通報とともに救急車に乗り込み、迅速に搬送、救命活動をおこなう救急隊員の姿。皆さんも1度は目にしたことがあるのではないでしょうか?1分1秒を争う命の現場で働く彼らは、ドラマや映画の主人公としてもたびたび登場します。この記事では救命士の仕事内容や気になる年収、救命士になる方法などを紹介していきます。
救急救命士の仕事内容
救急救命士は、事故や急病などによる傷病者に対し、救急車で病院に搬送するまでの間、救命処置をおこなうことが主な仕事です。このあたりは、病院を舞台にしたドラマなどの映像作品をご覧になってる方には想像しやすいのではないでしょうか。
救命士の業務は「救命士法」という法律によって定められていています。その中には心肺停止状態、もしくは心肺停止前の重篤な状態に陥った傷病者に対して処置をすることなどが記載されています。そのため、救命士はいわば蘇生処置のスペシャリストともいえるのです。
また、その行為は駆け付けた現場から病院へ搬送するまでに限られています。病院の中など、それ以外の場面では処置をすることはできません。
本来、人に対して医療処置をすることは「医療行為」と呼び、医師のみに許された行為です。救急車には医師が不在のため、搬送中の処置による救命率向上を目的に1991年、「救急救命士法」が施行されました。それに伴って誕生したのが救命士の資格です。
救命士は「医師による具体的な指導の元で」救命措置をすることが認められています。これを「特定行為」と呼び、主なものでは、心肺停止時に気道を確保するための気管内挿管や電気ショック、点滴・薬剤の投与などがあります。
また、消防士の勤務は基本的に24時間勤務です。上記のような出動時間の業務の他に、待機時間には訓練や消防機器のメンテナンスもしなければなりませんし、書類作成などの事務的な仕事もあります。
救急救命士の年収
救命士の大半が勤めるのが消防署。消防士官は地方公務員なので、給料は各自治体の給与体系に準じます。
2016年に総務省が行った「地方公務員給与実態調査」では高卒消防士の平均初任給が177,300円、大卒で210,100円でした。(東京都)
月給の全国平均は市の消防職員が390,393円、町村の消防職員は359,587円です。これにボーナスが加算されますので年収だと600万円程でしょう。
他の公務員と同様に大都市ほど給料が多く、また年齢や役職に応じた給与体系となっています。
救急救命士になるには資格を取得しなければなりません。救命士の資格は国家資格であり、1年に1度試験が開催されています。
そして、上記のように救命士のほとんどが消防署で勤務するので、そのためには公務員の採用試験である消防官試験を通過することが必要です。
日本では消防士が働ける民間の勤め先がほとんどありません。救命士の資格を取っても、消防に入ることが出来なければ、救命士としての業務は行えないのです。
救命士として働くための道筋は主に2つあります。
救命士の国家試験は合格率がおよそ85%あり、国家試験としては非常に高い合格率です。きちんと学習して挑めば突破できる難易度です。
また、「特定行為」をおこなうためにはそれぞれの処置に応じた資格取得、研修を受ける必要があります。命を救うために、学ぶことの多い職業です。
消防庁が発表している平成29年「救急・救助の現況」によれば、救急救命士の資格を持つ消防職員数の総数は35,775人で、そのうち女性は1,546人です。そのなかでも実際に運用している数で見ると、総数27,717人に対して女性は886人と女性の割合は約3.2%ほどしかありません。女性が極端に少ない職業となっています。
平成28年~平成29年の救急救命士国家試験の結果を見てみましょう。
この数字を見ても男性の合格者が圧倒的に多いようです。しかしながら、比率で見てみると男性に対して女性の割合が10%前後いるので、実際に働いている女性の比率と比べると相違があります。
理由としては、24時間体制の勤務により負担が多いこと、体力を要する場面が多いことなどから、妊娠、出産、育児などのライフイベントとの兼ね合いを考えると、長期的に働くことが難しいからではと推測されます。
この点は消防庁も問題視しており、女性職員へのアンケートやヒアリング調査をおこなうなど解決に向けて積極的です。これにより、出産後の復帰に対するケア、託児所設置などについての検討がなされ、女性がさらに活躍できる職場体系がつくられることが期待されています。
救急の現場に不可欠な救命士のことがわかってもらえたでしょうか?ここからはより深く救命の現場について知ることができる本を紹介していきたいと思います。
「救急救命士」といえば、救急車に乗ってやってくる姿が真っ先にイメージされるのではないでしょうか?
彼らのように救急車に乗り消防機関で活躍するのが一般的な救急救命士ですが、それ以外の機関に勤める人は「民間救急救命士」と呼ばれています。
民間救急救命士は少数派なのですが、消防機関に勤務する救命士と同じように24時間体制で働いています。本書はそんな知られざる民間救急救命士の活動にスポットを当てたドキュメンタリーです。
- 著者
- 鈴木 哲司
- 出版日
- 2004-04-01
本書の主眼は民間救急救命士の実態を伝え、興味を持ってもらうことにあります。
主役である民間救急救命士の実体験にともなうエピソードは非常に痛切なもので、ジレンマや苦労がありありと伝わってきます。彼らは決して恵まれているとは言い難い環境の中でひたむきに使命を果たそうと努力しています。
また、本書は単なるドキュメンタリーに終始するのではなく、救命士という仕事における米国と日本との差異や、民間救急救命士の将来など幅広いテーマについて論じ、問題提起をしています。
2004年の発刊なので情報は状況は少し変わっていますが、内容は色褪せることはありません。
救急医療は救命士のみならず全ての人に関わることです。誰がいつその状況になってもおかしくないリアルな現場を1度覗いてみてはどうでしょうか。
「ドクターヘリ」の存在を知っていますか?
最近は、ドラマやテレビのドキュメント番組などでも取り上げられるようになり、認知度も徐々に高まっています。
本書は児童向けの本なので平易な文で書かれていますが、大人が読んでも十分楽しめる内容です。丁寧な取材を重ねて書かれた、ノンフィクションです。
スピーディーで緊張感のあるストーリーに子供なら夢中になってしまうこと間違いなし。子供と一緒に読むのにぜひおすすめしたい一冊です。
- 著者
- 岩貞 るみこ
- 出版日
- 2008-07-16
ドクターヘリは言わば「ヘリコプター版救急車」です。
本書の舞台である日本医科大学千葉北総病院は日本で初めてドクターヘリを導入した病院で、千葉県内のみならず、県外の救急患者の命もたくさん救ってきました。
ドクターヘリを運用するには年間1億8000万円もの費用がかかり、また、着陸地点が整備されていないなど諸問題もあるため、普及はあまり進んでいないのが現状です。
そんな中、日本医科大学千葉北総病院のドクターヘリは累計10000万回以上出動し、空の救急医療を牽引する存在となっています。本書にはその中のいくつかのお話を収録。ドクターヘリが初めて飛ぶ日から始まり、救急医療のリアルな日常や現場がわかりやすく描かれています。
命を救うため、医師をはじめ、ドクターヘリを運航するスタッフ、救急隊や看護師など多くの人たちが一丸となる姿には、感動を覚えます。子供も大人も読んで面白い、ドクターヘリの入門書です。
最後に紹介するのは2003年に出版された本です。タイトルにある「気管内挿管」というのは意識を失った患者の気道を確保する(酸素を送り込む)ための医療行為です。
2001年に、秋田市の消防が違法行為と認識しながら、組織的かつ地域全体で救急救命士が気管内挿管をおこなうことを黙認していたということが発覚。
この件を皮切りに全国でも同様のケースが確認され、医療界は大きく揺れ社会問題となりました。本書はその問題を受けて書かれたもので、当時の救急医療について鋭い問題提起をしています。
- 著者
- 曽根 秀輝
- 出版日
そもそも、なぜ違法性を認知していながら救命士が気管内挿管をやってきたのでしょうか?それは患者の命を何とかして救おうとしたからに他なりません。
日本の救急車は患者を迅速に病院へ送り届けることが目的です。そこに医師は同乗していないため、救急車がかけつけた現場から病院までの間は、医師不在の空白の時間となります。
呼吸が止まって酸素が体内に送り込まれなくなると、1分単位で死亡率が高まっていきます。命を救うための訓練をしてきた救命士が、それを目前にして指をくわえてみていなければならないということが現実でした。
秋田市の件では、実際に救命士が行った気管内挿管によって命が救われたという事実があり、法を犯したものが悪いのか、法律そのものが悪いのか大きな議論を呼びました。結果、法律は改正され、現在では所定の条件を満たした救命士は気管内挿管をおこなうことができます。
本書は法改正が行われる1年前に出版されたもので、丁寧かつ解りやすく事の本質をえぐり出し、伝えています。
命が消えようとする現場に直面した救命士の苦悩やジレンマは、読み手にも歯がゆく伝わるでしょう。救急車の中で何が起こっているのかを知るために、ぜひ手に取りたい一冊です。