推理小説の名作といわれている、『そして誰もいなくなった』。映画化もドラマ化もされている本作は、数々の推理小説家に大きな影響を与え、さまざまな作品でオマージュされています。 そんな推理小説の古典ともいうべき本作の、あらすじから結末まで、詳しく解説。ぜひ最後までご覧ください。
舞台はイギリス。ある孤島に集められた招待客が、次々と殺されていきます。
孤島には10人の男女が招待されたのですが、それぞれ友人でも知り合いでもない人物でした。しかし彼らには、ある共通点があり……。
そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
2003年10月01日
彼らは、屋敷の主人であるオーエン夫妻によって集められました。しかし当のオーエン夫妻は姿を表さないなかで突如、レコードから録音された音声が流れ出し、10人それぞれの罪が暴露され始めるのです。
気味が悪いと感じた彼らは、孤島を脱出しようとしますが、船は3日後にしかやってきません。彼らは完全にここに閉じ込められてしまったのです。
さらに次々に降りかかる、恐ろしい事件。閉ざされた孤島で、どんどん人が殺されていくのです。1人また1人と、犠牲になっていきます。
彼らは、この殺人をオーエン夫妻の仕業と考え、この10人のなかにオーエンがいると考えました。皆が皆を怪しみ、疑いながら時間が過ぎていきます。そんな謎が解けないなかでも、殺人は続いていきます。
果たして、この事件の犯人はいったい誰なのでしょうか。
本作は、日本でドラマにもなっています。仲間由紀恵や向井理、柳葉敏郎などの豪華キャストで放映されました。小説には探偵が登場するのですが、ドラマ版では探偵が登場しないのが特徴です。
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スタイルズ荘の怪事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
2003年10月01日
アガサ・クリスティは、イギリス生まれの推理作家であり、「ミステリーの女王」と呼ばれています。
第一次世界大戦が終わった後、『スタイルズ荘の怪事件』で推理小説家としてデビュー。1926年に発表した『アクロイド殺し』で、一気に有名になります。作品に描かれている大胆なトリックと、予想もしない真犯人は、ファンの間で話題となりました。
その他にも人気の作品としては、『カーテン』や『スリーピング・マーダー』、『オリエント急行の殺人』などがあります。
人気推理小説家である彼女は、いろいろな名言も残しています。ここでは、その一部をご紹介させていただきます。
人生で最も悲しいことの1つは、人は覚えているということです。
人は、悲しかったことも、つらかったことも、忘れたいことも覚えています。そういったことほど、覚えているものかもしれません。この人間の脳の仕組みを、彼女は悲劇といっています。
本当につらい人生よ。
美しくなければ男性は冷たいし、美人なら女性が冷たいわ。
いつの時代も変わらない、人の心を鋭く指摘しています。だからこそ女性は、強いと言われているのかもしれません。
人生の悲劇は、人は変わらないということです。
彼女のいうとおり、人は他人が変われといっても、なかなか変わることができない種族ではないでしょうか。
どんな女性にとっても最良の夫というのは、考古学者に決まっています。
妻が年をとればとるほど、夫が興味をもってくれるでしょうから。
月日を重ねたものに価値を感じることができるのは、非常に素晴らしいことではないでしょうか。彼女がいうとおり、結婚した若い時が最高ではなくて、死ぬ時が1番最高と感じてくれる伴侶がいれば、とても素晴らしいものですね。
人生は決して後戻りできません。
進めるのは前だけです。
人生は一方通行なのですよ。
人生は一方通行だからこそ、後悔のないように進むべきであるといいたかったのではないでしょうか。誰もが彼女のように成功できるわけではないでしょうが、それでも最善を尽くしていくべきだと教えられているような気になる名言ですね。
本作に登場する人物を、簡単にご紹介させていただきます。
孤島に集められた10人は、それぞれが他人ではありますが、ある共通する秘密を抱えていました。それは、全員が人を殺したことがあるという事実。全員が犯罪者だったのです。
自分の手で殺した者や、間接的に殺した者とさまざまですが、オーエン夫妻は犯罪者に制裁を加えるために、彼らを孤島に集めたのでした。ここでは、それぞれが犯した罪を簡単にご紹介させていただきます。
本作はミステリー小説ですが、ホラーの要素も含んでいる作品です。
舞台は孤島であり、船もなく、電話もありません。そして10人が全員が犯罪者であり、そのなかで次々に人が死んでってしまうのです。誰も信じられないうえ、次は自分が殺されるのでは……と、常に不安を抱いていなくてはなりません。
その恐ろしさ、そして作品全体が醸し出す不気味さは、まさにホラー小説にも引けを取らない怖さなのです。
孤島という逃げ場のない空間でおこなわれる殺人の恐怖は、自分であったら絶対に味わいたくないもの。夜も眠ることができないほどのスリルです。
ホラー要素としての魅力をお伝えしましたが、やはり怖いだけでないところが本作の特徴。傑作ミステリー小説といわれる、さまざまなトリックが魅力的です。殺人は、ある童謡に見立てておこなわれます。この見立ては、これから10人全員が殺されるという暗示になっており、その世界観に読者も引きずり込まれていくのです。
それは、『10人のインディアン』。
英語圏で親しまれている民謡であり、マザー・グースのひとつとしても知られています。この歌の歌詞は、最初に10人いたインディアンが、最終的には誰もいなくなってしまうという内容。『そして誰もいなくなった』では、この民謡を元にした『小さな兵隊さん』の歌詞通りに、人が次々と殺されていくのです。
作中では、インディアンの人形が部屋に10体置かれており、1人殺されるごとに、インディアンの人形も1体ずつ壊されていきました。
その殺された方には、さまざまなトリックが使われています。7人目が殺された箇所の詩では、「燻製のニシン」が出てきており、被害者は嵐の海で溺死させられました。ここでは、無実の人に疑いの目が向けられるような罠が隠されているのです。このようなトリックが、見立て殺人の代名詞的な作品とも言われるあるゆえんです。
では、『そして誰もいなくなった』に登場する『小さな兵隊さん』の歌は、どのようなものなのでしょうか。
ここでは、全文をご紹介させていただきます。
『十人の小さな兵隊さん』
小さな兵隊さんが10人、食事に行ったら1人が喉につまらせて、残り9人
小さな兵隊さんが9人、寝坊をしてしまって1人が出遅れて、残り8人
小さな兵隊さんが8人、デボンへ旅行したら1人が残ると言い出して、残り7人
小さな兵隊さんが7人、薪割りしたら1人が自分を割ってしまって、残り6人
小さな兵隊さんが6人、丘で遊んでたら1人が蜂に刺されて、残り5人
小さな兵隊さんが5人、大法官府に行ったら1人が裁判官を目指すと言って、残り4人
小さな兵隊さんが4人、海に行ったら燻製ニシンに食べられて、残り3人
小さな兵隊さんが3人、動物園に歩いて行ったら熊に抱かれて、残り2人
小さな兵隊さんが2人、日向ぼっこしてたら日に焼かれて、残り1人
小さな兵隊さんが1人、1人になってしまって首を吊る、そして誰もいなくなった
(『小さな兵隊さん』より引用)
なんとも不気味な雰囲気漂う内容です。この『小さな兵隊さん』の存在が、作品をより怖く、ミステリアスなものに仕上げます。
ノックスの十戒とは、推理小説を書く際のルールとして、イギリスの聖職者であり推理小説家の、ロナルド・ノックスが提唱したものです。ミステリー作品の基本指針ともされるノックスの十戒。ここではそのルールに則っているかという切り口から『そして誰もいなくなった』を見ていきましょう。
1.犯人は物語の当初に登場しなければならない
まず、犯人は孤島に集められた10人のなかにいるので、1の項目は守られています。
2.探偵方法に超自然能力を用いてはならない
超能力を使えるような人物は登場しないので、こちらも問題ありません。
3.犯行現場に秘密の抜け穴・通路が2つ以上あってはならない
物語は孤島のため、脱出ルートはありません。
4.未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない
毒薬は登場しますが、未発見のものではありません。
5.中国人を登場させてはならない
登場人物に中国人は存在しません。ちなみにこれは、当時は東洋全体が未知の領域であり、且つ東洋人は娯楽小説で奇術などを使うことが多かったためにできたものらしいです。
6.探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない
そのような展開はありません。
7.変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない
こちらは難しいところです。犯人は被害者のなかに混じっており、皆と一緒に、誰がオーエン夫妻かを探っていきます。
8.探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない
物語中に、誰が犯人であるかの伏線は、あらかじめ読者に提示されています。
9.サイドキック(相棒や親友など)は自分の判断を全て読者に知らせねばならない
語り手でもある10人は、全て推理や考えを読者に提示していました。そのため、読者は置いてけぼりをくらわずに、物語を読み進めることができます。
10.双生児や一人二役の変装は、あらかじめ読者に知らせておかねばならない。
『そして誰もいなくなった』に、双生児や一人二役の変装の人物は登場しません。
ノックスの十戒が守られているかどうかを検証させていただきましたが、1つを除いてはきちんと守られているといっていいのではないでしょうか。
本作は、数々のミステリー作家に大きな影響を与えている作品でもあります。本作に影響を受けてオマージュしたといわれている作品が、以下のものなどです。
名探偵コナン (30) (少年サンデーコミックス)
2000年12月18日
『名探偵コナン』(黄昏の館事件)
黄昏の館事件は、黄昏の館に6人の探偵が招待され、1人、また1人と探偵が殺されていきます。逃げ場がない館という点と、集められた人物たちが次から次へと殺されていく点が、本作のオマージュとなっております。
その後の重要人物となる烏丸蓮耶が、初めて登場したことでも知られる、この事件。本作におけるターニングポイントともいえるでしょう。
金田一少年の事件簿 (5) (講談社コミックス (1960巻))
1993年11月17日
『金田一少年の事件簿』(秘宝島殺人事件)
『金田一少年の事件簿』に登場する事件は、基本的に、館に閉じ込められて、外界とのアクセスが遮断されます。これは、『そして誰もいなくなった』の設定と同じです。
特にこの事件では、絶海の孤島である秘宝島で、人形を使っての見立て殺人がおこなわれます。まさにそのままの設定といえますね。
ある宝探しツアーの参加券を得た金田一一(はじめ)は、秘宝島へと向かいます。そこで出会ったのは、一癖も二癖もある人物たちでした。そして島に着いて間も無く、柱時計の中からバラバラ死体が発見されるのです。
- 著者
- 高木 彬光
- 出版日
『一、二、三ー死』
鬼の数え歌の歌詞の順に、連続殺人が起きている点が、本作のオマージュとなっています。
ある日、老婆の元に届いた一通の手紙から事件は始まります。彼女は、3人の男が自分の財産を狙っている、と言うのです。その相談を受けた謎の名探偵・墨野隴人と、愉快な未亡人・村田和子が事件解決に向けて立ち上がります。
シリーズで謎のままだった墨野の正体についても迫る、注目の一冊です。
- 著者
- はやみね かおる
- 出版日
- 1994-02-15
『そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート』
『そして誰もいなくなった』の作品の特徴でもある「クローズドサークル」と「見立て殺人」をオマージュしている作品です。
オムラ・アミューズメント・パークで、突如消えてしまった天才児たち。そこに立ち向かうのが、変人奇人として知られる自称名探偵・夢水清志郎です。そして事件の謎を解いた彼は、「謎は解けた」と言ったきり、黙り込んでしまうのでした。その真相とは?
ミステリー小説でありながら、ハッピーエンドの本作。ミステリーが苦手な方にもチャレンジしてみていただきたい作品です。
最後まで残った人物は、フィリップとヴェラの2人でした。彼らはお互いを疑い合い、疑心暗鬼になってしまいます。そして耐えきれなくなったヴェラが、フィリップを銃で撃ってしまったのです。フィリップは死に、遂にヴェラは1人になってしまいました。
そんななか、1人になってしまった彼女の元に、ある人物が現れます。その人物とは死んだはずのある人物だったのです。彼こそが真犯人であり、9人に手紙を送って、彼らを孤島に集めたのでした。
そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
2003年10月01日
彼は、なぜこんなことをしたのでしょうか。その動機と本当の目的を、ヴェラに語り出します。
そして、犯人が判明したこのあとから、物語は本当のラストを迎えるのです。
ヴェラは、真犯人に殺されてしまうのでしょうか。そして、その人物の動機と目的は、いったいなんなのでしょうか。
本当のラストは、とても悲しい展開が待ち受けています。それまでに抱いていた真犯人のイメージが180度変わり、その驚きに舌を巻くことでしょう。
『そして誰もいなくなった』の結末が気になる方は、ぜひ本編をお確かめください。