人ならざる者との交流は、昔話や童話の中で古くから語られてきた物語です。漫画でも人外の存在する作品は多く、ファンタジーからSF、日常系までジャンルは様々。中でもヒロインの可愛さが話題の作品をご紹介します。
人が人ならざる者に見初められ、異界に連れ去られて妻になるという異類婚姻譚は世界中に語り継がれています。日本では押し掛け女房的な昔話が残っていますが、人外の者と婚姻を結ぶというのは、人間にとっては身近にある感覚なのかもしれません。
『魔法使いの嫁』は、まさしく異類婚姻譚、にこれからなる物語です。主人公、羽鳥智世は人には見えないものが見える特異体質の持ち主。それ故に親類縁者から疎まれて育ちました。15になったある日、イギリスのオークションに自分自身を出品することになります。
- 著者
- ヤマザキコレ
- 出版日
- 2014-04-10
智世を落札したのは、エリアス・エインズワーズ。頭部は動物のガイコツという見た目の魔法使いでした。智世は魔力の生産と吸収に長けた「夜の愛仔(スレイ・ベガ)」という存在。希少価値が高く、魔術師にとって利用価値があります。エリアスは智世を将来の「嫁」と定めたことで、2人の奇妙な同居生活が始まるのでした。
タイトルから「嫁」というワードがあるため、恋愛ものだと思われがちな本作ですが、どちらかといえば、人間としての成長や、魔法使いを取り巻く独特な世界観を描く現代ファンタジーという色が強く出ています。エリアスも智世の潜在能力を高く評価している面もあり、智世は「弟子兼妻」の弟子寄りの立ち位置にいます。
とはいえ恋愛展開が無いわけではありません。孤独に生きてきた智世が心動かされる何かに触れる時、必ずそこにはエリアスの存在があります。恋愛という枠組みを超えた繋がりが両者にはできつつあり、魔法使いや「夜の愛仔」を巡る抗争が物語を盛り上げるのです。
智世は常に孤独で、それ故に人の好意に疎い面があります。少しずつ明るく前向きになっていく智世の姿にほっこり。舞台となる英国は、現代でも数多くの妖精伝説が残るファンタジーの本場です。美しい情景とともに、人外の存在と少女の絆をお楽しみください。
『魔法使いの嫁』については<『魔法使いの嫁』を13巻まで全巻ネタバレ紹介!人外恋愛漫画に胸キュン!>で詳しく解説しています。
特異体質というのにほのかな憧れを持っている人は多いのではないでしょうか。それが特に生活に影響するものでも、なんかちょっとカッコイイ、と羨望のまなざしを向けてしまいます。『亜人ちゃん(デミちゃん)は語りたい』は、そんな人とは少し違った特異体質を持つ存在「亜人(デミ)」の少女たちが登場する物語。
- 著者
- ペトス
- 出版日
- 2015-03-06
高校で生物教師をしている高橋鉄男は、おとぎ話や伝説のモチーフとなり、妖なるものとして迫害された過去を持つ「亜人」に興味津々。大学時代から独自に研究を続けてきました。そんな時、鉄男の務める学校に「亜人」が入学。鉄男と亜人たちの学校での日常が始まります。
ヒロインである亜人ちゃんたちは、亜人であるが故に不便や悩みを抱えています。例えば雪女の少女、日下部雪は暑さに弱く、汗や涙といった体液が氷になるという特異体質の持ち主。あまり汗をかかないせいか、お風呂の湯船に氷の欠片を見つけた時、他者に能力の矛先が向いてしまうのでは、と恐れ、他人との交流を避けてきました。
鉄男は伝承や雪自身から状況や心理状態を細かく聞き出し、分析。なぜ湯船に氷があったのか、という謎を解き明かします。こんな風に、鉄男は教師として亜人ちゃんたちを支える存在になり、彼女たちも鉄男に心を開き、頼りにしていくのです。
明るく、おしゃべり好きなヴァンパイアの小鳥遊ひかり、世界に3人しか確認されていない、頭部と胴体が離れているデュラハンの少女、町京子。気弱に見えてツッコミ役の雪女の雪に、教師の佐藤早紀絵は奥手なサキュバス(夢魔・淫魔)と、登場する亜人たちは個性的。悩みながらも日常生活を謳歌する亜人ちゃんたちがかわいい、学園コメディーです。
人外の者が住む場所と言えば、深い森の中。人の寄り付かない場所にひっそりと息をひそめています。子どもたちは森に近づいてはいけない、けして見つかってはいけないと繰り返し教えられますが、自分の意志で、または誰かの意志で、森の中の誰かに出会うことになるのです。
『とつくにの少女』は、幼い少女と人外の者との日々の暮らしを描いた物語。全体的に画面が黒く、ダークな雰囲気が漂っていますが、少女が命の危機にさらされるとか、実は食料として生かされている、といった展開はありません。少女と人外の者は、穏やかな時の流れの中で生きています。
- 著者
- ながべ
- 出版日
- 2016-03-10
シーヴァは白い服を着た幼い少女。真っ黒い服を着て頭から角を生やした先生と一緒に暮らしています。2人が暮らしているのは「外つ国」。人が触れると呪いが移るという、他人ならざる異形の者が住んでいます。人間は外つ国に少しずつ蝕まれている「内つ国」に住み、国の外へ出ることはありません。
自分を育ててくれたおばあさんの迎えを待ちながら、「せんせ」と呼んでいる先生と暮らすシーヴァ。外つ国の者に触れて異形となった先生は、元は人間で、シーヴァの育ての親であるおばあさんが戻ってこないことを知っています。話すべきか、話さざるべきか。先生の葛藤とともに日々は過ぎていきます。
幼い少女、シーヴァと異形の存在「せんせ」との同居生活がメインですが、シーヴァが天使かというくらい純粋で健気。それ故に真実を知っている先生の葛藤が真に迫ります。外つ国の謎や、人が消えた村の様子など、薄暗い景色の中に謎が散りばめられ、穏やかな日常との対比が、強く読者に印象付けられます。
薄暗い森の中で繰り広げられる、幼い少女と人外の者の寓話。真実を知った少女がどうなるのか。また、世界はどうなっていくのか。暗闇を見据え、そっと見守っていたくなる1冊です。
『とつくにの少女』については<漫画『とつくにの少女』ダークなテンションにハマる。7巻までネタバレ紹介!>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
地球は人間をはじめとした動物だけではなく、様々な生命が活動しています。中でも菌類は人間の食卓には欠かせない存在。パンも味噌も醤油もお酒も、何らかの菌の助けを得て作成されているのです。
ケンタウロス女子高生の日常を描いた『セントールの悩み』で注目を集めた村山慶が、新たに紡ぎだした人外の物語『きのこ人間の結婚』の主人公は、なんと菌類。菌類が人間として生活していたら、どんな生活を営むのだろうかという想像を突き詰めた物語となりました。
- 著者
- 村山 慶
- 出版日
- 2014-11-29
本作の舞台は、動く菌類であるきのこ人間が治めている世界。動く菌類の一種である「牛」を飼って森の中で生活している牧人であるアリアラと、文字の知識を占有することで政治、文化に強い影響力を持っている「書記」のエリエラは新婚カップル。別の種族同士の結婚ということもあってか穏やかな生活とはいかず、次々に騒動へ巻き込まれることに。
アリアラとエリエラを中心に、きのこ人間の国を治める「王族」や、すらりとした体型で武芸を得意とする「衛兵」、この世界に住まうはずのない動物を使う「動物使い」と、独特な役割を持った種族が登場。茸をはじめとする菌類がモチーフになったキャラクターが、独特の世界を彩ります。
大きな特徴は、菌類なだけに性差が無いところ。一見すればアリアラもエリエラも女の子に見えますし、他のキャラクターも体格差はあっても女性的な外見をしていますが、男女の区別もありません。社会生活はもちろん、生殖や恋愛感情といった部分も細かく設定が作られており、きのこ人間とはいったいどういう存在なのか、その謎の生態に引き込まれていきます。
村山慶は、大学生時代に分子生物学を専攻していたこともあり、専門知識は豊富。細かいところまで作り込まれた不思議なきのこ人間の住む世界を堪能してください。
グルメ漫画のブームは続き、様々なシチュエーションや設定の作品が登場しています。生き物全てが食事をするものですが、グルメ漫画に登場するのはほぼ10割が人間。そんな中、人外の存在が登場する、一風変わったグルメ漫画が登場しました。
『クミカのミカク』は、異星人が違和感なく世間に溶け込んでいる世界が舞台です。クミカは、デザイン会社に勤めている異星人。いや、異星人だって食事するじゃん、と思った方は正しいですが、クミカは少々違うのです。彼女の基本的な食料は、空気中に存在する水分、花粉や微生物。息を意図的に吸い込むことで、栄養を摂取することが可能なのです。
- 著者
- 小野中彰大
- 出版日
- 2016-01-13
食べ物を体内に入れる必要があるかと問われれば、ノーと答える。クミカにとって食事とは、必要のないことをわざわざ実行するという、ぜいたくな娯楽でした。長い間抵抗がありましたが、とある出来事をきっかけに、食事という行為に目覚めていくのです。
人間は最初から食べることの喜びを知っています。食べるという行為を必要としてこなかったクミカにとっては、においや口に入れるものすべてが目新しく、新鮮なもの。目を輝かせ、満面の笑みで食事をするクミカの表情は、やや煽情的でもあり、魅力的です。帯状の触手が幸せな時に見せる動きも、クミカのかわいらしさを倍増させています。
不器用な性格のクミカが、食事に目覚めたことにより、より柔らかく明るくなっていく姿が印象的。何でもおいしそうに食べる姿に、食事の大切さや命をいただくありがたさを改めて感じることができます。クミカの食べる姿に、食欲中枢が刺激される1冊です。
人外の存在は、生まれながらにそういった存在ですが、中には出自の関係で、昼と夜で別々の存在に代わってしまうなど、特殊な体質を持っている、という設定も数多く存在します。友藤結が描く『贄姫と獣の王』に登場する、獣の王も特殊体質の持ち主。ある条件下で、人間へと姿を変えてしまうのです。
人間と魔族は別々に生活しており、獣の王が統べる魔族の住む大地は、瘴気に覆われ、人が長く生きることができない、禁忌の場所でした。度々戦争を起こしていた人間と魔族でしたが、100年前に停戦。魔族側が停戦の条件としたのは、1年に1度、生贄として少女を差し出すことでした。
- 著者
- 友藤結
- 出版日
- 2016-05-20
生贄にされるために血の繋がらない家族に拾われ、育てられた天涯孤独な少女サリフィ。魔族の世界や大きな獣の姿をした王を見ても怯みもせず、奔放な言動と無邪気な様子を見せるサリフィに、獣の王は興味を持ちます。生贄の少女が食べられる、街の瘴気が薄くなるその日に、自身の秘密をサリフィに明かした獣の王は、彼女を妃に迎えることを決めます。
生贄でありながら、太陽のように明るく、無邪気なサリフィがとにかくかわいい本作。辛い過去を背負っているサリフィと、半分は人間の血を持っているため、苦労の絶えない獣の王の交流に心が温まります。特に、名前を持たない獣の王に、サリフィが名前を贈る場面が感動的。互いがかけがえのない存在になっていく過程も、丁寧に描かれます。
獣の王の魔族姿はもふもふの尻尾で、あまり怖くないビジュアルにしてあったり、人間の姿に変わるなど、人外もの初心者の方でも楽しめるマイルドさが魅力。辛い過去がありながらも、可愛らしい恋愛模様にほのぼのできる作品です。
空前のペットブームが到来し、猫カフェや猛禽カフェなどが定着した現代日本。ペットと暮らす人々は、一緒に生活する動物たちを家族と認識し、会話はできないものの、その行動や目線で意志をくみ取ります。自分のペットが何を考えているのか。その一端を知ることができるのが、『タレソカレ』です。
本作は、ペットと生活している人々と、そのペットを擬人化した姿を描いたショートオムニバス作品。飼い主と擬人化した姿が先に紹介され、最後にどんな動物かを知ることができる、クイズのような楽しみ方も出来ます。登場する飼い主たちはゆるくつながっており、人間関係を楽しむこともできますよ。
- 著者
- モリコロス
- 出版日
- 2015-08-20
第1話に登場するのは、大学の庶務課に勤める須藤マナミ。同僚の八田くんからの食事の誘いを泣く泣く断り、コンビニでの買い食いを我慢し、あの子が待っていると帰宅を急ぎます。帰りが遅いマナミに対して憤慨しているハナビは、切れ長の瞳とちょっとワイルドな仕草がかわいい女の子。ご飯を催促して怒りながらも、膝の上でとろけたような表情を見せてしまうところが、単純で可愛らしいのです。
猫に文鳥、カメレオン、老犬など、登場する動物は様々。短い物語の中に、飼い主との絆を垣間見ることができます。特にアツヒコとタローの物語は、自身のペットも老いるのだという現実を見せられた気がして、1人と1匹の優しい関係にほっこりしつつも、どこか切ない空気が漂うのです。
マナミと同僚の八田くんとの恋模様を描きつつ、動物たちとの愛があふれた生活が描かれる本作。愛の形は恋愛だけではなく、もっと大きなものがあるのだと教えてくれます。ペットを飼っている人はとにかく共感できる、自宅のペットがもっと愛おしくなる、そんな1冊です。
創作の世界には多種多様、あらゆる人外の存在との婚姻譚が語られています。多くは人語を理解し、倫理観などの違いから衝突したり、互いを理解し合おうと努力したりする姿が描かれるもの。しかし、中には言葉が通じないなどの、制約のある結婚生活を描いた作品も、数多く存在します。
それらの作品とは一線を画することとなった4コマ形式の漫画が、八坂アキヲ原作、相川有が作画を担当する『人外さんの嫁』。本作は人外が話さないため、意思の疎通もちょっと難しいという状態。そんな人外のお嫁さんは、なんと男子高校生なのです。
- 著者
- ["八坂 アキヲ", "相川 有"]
- 出版日
- 2016-09-24
ある日突然、学校で人外の存在、カネノギさんと結婚するように言われた16歳の男子高校生、日ノ輪泊。体長2メートルと大きく、なぜかかぶりついてくるカネノギさんに困惑。意思疎通の難しい人外の存在との、不安いっぱいな新婚生活がスタートします。
泊とカネノギさんの、ほのぼのコメディが物語の中心。最初はカネノギさんに対して心の距離のあった泊が、そのふわふわの毛並みと深い愛情にほだされ、夫大好きになっていく姿が可愛らしく、くすりと笑ってしまいます。火鞍川くんとフワ井さん、木齋橋くんとツキツカくんなど、クラスメイトで嫁仲間も次々と登場。様々な人外さんとの結婚生活を楽しむことができます。
なぜ男子高校生が結婚、という設定の細かい部分は気になるかと思いますが、とにかく結婚生活と夫にのろける嫁男子高校生たちが可愛いので問題なし。細かいことは気にせず、ゆるい世界観と、ほのぼの結婚生活をお楽しみください。
ペットが自分の事をどう考えているのかを、人は知る術を持ちません。犬はよく群れの中で順位をつける習性から、家の中でも明確に順位付けをしていると言われていますが、猫はどうでしょう。親なのか兄弟なのか、はたまた子どもなのか。それは、本人にしかわかりません。
『猫彼氏』は、猫と暮らせるシェアハウスを舞台にした作品。本作は猫たちが擬人化されるため、人間視点と猫視点、両サイドから楽しむことができます。一方で、猫姿のエピソードも多く、普通の猫漫画として楽しむことができるなど、まさしく1度で2度おいしい構成が特徴的です。
- 著者
- 壱 コトコ
- 出版日
- 2017-03-01
関西から上京してきたひまりでしたが、家を探そうとするも、夜で不動産屋が閉まっていて家を探せず大ピンチ。泊まるところを探そうとしたところ、黒猫に出会います。黒猫に導かれた先にあったのは、猫と人がともに暮らすシェアハウス。偶然あった空き部屋に入居できることになったひまりは、黒猫におはぎと名付け、一緒に暮らし始めます。
おはぎをはじめとした猫たちは、擬人化された際にはイケメンの姿に。特におはぎはひまりのことが大好きで、ひまりを彼女だと思っているというところが萌ポイント。猫姿でも人間のイケメン姿でも、ひまりへのあふれる愛情が伝わって、胸がきゅんとしてしまいます。
猫あるある的エピソードもありますが、とらえようによっては恋愛エピソードといったお話が多いのも魅力です。上手く伝わらない恋心と、猫姿での愛情表現に癒される、猫好きにはたまらない1冊となっています。
一口に人外の存在の物語と言っても、様々な形が存在します。人と似ていて、全く違った理で生きている存在と紡ぐ物語をご堪能ください。