変わり映えのない日々に飽きてきた時は、物語から刺激をもらってみてはいかがでしょうか。日常生活では味わうことのできないスリルを体感できます。この記事では、「日本ホラー小説大賞」の歴代受賞作から、特におすすめのものをご紹介していきます。
角川ホラー文庫の創刊に合わせ、1994年に「同じ時代を生きている全ての読者と、恐怖を通して人間の闇と光を描こうとする才能豊かな書き手のために」というコンセプトのもと設立された「日本ホラー小説大賞」。
1995年の第2回から2011年の第18回までは「長編部門」と「短編部門」があり、それぞれで受賞作が選ばれ、さらに両部門をあわせた最優秀作品が大賞に選出されていました。
2012年の第19回から2018年の第25回までは長編、短編の区別がなくなり、大賞と優秀賞、そして一般読者から選ばれたモニター審査員が選ぶ読者賞が贈られています。
瀬名秀明の『パラサイト・イヴ』や貴志祐介の『黒い家』など、数々のヒット作を生み出した歴史ある「日本ホラー小説大賞」ですが、2019年からは「横溝正史ミステリ大賞」と統合され、「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」となりました。
ミステリ、ホラーというジャンルの区別をすることなく、よりエンタテインメントとして優れた作品を選考することが可能になっています。改称後の開催回数は「横溝正史ミステリ大賞」のものを引き継いでいるため、2019年4月におこなわれた選考会は「第39回」となっています。
怪奇現象に詳しい女子高生の祭火小夜。控えめで、滑らかな黒髪が特徴的です。
本書は4話の連作短編集で、1話から3話は小夜が通う高校の数学教師、同級生、後輩のそれぞれが、彼らを悩ませる怪奇現象について小夜から助言をもらうお話。
そしてクライマックスの4話では、小夜が3人に悩みを打ち明けます。それを受けて、とある祭りの夜に全員でドライブに出かけるのですが……。
- 著者
- 秋竹 サラダ
- 出版日
- 2018-10-31
2018年に「日本ホラー小説大賞」を受賞した秋竹サラダのデビュー作です。
徐々にスリルを増していく3つの短編は、ただ4話への橋渡しになっているだけではありません。それぞれホラー小説としての完成度が高く、読者を巧みに物語のなかに誘い込みます。
「日本ホラー小説大賞」の受賞作らしく随所に恐怖がありますが、ひと捻りある結末や、4話で伏線が回収される構造はミステリの要素もあり、ホラー小説の多様性を感じさせてくれるエンタテインメント性の高い作品だといえるのではないでしょうか。
主人公の田原秀樹は、妻や娘を思いやるイクメン夫です。幸せな新婚生活を送っていましたが、ある日から彼の周りで不審な出来事が起こるようになりました。
何か異質なものが、自分と家族を狙っているのではないかと考えた秀樹。幼少期のある出来事を思い出し、自分たちを追い詰めるものの正体は、故郷の「ぼぎわん」ではないかと疑い始めます。
どうにかして妻と娘を守りたい秀樹は、霊能者の比嘉姉妹を頼るのですが……。
- 著者
- 澤村伊智
- 出版日
- 2018-02-24
2015年に「日本ホラー小説大賞」を受賞した澤村伊智の作品です。
章ごとに語り手が変わる構成で、それとともに登場人物のイメージや、日常で起きていた出来事の印象が二転三転していきます。まさに人間の心の闇を映し出しているようで、恐怖を感じるでしょう。
また謎に包まれた「ぼぎわん」の醸し出す、気味の悪さもクセになります。どうやら人間になりすまして近づいているようなのですが……果たして霊能者の比嘉姉妹は、「ぼぎわん」を退治することができるのでしょうか。
ちなみに比嘉姉妹が活躍するシリーズは他にも刊行されているので、ぜひそちらもお手にとってみてください。
主人公のいずみは、大学生。ある日、高校の同級生だった裕司から、不思議な夜市に誘われました。訪れてみるとそこはとても不気味で、帰ろうとするもいっこうに出口が見つかりません。どうやら何か「取引」をしない限り出ることができないそうです。
一方の裕司は、幼いころにも夜市を訪れたことがあるといい、今回は「野球の才能」と引き換えに売ってしまった自分の弟を取り戻すために夜市に来ていました。
- 著者
- 恒川 光太郎
- 出版日
- 2008-05-24
2005年に「日本ホラー小説大賞」を受賞した恒川光太郎の作品です。
夜市では、のっぺらぼうなど、人ではないものが登場。何か抗えない力がはたらいているおどろおどろしさが漂っています。しかし怖いだけでなく、非日常の幻想的な世界観を感じられるのが魅力でしょう。
「野球の才能」と引き換えに弟を売ってしまったことを、ずっと後悔していた裕司。そして兄に売られて厳しい世界で生きることを強いられた弟の哀しみの余韻には胸が締め付けられます。果たして裕司は、弟を取り戻すことができるのでしょうか。
残酷な表現は少なく、ホラー要素も強すぎないため、初心者の方にもおすすめの一冊です。
ある夜、岡山の遊郭を訪れた男。売れ残っていたひとりの女郎と一晩をともにします。
興味本位に女郎の生い立ちを聞かせてほしいと頼むと、彼女は村八分になっていたあまりにも壮絶な過去を語りはじめました。
- 著者
- 岩井 志麻子
- 出版日
- 2002-07-10
1999年に「日本ホラー小説大賞」を受賞した岩井志麻子の作品です。タイトルにもなっている「ぼっけぇ、きょうてえ」は、岡山の方言で「とても、怖い」という意味。本作は、岡山の村社会が舞台になっています。
女郎は、産婆をしている母親のもとで、子どもの数を減らすため、産まれたばかりの赤子を殺す手伝いをしていたそう。軽くて優しい語り口とは対照的な内容に、思わず惹き込まれてしまいます。話が進むにつれ、両親が村八分にされた理由や、双子の姉の正体、家族の死の真相が明らかになり、背筋が冷たくなるでしょう。
表題作以外にも、収録されている短編はどれも岡山の村社会を舞台にしたもの。原風景に潜む人の闇が描きだされています。
保険会社で働いている若槻慎二は、顧客の菰田に呼ばれて彼の自宅を訪れました。しかしそこには、首を吊った菰田の息子の姿があり、若槻は遺体の第一発見者となってしまうのです。
事件性も疑われたため、保険金の支払いは保留に。しかし執拗に支払いを求めてくる菰田に不信感を抱き、若槻は菰田夫妻について調べることにしました。すると、彼の調査に協力した人が次々と襲われていき……。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
1997年に「日本ホラー小説大賞」を受賞した貴志祐介の作品です。
私たちの日常にも、姿の見えない殺人鬼が潜んでいるのでは……という恐怖が押し寄せてくる、サスペンスホラー。若槻を徐々に追い詰めていく冷淡で残忍なサイコパスは、一体誰なのでしょうか。
生命保険の制度や保険会社の内情なども詳細に描かれていて、物語により一層リアリティさを加えてくれています。