大泉洋の当て書き小説として話題を集めた本作。人気小説家・塩田武士の作品で、すでに映画化も決定。俳優の大泉洋が演じることを想定して当て書きされたもので、読んでいると実際に彼の姿が思い浮かぶような不思議な作品です。また、出版業界の様子が実際に関係者から話を聞いたかのようにリアルなのも魅力です。 今回は、そんな小説『騙し絵の牙』の魅力をあらすじや結末の見所からご紹介しましょう。ネタバレを含みますのでご注意ください。
この記事では『騙し絵の牙』の魅力をご紹介しますが、その前に簡単に概要やあらすじをご紹介しましょう。ご存知の方は読み飛ばしても問題ありません。
作者は、2010年にプロの棋士を目指す男を描いた作品『盤上のアルファ』でデビューし、2016年には『罪の声』で山田風太郎賞などを受賞した小説家・塩田武士。
『騙し絵の牙』は、2017年に単行本が発売されてからわずか1ヵ月あまりで5万部を突破するなど、昨今売り上げが低迷していると言われる小説の世界では大変な人気ぶりを見せている作品です。
2018年には本屋大賞にもノミネートされ、人気はますます高まるばかり。さらに吉田大八監督、大泉洋主演での映画化も決定。映画は、大泉洋のほかにも佐藤浩市、松岡茉優、池田エライザ、中村倫也、斎藤工、佐野四郎、リリー・フランキーなど、豪華キャストが出演します。
また、単行本の装丁は大泉洋を被写体にしたもので、多くの広告やパッケージ制作で活躍するグラフィックデザイナー・吉田ユニが制作したことでも話題になりました。
そんな本作は、出版社で働く雑誌編集長・速水輝也が、廃刊になりそうな雑誌をどうにかするために奔走するお仕事小説です。出版不況といわれている現代を舞台に描かれるストーリーは骨太な社会派ミステリーで、読みごたえも十分。
『白の時代』というスピンオフ作品も発表されているというエピソードからも、本作の人気ぶりが伺えるでしょう。ちなみにスピンオフは「ダ・ヴィンチ」2016年12月号に掲載されています。
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次に、本作の登場人物をご紹介しましょう。
主人公の速水輝也は、出版社で編集長として働く男です。
とにかく気さくで人あたりのよい彼は、その高いコミュニケーション能力でクセのあるさまざまな人物と渡り合っていきます。口達者で芸達者、相手の警戒心を巧妙に解いていく彼のイメージと、本を手に取った時にまず目に入る大泉洋の姿が重なる方も多いのではないでしょうか。
そんな速水は、不況といわれる現代の出版界で、何とか雑誌の廃刊を阻止しようとさまざまなことにチャレンジします。柔軟にいろいろなアイディアを生み出して行動するところも、主人公のキャラクター性を感じることのできる部分といえるでしょう。
一方で、そんな誰から見ても明るいキャラクターの彼にも、後ろめたい闇があります。家庭はあまりうまくいっておらず、外に女がいるのです。しかし、そんな裏と表があるからこそ、彼に生々しい人間性を感じることができるのかもしれません。
本作を手に取れば、まずその表紙を飾っている俳優・大泉洋が目に入ります。先ほども少しふれましたが、主人公の速水は、実は大泉洋を当て書きして書いたキャラクターなのです。
当て書きというのは、小説や脚本を書く際、キャラクターを演じる俳優を最初から決めて、その人物がハマるキャラクターを描くこと。脚本ではよく使われる手法ですが小説作品ではあまり使われないため、まさに異例の作品といえるでしょう。
作者である塩田は大泉を主人公にするため4年もの間、大泉を取材し、振る舞いや喋り方などを分析。さらに本人にキャラクターを監修してもらうなど、生き写しといってもいいほどのクオリティに「大泉洋=速水」を作りこんだそうです。
大泉洋をまったく知らないという方はあまり多くないかもしれませんが、そんな方も本作を読めば、彼の人となりもわかってしまうでしょう。反対によく知っている方であれば、ストーリーを楽しむ以外にも彼と速水を重ね合わせ、思わず笑ってしまうなんてこともあるかもしれません。
そもそも映像化に関しても、大泉が主演できるような作品をという編集者からの提案があったことが執筆のきっかけだったそうなので、もはや大泉洋のための小説といっても過言ではないかもしれません。
- 著者
- ["塩田 武士", "大泉 洋"]
- 出版日
今、さまざまなエンタメに押されて、本は売れない時代だといわれています。そんな不況真っただ中の出版業界を舞台にした本作では、その実情や闇もあますことなく描きます。
たとえばひとクセもふたクセもある小説家など一般の人がイメージするような事柄から、業界内部に存在する派閥争い、不況といわれている反面、その状況にあまり危機感を持っていない編集者達など、内部の人間にしかわからないようなところまで描きこまれており、読者の興味を強く引いてくるのです。
なかでも、本が売れないといわれている時代なのに売れると信じ込んでいる業界人の存在は、読者にとっては目新しいものかもしれません。編集者や小説家は、もちろん良質なエンタメを作っているという自負があり、ゲームやアニメのようなエンタメを薄っぺらいと嘆きます。
この姿は目新しいものの、自分達のやっていることにプライドを持つあまりに冷静な判断ができないのは、他業界でもいえることで、共感できる読者も多いのではないでしょうか?面白おかしいだけではなく、出版業界のリアルを描いているのが、本作の見所といえるでしょう。
主人公の速水が雑誌の廃刊を阻止するためにさまざまな方法を模索、奔走するというのが本作の基本的なストーリー。廃刊を阻止するためには、雑誌が売れなくてはなりません。
速水は電子書籍化や芸能人による小説執筆、他ジャンルのエンタメとのコラボなどさまざまなアイディアを出し、チャレンジしていきます。その姿には、王道の少年漫画のような熱いものを感じることもできるでしょう。
しかし物語が進むにつれ、ストーリーは読者の予想を裏切るものへと変わっていきます。ひょうひょうとした印象の速水の裏の顔や、出生の秘密が描かれるのです……。
そもそもの目的である廃刊の阻止という点も、一般的には主人公の努力が報われて、めだたしめでたし……という展開が多いかもしれませんが、本作ではそうはいきません。
速水の裏切りともいえるそのラストに驚かない方はいないのではないでしょうか。
さらに、本作はタイトルが印象的ですが、その意味もラストまで読んで分かるようになるという、面白い仕掛け。最後の最後まで目が離せない作品。ぜひ驚きの結末はご自身でご覧ください。
この後は、本作の作者についてご紹介します。『騙し絵の牙』が気になったら、他の作品もおすすめですよ!
- 著者
- ["塩田 武士", "大泉 洋"]
- 出版日
2010年に『盤上のアルファ』でデビューした塩田武士。それまでは新聞社で働いており、デビュー作である『盤上のアルファ』は、新聞社時代に将棋担当記者として働いていた経験を活かした、将棋ものの作品でした。
同作が小説現代長編新人賞を受賞、さらに将棋ペンクラブ大賞にも輝き、華々しいデビューを果たしました。
- 著者
- 塩田 武士
- 出版日
- 2014-02-14
その後、実際の事件であるグリコ・森永事件をモチーフにしたミステリー小説『罪の声』で山田風太郎賞を受賞。こちらも「このミステリーがすごい」で入賞し本屋大賞にもノミネートされるなど、塩田の代表作の1つとなりました。
多くのエンターテイメント小説を執筆している彼は、新聞社時代の経験を活かした作品も多く、リアリティ溢れる骨太なストーリーは読みごたえ十分で、多くの人を魅了しています。
学生時代から小説家を志すもなかなか目が出ず、12年もの間書き続けていたという作者だからこその確かな筆致に惹かれる読者も多いようです。
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いかがでしたか?普段は小説を読まないという方も、大泉洋という具体的なキャラクターがいることでとても読みやすい作品になっているのではないでしょうか。大泉ファンの方も、塩田ファンの方も、そうでない方も、みんなにおすすめできる、読みごたえのある作品です。