突然ですが「埼玉のよいところ」と聞かれて、あなたは何を思い浮かべますか?「え〜埼玉出身じゃないし、そんなのわかんないよ〜」って方に一言。埼玉出身の筆者でも、埼玉のよさはわかりません。つまり、埼玉とはそういう土地なのです。 そんな埼玉の出身であることに、負い目を感じているあなた。ぜひ読んでいただきたい一冊が、魔夜峰央の『翔んで埼玉』です。
本気で考えた埼玉のよさが、こちら。なめてんのか、と言われそうですが、これが本気の回答です。
グルメ、自然、テーマパーク。その土地の見所とは実にさまざま……にも関わらず、埼玉はパッとしません。強いて言うのならば、秩父あたりと、時の鐘と蔵のまち・川越でしょうか。
ここの連載でも何度か明言させていただいているのですが、筆者は埼玉の出身です。大学卒業まで埼玉で暮らし、埼玉の高校に通い、大学も途中までは埼玉に通っていました。もう頭の先からつま先まで、綺麗に埼玉に染まっています。その結果、前回の連載で書いたとおり、東京に慣れないままなのでした。
- 著者
- 魔夜 峰央
- 出版日
- 2015-12-24
しかし、そんな身も心も埼玉に捧げたと言っても過言ではない筆者でも、埼玉のよさを挙げることは至難の技。苦し紛れに「東京に出やすいところじゃないかな〜(笑)」なんて言ってしまう始末。
でも、埼玉県民でいっぱいの電車に揺られながら埼玉まで帰るのって、別によくないよね?出やすいって言っても、時間はかかるし。
そんな、誰がどう考えてもパッとしない埼玉に、あえてスポットライトを当てた作品。それが魔夜峰央の『翔んで埼玉』なのです。
漫画の舞台になるなんて、すごい!と色めき立った、そこの埼玉県民。残念ですが、ここで描かれている埼玉は決して華やかではありません。というか、現実の埼玉なんて比べものにならないくらいの、凄まじい世界が描かれているのです。
本作の冒頭です。そう、本作の埼玉は、とんでもない未発展の土地。つい10年前までランプで暮らし、電気が通うようになったのは最近のこと。東京へ行くには通行手形が必要で、仮に手形を手に入れても三越の中を歩こうものなら「埼玉狩り」に合います。
東京都民からしたら、「埼玉」という言葉を口にしただけで、
ああいやだ!埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!
(『翔んで埼玉』より引用)
とのこと。口が埼玉になるって、なんだ?
本作では、埼玉出身であることを隠して東京の学校に転校してくる美青年・麗麻美(れい あさみ)と、その学校のエリート・白鵬堂百美(はくほうどう ももみ)の2人がメインとなって、さまざまな事件に巻き込まれていきます。すべては、麗が埼玉出身であるがばかりに……。
本作に登場する埼玉は、未開の地です。取り分け、西武池袋線にある所沢の描写はなかなかのもの。電気は最近通い始めたので、昔からの習慣のまま日の出とともに起きて日の入りとともに床につき、ヤンキーは耕耘機(ヤンマー製)を乗り回し、出会い頭の挨拶は「んだば まんずまんず ごきげんやっしゃ」……。
さすがに、こんなんじゃねぇわ!と、埼玉県民でなくてもツッコミを入れたくなる内容です。特定の都道府県を取り上げて、ここまでボロクソ描かれた漫画がかつてあったでしょうか。
しかし、このような描かれ方をしているにも関わらず、本作が発売されて筆者が思ったのは「ありがとう」という感謝の気持ち。なんで、こんな気持ちになるんだ……と自分の胸に手を当てて考えた結果、これは自分の中にある「埼玉愛」によって湧き上がった気持ちなのだな、と気づいたのでした。
今まで散々バカにしてきた、自分の生まれ故郷。よいところも悪いところも、何においてもスポットライトが当たらずにきた、我が憩いの地。そんな埼玉が、たとえこのような内容であっても注目されたことが、本気で嬉しかったのです。
埼玉は上記で述べたとおり、今までパッとしたところがあまり無い土地でした。そんななかで登場した本作は、埼玉県民にとってまさに一筋の光。僕たちの希望。そして輝きなのです。
本作は、埼玉は大したものが無くてつまらない、というのを超〜〜〜デフォルメして仕上げた一冊。その結果、それがネタとなって、見事に昇華されたのでした。
これで、もう埼玉出身ということに負い目を感じる必要はありません。なぜなら、「何も無い」というのを魔夜峰央がネタとして昇華してくれたから。みなさんも、筆者と声を大にして言いましょう。
埼玉大好き♡
さてここまでで『翔んで埼玉』の魅力がなんとなくでも伝わったのではないでしょうか。ここいらで本作の名言を集めた<漫画『翔んで埼玉』のヤバい名言ランキングベスト15!豪華キャストで実写化>の記事もぜひご覧ください。
結局、埼玉県民は自虐しながら生きていくしかないのですか?という質問は、スルーさせていただきます。何はともあれ、注目されるのは嬉しいことです。
ここまでいろいろ書きましたが、筆者は埼玉、嫌いじゃないですよ。
困シェルジュ
何だか悲しい、モヤモヤする、元気が出ない……。いろんなきっかけで、もしくは何もなくてもマイナスな気持ちを抱えているあなたに、本好きのコンシェルジュ、ホンシェルジュたちが珠玉の1冊をご紹介!その沈んだ気持ちがちょっとラクになるような本、おすすめします。