現代にタイムスリップしてしまった偉人・石田三成。そんな彼がやって来たのは、滋賀県でした。「近江を制するものは天下を制す!!」なんて言われていたのも、今や昔。正直パッとしません。そんな滋賀県を盛り上げるべく三成は奮闘することになるのでした。 『三成さんは京都を許さない』は47都道府県のなかでもあまり目立たない滋賀県にスポットを当て、その周辺地域をネタにしていくギャグ漫画。本作はスマホアプリでも無料で読めます。気になった方は、まずそちらでお試しされてはいかがでしょうか?
近江を制するものは天下を制す。
およそ400年ほど前の戦国時代では、群雄割拠して覇を競う戦国武将が、そう言ったとか言わないとか。近江とは現在の滋賀県に相当し、都たる京都に隣接し、近畿一帯の水事情を賄うなどの地理的な要だったのです。
- 著者
- さかな こうじ
- 出版日
- 2017-03-09
それにも関わらず、全国都道府県別魅力度ランキング(2015年度版)では、下から数えた方が早い43位。
自体を重く見た滋賀県知事特別秘書は、肝煎りでテコ入れを提言します。その秘書とは誰あろう、戦国武将の1人たる、石田三成だったのでした。
本作は、なぜか戦国の世から現代にタイムスリップした三成が、縁の深い滋賀県のマイナスイメージ払拭のために奔走するという、特定の地域に密着しすぎたローカルコメディとなっています。
本作の主人公は、タイトルにもなっているとおり、石田三成です。
戦国時代の武将としてご存知の方も多いことでしょう。ただ有名とはいっても、織田信長に豊臣秀吉、徳川家康、あるいは上杉謙信や伊達政宗といったメジャーな戦国武将と比べると、いささか見劣りする感があります。彼は豊臣秀吉の家臣で、史実では関ヶ原の戦いで敗れた後に処刑されました。
後世に伝わる逸話から、気の利く性格であったらしく(それに関するエピソードも劇中で登場)、本編ではなんでもテキパキとこなす有能な人物として描かれます。ただ、あくまでギャグ漫画なので、かなりズレた軌道を驀進してしまいますが……。
彼に限らず、タイムスリップしてきた偉人は他にも登場。たとえば京都なら安倍晴明、大阪には福沢諭吉。今のところタイムスリップ自体にあまり意味はなく、厄介な郷土愛を持つの変人が、話を変にこじらせるのが面白さとなっています。
本作の内容は『三成さんは京都を許さない』というタイトルが、本作の方向性をすべて物語っていると言っても過言ではありません。
関西に縁のない方にとってはいまいちピンとこないかもしれませんが、現実として滋賀県は、お隣の京都府の影に隠れがち。観光地などを見ても、どうしても見劣りしがちなのです。
これがどういうことかというと、まず滋賀県は、実は日本有数の寺社数を誇る観光名地なのですが、古都京都の金看板に隠れて目立っていません。しかも、なかでも特別有名な比叡山延暦寺は本来滋賀県のお寺なのに、比叡山が一部京都に跨がっていることから、京都のお寺と認識されている始末。
また琵琶湖は「近畿の水瓶」と揶揄されるほど関西において重要な水源なのですが、その琵琶湖疎水の管理を、なぜか京都市がおこなっているのです。
これらの恨み辛みが重なった結果による滋賀県の怨嗟の声も、本作の魅力となのです。
そんな滋賀県の自虐スレスレなネタを、具体的にご紹介していきましょう。
まず筆頭に挙がるのは、郷土料理の1つである鮒寿司です。寿司とは名ばかりで、魚肉を発酵させた納豆くさやを凌ぐ悪臭食品(歴史的には寿司のルーツに当たる代物)。お土産で買ったはいいものの、悪臭に耐えかねて米原駅に投棄されがちというネタが披露されます。ちなみに、米原は鮒寿司の名産地です。
そして滋賀のスーパーマーケットである平和堂など、地元民にしかわからないようなローカルネタやローカルテンポの話題が満載。滋賀県庁がダンジョンも真っ青な迷路になっていることは、下手をすると県民でさえも知らない人がいるかもしれません。
それを対京都用の要塞だと言い張るところが、本作の凄まじいノリなのです。
なぜか戦国時代からタイムスリップしてきた、石田三成。滋賀県知事(ゴリラ)付の特別秘書となった彼は、滋賀の地位向上のために名産品の美味しい食べ方や、日本に誇るべき特徴を、持ち前の機転で次々と紹介していきます。
それもこれも、すべては憎き京都のせい。彼は虎視眈々と、京都討伐計画を練っていくのでした。
- 著者
- さかな こうじ
- 出版日
- 2017-03-09
現代人よりも遥かに強い三成の郷土愛が、そこかしこで炸裂します。京都への対抗意識を煽る構成は、見ようによっては危険ですが、すべて冗談で済むのが人徳というか、残念なところというか。
本作を読んで、滋賀県民には馴染み深い『琵琶湖周航の歌』や平和堂のイメージソングが歌えるようになったなら、あなたも立派な滋賀県人といえるでしょう。
作中でT.M.Revolutionの西川貴教にそっくりなキャラが出てくるのですが、実は本人が滋賀県出身でふるさと観光大使になったことに由来するネタ。このつながりで、3巻では西川がオビの宣伝も書きました。
滋賀県知事の名代として、三成が京都府庁へと出かけます。常々、打倒京都を標榜する彼でしたが、さすがに仕事中に私情を挟んで暴走することは……ほとんどありませんでした。
会合までの間しばし京都市内散策をするのですが、そこで京都の思わぬ罠にはまって翻弄されてしまうのです。
- 著者
- さかな こうじ
- 出版日
- 2017-10-07
ついに京都との直接対決。京都府側から、はかの有名な陰陽師・安倍晴明が登場します。三成はいきなり出鼻を挫かれてしまいますが、果たして彼らの対決の行方やいかに?
前巻とは打って変わって、本巻の前半では京都のあるあるネタが主に描かれます。他府県民には理解しづらい「洛中洛外」の線引き、親切そうな振る舞いすぎて逆に失礼に思える(フィクションということをお忘れなきよう)京都人の表現にご注目ください。
細かいところでは、京都アバンティのアニメイトというのが、知っている人にはクスリとくるポイントでしょう。
大阪から滋賀にやってきたとある人と、三成は居酒屋で顔をつきあわせます。そのある人とは、1万円札の肖像画で有名な福沢諭吉でした。
彼は滋賀と京都のいがみ合いに、外部の視点から冷静な提案をしてきますが……。
- 著者
- さかな こうじ
- 出版日
- 2018-07-09
前巻は京都でしたが本巻では大阪が参戦して、三つ巴の戦いとなります。
諭吉は文豪のイメージから理知的なのかと思いきや、きっかけがあれば荒い気性が表に出てくる、ちょっと危ないおじさんとして描かれます。大阪人の怖いイメージそのままに暴れるのですが、ノリのよさも大阪人なところもあり、いろいろなギャップが面白いキャラです。
他府県のネタが入り乱れるようになりましたが、基本は常に滋賀目線からブレません。三成がどう立ち回るのか見物でしょう。
いかがでしたか?滋賀をピンポイントでネタにする珍しい作品『三成さんは京都を許さない』。関西への観光前に一読すると、より楽しめるかもしれません。