本作はタイトルのとおり「12人の死にたい子どもたち」が主役の物語。彼らがおこなったのは、自殺を実行するための議論でした。この議論には、どんな意味が込められているのでしょうか。 この記事では、そんな本作のあらすじから登場人物、結末まで、詳しく解説いたします。ぜひ最後までご覧ください。
自殺志願者である高校生以下の子どもたちを、あるサイトで募集。集団で自殺を図ることを題材にした物語です。自殺志願者は、管理者であるサトシくんが作成したサイトに応募し、あるテストをおこなったうえで合格した者だけが、自殺するための集合場所を教えてもらえるという仕組みでした。
サトシくんは、皆の遺書や自殺用のベット、薬など、自殺に必要なものを1人で用意していました。集められた子どもたちは、彼を含めて12人。そんな彼らは、現在使われていない、ある病院の地下室に集められます。
この12人という数は絶対であり、友人や家族も同席できません。合格した子どもたちはテストをとおして強い意志を持っていることを確認できているので、ルールを破る人はいないはずでした。
しかしその場には、なんと13人いたのです。そして、そのうちの1人は、すでに死んでいるようでした。
ここから物語は、なぜ1人多いのか、なぜ死んでいるのかなど、その場にある「謎」について話合いがおこなわれていくことになります。読者には、自殺志願者なのに、なぜ細かいことを気にするのかという疑問が浮かびますが、その疑問は最後の最後まで謎のままです。
そんな本作は、いったいどんな結末を迎えるのでしょうか。
- 著者
- 冲方 丁
- 出版日
- 2016-10-15
本作は堤幸彦さんがメガホンを取り、2019年1月に映画が公開されました。
本作の登場人物を簡単にご紹介させていただきます。
15歳の高校1年生。サイトの管理人で、医者の息子。今回の主催者です。議論の際は進行や助言をするなど、頭が切れる様子が描かれています。
16歳の高校2年生。最初に到着した人物です。孤立することを極度に嫌います。あまり空気が読めません。
16歳の高校2年生。ロリータファッションを身にまとった、感情的なタイプの少女です。「ゲリ閣下」というバンドの大ファン。
マスクで顔を隠した少女。最初は明かされませんが、その正体は、天才子役から人気女優になったリコ。周りによって作り上げられた女優・リコという存在を嫌います。
ハンチング帽を被った、17歳の高校3年生。議論上手で、相手の話を聞くことが得意です。主に探偵役として活躍します。薬や医療道具などにも詳しい様子。
18歳の高校3年生。小柄でおとなしい性格です。大多数に属することを好みます。リョウコに死んでほしくないと感じている様子。ファザコン。
17歳の高校3年生。議長タイプで、気が強い少女です。常に、言い返す言葉を考えながら会話をしています。全身を黒の服で統一しています。
吃音で、16歳の高校1年生。親に薬漬けにされ、自分は病気だと思い込んでいます。
メガネをかけた、18歳の高校3年生。学校では人気者ですが、自らの発言でミスリードを引き起こそうとする危険な人物です。
15歳の高校1年生。金髪で喫煙をする見るからに怖そうな少年ですが、見た目に寄らずしっかりした性格の人物です。弱い者に優しく接します。母親に保険金をかけられいることに気づいてしまいます。
17歳の高校3年生。ギャル系の女子高校生で、援助交際をしています。普段はギャルらしい言動で周りから浮き気味ですが、時に的を得た指摘をすることも。
15歳の高校1年生。真面目でおとなしい少女です。注目されることを嫌います。
まだ温かい状態の死体で発見された、謎の少年。状況だけ見ると、車椅子でやってきて服薬自殺したように見えますが……。
『十二人の死にたい子どもたち』の特徴は、なんといっても、死にたいと考えている子どもが12人も集まるという不思議な設定と、彼らが死ぬ前に議論をおこなうという点にあると考察することができます。
死にたいと考えている理由は、親に保険金をかけられていたり、治らない病気になってしまったり、治らない病気になったと思い込んでいたり、本当は病気ではないのに親に病気と思い込ませられていたり、実にさまざま。
そんな彼らは、死ぬ前にある議論を始めます。それは、13人目の子どもについてです。13人目の子どもが、なぜこの場所にいるのか。そして、なぜ死んでいるのか。自殺か他殺かなど、あらゆる憶測があり、それが事実なのかどうかを、1つずつ確かめていくことになるのです。
そもそも死ぬ目的で集まった彼らにとって、13人目の子どもがどんな理由で死んでいようと関係ないとも感じますが、集まりのルールは全員一致での実行することなのです。全員一致で実行を承認しないかぎりは、いくら死にたくても死ぬことはできません。
このような、一見正当に見えながら、よく考えると不思議な議論に、読者は徐々に魅了されて物語の続きがどんどん気になっていきます。
子どもたちの議論は、どんな方向に進んでいくのでしょうか。
13人目の子どもは自殺ではなく、他殺でした。犯人は、ノブオだったのです。彼は皆に自分は殺人者であることを打ち明けます。このことをきっかけに12人の議論は、各人の自殺理由を打ち明けるという方向に進んでいくことに。
全員がそれぞれの事情を抱えながら下した、自分の人生を終わらせるという決断。そうなるに至った、誰にも明かしたくないようなことを皆が打ち明けようという気になったのは、12人全員が同じゴールを見ていたからだと考察することができます。
- 著者
- 冲方 丁
- 出版日
- 2016-10-15
彼らはどんな理由であれ、重たいものを1人で背負い込んでしまっていました。誰にも吐き出すことができないなか、それぞれが辛く、苦しい人生を歩んできたのでしょう。
他の人に自分の感情、考え、行動を承認してほしい気持ちもあったのかもしれません。子どもたちは、自分だけに秘めていた想いを吐き出すことで、どんどん考え方が変わっていくのです。
果たして、彼らの議論は、どの方向に向かっていくのでしょうか。『十二人の死にたい子どもたち』の結末が気になる方は、ぜひ本編でお確かめください。
本作は小説と映画だけでなく、漫画版も発行されています。この小説は登場人物が多く、議論が中心のため、読んでいると途中で誰が誰かわからなくなるときもあるでしょう。
そんな人には、まず漫画版で概要を把握することをおすすめします。
- 著者
- 熊倉 隆敏
- 出版日
- 2017-11-07
漫画版であれば、もちろん絵がありますので、活字だけよりは登場人物の容姿や特徴が理解でき、作品の世界観がより理解できるのではないでしょうか。出だしの、登場人物たちの一見明るい様子が、本作の不可思議さを一層引き立たせます。
作画を手がけるのは、妖怪漫画『もっけ』で評価の高い、熊倉隆敏です。
もちろん小説版もおすすめですので、漫画版と両方読んでみるのがいいかもしれません。
岐阜県出身の小説家。10歳から14歳までネパールで過ごした帰国子女。早稲田大学の第一文学部を中退しています。
日本SF作家クラブの会員であり、小説だけではなく、あらゆるメディアで活躍されています。
代表作『天地明察』では本屋大賞をはじめ数々の賞を受賞し、直木賞にもノミネート。映画化もされました。
- 著者
- 冲方 丁
- 出版日
- 2009-12-01
代表的な小説では、『ばいばい、アース』や『カオス レギオン』があります。また、アニメの『攻殻機動隊ARISE』シリーズや『攻殻機動隊 新劇場版』の脚本も書いています。