こんばんわ、それでも世界が続くならというバンドをやっている篠塚です。 この度、ホンシェルジュで連載させていただくことになりました。 僕のバンドの音楽を知ってるとか知らないとかは関係なく、僕の人生を変えた本を紹介できたらと思っています。 こんな僕だし、紹介したい本がなくなったら辞める気なので、いつまで続くかわかりませんが、これから宜しくお願いします。
このホンシェルジュでは3冊づつの紹介が基本みたいですが、僕は1冊を軸に紹介させてもらいたいと思っています。
僕は、本棚を「もうひとつの自分の脳」だと思っています。人間は忘れてしまう生き物です。でもそれは悲しいことじゃない、忘れたことがいいことの方が多いと思います。生きるために忘れる。でも、忘れたくないこともある。人間は忘れてしまうものだから、もうひとつの脳の本棚からひっぱりだして、またその感覚を思い出す。
僕のホンシェルジュでは、そうやって本棚に置いて、人生の中で何度も読み返せる本を紹介していきたいと思っています。今回、僕が紹介するのは、この本です。僕は、本棚を「もうひとつの自分の脳」だと思っています。
- 著者
- 岡本 太郎
- 出版日
僕が感じていた矛盾が壊された一冊です。「壊された」なんていうと物騒かもしれませんが、「誰彼構わず破壊する、暴力の様な本」ではありません。壊されるのは、これを読んでいるあなたに誰かから押し付けられ、同時に違和感を感じていた、あの誰かの価値観です。
「今日の芸術」の初版は、今から64年前の1954年発行。つまり、今から64年前からの手紙、というと、古くて読みにくそうに感じると思うんですけど、全然そんなことありません。例えば、本書の中の「うまい絵を描こうとするまちがい」という項目では、
みんな絵が好きだからあつまったはずです。ところが、いざ描いてみるとなかなかうまく描けない、当然なことです。~そこへもってきて、指導する先生が「デッサンがくるっている」とか「塗り方がわるい」などとアカデミックな型にはめて、残酷に不手ぎわを指摘すると、手も足も出なくなってしまいます。すでに、うまくなければならないという観念が下地にあるうえに、さらにはそのように指摘されると、自分のまずさかげんに絶望する。やがて描いても、少しも楽しくないと思うようになるのです。~こんな不毛な、古くさい芸術感はさっさと切り捨てなければなりません。
と、書かれています。こうして読んでみても、古くて読みにくいどころか、口語でかなり読みやすい。それに、まだ彼の掲げた芸術には現代の文化は追いついていない感じもします。岡本太郎さんが生きていたら、きっと64年後の現代の芸術を「まだなにもかわっちゃいない」「古い」と今にも嘆きそうな気がします。
この「今日の芸術」という本は、俗に言う芸術評論書になると思いますが、絵や音楽をやっているすべての人に読んでもらいたいだけでなく、音楽を好きで聴いている人、子供の頃に絵を描いていた人、さらには学校に馴染めない人、社会の矛盾に苦しんでいる人にも読んでほしい一冊です。逆に、世間体や常識、他人の目を意識し続け、その価値観で蹴落とし、人生のレースを勝ち抜き、それらの「正しさ」をアイデンティティに深く刻まれている常識人は、彼の思想を拒絶するかもしれません。受け入れられない。だって、信じてきた人生の正解を覆される感覚になるかもしれないから。
実際、当時、岡本太郎氏はかなりの変人として扱われてきました。笑われ、バカにされ、でもそんな自分への評価を上辺で誤魔化して良くしようとはしなかった。ただ真摯に描き、社会の評価と社会とぶつかり合い、戦い、奢らず、自分の言葉で伝えてきた人だと僕は思います。
彼は、常識という観点で見たら、非常識です。君は、こんなの非常識と拒絶するか、それとも君を殺そうとした常識から抜け出すのか。
なんて、こんなふうに書くと、大げさかもですけど、この本、実際に、30年くらい絶版になってたんですよね。実際に、彼は拒絶されたんです。彼と同じ様に、社会から笑われ、一度は拒絶された本。俺や君みたいな本、って言えるのかもしれない。だから好きなのかもな俺。
今は、ある芸術家のおかげで、光文社の知識の森文庫として復刊されて、495円+税です。コンビニ弁当買うのやめて一食カップラーメンにして、買ってみてください。流行り廃りじゃないから、すぐに読まなくてもいい、本棚に置いとくだけでいい。
誰だって、赤ちゃんの時はしゃべれなかったし、字も読めなかったはずです。「変われない」なんて誰かはそれっぽく言うけど、君は今日まで、何度も変わってきた。それと同じ様に、変われないと言った君が変わるきっかけになるかもしれない。読まずに本棚に置いてあるこの本と、いつか親友になる日がくるかもしれない。そんな本です。まだ書き足りないけど文字制限。次回は岡本太郎さんの「自分の中に毒を持て」を紹介したいと思います。芸術評論書ではなく直接表現。だからこそより人を選ぶけど、そんな常識や先入観と真っ向から戦った、彼なりの哲学書の様な本です。
長い文章に付き合ってくれてありがとうございます。また来月も、活字の中ででお会いしましょう。
またね。
本と音楽
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