原作小説『模倣犯』あらすじと魅力をネタバレ考察!伏線や謎、タイトルの意味は?

更新:2021.12.11

同じ事件でも誰の目から見るかによって、景色はまったく違ってきます。そんな事実を痛感させてくれる本作。メディアのあり方やそれを受け取る視聴者のあり方も問われている現代では、より考えさせられる内容です。 映画、ドラマ化もされており話題となった宮部みゆきの代表作『模倣犯』の魅力をご紹介していきましょう。

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原作小説『模倣犯』が面白い!あらすじをネタバレ解説!

宮部みゆきによる小説『模倣犯』は、2002年芸術選奨文部科学大臣賞で文学部門を受賞し、映画化やテレビドラマ化もされている人気作品です。

3部構成のサスペンスストーリー。重いながらもスリリングな内容で、一気読み必死の作品です。

一家惨殺事件の唯一の生存者である塚田真一は、ある日の公園で女性の右腕を発見します。ここから事態は、若い女性の死体が次々と発見されるというセンセーショナルな事件へと発展していくのです。

マスコミが連日騒ぎ立てるなか、犯人からの電話で事態はさらに混乱。そんななか、犯人と思われた2人組の男が、転落事故に遭い死亡してしまいます。連続拉致殺人事件は被疑者死亡という結果に終わったのです。

しかし、そこに被疑者2人の同級生を名乗るが男・ピースが登場し、「真犯人は別にいる」と宣告。マスコミの取材を受けて一気に時の人となった彼は、事件の真相を追うルポライターや刑事、そして被害者の遺族たちとのスリリングな心理戦を挑んでいくことになるのです。

果たして謎の存在・ピースの狙いとは?そして、不可解な事件の真相とは?

 

著者
宮部 みゆき
出版日
2005-11-26

 

被害者と犯罪者の心理を両側から描いたこの傑作は2002年に映画化し、毎日映画コンクール日本映画ファン賞を受賞。被疑者の1人・栗橋浩美を演じた津田寛治は、ブルーリボン賞助演男優賞を受賞したことでも話題となりました。

事件の遺族の代弁者として「犯人は別にいる」と主張し、しだいにカリスマ的人気を集めていくピース役は中居正広。監督は森田芳光でした。

また、2016年にはテレビ東京系で「ドラマスペシャル 宮部みゆきサスペンス」として2夜連続で放送されています。ピース役を演じたのは、坂口健太郎。このドラマは、ルポライターの前畑滋子を主人公として描かれており、中谷美紀が主演を務めました。

 

魅力①作者・宮部みゆき!スピンオフ『楽園』も!

ミステリーやファンタジー、ジュブナイルなどジャンル問わず幅広い作風で知られる小説家。「このミステリーがすごい!」には10作品以上も作品が選ばれており、その実力は誰もが知るところでしょう。

本名は「矢部みゆき」ですが、仕事運があまりよくないということで「宮部みゆき」というペンネームにしたのだそう。公表によると、結婚はしていないようです。

1987年に『我らが隣人の犯罪』で作家としてのキャリアをスタート。その後『荒神』『火車』『理由』『希望荘』など多くの作品を生み出しており、さまざまな賞を受賞しています。さらにその多くがメディア化されています。

ミステリーものを多く執筆していますが、その他にも『本所深川ふしぎ草紙』『ぼんくら』などの時代小説や、ファンタジー、児童文学、絵本なども手掛けており、その才能はとどまることを知りません。

著者
宮部 みゆき
出版日
2010-02-10

 

本作『模倣犯』には、『楽園』というスピンオフ小説が存在します。この作品は、ピースと渡り合ったルポライター・前畑滋子を主人公とした作品です。

『模倣犯』の事件から9年。滋子は未だ立ち直れないままでいました。そんな彼女に、ある人物がサイコメトラーかどうか確かめてほしいという依頼が舞い込んできて……。このことをきっかけに、彼女はある凶悪事件に関わっていくことになるのです。

『模倣犯』のころに滋子が大きな痛手を被っていた事や、逮捕後のピースの様子についても語られており、『模倣犯』ファン必読の内容となっています。

 

魅力②【登場人物紹介】加害者・被害者の視点から描かれる

 

本作は、加害者と被害者の両視点から描かれています。しかも現在進行中の事件の他にも、かつて発生した一家惨殺事件も関わってくるため、物語が深く濃くなっているのです。

事件の始まりとなる、公園で腕の発見をした塚田真一は一家惨殺事件の唯一の生き残り。事件のきっかけを作ってしまったのは自分ではないのかと苦悩し続けながら暮らしていたところ、新たな事件に巻き込まれてしまいます。

彼が見つけた腕は失踪したOL・古川鞠子のものだと断定されますが、そこで警察に「腕は彼女のものではない」という電話がかかってくるのです。さらに、混乱する世間や警察をあざ笑うかのように、犯人の指示で鞠子の祖父・有馬義男宛てのメッセージを届けにきた日高千秋が、死体で発見されるのでした。

あまりに残忍で、センセーショナルな事件。マスコミは騒ぎ立て、関わる人々の過去や日常を脅かし始めます。しかし、そんななか、犯人だと思われていた2人の人物が群馬県の山中で自動車ごと崖下に転落し、そのうち1人が遺体となって発見されるのです。

運転していたのはヒロこと栗橋浩美、助手席に座っていたのはカズこと高井和明。警察は彼らを犯人として結論づけようとしますが、カズの妹・高井由美子はそれに納得せず、ルポライター・前畑滋子や刑事に接触し、事件を解明をしようとするのでした。

そんな由美子の後見人となって登場したのが、ピースです。彼はいったい何者なのでしょうか。彼の登場により、物語は一気に加速していきます。

一方、加害者とされるヒロやカズの視点からも、物語が展開。学生のころからカズをいじめてきたヒロは、実はピースの手のひらで転がされていて……。

 

魅力③映画と小説、どっちも楽しめる!赤ちゃんは誰の子供?

映画と小説にはさまざまな違いがあるため、どちらも十分に楽しめます。特にピースのキャラクター設定には大きな違いがあり、その違いがラストに波紋を呼ぶのです。

そんなさまざまな違いがあるなか、もっとも注目したいのは映画版に登場する子供の存在でしょう。鞠子の祖父・義男は、小説の終盤では豆腐屋を辞めて隠居してしまいますが、映画では行く当てがない真一とともに豆腐屋を営みながら、子育てをしているのです。

子供はいったい誰の子なのか。明確な答えは明かされていません。

この子供に関して、ピースは「僕の子」だと主張しています。しかし、実際のところはわかりません。鞠子の父とその愛人の子供だという説や、登場人物とはまったく無関係な子供だという説もあります。ピースという人物の性質上、どんな可能性も考えられそうですね。

彼が残した子供だということで、彼と鞠子の子だという説や、彼と和明の妹・由美子の子供だという説もあります。ピースと由美子の気持ちが通じ合っているように感じられる場面が多かったので、こういった説もあるのでしょう。

また映画では鞠子に隠し事があったと示唆するシーンがあり、その隠し事が「ピースとの子供をもうけた」ことだという考え方ができるのかもしれません。

 

魅力④被害者の心を踏みにじる犯人とは?

 

警察が発表した事柄に関し、わざわざ電話をかけて否定し、世間が騒ぎ立てるのを喜ぶ犯人。その人物は、マスコミというものの使い方を心得ているといえるでしょう。凄惨な事件であればあるほど、眉をひそめながらもセンセーショナルに書き立て、盛り上げていくのがマスコミなのかもしれません。

それを知っている犯人は、義男に手紙を届けた人物・千秋の死体を、彼女が小さい頃に遊んでいた公園の滑り台に遺棄します。そうすることでマスコミが彼女の人生や過去を暴き、自分の犯罪ストーリーをドラマチックで盛り上げてくれると考えたのでしょう。

そしてマスコミはまんまとその手中にはまり、大仰に騒ぎ立て、被害者の過去や家族の事情を暴くのです。執拗に嗅ぎまわり、ただでさえ傷ついている被害者たちの心をより深く傷つけていったのでした。

これは現実世界においても起こり得ることで、SNS社会で生活している私たちにとっても他人事ではないでしょう。

 

魅力⑤数々の謎!携帯電話など回収されなかった伏線も考察!

 

本作は、タイトルそのものが伏線となっています。どこに模倣があるのか、そもそも、これは模倣なのか?そう考えることで、物事の見え方がぐっと変わってくるはずです。

また、3部構成のなかで次々と新しい登場人物が現れるので、どの人物が事件に関わっていて、どの人物は無関係なのかを考える必要も出てきます。巧妙に描かれており、新しい人物の登場すべてが怪しく感じられてしまうほどです。

犯人だと認定されていたカズと知り合いの足立好子などがその最たるもの。しかし、この人物は、その後大きな動きを見せないままフェードアウトしてしまうのです。

また、カズの携帯電話を子供が拾うというシーンも伏線かと思われましたが、結局その後まったく登場せず……。もしかしたら、回収し切れなかった伏線だったのかもしれません。

 

魅力⑥「真犯人は別にいる」ピースの主張で急展開!

 

1部2部で事件の後を追い、事件に関わっていた人の人生や、マスコミのあり方を描いていた本作。3部からは「真犯人Xが存在する」というピースの発言で急展開を迎えます。

なぜ彼にそんなことがわかるのか、彼は何者なのか……。マスコミは彼を取り囲み、あたかもヒーローのように扱います。そんななかピースは、自分に反論するものを完膚なきまでに叩きのめしていきます。自分を優位に話をもっていくのが、彼のやり方なのです。

気に食わない質問をしたものをおとしめ、言葉巧みに自分を正当化する彼。そんな彼に周りはなぜか魅了され、拍手喝采を送ります。ピースはカリスマ的存在となっていくのです。

そして、それはまさに彼の狙い通りだったのでした。

 

魅力⑦タイトルに込められた意味!気になる結末を考察

この物語は「誰が犯人なのか」を楽しむ物語ではありません。被害者がどのようにマスコミや犯人に立ち向かい、どのように生きていくのかが、おそらく主題でしょう。またタイトルの意味は、ラストまできてようやく「そういうことだったのか!」とわかるので、最後まで必読です。

ピースがカリスマ化していくなか、ヒロが主犯であるという考えを持っていたルポライター・滋子はすべての始まりとなった事件、公園で腕を発見した真一に取材をおこない、事件の真相に迫っていきます。

そして義男などにも話を聞いていくなかで、自分の行動が果たして正しいことなのか、悩んでいくことになるのです。

そうした取材のなかで見えてきた真実。彼女は、ピースの元へと向かいます。果たして、彼女が彼に突きつける言葉とは?そして、事件の全貌とは?

ピースがカリスマ化していく過程で放つ言葉の数々は、おそろしくも実に魅力的。しかし、ここではあえて、彼に対抗した人々の言葉をご紹介しましょう。

著者
宮部 みゆき
出版日
2005-12-22

『模倣犯』名言を紹介

「恐ろしく口のうまい嘘つきです。
しかしね、前畑さん。
嘘の有効期間は短いものです。
その嘘が派手であればあるほどね。」
(『模倣犯』より引用)

ピースを追い続けた刑事のセリフ。嘘の有効期限が、もう短いことが感じられます。事件解決までのカウントダウンが始まった合図ともいえるでしょう。

「嘘でもいい。かまいやしない。
言ってしまった言葉は残る。
それが網川のやってきたことだ。言った者が勝ち。
どれだけ早く、どれだけ説得力をもって、
自分が信じてもらいたい事柄を広く伝えることができるか。
肝心なのはそれだ。事実や真実じゃない。
彼はそのツボを外さずに行動してきた。
今夜もそうしようとしている。滋子をだしにして。
だったら、同じ手段でやり返してやったらどうだろう?」
(『模倣犯』より引用)

これは、ピースに翻弄され続けたマスコミ側のアナウンサー・向坂の言葉。彼らにも、彼らなりの流儀や正義があるとわかる名シーンです。ただ面白おかしく事件を騒ぎ立てるだけでなく、この事件に関する怪しさを嗅ぎつけ、真実を暴こうとする者もいたのでした。

ここから物語はクライマックスへと突入します。刑事やアナウンサーたちの言葉に支えられ、滋子はピースと真っ向から対峙するのです。

そして展開される2人の白熱した舌戦と、あまりにも衝撃的な結末。その驚きのラストに、胸をつかれるでしょう。

 

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