捨て子の少女と、異形の男の物語。切なくも美しい姿を描くダークファンタジー作品で、まるでお伽噺のような世界観が話題となりました。2019年3月には、短編アートアニメーション化することが発表され、同年9月10日に発売となる原作コミックス8巻の初回限定盤に付属するDVDに収録されました。 この記事では、そんな本作の魅力についてご紹介します。ネタバレも含みますので、ご注意ください。
捨て子の少女・シーヴァと、異形の男の「せんせい」が、運命に放浪されながら生きる姿を描くダークファンタジー作品です。
本作は、人間が生きる「内つ国(うちつくに)」と、呪いで異形の姿になった者たちが暮らす「外つ国(とつくに)」の2つの国が登場します。
外つ国で、せんせいと暮らすシーヴァの現状がタイトルとなっている本作。シーヴァが外つ国に捨てられていた理由はなんなのか、なぜ異形の呪いは生まれたのか、様々な謎を抱えたまま、少女と異形の男の物語は始まります。
- 著者
- ながべ
- 出版日
- 2016-03-10
外つ国に住むものは「外の者」と呼ばれ、外の者に触れられた人間は、呪いが感染して外の者に変わってしまいます。そのため、内つ国の人は、呪いに感染した疑いのある人を投獄したり、処刑して遺体を外つ国に棄てたりしていました。
物語の冒頭では、女性が少女に「外の者に触ると呪われるから逃げなさい」と警告するシーンがあり、呪いに侵食されつつある世界の歪さが伺えます。
- 著者
- ながべ
- 出版日
- 2015-05-29
作者のながべは、元々はpixivでイラストを投稿しており、2013年に『部長はオネエ』で漫画家デビューしました。漫画作品では主に、人と人外の絆や恋愛を描いており、『とつくにの少女』では「やさしさ」をテーマに、少女と異形の男の絆を描いています。
人外のキャラクターを描く際、多くの作家に影響を受けたそうで、2017年時のインタビューでは、「ムーミン・シリーズ」の絵を描いた画家のトーベ・ヤンソンや、イラストレーターの酒井駒子の絵に強い影響を受けているそう。
人外のキャラクターのデザインでは、実在する動物をモチーフにすることが多く、『とつくにの少女』の「せんせい」は、中央アジアのヤギの一種・マーコールと竜骨を混ぜてデザインしています。
本作では「呪い」を巡り、2つの国の間でシーヴァとせんせいが翻弄される姿が描かれます。せんせいは、シーヴァを異形の者にしないため、シーヴァが自分に触れないよう注意していました。
ある時、シーヴァが外の者に触れられますが、せんせいはシーヴァに呪いの兆候がまったく出ないことに気づきます。さらに、シーヴァを迎えに来たおばの話から、シーヴァが外つ国で拾われた少女であることが判明。
内つ国がシーヴァを利用しようとしていることを知ったせんせいは、シーヴァを連れて内つ国の兵士から逃げる選択をします。
物語では、シーヴァの秘密やせんせいの正体、2つの国や呪いが生まれた経緯などの謎が少しずつ明かされていきます。現在と過去、2つの時間軸の中で謎が明かされていく巧みなストーリー構成は、思わず喉を唸らせてしまうほど。
重く切ないストーリーに、モノトーンの世界が絶妙にマッチし、読み進めていくうちにどんどん物語に引き込まれていきます。
シーヴァとせんせいは、出会いこそ普通ではありませんでしたが、お互いが相手を思いやり、2人での暮らしを何より大切にしています。
せんせいを心から慕い、どんな時でもせんせいのことを信じているシーヴァ。せんせいも、そんな彼女を大切に思い、危険から守ります。
2人の絆が見えるシーンのひとつが、シーヴァが馬車で内つ国に連れていかれる場面。シーヴァを迎えに来たおばの様子を不審に思ったせんせいは、おばと話をしようとしますが兵士に阻まれ、そのまま連れていかれてしまいます。
馬車からせんせいを呼ぶシーヴァと、何本もの矢を受けながらも必死にシーヴァへ手を伸ばすせんせい。あと少しのところで届かず、森に1人残されたせんせいの姿に思わず胸が痛くなります。
その後、シーヴァが連れていかれた先の村で呪いの騒ぎが起き、紆余曲折を経て、2人は再会を果たしました。せんせいに会えて喜ぶシーヴァと、それを優しく見守るせんせいの姿は、見ていて心がほっこりします。
家族のような温かで優しい2人の関係が、物語をより美しく切ない雰囲気にしている本作。2人はどのような結末を迎えるのか、今後の展開が気になります。
本作の大きな特徴が、白と黒のタッチで描かれた、お伽噺のような独特の雰囲気を持つ世界感です。作画にはベタをふんだんに使用しており、独特なコントラストが、作品の持つ不思議さや歪さをより深くしています。
登場するキャラクターも、白と黒で分けられており、内つ国や人間は「白」、外つ国の異形は「黒」を基調としたデザインになっています。
人間の少女・シーヴァの「白」と、異形の男・せんせいの「黒」。このバランスが、2人の関係を美しく切ない印象にしています。
そして古い絵本のような、美麗な作画も魅力的です。作者は本作を「絵本のように」作ることを心がけており、メイン作画にはアナログ画材のサインペンを使用しているとのこと。掠れた線も、本作の魅力を引き出す要素になっているでしょう。
作中のコマでは、集中線などの「効果線」を一切用いらず、オノマトペも全てフキダシの中に書かれています。まるでコマ割りにした絵本を読んでいるかのような感覚で読むことができます。細かなこだわりを、ぜひ発見してみてください。
せんせいとシーヴァは、おばとの別れなどを経て、内つ国の兵士から2人で逃げることにします。逃避行の最中、せんせいはシーヴァについて衝撃の真実を知ります。
実はシーヴァの魂には、人の世を救済する力があり、呪いを解くのに必要な生贄として、内つ国に狙われていたのでした。
- 著者
- ながべ
- 出版日
- 2019-03-09
コミックス7巻では、呪いで異形へと変貌した兵士の話から、せんせいが人間だった頃の名前や職業が判明します。
兵士はせんせいに、シーヴァを犠牲にして呪いを解き、ともに内つ国へ帰ろうと提案。一方のせんせいの意志は固く、シーヴァを守るために、兵士と戦うことを選びます。
明かされていくせんせいの過去や、シーヴァの持つ力など、物語の核心に迫っていく本巻。2人の逃避行も急展開を迎え、ますます物語から目が話せなくなっています。
少女と人外の男が織りなす、切なくも美しいダークファンタジー。人外と少女の組み合わせが好きな人に、ぜひおすすめしたい作品です。
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