裁判官になるには?5分でわかる、仕事内容や年収、階級や人数について

更新:2021.11.14

裁判官と聞いて、真っ先に頭に浮かぶのは法衣をまとって厳かに判決を述べる姿ではありませんか?それは確かに裁判官ですが、ごく一部分です。ドラマや小説で描かれる裁判や判事を想起できても、実際の裁判を見たことがある人は少ないのではないでしょうか。 この記事では意外に忙しい裁判官の実情や、年収、裁判官になる方法、おすすめの書籍などを紹介していきます。

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裁判官とは?仕事内容や人数、年収について

裁判官の主な仕事は、全国の裁判所で行われる裁判において、提出された資料を分析し、法律と照合して、判決を下すことです。司法試験に合格し、司法修習を終了後すぐに任官するのが一般的で、身分は公務員になります。
 

裁判官の数は裁判所データブック2017によると全国で3,841名。任地ははそれぞれ最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所に分かれます。扱う裁判は大別すると「民事裁判」と「刑事裁判」があり、それによって裁判官の仕事内容も大きく変わります。

民事裁判は金銭の貸し借りや離婚問題、生活上のトラブルなど多種多様の案件がありますので、非常に件数が多く、その性格上、処理スピードが求めらるもの。一方、刑事裁判も中立的立場でジャッジするという役割ではありますが、おおよそ有罪率99.9%という数字が示す通り、有罪に偏りやすく、刑罰を言い渡すことが多いともいえるでしょう。

警察が強制捜査をするとき、被疑者の基本的人権を守るという観点から、逮捕状や捜査令状が必要になります。それを発付するか否かを判断することも裁判官の大事な仕事のひとつです。

また、裁判官の中には、法廷に出ない人たちもいます。「最高裁判所事務総局」「最高裁判所司法研修所」で勤務する裁判官がそれに当たり、いわゆる「エリートコース」を歩む裁判官です。

そんな裁判官の給料は法律によって細かく規定されていて、年齢や階級によって受け取る金額は大きく変わります。

最も低い簡易裁判所判事補は月額231,400円で、一見すると低く見えますが、賞与と諸手当を含めると初年度から年収は500万円を超え、5年目には700万円を超えます。最高裁判所の長官ともなると月給だけで2,010,000円とケタ違いの数字です。

さすがに年収2,000万円を超える判事は上位の裁判官だけになりますが、1,000万円を超えることは難しくありません。すべての職業を含めてもトップクラスの年収と言ってよいでしょう。

裁判官になるには?なったあとのキャリアは?試験の倍率や階級など

裁判官になるには

裁判官になるためには司法試験に合格しなければなりません。最高難易度の国家試験として有名ですが2017年の合格率は22.9%でした。5人に1人以上合格するというのは、意外に思う方も多いのではないでしょうか?

司法試験は合格者を増加させるという国の方針で、2011年から現在の新司法試験になりました。それ以後は思惑通りに合格率は常に20%を超えています。旧司法試験のときの合格率は平均しておよそ3%だったので、難易度が下がったのは明らかです。急激な資格者の増加は、雇用の不安定化にもつながりますので、問題視されています。

司法試験合格後

司法試験に合格したらすぐに裁判官になれるわけではありません。試験合格者は次に、1年間の司法修習で実務などを学ぶことになります。

その後、弁護士・検察・裁判官いずれの道に進むかを選択するのですが、特に裁判官は司法修習の成績上位者でなければその道に進むことを許されません。

弁護士と検察を相手にして納得する判決を出さなければなりませんし、時には人の生死を扱う仕事でもあります。法律は国の根幹をなす部分でもあり、そういう意味でも裁判官には高い資質が求められるといえるでしょう。

裁判官の階級

給料の部分で少し触れましたが、裁判官の世界は完全な階級社会で、階級は上から順に以下のように分けられています。

 

  • 最高裁長官 
     
  • 最高裁判事 
     
  • 高裁長官 
     
  • 判事 
     
  • 判事補 
     
  • 簡裁判事
     

まず裁判官として任命されて最初の9年間は判事補を務め、10年が経過してようやく判事補から判事に昇格し、裁判官として独り立ち。最初の10年は見習い期間、次の10年間は以後出世できるかどうかを決める大事な10年と言えます。上位の階級になるほど椅子は減っていくため競争は熾烈で、それは裁判官が「司法官僚」と呼ばれる理由でもあります。

ちなみに簡易裁判所の判事は例外的に法曹資格が必要とされません。裁判所書記官や職員が内部試験を経て判事を務めているケースがほとんどで、これは司法試験の難易度が高く、人手が不足していた頃の名残でもあります。

近年急増した合格者が穴を埋めることによって、このあたりの事情は将来変わっていくかもしれません。

裁判官としての働き方は?女性の割合は?

ひとりの裁判官がおおよそ1年間で担当する案件は250〜300件と言われています。したがって1日1件に近いハイペースで判決を書いていかなればなりません。裁判官と言えば泰然として、何日も熟考した末に慎重に判決を出しているようなイメージがありますが、まるで機械のような流れ作業で事件を担当していかなければならないのが現実なのです。

週に2〜4日は法廷に出勤し、それ以外のときには裁判所外での処理案件があります。土日や休日も使わなければ、すべての判決を書ききるには追い付きません。また、地方裁判所では当番制で夜間の当直があります。法廷は夜間には開かれないのに、裁判官に夜勤があるのは夜間の捜査令状を処理するためです。

事件はいつ発生するかわかりません。逃亡を試みるような被疑者を逮捕するためには、毎日夜間から早朝にかけても対応しなければならないのです。さらに裁判官には残業手当、休日手当、夜間手当もありません。年収についてかなりの高額であると述べましたが、このようにかなりのハードワークであることも付け加えておきます。

女性裁判官の割合は弁護士白書によると2017年では26.2%(簡易裁判所裁判官を除く)でした。同年の検察官・弁護士の女性比率がそれぞれ23.5%、18.4%ですので、この数字と比較しても女性の裁判官は極端に少ないわけではないようです。

女性が初めて最高裁判所裁判官に任命されたのは1994年で、2018年現在は3名の女性が務めています。法曹界は長らく女性の参加が遅れていましたが、時代背景に沿って徐々に女性活躍の場は広がってきてると言っていいかもしれません。

これ一冊で法曹界がまるわかり!

当記事では裁判官について紹介してきましたが、司法試験合格後には裁判官以外に、弁護士と検察の仕事に就く道もあります。

裁判官はジャッジするのが仕事ですが、その判断材料を裁判官に示すのが弁護士と検察であることは、ドラマや小説でよく見るとおりです。 といってもそれは脚色されたもので、現実世界の仕事はもう少し複雑なもの。

本書では「法曹三者」と称される現役の裁判官・検察官・弁護士がそれぞれの仕事や使命、合格に至ったプロセスなどについて実体験に基いて語っています。

法曹界に興味がある人への入門書としておすすめします。

著者
出版日
2010-03-01

司法試験といえば難関国家試験の象徴であり、実際に法曹三者の知り合いがいる人はそう多くはないでしょう。本書には、そんな敷居の高いイメージのある裁判官・検察官・弁護士計15名の生の声が収録されています。

それぞれの仕事の内容とやりがいを丁寧に説明してくれているとともに、実務についても実例を交えて詳しく解説しているので、イメージしやすく頭にスッと入ってきます。法廷のみが彼らの職場ではないということがよくわかるでしょう。

またこの本の優れている点は、お仕事紹介のみならず司法試験の勉強方法などの合格体験記が掲載されているところです。座学だけではなく、合格後の司法修習についても具体的に紹介されています。これから司法試験を目指す人や、現在勉強中の人はぜひ参考にしてみてください。

元最高裁判事が明かす裁判所のウラ側

著者は東大在学中に司法試験に合格し、最高裁判事まで上り詰めたエリート中のエリート。そんな著者が論じるのは日本の裁判への「絶望」です。官僚的な裁判所と裁判官の在り方、そしてそれによって生み出される弊害を、具体例な例を挙げながら詳しく解説しています。

組織の最高位から俯瞰し、指摘していく問題点には読めば目を疑うような実例も含まれていて、一読すれば日本の裁判制度への問題意識が芽生えるのではないでしょうか。かなり読みごたえのある内容です。

著者
瀬木 比呂志
出版日
2015-01-16

官僚的であることがなぜ問題なのか。それは裁判所や裁判官が上級になるほど、組織の対面を保つような判決に傾いてしまうからです。

下級裁判所では民主的、革新的な判決が下されるのに、上級裁判所がそれを覆すと著者は指摘しています。出世するためには保守的な判決を出さなければならなず、それが時には国民の利益とは程遠いものにもなるのです。

政治家の圧力で覆る判決や、冤罪を有罪で押し通そうとする裁判の実例は、まるでフィクションのようで、「正義の執行者」という裁判官への認識が雲ってしまうような内容です。

小沢一郎が無罪となった陸山会事件や、ホリエモンこと堀江貴文や鈴木宗男・佐藤優が逮捕、起訴された事件も民主主義に反する「国策捜査」だと断じ、その他にもおのおのの裁判について私見を述べ、かなり突っ込んだところまで論じています。

しかし、本書で著者が伝えるメッセージは「裁判制度の悪」ではなく、司法が変われば社会が変わるということです。日本の裁判の将来を憂いて記した著者の渾身の言葉に心動かされる一冊です。

裁判官も人間だもの

冷静沈着で無味乾燥。裁判官にそんなイメージを持っていませんか?確かに裁判官は私見ではなく、あくまで法律に乗っ取り判決を下すのが仕事です。

とはいっても彼らも人間、機械のように紋切り型の文言ばかりを発するわけではありません。裁判官おのおのに個性があって、それが法廷での言葉に表れることがあります。

本書は「法廷ウォッチャー」のパイオニアである著者が選び抜いた、裁判官の人間味あふれる「お言葉集」です。

著者
長嶺 超輝
出版日
2007-03-01

著者は法学部卒業後、弁護士を目指し、司法試験に7度挑戦するも失敗。その後、最高裁判所の国民審査に関する情報をまとめたWEBサイトが話題となり、本書でデビューしました。現在では裁判の傍聴記はひとつのジャンルとして確立しつつありますが、本書はそのはしりといってもいいでしょう。

一方の主役は裁判官ですが、もう一方の主役は罪を犯してしまった人々です。その面々はオウム真理教教祖の松本智津夫のように、重大犯罪を犯した者から、詐欺、窃盗犯、外国人や芸能人にプロ野球選手とひじょうにバラエティに富んでいます。

「爆笑」というタイトルのとおり、たしかに思わず「クスッ」となってしまう言葉もあります。おもしろいだけではなく、時には被告人への怒りをあらわにし、時には愛情のこもった言葉で更生を促す裁判官の姿は、まるで小説やドラマの一場面のようです。

裁判官の本来的な職務は法に従って、簡潔に効率よく被告人を裁くことにあるかもしれません。著者が伝えているのは、それでもやはり人が人を裁くことにおいて、意図的にか思わずか被告人に対して私見を加えることで人間味を表す裁判官たちへの敬意です。

いつの時代か法の判断はAIがやるとも言われていますが、それが果たして正しいことなのかと迷わされる一冊です。新聞記事やニュースでは伝わらないリアルな法廷の数々を読んだ後は、裁判所に足を運びたくなるかもしれません。

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