『双亡亭壊すべし』が面白い!その魅力を全巻ネタバレ考察!【10巻まで】

更新:2023.11.9

本作は『うしおととら』『からくりサーカス』などで知られる藤田和日郎が描くモダンホラー作品。迫力と躍動感のアクション、狂気と悪意とおぞましさ、謎と恐怖が渦巻く双亡亭に挑む破壊者達の戦いの記録である、『双亡亭、壊すべし』。 この記事では、本作品の魅力・見所をご紹介していきたいと思います。ネタバレ注意です。

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『双亡亭壊すべし』が面白い!【あらすじ】

「<双亡亭>壊すべし」
(『双亡亭壊すべし』1巻より引用)

破壊者達は、その言葉のもとに集います。恐怖と戦慄が待ち受けるおぞましい屋敷、双亡亭へと。

東京都豊島区沼半井町(ぬまなからいちょう)にある幽霊屋敷〈双亡亭〉(そうぼうてい)。その隣のアパートに住む絵本作家志望の青年・凧葉務(たこは つとむ)は、双亡亭の敷地内にある家に引越してきた内気で優しい少年・立木緑朗(たちき ろくろう)と知り合います。

出版社への持ち込みが失敗に終わって消沈する凧葉ですが、絵を描く事が好きな緑朗は、そのお話を読んで一緒に笑ってくれました。凧葉は緑朗に元気を貰い、前向きな気持ちになる事が出来たのです。しかしその夜、緑朗の父がガス爆発で亡くなるという事件が起きます。

著者
藤田 和日郎
出版日
2016-07-12
 

1人生き残った緑朗は、狂気に満ちた顔で笑うと「パパがあの家に食べられた。」と言いました。それに戦慄するのも束の間、突如として双亡亭に自衛隊による空爆が敢行されたのです。それも首相命令による攻撃が。

しかし、爆発の後も双亡亭は健在でした。付近の家屋は吹き飛ばされたというのに、双亡亭だけが無傷という事実に、皆が異様なものを感じていたその時、屋敷の上空でとある異変が起こります。

不意に出現したボロボロの旅客機。それは45年前に消息を絶ったまま行方不明になっていたものでした。不時着した旅客機の中から、1人の生存者が発見されます。それは成長を止めたような異様な容姿と異能を持つ少年・凧葉青一(たこは せいいち)。彼は双亡亭を壊すことに、凄まじい執着を持っていました。

混乱のなか、首相が音頭を取って発動する双亡亭破壊プロジェクトに応じ、官民から集う破壊者達。そのなかには緑朗の姉・柘植紅(つげ くれない)の姿もありました。

彼女は高校生ながら現役巫女屈指の実力者、刀巫覡(かたなふげき)という巫女。父と弟を襲った不幸を見過ごせず、同業者の間で「不祓案件(はらえずあんけん)」と言われる双亡亭に挑む決意をしたのです。

しかし、自失していた緑朗は双亡亭への怒りと憎しみ、凧葉の言葉で己を取り戻し、拘束から抜け出した謎の少年・青一と出会って、周囲の制止を振り切り、2人だけで双亡亭に向かってしまいます。

緑朗に代わって父の仇を討つという決意を拒まれ、衝撃を受けた紅を落ち着かせたのは凧葉でした。彼の言葉に励まされ、緑朗より先に双亡亭を祓うと決意を新たにした紅。緑朗に「幽霊屋敷」の事を話した責任を感じ、双亡亭への突入に同行すると腹を括った凧葉。

霊能者、特殊部隊員らとともに、双亡亭に乗り込む彼らを待ち受けるモノとは、一体何なのでしょうか。

時の首相が懸賞金を掛けてまで、双亡亭を破壊しようとするのはなぜなのか。異能の少年・青一は何者なのか。謎は全て、双亡亭に繋がっています。

「<双亡亭>壊すべし」
(『双亡亭壊すべし』1巻より引用)

破壊者達の思いがひとつになる時、彼らの前には一体どんな道が開けるのでしょうか。

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『双亡亭壊すべし』の魅力を考察!

『双亡亭壊すべし』。この物語の魅力とは何なのか。この項では、それを3つに分けて考察していきたいと思います。

①坂巻泥努の詩

これは、コミックス表紙に掲載されている一編の詩。表紙を捲れば、カバー折り返しにもその詩が載せられています。独特の雰囲気と言葉の妙が特徴で、作者は坂巻泥努(さかまき でいど)。

実は彼は、双亡亭を建てた人物なのです。その名前が作中で登場するまで、現実の詩人の作品を引用しているものだと思わせる折り返しのデザインは、虚構と現実の境目をあやふやにさせる小道具の1つだったのかもしれません。

この表紙の詩は、1巻ごとに新しい一編が載せられており、新刊が出る度に、不気味でどこか寂しげなこの詩の続きが読めるのは、購読の楽しみの1つといえます。

②主人公・凧葉の魅力と、双亡亭の主との関係

藤田作品の登場人物、特に主人公は、どのキャラクターにも秘めた温度があるように感じられます。そして一本筋がとおっている彼らの物語は読んでいて爽快なのです。

この作品の主人公・凧葉務にも、しっかりした気骨と、熱い心根があります。一見頼りない見た目や、普段の気の抜けるような発言、態度は一般人のそれ。しかし双亡亭と対峙した時、彼の心は柔軟でありながら折れる事ない強靭さを見せ、自分だけでなく他者の心をも救うのです。

彼の持つ謎の安心感は、双亡亭とその主・泥努の持つ不安定感を相殺させ、「普通」を思い出させてくれます。何もかもが異常な双亡亭の中にあって、彼の存在は一種の命綱のように、破壊者達の心を繋ぎ止めるのです。

そして彼と対を成すような、危ういバランスの狂気と不安をもたらす坂巻泥努の存在が、双亡亭の恐怖とおぞましさを色濃くしていきます。凧葉と泥努、同じような絵を好む2人の絵描き。彼らは正反対のものに光を見いだしているように見えます。

不可思議な合わせ鏡のような2人の関係も、この作品の魅力の1つなのではないでしょうか。

③絵と戦う!?予想外の展開。

ただのホラーではない。

読み進めていくとすぐに、この物語はホラーに留まらない展開を見せていることが感じられるでしょう。1巻冒頭から怒濤のようにくり出される謎の数々。それらは徐々に核心に迫りながら姿を現して、スケールは地球・宇宙規模に発展し、また双亡亭に集約していきます。

だからといって、双亡亭の恐怖が消える訳ではありません。開示された情報を知ると、複雑に絡み合ったバックボーンに裏打ちされて、その屋敷の魔性はカタチをもって迫ってくるのです。今度は、別の恐怖を引き連れて。

そして登場人物達は、双亡亭の恐怖を担う「絵」と戦う事になります。一体どうやって絵と戦うのか?それはぜひ、実際にお確かめください。

 

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『双亡亭壊すべし』1巻の見所をネタバレ考察!

「人を食う」おぞましい屋敷〈双亡亭〉に挑む破壊者達が集い始める本巻。

首相と防衛大臣主導の「双亡亭破壊プロジェクト」が始動するなか、絵描きの青年・凧葉、双亡亭に父を食われた少年・緑朗、緑朗の姉で刀巫覡の巫女・紅、凧葉の遠縁で45年前に行方不明になっていたはずの「少年」・青一らが出会い、絆が繋がり始め、双亡亭へと向かう彼らを結びつけていきます。

彼らは空爆でも破壊できない、異様な屋敷を破壊するために、双亡亭へと向かう事になっていきます。

著者
藤田 和日郎
出版日
2016-07-12
 

この巻の見所は、一気に提示される双亡亭の謎と恐怖、そして青一の存在です。双亡亭を破壊しようとする強い意思を持った少年・青一は、45年前に小学生だった時の姿のまま、手足をドリル状に変形させるという異能を持って、双亡亭を破壊するために、遠い遠い所から戻って来ました。

彼の謎が、双亡亭に巣食うものの秘密へと繋がっているのです。

ちなみに凧葉の漫画の絵柄とデッサンのギャップの、衝撃(笑撃?)も面白いところ。そこここに登場しているので、彼の絵をチェックしてみるのも楽しみの1つかもしれません。こぼれ話ですが、1話に登場する彼が描く「ねこ」の絵は、藤田氏の元アシスタント「はこたゆうじ」氏が描かれたものだそうですよ。

『双亡亭壊すべし』2巻の見所をネタバレ考察!

ついに、双亡亭に乗り込む破壊者達。屋敷を内部から破壊するために、対超常現象のプロ達、特殊部隊員達が内部に踏み込みます。

凧葉、紅に加え、修験者の朽目洋二、アメリカ超自然現象研究会のメンバーであるアウグスト博士のチーム、占い師・鬼離田三姉妹、発火能力を持つ人形〈パイロメアリー〉と、車椅子の老女ジョセフィーン=マーグ、その夫バレット=マーグ。

彼らは複雑に入り組んだ双亡亭の中へ踏み込み、この屋敷の恐怖の中核である「絵」と出会うのです。それは、なぜかおのおのの自画像を成していました。「人ならざるもの」へと変貌した双亡亭の犠牲者達が襲い来るなか、さらに人を食らう絵とも対峙する破壊者達。

そして、単独で双亡亭に挑もうとする緑朗と青一は、面会を求める斯波総理大臣の元へ招かれる事になるのです。

 
著者
藤田 和日郎
出版日

この巻の見所は、気弱だった緑朗の成長です。彼は父が双亡亭に食われ、「人ならざるもの」へ変貌した時、何も出来ませんでした。父は異形へと変じながらも、自分とともにとり憑いたものを殺し、緑朗を守ったのです。緑朗に「双亡亭を壊すものを呼んでこい」と言い残して。

自分の無力さに怒りを感じている緑朗は、その怒りを、狂気を纏う強さに変えていきます。「双亡亭を壊すもの」である青一の友人として彼を守ろうとする姿が、その変化を見せてくれます。青一と緑朗が、2人でご飯を半分こして分けあって食べる場面は、特に心が温まるでしょう。

そして、破壊プロジェクトのレセプションで1コマだけ登場して以来、なかなか登場していない(と思われる)、烏帽子の男と水干の男の2人組は一体……。

『双亡亭壊すべし』3巻の見所をネタバレ考察!

屋敷の中で、おのおのの自画像を目にした者達が変わっていきます。「人ならざるもの」へと。

双亡亭内部で暗闇に分断された破壊者達は、自画像から出る無数の白い腕に捕まり、絵の中へと食われていきます。そして彼らが絵から出てきた時には、「人ならざるもの」へと変貌を遂げているのでした。

しかし凧葉は、絵に取り込まれながらも心の強靭さで、絵に潜む敵である「奴ら」を撃退。自己を保ったまま生還します。

そして紅を救い、ともに双亡亭の秘密へと迫るのでした。双亡亭はただの幽霊屋敷ではないという予感が強まるなか、アウグスト博士の養女・フロルを助け、さらに奥へと踏み込みます。

著者
藤田 和日郎
出版日
2017-01-18

一方、歴代総理大臣らと面会した青一と緑朗は、「溶ける絵の控え室」へ通されます。そこには、一部官僚にしか知らされていない双亡亭と彼らの確執、そして秘密が隠されていました。

歴代総理大臣には、1人の例外もなく、双亡亭から肖像画が送りつけられていたのです。そして双亡亭に潜む敵、「奴ら」の正体が、徐々に明らかになっていきます。

絵の中に取り込まれた凧葉は、謎の青年と出会いました。本巻の見所は、この2人の出会いです。青年はなぜか、絵の中で淡々と絵を描いていました。そして、凧葉との会話に何か感じる所があったのか、双亡亭内で自由に移動できる「黒い腕」を凧葉に与えます。

それは、絵から出て来る白い腕によく似ていました。凧葉は夢だと思いますが、青年は彼に「また絵の話をするために戻ってこい」と言うのです。

凧葉にそんな能力を与える力を持った彼は、敵か味方か……一体何者なのでしょうか。それは続巻で明らかになっていきます。

ちなみに凧葉と青年の、噛み合っているのか、いないのかが謎の会話は、そんな場面じゃない筈なのになぜか笑いが込み上げます。凧葉のキャラクターがなせる技なのでしょうか。つい読み返してしまいたくなる要素です。

『双亡亭壊すべし』4巻の見所をネタバレ考察!

アウグスト博士と特殊部隊長の宿木は、双亡亭に潜む敵の手先となった元仲間達に襲われピンチに陥るも、博士の養女・フロルと合流した凧葉、紅に助けられます。

そして「溶ける絵の控え室」で語られたのは、青一の過去と、敵である「奴ら」の正体、青一らを助けてくれた謎の存在である「あのヒト」の事でした。行方不明になった旅客機の面々の、45年に渡る戦いの記録と、驚愕の事実が明かされていきます……。

著者
藤田 和日郎
出版日

地球から遠く離れた宇宙の彼方に、滅びに瀕した2つの星、2つの生命体がありました。2つの星はそれぞれ黒い水と透明な水で満たされており、その水こそが、その星の生命体です。

彼らの体は水そのもの。その水の全てが、1個の生命体なのです。黒い水達は自らの滅びを遅らせるため、自身の衛星である透明な水の星を侵略し、衛星から命そのものである透明な水を奪ってしまいます。透明な水達は体を奪われた事により、黒い水達に滅ぼされようとしていました。

そんな時、青一達が乗った旅客機が黒い水の星に呼び寄せられており、透明な水達がそれを見て自らの星のほうへと救いあげたのです。そこで青一達は意識の集合体、1個の生命体である透明な水達と出会うのでした。

青一は、自分達を助けてくれた彼らの事を「あのヒト」達と呼び、彼らを苦しめる侵略者、黒い水を「奴ら」と呼びます。その黒い水こそが、双亡亭に潜む敵……「奴ら」だったのです。

交流を深めるうち、自分達を助けてくれた「あのヒト」達が侵略され、搾取されていく事に怒りを感じる青一。そして、初めは人間の持つ感情を認識出来なかった「あのヒト」達は青一達を知り、理解する事で自らの感情の発露を感じ始めます。

青一達との交流を「うれしい」「好ましい」と思うようになった彼らは、最後の瞬間まで人間達を守ろうと心を定めたのです。そしていよいよ彼らの滅びが迫った時、爆発する青一の怒りの感情。それを知り、「あのヒト」達は青一らとともに立ち上がります。搾取されるだけの存在から、反撃者へと。長い長い戦いが、始まったのです。

この巻の見所は、青一達と「あのヒト」達の交流です。人間達の記憶を読み、感情を理解し、慈しむようになった「あのヒト」達は、青一達がゆえ郷にいた時と変わらず生活出来るように、地球の生活を皆の記憶から再現してみせます。

ある老人は先立った妻を、ある夫婦は失った娘を、ある男は夢見た「家族」を与えられ、それが仮初めのものと知りながらも、ともに暮らし始めるのです。

そうして受け入れる者や拒絶する者、反応は人それぞれでしたが、「あのヒト」達の滅びが迫った時、彼らが見せる行動は心に迫るものがあります。

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『双亡亭壊すべし』5巻の見所をネタバレ考察!

明らかになった青一の過去。「あのヒト」達と同化し、協力し合って侵略者を撃退し続けた彼は、今の姿へと変わりました。そして遂に、45年の戦いにも終わりが訪れます。大勢を失いながらも侵略者の星へ乗り込んだ彼らは、そこで恐ろしい事実を知るのです。

それは、地球に間もなく「門」が開き、侵略者達が押し寄せていくというものでした。時空間を超えた通路……それが侵略者の星にあり、地球へと繋がっていたのでした。青一達の旅客機がこの星へと引き寄せられたのは、その通路のせいだったのです。

青一と弟の真(まこと)は、2人の祖父の姿をした「あのヒト」から、地球に帰還し、その門を閉じる戦いを託されます。もう、生き残ったのは2人だけになっていました。そして何を隠そうねじれた空間の通路の先、「門」が開かれる場所が双亡亭だったのです。

凶悪な侵略者達が地球に溢れ返る事態を阻止するため、2人は双亡亭の破壊を決意。そして、敵の通路を通って地球への帰還を果たしたのでした。

著者
藤田 和日郎
出版日
2017-07-18

彼らに起こった出来事を知った総理大臣らは、あらためて青一と緑朗に双亡亭の破壊を依頼し、2人は双亡亭へと向かいます。「門」を破壊し、「奴ら」の侵略を阻止するために。

一方凧葉は、絵に取り込まれた鬼離田姉妹を救出するために、紅とともに絵の中へ向かいます。菊代はすでに敵となっていましたが、雪代と琴代はまだ助かるかもしれなかったからです。

そして、絵の中で明かされる鬼離田三姉妹の過去。彼女達は「双亡亭の子」だというのですが……。

この巻の見所は、「あのヒト」、そして、青一と真の戦いと別れです。かつて乗って来た旅客機は、遠い空間と空間を繋ぐねじれた通路から、ここにやって来ました。

侵略者の星にあったそれを逆行して、地球に帰る2人。残りの命を賭けて、侵略者達の体である黒い水を防ぎ、通路へ至る道を死守する「あのヒト」。彼らはすでに、本物の家族でした。青一と真が「おじいちゃん」と呼ぶ声に、「世界で1番いい言葉だ」と返す「あのヒト」は優しく笑っていました。

しかし、そのねじれた通路の途中で、侵略者を撃退するために、真は1人旅客機の外に飛び出します。時空間がねじ曲がったその通路に出てしまえば、一体どうなるかはわかりません。けれど真は言います。

「いつか必ず、双亡亭で会おうね」と。その約束を果たすため、青一は双亡亭を目指すのです。

『双亡亭壊すべし』6巻の見所をネタバレ考察!

バラバラだった霊能者達が、凧葉の言葉に協力し始める、本巻。情報を共有していくなかで、敵である「奴ら」の特徴が判明します。それは、彼らは窒素に弱く、含有量の少ない水中でもっとも強く活動出来るということ。そのため、双亡亭地下に水脈を求めていたのでした。

しかし、敵の水脈確保を防ごうとする破壊者達の前に、「人ならざるもの」達を従えた鬼離田菊代が立ちはだかります。凧葉達は猛攻を受け、全滅の危機に晒されてしまいました。

著者
藤田 和日郎
出版日
2017-10-18

そんななか遂に双亡亭に辿り着いた青一は、危機的状況にあるフロルのテレパシーを受け、先行して屋敷に乗り込みます。残る緑朗に、窒素を敷地内に運び込むよう託して。

緑朗は彼の願いを受け、必死の訴えで敷地内まで窒素を運び込む事に成功しました。決死のアポーツ(物体を瞬間移動させる能力)で、その窒素を呼び寄せたフロルは、大量の「人ならざるもの」達から仲間を救うために、死を覚悟して窒素とともに落下していきます。

窒素による大爆発が起こり、皆がそれに巻き込まれ……破壊者達は、そしてフロルは、どうなってしまうのでしょうか。

この巻の見所は、破壊者達の協力が見られる所ではないでしょうか。凧葉は一般人で、「黒い腕」の謎の移動力があるといっても、霊力はありません。特殊部隊のように身体能力が優れている訳でもありません。

けれど彼の訴えは、非協力的だった破壊者達を導きます。恐ろしい敵の輪郭が見え始め、戦う恐怖に呑まれても仕方がないような場面を、彼の持つあっけらかんとした空気が中和していくのです。

『双亡亭壊すべし』7巻の見所をネタバレ考察!

新たな敵と味方が登場し、双亡亭の深部がさらなる闇を濃くする本巻。

窒素の爆発により、「人ならざるもの」達の群れを撃退する事に成功した破壊者達。彼らも巻き添えになったかと思われましたが、帰黒(かえりくろ)と名乗る女性霊能者の能力に救われ、無事救出されました。

爆発直前に1人逃がされた紅は彼女と出会い、その多彩な能力に驚きを隠せません。彼女の髪は硬度・伸縮自在で、それによって仲間達は爆発から守られていたのです。

そして別行動の凧葉は、黒い腕の力で爆発からフロルを救出。屋敷の外に連れ出す事に成功していました。緑郎とも再会し、フロルとともに双亡亭を出ようとしますが、黒い腕が彼を敷地外に出す事を許しません。

腕は、凧葉を双亡亭の最深部へと誘います。そして、彼は再び出会うのです。なぜか絵を描き続けるあの青年・坂巻泥努、その人に。

凧葉と束の間の再開を果たした緑朗は、恐怖をねじ伏せ、残った窒素を手に1人双亡亭に乗り込みます。少しでも姉と凧葉、青一の助けになるために。

紅は、帰黒から緑郎が双亡亭に踏み込んだと知らされ驚愕します。ですが、幸いな事に帰黒が緑朗の居場所を感知できると知り、ともに彼の元へと向かう事になりました。

著者
藤田 和日郎
出版日
2018-01-18

一方単独で双亡亭を破壊し続ける青一は、帝国憲兵隊と名乗る敵、「奴ら」の手先に出会い、苦戦を強いられますが、突如現れた剣の達人、帝国陸軍憲兵隊の隊長・黄ノ下残花(きのした ざんか)少尉に助けられます。

青一を襲った憲兵隊達は、かつて残花の部下でした。しかし、彼らが双亡亭の手先となってしまった今、その部下達を倒し、解放するために双亡亭に乗り込んできた残花。彼は、かつて泥努の幼馴染みだったのです。

明治に生まれたはずの泥努、その幼馴染み残花、彼とともに双亡亭に乗り込んだ帰黒。ねじれた時空間がなせる技か、彼らと出会う破壊者達。双亡亭の闇は、まだまだ深いままです。

この巻の見所は、帰黒、残花の登場です。残花の回想から、泥努の過去、そして憲兵隊である残花が、なぜ双亡亭の破壊にこだわるのかが明らかになります。

紅と出会う帰黒は、白く長い髪を持ち、その硬度自在の髪を伸縮させて攻防に用いる他、「味知覚」という特殊能力の持ち主で、空気を舐めて、多くの情報を得る事が出来るのです。

彼女の戦いは変幻自在で、見ていて面白く感じます。2人の登場で、双亡亭の謎が一層深まっていく本巻、後半戦の始まりです。

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『双亡亭壊すべし』8巻の見所をネタバレ考察!

坂巻由太郎(さかまき よしたろう)。それが、かつての泥努の名前でした。姉のしのぶを慕う、絵を描く事が好きで、大人しく、優しい、普通の少年だった由太郎。

しかし、彼に起こった壮絶な出来事が、由太郎を泥努に変えたのです。泥努と凧葉、残花と青一、時間さえねじれた双亡亭の中で、出会うはずのない者達が出会い、彼らの過去が明かされます。

そんななか、帰黒とともに緑朗の元を目指す紅の前に、強力な敵……「奴ら」と同化した帝国陸軍憲兵隊の面々が立ち塞がります。そして帰黒が紅を逃がし、単独で彼らと対峙することに。

一方緑朗は、しのと名乗る少女と出会います。着物姿の彼女は、双亡亭に巣食う侵略者でした。彼女が語る「遥か昔のお話」によって、「奴ら」侵略者達と泥努との出会いが語られます。そしてなぜ、双亡亭が侵略者達の母星と繋がってしまったのかも。

自らの滅びを回避しようとする黒い水、侵略者達の一部が、かつて移住可能な星を求めて宇宙に旅立った際、地球へと辿り着いたものがありました。しかし、長い旅に疲弊したその黒い水は、眠りにつくことを余儀なくされたのです。

そのまま長い年月が経ち、黒い水が眠る地の上に、屋敷を建てた男がいました。それが坂巻泥努、そして双亡亭だったのです。

自分の絵を完璧に表現するための理想の色、最高の絵の具を探し求めていた泥努は、己が屋敷に沸きだした黒い水を発見し、狂喜します。黒の中に、全ての色があったのです。彼が望めば、それは頭で思い描いたとおりの色に変わりました。

彼は早速、1枚の絵を描き上げます。しかし、それこそが、黒い水が望んでいた事でした。侵略者達は、表面が平らなものの上に広がる事さえできれば、自身のその平らな体が通路となり、母星に残した仲間達と繋がる「門」となるのです。

著者
藤田 和日郎
出版日
2018-04-18

「門」が完成した事に喜ぶ侵略者達でしたが、誤算があったとすればまず第一に、地球の大気は窒素が多く、彼らが絵から出ようとするとすぐに溶けて消えてしまうという事でした。

そのため、絵を描いた人間……坂巻泥努になり代わろうと試みたのです。体内に入り込む事が出来たら、窒素の事など心配はいりません。

そんな理由で泥努を支配しようとした彼らは、彼の狂気に満ちた強靭な精神力を前に、逆に支配されてしまう事となります。彼には、誰にも触れる事を許さない記憶がありました。それに触れた「奴ら」侵略者に対して、泥努の狂気が牙を剥いたのです。

侵略者は侵略を果たせず、泥努の「絵の具」となってしまったのです。支配される日々に疲弊し、細々とでもいいから生き残りたいと、しのは自分の望みを口にします。そして泥努の支配から逃れるために、「勇気」という感情を欲していると言うのです。

緑朗の中に入る事で、それを知ることが出来ると言うしのを、緑朗は受け入れます。しかし、それは、「奴ら」の罠で……。

この巻の見所は、坂巻泥努の過去です。まだ由太郎だった頃は、彼は緑朗のように優しい少年でしたが、徐々に変わってしまいます。世間に認められず、歪み、狂気を露にする画家・坂巻泥努へと。

彼が人を「ころした」と、しのは言います。由太郎は、最愛の姉を手にかけたのです。それが彼を決定的に変えたのでしょうか。鬼気迫るその場面、ぞっとしながらも目を離すことが出来ません。

その発端は、しのぶが呟いた、ある「お願い」。その内容は明かされていませんが、泥努は「私の脳髄のもっとも美しいところ」には、しのぶがいると言います。それに触れた侵略者達は、彼に支配される事となったのです。彼の狂気が溢れ出すような戦慄の本巻、この美しくおぞましい恐怖の謎が、この巻の見所といえるでしょう。

そして、さりげなく気になるのが帰黒の出自です。幼い頃彼女は、亀戸天神の境内で小さな部品のようなものを握りしめ、記憶が無い状態で拾われたというのです。それ以来、何かを望んだ事が無かった彼女ですが、残花から双亡亭を読み取った時に、どうしても同行しなければという思いが沸き上がります。

彼女と双亡亭には、一体どんな因縁があるのでしょう。

『双亡亭壊すべし』9巻の見所をネタバレ考察!

破壊者達の敵、「奴ら」の罠にはまったかに見えた緑朗ですが、彼は双亡亭に心を許してはいませんでした。体内に「奴ら」を呼び込み、窒素でともに果てようとしたのです。ようやく彼と出会えた紅が、その時取る行動は!?
 

紅を逃がした帰黒は、敵の多さに押されて、死を覚悟していました。しかしその時、黒い腕の力で飛び込んできた凧葉に救われます。泥努の名を出して、その場を切り抜けようとする凧葉。

しかし、憲兵隊の樺島は、泥努の意向を無視して凧葉を刺し、帰黒をも殺そうとします。残花と青一がそれを阻み、帰黒は合流した紅、緑朗と凧葉を救おうとしますが……。

一方、瀕死の凧葉はその時幽体となっていました。どうせ死ぬなら双亡亭の「門」となっている絵、そのの向こう側を見てみたい。そんな思いから絵の「向こう」へと突入します。

しかし、そこには絶望的な事実が待ち受けていました。衝撃を受ける彼ですが、かつて青一を助けた「あのヒト」と出会い、彼の過去を知り、「あきらめるな」と伝言を頼まれるのでした。

著者
藤田 和日郎
出版日
2018-07-18

この巻の見所は、まず緑朗の怒りと、それを受け止め、正しい方向へ導こうとする紅、2人の心の成長です。

緑朗は、弱かった自分とともに「奴ら」1匹でも殺して死のうと決意しますが、凧葉の言葉に救われた紅は、死に向かう勇気ではなく、生きるための勇気を見出します。

そして、打算なく帰黒を助けに飛び出す凧葉の、安定のクオリティ。凧葉なら大丈夫、と思わせておいていきなり瀕死に陥る彼は、幽体になっても凧葉です。彼はどこまでいっても彼なのです。

しかし、泥努が最後の大作を完成させた時、扉……侵略者達と繋がる「門」が開かれる事を知ってしまった彼は、再び戦いの場に戻ってきます。双亡亭を壊す、その目的のために。

『双亡亭壊すべし』10巻の見所をネタバレ考察!

青一が絵に飲み込まれてしまいました。残花はあとを追って絵の中に飛び込みますが、彼の心を守る事が出来ません。しかし、そこに凧葉と緑朗が現れます。無事肉体に戻る事が出来た凧葉は、青一を取り戻すために、緑朗と2人で絵の中へ飛び込んだのです。

そして、絵の中から生還した彼らが見たものは、負傷した帰黒でした。泥努が現れ、紅を連れ去ったというのです。

泥努が紅を「最後の絵」のモデルにするために連れ去った事に、思い当たることがある凧葉。最後の絵が完成したら、泥努によって「扉」が開かれ、膨大な量の侵略者達の水が地球に呼び込まれてしまうのです。それを阻止するため、凧葉達は紅の救出に向かいます。

著者
藤田 和日郎
出版日
2018-09-18

一方、双亡亭から助け出された霊能者達は、鬼離田姉妹の進言により監禁状態にありました。彼らは「双亡亭に乗っ取られている」と言う鬼離田姉妹の思惑は一体?

戸惑い、怒りを抱える破壊者達ですが、幽体の凧葉からSOSを受け取った彼らは、再び戦う事を決意しました。

この巻の見所は、凧葉と緑朗が、青一の心を助け出す一幕です。強力な霊能者でも、屈強な軍人でもない2人。そんな彼らだけが、双亡亭の恐怖から青一を助け出すことが出来たのです。

絵の中で、悲壮に自分を責め続ける青一の心を守り、「あのヒト」の水とともに、青一の中にあるはずの母の声、それを思い出させた凧葉の行動と緑郎との絆。肉体的には最弱の2人が双亡亭に打ち勝つさまは、一層爽快です。

そして、その結末を呼び寄せた凧葉は、緑郎と紅が感じていたように、「双亡亭を壊すのになくてはならない存在」なのだと思わせてくれます……。それでも、ひたすら青一にコチョコチョをかまして笑わせては残花に怒られる彼は、いつも通りの彼なのですが。

そして、なすすべなく監禁された破壊者達の心が、凧葉の呼び掛けに1つになる瞬間は、思わず「〈双亡亭〉壊すべし」と、一緒に声を上げてしまいそうになるかもしれません。

 

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漫画『うしおととら』の名言&名シーン徹底紹介!最終回のあの泣ける言葉も

漫画『うしおととら』の名言&名シーン徹底紹介!最終回のあの泣ける言葉も

連載が終了してから20年以上経過している漫画『うしおととら』。2015年にアニメ化もされ、その人気はいまだ衰えることのない名作です。ここでは、『うしおととら』の名言&名シーンを徹底的にご紹介いたします。

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