
曰く、幕末という大変革の時代がリーマンショック後の現代と重なったから。曰く、篤姫を演じた宮崎あおいの演技力が凄かったから。曰く、篤姫の周囲の男性が草食系男子ばかりで、現代的な要素がうまく取り込まれていたから。理由はさまざまに語られています。
私は、女性の視聴者たちが、篤姫の嫁いだ将軍一家を「家族」として身近にとらえることができたからだと推察します。また身近にとらえるだけではなく、自分の家族のありかたを振り返ることができたからかもしれません。
性的不能の将軍 家定に嫁いだこと。心を開かない夫に悩み、実家である島津家と嫁ぎ先である将軍家の対立に悩むこと。嫁である和宮ともうまくいかないこと・・。そこには現代の家族でも生じる悩みがあります。そして、その悩みに対して「女の道は一本道」と、女の幸せや命の保証さえも投げ打って徳川家に尽くす篤姫が描かれていました。
程度の差はあれ、家庭内の問題に頭を悩ませる女性たちはドラマを見ていろいろと考えたことでしょう。
さて、このNHKドラマの原作だったのが、宮尾登美子による『天璋院篤姫』という小説です。この原作小説は、史実に忠実に、篤姫の生い立ちをわかりやすく描いています。ドラマのように一部分に焦点が当てられているわけではありませんが、それゆえに厚みをもち、ドラマ以上の深みを得ることができます。さすがはドラマの原作本と唸らせる1冊です。
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- 著者
- 宮尾 登美子
- 出版日
- 2007-09-07
「新選組」、「沖田総司」、「土方歳蔵」。
この漢字の配列を見るだけで、男らしいと魅力を感じていたことがあります。しかし、歴史を知れば知るほどその気持ちは揺れるようになりました。
幕末、政治の舞台は江戸から京都に移りました。家格によって人を重用し政治を行う徳川幕府のしきたりに、内からも外からも軋みが生じていたころ、低い身分ながら時代を変えようとする志をもった人々が京都に集まりました。そんな志士たちを「問答無用」で斬り殺す。彼らは今の時代から見れば「テロ集団」と言えます。
そんなテロ集団の内部史料ともいえるのがこの本『新選組日誌』です。新選組に関する全ての記録を日付けの順を追って網羅してあります。諸記録に散見される新選組の日々の行動を明らかにした研究書です。多くは漢文の記載ですが、詳しく解説がついており、狂気の事件の数々を隊士視点から理解することができます。
池田屋事件の翌日の記録を引用します。
“翌日私どもで遅いお昼を食べていると表の外が俄かに探しいのです。その中に下男が「みんな血だらけになって帰ってきました。」
(中略)
ところがどうです。昨日出かけるときには下駄ばきだった人たちも、みんな脚絆をつけた草履ばきのきびしい足ぞろえで、稽古着に袴をはき股立ちをとって、それにぽたぽた血糊がついていたり、半身真っ赤に血だらけになっていたり……。”
いかがですか。池田屋で人を斬ってきた隊士の帰宅です。その赤い血は誰のものだったのでしょうか。宮部鼎蔵だったのか、土佐藩や長州藩の若い志士だったのか、いずれにしても惜しい人物だったに違いありません。
この本には、厳しい掟にそむいた隊士を切腹させたり、内部で殺人が行われたりした事、また、捕虜の拷問をしたことも書かれています。そんな凄まじい記録に幕末史実の迫力を感じることができます。
想像してください。幕末の京都はテロ集団新撰組のだんだら羽織が闊歩していた場所なのです。彼らの屯所であった八木家にはリアルな刀傷が残っています。これは今も見ることができるので、近くへ行くことがあれば、八木家訪問もぜひお勧めします!
- 著者
- 菊地 明 伊東 成郎 山村 竜也
- 出版日
- 2013-11-12
「切絵図(きりえず)」とは、江戸から明治時代に作成された地域別の地図のことです。この本では、幕末の切絵図に、透過性のある現代マップが重ねられます。
例えば東京駅周辺を見てみると、当時の大通りはほぼそのまま残っていること、大名屋敷が東京駅や丸ビルになっていることがわかります。また、皇居桜田門付近、警視庁や桜田門駅が存在する近くに彦根藩井伊家上屋敷が確かにあります。
ここから、桜田門外の変が、江戸城に近い井伊家から登城途中に行われたことが容易に想像できます。六本木ヒルズ・テレビ朝日は、確かに長府藩毛利家上屋敷跡にあります。六本木ヒルズには、敷地内に「毛利庭園」がありますよね。
「新選組のゆかりの多摩地区は、当時どうなっていたの?」 「勝海舟と西郷隆盛の江戸無血開城の会談はどこで行われたの?」
そんな疑問に答えてくれます。テレビを見ていて、本を読んでいて「おや?」と思ったら、さっと開いて確かめられます。幕末好きなら、家に1冊常備したい地図帳です。
ちなみに、勝と西郷の1回目の会談は薩摩藩下屋敷現在のグランドプリンスホテル新高輪で行われました。無血開城の決定を行った会談は、薩摩藩蔵屋敷、現在の田町駅と三田駅の間に挟まれた場所で行われました。この本を見ながらグーグルで確認すると、スターバックスコーヒー田町駅西口店のようです。感動の歴史スポットに行ってみたくなりそうです。
- 著者
- 出版日
- 2012-09-01
『点と線」『ゼロの焦点」などの小説で、どろどろした人間模様を描いた松本清張氏。彼もまた幕末に魅せられた一人でした。しかし、やはり視点が一味違います。誰かを悪者にするのではなく、その事件が起きる背景としての社会情勢を語ってくれるのです。
また幕末史だけではなく、読者が喰いつく下世話な情報も満載です。たとえば、田沼意次の時代に、贈収賄が横行したことはよく知られています。しかし、田沼は賄賂としてどんなものをどのくらい貰っていたのか。そんな疑問への答えがここにあります。
「9尺4方ばかりの石台のなかに、小さな庵が建ててある。その屋根は小判でふかれ、室内の窓、扉、板壁など、すっかり金銀箔で飾られていた。庭には豆銀がまかれてい、そこかしこには、ススキが幾株か植えてあった。そのススキの下には、銀鎖でつないだ生きたイノシシの子がうずくまっている。」
金銀大判小判のわいろではなく、庵に金銀をふんだんにあしらった贈り物。インパクトがありますね。
「あるとき、田沼のところに『お人形』と上書きした大きな箱が届いた。」
箱の中の「お人形」とは、はたして何でしょうか。そうです。生きた美女でした。
田沼意次への賄賂だけではなく、『幕末の動乱』には他にも様々な逸話が描かれています。もうひとつ逸話を紹介します。
幕末、鎖国政策の中で藩の経済状態を回復させるため、各藩は危険を承知で密貿易を行っていました。それを摘発していったのは間宮海峡を発見した間宮林蔵でした。間宮林蔵は浜田藩(島根県)が竹島で行っていた密貿易を摘発しました。竹島とは、日韓の領土問題で渦中のあの島です。その時は乞食に化けて潜入しました。
また、薩摩藩が口之永良部島で行っていた密貿易調査に潜入しました。口之永良部島とは、火山の噴火で全島避難のあの島です。その時は、掛け軸や襖絵の補修を行う職人軽師屋(きょうじや)に化けています。間宮林蔵は幕府お抱えの腕の良いスパイだったのです。もちろん、摘発の結果、多くの家老や商人が命を落としました。
松本清張氏の社会派の視点での幕末、ぜひお楽しみください。
- 著者
- 松本 清張
- 出版日
- 2009-10-02
ある芸能人がクイズ番組に出演するために手っ取り早く歴史を学ぶとき、『学習まんが 日本の歴史』を読んだといいます。テレビ番組では、その芸能人の部屋にはずらりと学習まんがが並んでいました。よい方法ですね。
このように、わかりやすさを求めるのなら児童書がぴったりです。なかでも古川薫の維新シリーズはわかりやすく、文章は風格ある超一流です。幕末に興味を持てても地名や人名はわかりにくいものです。このシリーズは全文振り仮名付きなので、今まで自己流で読んでいた名前にも、本当の読み方を知ることができます。また、平易な文章で理解しやすい構成です。
だから、子どもだけではなく幕末入門期の大人にもお勧めです。 どれも素晴らしいのですが、今回はアーネスト・サトウの巻をご紹介します。
「わたしアーネスト・サトウは日本に赴任するにあたって、護身用の拳銃一挺と弾丸、火薬を買いました。練達の剣士の手にかかって異人が斬り殺される危険がいっぱいだと聞いたからです。寝るときには、いつもそれを枕の下にしのばせておくとか、外国人居留地の外に出る時、いつも拳銃を持ち歩く必要があると教えられました。当時、これら護身用の武器は、ずいぶんたくさん日本に売りこまれました。上海のコルトやアダムスの商会はたいした繁盛ぶりでした。」(本文引用)
いかがでしょう。このような平易な文章で、「英国策論」「江戸開城」などを語ってくれるのです。ぜひ、手に取ってみてください。
- 著者
- 古川 薫
- 出版日
「ハリーポッター」も「アナと雪の女王」もよくできたフィクションです。しかし、面白いけれどやはりフィクションなので、そのキャラクターに親しみを感じても、生き方を学ぶことは難しいものです。その点、歴史は素晴らしいと思います。実際に皇居周辺で、加茂川のほとりで、濃い個性のあの人が食事をしたり恋をしたり、命をかけて斬り合ったりしたのです。それもほんの150年前のことなんです。
実家の思惑に背き、徳川家に生涯を捧げる篤姫。日本大好きで維新の後押しをした英国人アーネスト・サトウ。だんだら羽織で京を闊歩し、長州藩士を探して斬り殺す新選組の近藤。彼ら彼女らは、本当にいたのです。そして、まだまだ素敵なキャラクターがたくさんいるのです。
新選組に追われる「逃げの桂小五郎」は木戸孝允と改名し、明治の政治の中心となります。下級武士なのに全権大使の西郷吉之助。そして、江戸を救った勝海舟に最後の将軍徳川慶喜。
幕末は魅力に溢れています。どうぞ1冊手にとってみてください。彼らの生き方に心揺さぶられるヒントがあるかもしれません。