小説家としてもデビューをしているつぶやきシロー。しかしどうやら、読書に対してはかなりの抵抗があるらしい。彼に「おもしろい本と出会って読書の楽しさを知ってほしい」と考えたホンシェルジュ編集部は、半強制的に何冊かの本を渡しました。さて、つぶやきシローは何を思うのか。包み隠さず感想をつぶやいてもらう連載です。 第26回は、最強の柔道家と呼ばれ、引退後はプロレス界に転身した男の人生を追った本を読んでもらいました。センセーショナルなタイトルですが、一体どんなことを感じるでしょうか。
子供の頃の夢はプロレスラーでした。昭和50年代はプロレス全盛でね。戦後、力道山っていうプロレスラーが人気あったってのは若い人でも聞いたことあるでしょ? 空手チョップが武器で、相手をロープに振って戻ってきたところを空手チョップでカウントスリー。これに日本人が熱狂してたんだよね。テレビが家庭にない時代、街頭テレビ1台に大勢の人だかり。力道山が外国人レスラーを倒すさまが、戦争でアメリカに負けた日本を勇気づけてたんだね。
僕が熱狂していたのは、アントニオ猪木時代。新日本プロレスだね。ジャイアント馬場は、全日本プロレス。両方見ていたけどね。新日本プロレスなんて、毎週金曜日8時のゴールデンタイム生放送だからね。家に録画ビデオもないから、必死で見ていた。強い男にあこがれてたね。
学校でも休み時間に、友達と廊下でプロレスごっこをしては先生に見つかって怒られてた。こっそり体育倉庫の走り高跳びのマットの上で、バックドロップとかジャーマンスープレックスの練習をしてたな。いろんな技を試せるから、高跳びのマット大好きだった。
ローリングクレイドルという技だけは、なぜダメージ受けるのか子供の頃からわからなかったけどね。そんなこと言ったら、ロメロスペシャルもね。痛そうに見えるけど、怖いだけで痛くはないね。あと首四の字、ちょっと休憩なのかな。卍固めも、痛いより辛いだね。形が崩れないように下の人が耐える技。耐えきれなくてギブアップ。これらは中学生の時友達とのプロレスごっこで経験済み。ま、プロとは全然レベルが違うけどね。
でも、こういったことを含めて、バラエティー番組とかで、お笑いの人達がわざと悪口を言ったりして盛り上げるくだりを「プロレス」と表現しないでほしいな。プロレスという言葉を否定しているわけではないのはわかるけど、プロレスファンからすると、あまり気分は良くないかな。
タイトル「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」
- 著者
- 増田 俊也
- 出版日
- 2014-02-28
いやいや、長い! 700ページ! しかも2段だよ! 1ページ文章2段! 2段って!
熊本が生んだ柔道王、全日本柔道選手権15連覇木村政彦。読んでいると、知った名前がたくさん出てきて、へ~なんて言いながらね。格闘技ファンならこの本読んだことあるんじゃないかな。
柔道の歴史で化物のように強い選手が4人いる。木村政彦、ヘーシンク、ルスカ、山下泰裕。この中で最も強かったのが木村政彦だ。
この男は、とんでもないね。15年間無敗のまま引退し「木村の前に木村なく、木村のあとに木村なし」と謳われた、世界のあらゆるスポーツ界を見渡しても類を見ない超人。「鬼の木村」荒々しい柔道スタイルからそう怖れられた。
体格は、身長170センチ、体重85キロ。古賀稔彦と吉田英彦のちょうど中間くらい。ただ、怪力で、大外刈りを駆使し、爆発的な瞬発力で自身の2倍もある巨漢を一発で畳に叩きつけた。あまりに怪我人が多いため、出稽古で木村の大外刈りは禁止された。僕も柔道経験あるからわかるけど、大外刈りって怖いんだよね。投げられるというより、足を刈られて、後ろに後頭部からストーンっと叩きつけられる感じ。練習でも一番やられたくない技だったのを覚えている。
毎日10時間の地獄の稽古をし、練習中に相手に投げられたわけではなく、ただ膝を畳に着かされただけで悔しくて眠れず、深夜、包丁をもってその相手を刺し殺しに行き、ギリギリのところで思いとどまったらしい。包丁って。そこは柔道で借りを返すじゃないんだね。狂気だよ。
悪童木村という一面もあり、寮の食事当番が自分に回ってくると、みそ汁に自分の糞を混ぜたり、犬を見つけると、木刀で犬を倒してビフテキにしたり、戦時中も二等兵になった木村は上官を殴ったり、戦後は用心棒をやったり、ヤクザの片棒を担いだり、師匠に命じられて、のちのA級戦犯東条英機首相の暗殺を企んだり(内閣総辞職したため流れた)なんかめちゃくちゃ。
木村政彦率いるプロ柔道家は、ブラジルに行った。そこで柔道ショーやプロレスをやり人気が出たところ、ヒクソンのお父さんであるエリオグレイシーから挑戦状を叩きつけられた。当時のエリオはブラジルでは、連戦連勝ですごい有名人。木村との一戦は、サッカー場をいっぱいにしてしまうほどの話題性があったらしい。
試合は10分3R。第1R、木村のヘッドロックでエリオは落ちてしまうが運よく蘇生。木村優勢のまま第2R。伝家の宝刀、大外刈りでエリオを人形のように頭から叩きつけ、そこから腕がらみを決める。エリオはタップしない。完全に決まっている。静まる会場。木村はエリオの腕を折った。腕の折れる音が会場に響き渡る。それでもタップしないエリオ。木村は試合を拒否。エリオも負けを認めて決着がついた。
木村の腕がらみという技は、その後総合格闘技界では「キムラ・ロック」と呼ばれるようになったが、この名づけ親は、エリオだった。エリオが柔術で敗れた試合は、この木村との一戦が唯一だそうだ。
いや~すごいねこの本。よく取材したよね、調査範囲も半端ない。ここまでで約400ページ。あと300ページもあるよ。でも、もうおしまい。その後すごい面白いから、僕がオチを言っちゃうとあれなんで、是非買って読んでみてね。
じゃあ、なかなか手に入らない焼酎「キムラロック」を飲もうかな。え? プロレスラー力道山について触れてないじゃないかって? 本当は残りの300ページ読んでないんじゃないかって? 最初からガチで700ページも読むつもりなかったんだろって? まあまあ、そこはプロレスですから。
木村政彦生誕100周年を記念して去年発売された米焼酎「キムラロック」
つぶやき読書
お笑い芸人のつぶやきシローさん。小説家としてもデビューをしています。しかし、「本を1冊読むのに数ヶ月かかることもある」など、読書に対してかなりの抵抗があるらしい。「おもしろい本と出会って読書の楽しさを知ってほしい」と考えたホンシェルジュ編集部は、半強制的に何冊かの本を渡しました。さて、つぶやきシローは何を思うのか。包み隠さず感想をつぶやいてもらう連載です。隔週金曜日更新!