小説『悪党』の見所を5分で解説!結末はどうなる?WOWOWでドラマ化

更新:2021.12.6

薬丸岳氏による本作。2012年にテレビドラマ化されるなど、かねてより注目度の高い作品でしたが、2019年に再度テレビドラマ化することが決まり、再び注目を集めています。今回は、そんな『悪党』のあらすじと魅力をご紹介します。

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小説『悪党』の魅力をネタバレ紹介!2019年再ドラマ化!【あらすじ】

主人公は、「ホープ探偵事務所」で働く29歳の佐伯修一。元警察官という経歴を持つ調査員です。

ある日、探偵事務所に、かつて息子を殺された被害者遺族の老夫婦が訪れます。2人の依頼は、すでに出所している犯人を許すべきなのか、それを判断するために男を探し、調査してほしいということでした。

佐伯は依頼を受けるか迷いましたが、事務所の所長である木暮正人の命令で調査をすることに。佐伯もまた、過去に姉を殺されたことのある被害者遺族でした。

著者
薬丸 岳
出版日
2012-09-27

本作は、2012年にも一度テレビドラマ化されていますが、2019年に、WOWOWで再びドラマ化されることも決まりました。2019年版では、佐伯を東出昌大、木暮を松重豊が演じることが発表されています。

ドラマでは、「加害者追跡調査」という副タイトルも付けられており、加害者の調査という点にますますスポットが当てられており、期待が高まります。

作者・薬丸岳とは?

本作の作者・薬丸岳(やくまるがく)は、ミステリーを中心に作品を発表している推理小説家です。

『天使のナイフ』という作品で、江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。少年犯罪をテーマにしたこの作品は、選考委員から高い評価を得たことでも注目を浴びました。

 

著者
薬丸 岳
出版日
2008-08-12

その後、さまざまな賞にノミネートされ、2016年には『Aではない君と』という作品で、吉川英治文学新人賞を受賞。

今回ご紹介している『悪党』のほかにも、『天使のナイフ』、『Aではない君と』、『刑事のまなざし』など、映像化されている作品も多く、ますます活躍に注目をしていきたい小説家です。

『悪党』の苦悩を持つ、登場人物たち

本作には、「ホープ探偵事務所」で働く人物を始め、そこに訪れる依頼人や、様々な事件の被害者や加害者たちが登場します。

主人公の佐伯修一は、「ホープ探偵事務所」で働く調査員。警官を辞めた理由は、姉のゆかりが殺された過去にありました。

彼の姉は、ある少年グループによってレイプされ殺されたのです。その後、佐伯は警察官となりましたが、職務中にレイプ犯を捕まえる際、犯人に暴行を加えてしまったことで退職となりました。

そんな問題を引き起こしてしまったのは、彼もまた、事務所を訪れる依頼人と同じ被害者遺族だったという過去ゆえにでした。

そんな佐伯を探偵事務所に誘ったのが、元警察官の所長・木暮正人です。依頼人から加害者の調査を依頼されたことや、佐伯の存在もあって主に犯罪加害者の追跡調査をすることを決めました。のちに、佐伯とは過去の所縁があることが明かされます。

佐伯の姉・ゆかりを殺した少年グループも登場します。その1人が田所健二。事件当時に少年であったこため、すでに社会復帰をしています。仕事も順調で婚約者もいて、過去のことを知らなければまさに順風満帆な人生を送っているように見えるでしょう。

他にも、佐伯と親しくなるキャバクラ嬢の伊藤冬美など、物語において重要なキャラクターが登場します。それぞれがどんな役割を担っているのか、考えながら読んでみるのもおもしろいかもしれません。

見所1:元加害者にフォーカスされた、リアルな物語

本作は、連作短編のような形で物語が描かれていきます。メインストーリーは佐伯の姉・ゆかりを襲った事件の加害者がどうしているかを佐伯が調べることにありますが、そこに至るまでに、様々な事件の被害者遺族が事務所を訪れ、依頼していきます。

たとえば、息子を殺した犯人がどうしているかを調査してほしいと依頼してきた老夫婦。犯人はすでに出所していますが、謝罪もないまま。その人物は反省しているのか、それともいまだに犯罪に手を染めているのか……。

この事件では、犯人はまだ昔の仲間とつるんでおり、犯罪を続けていました。佐伯は、犯人がとても反省しているとは思えないと依頼人に報告しますが、その結果、老夫婦はまさかの行動をとります。

作中に登場する加害者は、一度は逮捕され制裁は受けているはずなのに、自身の犯した犯罪を後悔するどころか、いまだに犯罪に手を染めていたり、反省することもなく暮らしていました。

そんな加害者に対する被害者の心情を考えると気の毒で悲しく、悔しさが湧いてきます。加害者がどうしてそうなってしまっているのか、ということも考えてしまう内容になっているので、ぜひそちらにも注目して読んでみてください。

見所2:心が癒される、伊藤冬美との出会い

本作には、はるかというキャバクラ嬢が登場します。はるかは、本名を伊藤冬美といい、佐伯とは調査中に入ったキャバクラで出会いました。最初はそれだけの関係でしたが、後に佐伯が姉の事件を調査しているときに協力してくれるなど、心強い関係になっていきます。

じつは彼女も、過去に義父から暴行を受けていたことがありました。佐伯にとって、姉のゆかりと被るところもあったのでしょう。

冬美は、佐伯のために体を張って協力するなど、彼の気持ちに寄り添う姿勢を見せており、物語が進むにつれ2人の絆が強くなっていく様子を読むことができます。

お互いに似たような傷があるからこそ、強くなっていく2人の関係。ラストにはその絆を思わせるシーンも描かれているので、そちらも見所です。

見所3:被害者遺族は、赦せるのか【ネタバレ注意】

本作のラストに描かれる事件は、佐伯の姉の事件です。

佐伯は、姉を殺した少年グループが今何をしているかを調査することになりました。犯人達は、1人は人気の飲食チェーン店を経営し、婚約者もいるなど社会的に成功しており、1人はそんな仲間から金をゆすり、そして1人は、余命いくばくもない病気で入院していました。

社会的に成功した1人とゆすりを働いている1人は、佐伯や冬美の画策の中で、仲違いをすることになります。そんななか、佐伯がもっとも憎悪を抱いたのは、病気で入院している主犯格の男でした。

著者
薬丸 岳
出版日
2012-09-27

余命いくばくもない病気で入院しているといっても、男は、決して反省しているわけでもなく、自身が死ぬことを恐れている様子もありません。これでは、例え自分がこの男を殺したとしても、苦しむことはないのではないかと思われました。

佐伯はそんな男をどうしたら苦しめられるのか考えます。そうして彼が選んだ復讐の手段とは……。

このラストでは、一見反省していないように思える加害者の人間らしい一面であったり、複雑な感情を読むことができ、思わず考えこんでしまうかもしれません。

そして、調査を終えた後、佐伯が取る行動や考えには胸を打たれるものがあります。加害者と被害者、そして被害者遺族など、それぞれの心情に読者の感情も揺さぶられること間違いありません。

いかがでしたか? 犯罪は決して許されるものではありません。しかし、加害者を罰したらそれで事件が終わりというわけでもありません。もし自分の身の回りの人が巻き込まれたら……なんて考えずにはいられない本作を、ぜひドラマと一緒にチェックしてみてはいかがでしょうか。

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