国際ピアノコンクールの予選・本選の演奏と、奏者の生きざまを描いた小説、『蜜蜂と遠雷』。コンクールには、ある4人の人物が出場しました。それは自他ともに認める天才、かつて天才だった者、音楽の道を諦めた者……。それぞれ道のりや音楽性が異なる彼らの勝敗は、果たしてどうなるのでしょうか。 この記事では、松岡茉優など出演で映画化も決定し、これからますます注目の本作について、あらすじから結末まで詳しく解説!ぜひ最後までご覧ください。
3年ごとにおこなわれる芳ヶ江国際ピアノコンクールを舞台に、それぞれのピアニストの想い、葛藤、友情、愛情などを描いた本作。
風間塵、栄伝亜夜、マサル・カルロス、高島赤石の4人のピアニストを中心に、コンクールの一次予選から本戦へと物語は進んでいきます。それぞれ無名の天才、過去の天才、自他ともに認める天才、音楽の道に再挑戦する者など、境遇の異なる4人です。
数多くの挑戦者から本選に出場できるのは、たったの6名。そして本選ではオーケストラと一緒に演奏をし、優勝者を決定します。栄えある1位に輝くのは、いったい誰なのでしょうか。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
- 2016-09-23
『アメトーーク!』の読書芸人でも面白い、泣けると紹介された本作は、直木三十五賞、本屋大賞を受賞しました。直木賞と本屋大賞のダブル受賞および、同作家2度目の本屋大賞受賞は、史上初めての快挙でした。売上部数は57万部を突破しています。2019年には文庫化もされ、コミカライズされた漫画版も連載されています。
また、音楽集CD『蜜蜂と遠雷~音楽とその世界。』や『蜜蜂と遠雷 ピアノ全集』も販売され、「アフリカ幻想曲」や「イスラメイ」など劇中で演奏された楽曲が収録されています。このCDを聴きながら物語を読み進めるのもおすすめですよ。
そんな本作は、石川慶監督による映画化も決定しています。松岡茉優、松坂桃李、鈴鹿央士、臼田あさ美などの豪華キャスト出演で、2019年に公開予定です。
さて、ここで疑問なのですが、なぜ本作は『蜜蜂と遠雷』というタイトルなのでしょうか。
主人公である塵は、実家が養蜂業を営んでいます。さらに、野生的な演奏をすることから、「蜜蜂王子」と周りから呼ばれています。このことから、「蜜蜂」とは塵のことを指すのだとわかるでしょう。
一方の「遠雷」は、彼の師であるホフマンを指す言葉だと考えられます。彼は、芳ヶ江国際ピアノコンクールの前に亡くなってしまいます。それでもなお塵に強い影響をおよぼしている、そのことを遠雷にたとえて表現したのかもしれません。天国から塵を見守っている様子とも表せるかもしれません。
ちなみに本作の芳ヶ江国際ピアノコンクールは、実際に存在する「浜松国際ピアノコンクール」をモデルとしているそうです。作者である恩田陸は、本作を書き上げるために4度も取材に訪れたのだとインタビューで語っています。
また、作中で演奏された曲は、実際に三浦大知や家入レオ、中村中らによってオーチャードホールにてオーケストラ演奏会が開かれ、大盛況となりました。「A.B.C-Z」の橋本良亮らのキャストによっておこなわれた朗読劇もあります。
松岡茉優のその他の出演作が知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
<松岡茉優の出演映画、テレビドラマが熱い!お芝居マニアを活かした原作一覧>
松坂桃李のその他の出演作が知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
<松坂桃李の出演作は「攻め」揃い!実写化した映画、テレビドラマの魅力を発掘>
恩田陸は青森生まれ、仙台出身の小説家です。
早稲田大学教育学部を卒業しており、卒業後は、生命保険会社のOLとして働いていましたが、過重労働で入院。その半年後から作家活動をスタートさせ、OL生活は4年でピリオドを迎えました。
退職後に書き上げた『六番目の小夜子』が日本ファンタジーノベル大賞最終候補作となり、翌年に作家としてデビューしています。
現在では作品の受賞歴が多く、さらにはメディア化作品も多数あるなど、人気作家となりました。
六番目の小夜子 (新潮文庫)
2001年01月30日
彼女は「ノスタルジアの魔術師」と称されるほど、その作品は切なく、どこか懐かしいもの。ミステリーやSF、ホラー、冒険、恋愛などジャンルはさまざまですが、切なく懐かしいというのは、どの作品にも共通していえることではないでしょうか。
主な作品には、『チョコレートコスモス』、『失われた太陽』、『ブラック・ベルベット』などがあります。
他にも恩田陸の作品を読んでみたい方は、こちらの記事もご覧ください。
恩田陸おすすめ26選!代表作から最新作までジャンル別ランキング
『夜のピクニック』などで高い人気を博している恩田陸。彼女の作品は膨大な読書歴と実体験に基づいており、ジャンルは実に広範です。この記事では恩田陸の物語を、青春、ミステリーといったジャンルごとにランキング形式でおすすめしていきます。
以下のセクションからは、『蜜蜂と遠雷』に登場する主な4人の人物を紹介してきます。
恩田陸は、本作の執筆に7年、取材期間も入れるなら12年のも歳月を費やしたのだそう。浜松国際ピアノコンクールを第4回目から見に行き、3年に1度おこなわれるそのコンクールに計4回も通いました。
そもそもピアノコンクールを題材にした理由は、抽象的なもので争うということに面白さを感じたから。本来数値化できない音楽というものに点数とつけてそれで競い合うということ、そしてそれによって別れる明暗……そういったものを描きたかったのだそう。
そんな抽象的な内容を、まったく色の異なる主要な4人の主人公たちを通して描き切った本作。作者がクラシック好きということもあり、小説のなかから音楽が聴こえてくるように、実に丁寧に言葉が紡がれているのが魅力的です。
彼は、ホフマンより送られた天才です。ホフマンとは音楽会の巨匠であり、誰もが憧れるピアニスト。ほとんど弟子をとらないことで有名でしたが塵を見出し、彼の実家である養蜂農家に付いて回ってまで指導しました。
ホフマンの弟子ということだけでも、塵には多くの好奇の目が寄せられることとなります。さらに蜜蜂農家の息子であり、野生的な演奏をすることから、「蜂蜜王子」という異名で呼ばれるようになりました。
彼はピアニストでありながら、ピアノを所持していない異色の人物。コンクールの本選へ出場できればピアノを購入してもらえると親と約束をし、芳ヶ江国際ピアノコンクールへ出場するのでした。
自由で、聴いているものの感情に入り込むような塵のピアノの音色。ホフマンは、彼の演奏は聴く者によって「ギフト」にもなるし、「災厄」にもなると言いました。それほど、聴く側が試される演奏なのでしょう。そのためコンクールという場所では、とても異色な存在となるのでした。
その音色を受け入れられない審査委員も多く、二次予選、三次予選へは、いつもギリギリのところで出場を決めることになります。
たとえば審査員の1人である三枝子は、彼の音楽をはじめは受け入れることができませんでした。しかし、いつの間にかその音楽に心打たれてしまうようになります。それと同じように聴衆も心を打たれ、演奏が終わると、スタンディングオベーションの拍手となに包まれることが多くなっていくのでした。
異端である彼の音楽は、最後にどのように評価されるのでしょうか。
彼女は過去にコンサートを開き、CDまで出していたほどの実力の持ち主でした。しかし、母親の死をきっかけに、ピアノを弾けなくなってしまいます。
そんななか、音楽大学の浜崎学長に才能を見出され、音大に入学することに。彼女は人前でピアノを弾くことができなくなった後も音楽を愛し、ピアノは続けていたのでした。そして才能を買ってくれた浜崎学長からの推薦で、芳ヶ江国際ピアノコンクールへ出場することに。それは彼女にとって、学長に対する恩返しのつもりでした。
彼女は当初、一次予選さえ通過すればよいと考えていたのですが、塵との出会いをきっかけに、何かが変わります。
塵がホフマンから課せられた目標である「音楽を外に連れ出す」ことに協力し、彼女にしかできない音楽を表現していくのです。「音楽を外に連れ出す」という意味は、教科書通りの音楽ではなく、そのような固定観念を吹き飛ばすことであると、物語から考察することができます。
音楽に正解・不正解など、そもそもないのではないでしょうか。しかし、いつの間にか、そのようなものができてしまっていたのです。そんな音楽界の常識を壊したかったのがホフマンであり、その意思を受け継いだのが塵だったのでしょう。
予選を重ねるたびに進化していく亜夜の音楽は、最終的にどのような評価を受けることができるのでしょうか。過去を乗り越えていく、彼女の強さにも注目です。
まさに、才能の塊といってもいいような人物。高度な技術だけでなく、スター性も兼ね備えています。
日系3世のペルー人の母と、フランス人貴族の血を持つ父から生まれた彼。少年時代に日本で亜夜と出会っており、彼女との出会いがきっかけで、ピアノを弾き始めることになります。
彼は、耳がよい少年でした。そこで、亜夜が興味本位で、自分が通っているピアノ教室に彼を連れていったのです。その耳は先生も認める才能であり、マサルもピアノにどんどんとのめり込んでいきました。
芳ヶ江国際ピアノコンクールの優勝候補として存在し、圧倒的な実力で、本選へと駒を進めます。
28歳のサラリーマンで、妻子持ち。コンクールには珍しい年長者です。学生時代にコンクールでの入賞経験こそありましたが、その後は音楽の道を諦め、楽器店でサラリーマンをしています。そのため、周りの者より年齢が上だったのです。
彼は天才ではありませんが、入賞経験があるなど実力はあります。だからこそ、自分の能力の限界がわかってしまったのでしょう。音楽一本で食べていくことができるのは、本当に一握りの人間。彼はサラリーマンという道を選んだのです。
しかし、かつての夢をなかなか諦め切ることができなかった彼は、夢を諦めるために、これで最後のつもりで芳ヶ江国際ピアノコンクールに出場します。
仕事をしながらの練習は想像以上に厳しく、壮絶なものとなりました。彼は音楽においては、決して天才とはいえませんでした。しかし、努力の天才だったのです。その努力が実って、聴衆の心に彼の音楽が響き渡ります。
そんな高島のコンクールの結果は、ある意味で読者を裏切ってくれる、思いもよらない結果となります。
三次予選まで進むことがでできたのは、4人のなかでは、3人だけでした。
残った3人は、3次予選でも素晴らしい音楽を表現しました。しかし塵の音楽だけは、コンクールという視点からいくと、評価が分かれるような演奏になってしまいます。その理由は、なんと同じ曲を2度弾いたから。
コンクールは、ある程度のルールに則っているため、いくら音楽が素晴らしいといっても、そこから外れてしまえば失格になってしまいます。
亜夜とマサルは無事本選への出場を決めることができましたが、塵はどうだったのでしょうか。不安がよぎるなか、3次予選に失格者が出たと噂が流れるのです。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
- 2016-09-23
塵の勝敗によって、音楽への価値観がどう捉えられているのかを読み取ることができます。彼が3次予選敗退ということになれば、このコンクールの音楽性は、あくまで教科書的なものであり、誰もが納得する一般的な解釈での音楽表現がよいという価値観であることになります。
しかし彼が合格になれば、ルールはさておき、感情に届く、心が震わされるような音楽が1番よいという価値観を提示することになるのです。これは、ホフマンが塵に投げかけた「音楽を外に連れ出す」ことにもつながるものとなります。
果たして審査員は、どう判断したのでしょうか。そして、本選での優勝者は一体誰だったのでしょうか。
登場人物4人が、それぞれ迎えるラストシーン。それが気になる方は、ぜひ本編をご覧ください。