人気作品『窮鼠はチーズの夢を見る』の続編である本作は、胸がしめつけられる大人のラブストーリーです。誰にでも優しくて受け身な恋愛ばかりしてきた恭一と、そんな恭一を盲目的に愛する今ヶ瀬。対照的な2人が関係性を深めていくその過程が、丁寧に描かれています。 『窮鼠はチーズの夢を見る』とともに映画化が決定した本作の魅力をご紹介します。
29歳の元ノンケ・大伴恭一(おおともきょういち)は、前作で学生自体の元カノの誘いを断り、大学時代の後輩・今ヶ瀬渉(いまがせわたる)と一緒にいることを選びました。本作は恋人同然になった恭一と今ヶ瀬のお話です。
共同生活は順調にも見えましたが、恭一の部下・たまきが現れたことで、今ヶ瀬の想いが爆発します。お互いを大切に想いながらも傷つけ合ってしまう2人は、果たして幸せになれるのでしょうか。
本巻では、「憂鬱バタフライ」「梟」「俎上の鯉は二度跳ねる」と、番外編的なショートストーリー「黒猫、あくびをする」の4編が収録されています。
- 著者
- 水城 せとな
- 出版日
- 2009-05-08
作者・水城せとなは、「失恋ショコラティエ」や「脳内ポイズンベリー」など実写化された作品も多く、キャラクターの丁寧な心理描写に定評があります。
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そんな本作は、『窮鼠はチーズの夢を見る』の続編です。
前作、本作ともに映画化される本作では、恭一を大倉忠義、今ヶ瀬を成田凌が演じ、監督は行定勲が務めます。これまでもさまざまな愛をテーマに作品化してきた監督は、心震わせる本作品をどんな風に表現してくれるのでしょうか。気になる方は公式サイトや予告動画をご覧ください。
『窮鼠はチーズの夢を見る』についてはこちらの記事で紹介しています。
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前作から約半年後。恭一と今ヶ瀬は、恋人同然の同棲生活を送っていました。男と肉体関係なんて…と思っていたはずの恭一ですが、今ではすっかり今ヶ瀬のことを受け入れています。
かといって、今ヶ瀬を好きだというわけでもなく、自分の順応性に驚いている恭一は、今ヶ瀬とのことを深く考えないようにして日々を過ごしていました。
そんなある日、恭一の部下・たまきが、休日に忘れものを届けに家にやってきます。明らかに恭一に気があるたまきの様子を見て、今ヶ瀬は今まで抑えていたある想いに歯止めが効かなくなっていきます。
今ヶ瀬が苦しんでいる様子を察している恭一ですが、彼に対してどう想いを返してあげればよいか分からないままです。悩みながらも、ただ優しく受け入れてやり過ごす日々を過ごすのでした。
「こんな関係
俺が『欲しい』と言うのをやめたら
今すぐ終わってしまうのに……!」
(『俎上の鯉は二度跳ねる』より引用)
たまきの出現に、情緒不安定になった今ヶ瀬が、恭一へぶつけた言葉です。顔を覆い今にも崩れ落ちそうな様子で放ったこの言葉は、悲痛な今ヶ瀬の心の叫びでした。
- 著者
- 水城 せとな
- 出版日
- 2009-05-08
恭一のことが好きで、自分のものにしたくて、でもいつかは女のもとへ行ってしまうという諦めを根底に持ち続けている今ヶ瀬。
流されやすい恭一が離れていくときのために、自分はわきまえている、勝手に尽くしているだけで両想いなんかではない、と毎日言い聞かせて心のバランスを保っているのだと思います。そんな今ヶ瀬が健気で切なくてとても悲しい一幕です。
恭一も、上記の言葉を聞いて、苦しそうな表情を見せます。そして、自分に出来る最大限の愛情表現とでもいうように、彼をベッドへ招きます。
好きすぎて自分の気持ちがコントロール出来なくなる、という経験をされた方も多いのではないでしょうか。嫉妬、独占欲、嬉しくなったり突然悲しくなったり、自分が自分でなくなる感覚は共感できる部分も多いはず。
恋に苦しむ今ヶ瀬と、それを和らげてあげたいけれど、同じ気持ちを返せないもどかしさに悩む恭一。少しずつ変化していく2人の関係性に要注目です。
恋人のような平穏な日々を過ごし、「誰かに愛されている」という保証があることが、自分にとって重要なことだと恭一は自覚しつつありました。ただ、今ヶ瀬への想いを「愛」であるとは確信出来ないままでした。
ふとしたきっかけから、たまきとたまきの友人、恭一と今ヶ瀬の4人で食事に行くことに。
実はたまきは恭一の上司の娘で、それを知った恭一はたまきをないがしろにすることも出来ず、つい優しくしてしまいます。その様子を目の当たりにした今ヶ瀬は、また暴走してしまうのです。
内心、たまきに嫉妬する今ヶ瀬を可愛いと思っていた恭一は弁解しようとしますが、今ヶ瀬は聞く耳を持ちません。そして無理やり身体を重ねます。実はずっと、抱くのではなく抱かれたいと思っていた今ヶ瀬は、ついに長年の夢を果たしました。初めての体験に、恭一の中で何かが変わります。
そんな中、たまきの父が急死し、悲しみにくれるたまきを慰める恭一。深い意図はなく、たまきとのメールを隠してしまいます。メールを見つけてしまった今ヶ瀬は、これまでの不安が爆発するかのように、恭一を責め立てました。そしてとうとう、別れの言葉を口にしてしまうのでした。
誰にでも優しく、顔色をうかがって流されて、常に周りに合わせて生きてきた恭一にとって、今ヶ瀬の存在は異質でした。彼の愛は、とても重たいものです。病的に恭一に執着し、嫉妬もするし束縛もする。一般的に見れば重くてうっとおしいし、今ヶ瀬もそれを自覚しています。
「恐れることはない 今ヶ瀬は 俺を愛してる」
(『俎上の鯉は二度跳ねる』より引用)
これは、初めて今ヶ瀬を抱いたときの、恭一のモノローグです。
でも恭一はそんな風に思ったことはなく、むしろ嫉妬する姿を「かわいい」と感じていました。何があっても自分を愛してくれる、絶対に離れない、強く求められる愛が、恭一にとっては心地よいものだったのです。愛されるほうが向いているタイプなんですね。
求められるのが心地よい、という関係性はベッドの上でも同じで、これまで恭一はただ受け入れるだけでした。それに不満があったわけではありませんが、今ヶ瀬の強引な行ためをきっかけに初めて彼を抱いた日、恭一は自分の中の感情が動くのを実感します。
今ヶ瀬に対して情がこみ上げ、いとおしさを感じる恭一。自分のすべてをぶつけても大丈夫という信頼感。それらが上記のセリフとなって表現されています。
これまで受け身ばかりだった恭一が、初めて自分から今ヶ瀬を求めた瞬間だったのではないでしょうか。この展開は2人を応援してきた読者にとってとても嬉しいものだったはず。
名前のつけられない感情、カテゴライズ出来ない気持ちではありますが、恭一が今ヶ瀬のことを大切にしていて愛おしいと思っていることがひしひし伝わってきます。
それでも恭一は、やはり相手に合わせて生きてきた人間。自分の想いに自信が持てず、「今ヶ瀬が満たされているかどうか」という判断基準で考えてしまいます。今ヶ瀬から別れを切り出されたとき、
「お前がだめだと言うなら だめだろう」
(『俎上の鯉は二度跳ねる』より引用)
この言葉は、恭一らしさで溢れています。その反応を覚悟していたはずの今ヶ瀬も、やはり絶望を隠しきれませんでした。
2人で最後のドライブへ行き、今ヶ瀬が語った恭一へのひたむきな想いは、本当に切ないもの。どうしてこんな展開になったのかと読者も辛くなる展開です。
恋愛において、温度差がありすぎるとうまくいかないと言われますが、どちらかが一方的に大きすぎる愛を抱いている状態は、やはり不安定なのでしょうか。恭一が願うように、今ヶ瀬が幸せになってくれることを祈るばかりです。
今ヶ瀬との別れから半年後、恭一はたまきと付き合っていました。今ヶ瀬との想い出は、特別だった時間として、恭一の中で大切にしています。
ある日、ストーカー被害にあっているとたまきから相談を受けます。たまきは、そのストーカー調査を今ヶ瀬の会社にお願いしていました。
ストーカーとみられる男を尾行していた今ヶ瀬は、たまきが産婦人科から出てくるところを目撃します。男に接触され、階段から落ちてしまったたまきですが、現場にいち早く駆け付けた今ヶ瀬は、固まってしまい動けませんでした。
- 著者
- 水城 せとな
- 出版日
- 2009-05-08
たまきの入院する病院へ恭一がやって来て、再開することになった今ヶ瀬。
たまきは軽傷ですみ、産婦人科も定期健診のためで、妊娠していたことが分かります。しかし、今ヶ瀬はすぐに助けを呼べなかった、自分のしたことへの恐怖に震えが止まりません。その様子を見かねて、恭一は彼を家へと連れ帰ります。
今ヶ瀬は謝罪をし、この半年の苦しみを恭一へ語りました。そして、たまきと結婚しても、自分を愛人としてそばにおいてほしいと懇願します。一度は厳しく断られますが、恭一も傷ついていると察し、今ヶ瀬は説得を諦めません。激しいぶつかり合いを経て、恭一の中に残った感情は…?
覚悟を決めた恭一と、いざ彼が手に入るとなると怯えて守りに入ってしまう今ヶ瀬。たまきと「別れて」と言うくせに、本当に別れようとすると止められてしまいます。
そして自分の想いをはっきり自覚した恭一は、たまきと別れるために病院へ向かいました。しかしその帰りを待つ間、未来に自信が持てず、今ヶ瀬は逃げ出してしまうのです。
果たして、2人はどんな未来を選ぶのでしょうか。
「あれからそっと積み上げてきたものも 全て失ってしまうのに」
(『俎上の鯉は二度跳ねる』より引用)
今ヶ瀬を選ぶと決めた、恭一のセリフです。
たまきに、もし前の方とまた会えたらどうするか聞かれたとき、恭一は会いたくないと即答していました。次に彼と会ってしまったら、もう離れることは出来ないと確信していたからでした。
どれだけ傷ついても辛くても、何度も自分のもとに帰ってくる健気な今ヶ瀬。彼への愛を、はっきりと自覚した恭一は、たまきと別れることを決意します。これまで受け身な恋愛ばかりだった彼にとって、「離したくない」と自分の欲を押し付けたのは、初めてのことでした。
覚悟を決めたその様子は、本当にかっこ良くて、惚れてしまいそうになります。
- 著者
- 水城 せとな
- 出版日
- 2009-05-08
「今ヶ瀬 こんなだめな男だったかな」
(『俎上の鯉は二度跳ねる』より引用)
と恭一が考えるシーンがあるのですが、重すぎる愛は、人を変えてしまうのでしょう。恭一が好きすぎて、どんどん不安定になっていく今ヶ瀬は、恭一に人生を狂わされたともいえるかもしれません。
また今ヶ瀬は、幸せになる覚悟の決められない男でした。彼が心から恭一を信じることができる日は来るのでしょうか。
恭一は、今ヶ瀬への想いを抱えきれずに苦しむも、どうしても彼を離せないと覚悟を決めます。そのために悪人にでもなると決めた様子は、最初のころとは顔つきも違い、本当にいい男です。
幸せにやっていけるかどうかは、今ヶ瀬がどれだけ強くなれるかにかかっているのかもしれません。恭一はきっと、これまで以上に今ヶ瀬のこと大切にしてくれるんでしょう。エンディングは希望を持たせる終わり方なのも特徴的です。
いかがでしたか?最後まで結末を言い切ることがなかった本作。このエンディングを、映画でどう描かれるのかも楽しみですね。原作では、恋する乙女のような表情の今ヶ瀬が描かれる巻末の後日談も収録されていますので、ぜひご注目ください。