「このマンガがすごい!2020 オトコ編」第4位! 「マンガ大賞2020」第8位! 2020年8月現在、その衝撃的な作風が話題となっているこの作品を、皆さんはご存知でしょうか? その作品の名は、『チェンソーマン』。「週刊少年ジャンプ」で連載されているにもかかわらず、「友情・努力・勝利」などクソ喰らえと言わんばかりの、少年漫画のタブーを詰め込んだような漫画です。しかし、コレが面白いのだから仕方がない。 この記事では、ジャンプ史上最「狂」の漫画『チェンソーマン』の魅力をたっぷりとお届けします。
本作の作者は、藤本タツキ。2016年から2018年にかけて、「少年ジャンプ+」にて『ファイアパンチ』を連載。この作品も、読者の予想を裏切る展開の連続で、話題になった作品でした。
そして、その鬼才が満を辞して「週刊少年ジャンプ」で『チェンソーマン』の連載をスタート!本作は、「悪魔」が蔓延る世界で、主人公が「デビルハンター」となり戦う姿を描いたダークファンタジー漫画です。
そんな本作の舞台は、人を喰らう「悪魔」に日常を脅かされている現代日本。
ある出来事をきっかけに、主人公・デンジは「チェンソーの悪魔」に変身できるように。悪魔は駆除される世界ですが、悪魔に全てを乗っ取られている訳ではないデンジは、民間では対処できない凶悪な悪魔の駆除を行う公安の「デビルハンター」に誘われます。そうして彼は、悪魔たちと戦いをくり広げていくことになるのです。
そんな『チェンソーマン』の面白さは、先読み不可能なストーリー展開、他に類を見ない独特のセリフ回し、血みどろバイオレンスな残虐描写、ド迫力な画面構成……挙げていけばキリがありません。
そのなかでも特筆すべきは、頭のネジがぶっ飛んだ主人公・デンジ!
デンジの特徴を表すと、「少年ジャンプ」の主人公らしくないということ。「少年ジャンプ」の主人公と言えば、壮大な「夢」に向かって突き進むイメージがありますが、デンジはその真逆。
後述しますが、彼の夢は他人から見たら、あまりにもちっぽけなのです。しかし彼はその夢を叶えるために、命を懸けて戦います。彼の自分の夢への執着心は、なんとも異常と取れるでしょう。
少年漫画の主人公らしくないデンジの振る舞いは、人々の度肝を抜くどころか、度肝を切り刻むくらいのインパクト。しかし、コレがとんでもなく面白い!
そんな本作最大の魅力であるデンジについて、徹底的に紹介していきます!
藤本タツキが『チェンソーマン』の前に連載していた『ファイアパンチ』については<『ファイアパンチ』衝撃作の魅力を全巻考察!【最終8巻ネタバレ注意】>で紹介しています。ぜひご覧ください。
- 著者
- 藤本 タツキ
- 出版日
- 2019-03-04
「少年ジャンプ」のスローガンといえば「友情・努力・勝利」。そして、主人公たちは「世界を救う」「大切な人を守る」のように、壮大な「夢」に向かって突き進むイメージがあります。
デンジはどうなのかというと、正反対。真逆。人に語るような「夢」なんてものはないのです。
「人間を全て食べること」を夢見る悪魔に、デンジは夢を聞かれます。それを「くだらない」と一蹴されてしまいます。そう、この時に彼が語った夢は「女の胸を揉むこと」。バカにされイラだったデンジは、悪魔にこう言い放ちます。
「みんな偉い夢持ってていいなア!!
じゃあ夢バトルしようぜ!
夢バトル!!
俺がテメーをぶっ殺したらよお〜…!
てめえの夢ェ!
胸揉む事以下な〜⁉︎」
(『チェンソーマン』第2巻より引用)
「ワンピース」のルフィが海賊王を夢見て冒険をし、「ヒロアカ」のデクくんが世界を守るヒーローを目指す中、デンジはなんと夢を語る相手のことを煽ります。
- 著者
- 藤本 タツキ
- 出版日
- 2019-05-02
しかし、デンジは夢を持つ者をただバカにしたい訳ではありません。彼は、夢の大小によって自他が比べられてしまうことに憤りを感じているのです。彼にとっては「海賊王」も「世界を守ること」も「女の胸を揉むこと」も、全て同じ大きさの夢なのです。
幼い頃から父親が残した莫大な借金を抱え、貧しい生活を送ってきたデンジは「食パンにジャムを塗って食べられ、ぐっすり眠れて、イイ女とイチャイチャする生活」に憧れていました。
つまりデンジが夢見たのは、一般人が何気なく送っている普通の暮らし。端から見ればちっぽけな事ですが、ド底辺を生きてきた彼にとって、「普通の暮らしをして、女の胸を揉む余裕があること」は立派な「夢」なのです。
物語の序盤、デンジはとある事件によって公安のデビルハンターとなることを迫られるのですが、それを快諾したきっかけのひとつは「朝ごはんには、食パンにバターとジャムを塗って食べられ、サラダとコーヒー、さらにはデザートも付いてくる」と聞いたからでした。
それまで1日分の食料が、ジャムも何も塗らない質素な食パンだけだったデンジからしたら、その待遇は夢に描いていたものに等しいのでしょう。
彼は「普通」の生活を送るため、悪魔と戦う道を選んだのでした。
しかし、彼の「夢」は多くの人にとって当たり前すぎるためか、誰にも理解されず、バカにされてしまいます。しまいには先輩から「軽い気持ちでいるなら公安をやめろ」と言われてしまうほど。
それでもデンジは自分の「夢」のためなら命を懸けて全力で戦い続けます。他人にどれだけ笑われようとも。これこそが、デンジの最大の魅力です。
他人になんと思われようとも、自分の決めた道をとことん追求する。その姿には、紛れも無い少年漫画の「主人公」の熱意を感じてしまうでしょう。
一見、主人公らしからぬデンジですが、このように考えるとルフィやデクくんに似ている部分がありますよね。デンジはこれまでに少年漫画では見たことのない発言や発想をくり広げますが、そこには確かな「主人公」像が見出されるでしょう。それが、読者の心を掴んで離さないのです。
「俺はもう 夢にゴールしちまってるからなあ」
(『チェンソーマン』第1巻より引用)
第4話という物語序盤で、生活が保障されている公安に所属することになり、デンジは早々に夢を叶えてしまいました。
公安のデビルハンターたちは、人類史上最大の敵である「銃の悪魔」を倒すという壮大な目的のために命を懸けて戦いを続けていますが、デンジにとってそんな事は知ったこっちゃありません。
なんでコイツらは十分恵まれてんのに
もっといい生活を望んだ?
そーかみんな夢見ちまうんだなぁ
じゃあ悪いことじゃねぇ
悪いことじゃねぇけど……
「俺達の邪魔ァすんなら 死ね!」
(『チェンソーマン』第1巻より引用)
自分も他人も同じ。「今よりもっといい生活を」と望む気持ちは理解できても、邪魔するなら殺します。あくまでデンジの行動は「自分本意」なのです。
今の生活を守るためならば、邪魔する奴らはぶちのめし、公安の言いなりになっても構わない。清々しいにも程がありますね。
- 著者
- 藤本 タツキ
- 出版日
- 2019-08-02
しかし、そんなデンジも公安になって遂に一つの目標を見つけます!やはり腐っても、「少年ジャンプ」の主人公!
「そういう事だったのか 見つけたぜ…… 俺の本気! 俺のゴール! それは…!」
(『チェンソーマン』第1巻より引用)
さて、そんな彼が見出した目標は……
「胸ぇ 揉んでみてえ……」
(『チェンソーマン』第1巻より引用)
どこまでも清々しい……っ! デンジ、お前は男の中の男だ……っ!
さらに彼は公安のミステリアス女史・マキマから「銃の悪魔」を倒す協力を依頼されます。銃の悪魔を殺せたら、「願い事なんでも一つ叶えてあげる」とデンジに話すマキマ。
それを許諾する彼の言葉もまた……本能に忠実。
デンジの頭の中はエロいことにいっぱいいっぱいで、自分のことを「デンジ君」と称したり全くおなじことを2回言ったりと、日本語もおぼつかないほどでした。
「デンジ君が銃の悪魔を殺せたら マキマさんが俺の願い事なんでも一つ叶えてあげる…?」
「それって…… それはつまり……」
「デンジ君が銃の悪魔を殺したら マキマさんが俺の願い事なんでも一つ叶えてあげるっつ ー事ですか…⁉︎」
(『チェンソーマン』第2巻より引用)
そんな訳で、デンジは普通の生活をするため……いや、「女の胸を揉むため」だけに、本能の赴くまま、人類史上最大の敵に戦いを挑むのでした。
くり返しになってしまいますが、かつてジャンプにこんなにしょぼい行動原理を持つ主人公がいたでしょうか。いや、いないでしょう。しかし、だからこそ『チェンソーマン』は面白いのです。
今回は『チェンソーマン』最大の魅力である、主人公・デンジについて紹介しました!
悲惨な人生をモノともせず、ただただ自分本位に命を懸ける、頭のネジが吹き飛んだようなデンジ。「夢」を叶えるためならなんでもする、彼の一貫したスタンスはきっと多くの人を熱くさせるでしょう。
ここまで散々「ジャンプの主人公らしくない〜」などと述べてきましたが、デンジの己を貫く生きざまは、間違いなく少年漫画の主人公です。
痛快がすぎる彼を、ぜひご覧になってください!
- 著者
- 藤本 タツキ
- 出版日
- 2019-03-04
他のダークファンタジーを読んでみたい方にオススメする作品が『血と灰の女王』。表現コードギリギリまで攻めた作品です。
本作は、特殊能力を持つヴァンパイアたちが、世界を支配できるという「ヴァンパイアの王」の座を巡ってバトルをくり広げる物語。
「誰も死んで欲しくない」と戦うことを決意する主人公に、「殺しが楽しい」というサイコパス、「弱者がいない世の中」を願う青年など、過去にさまざまな背景を抱えた者たちが、命を懸けて戦います。
容赦ないバトルシーンも、ダークファンタジー好きにはたまらないところではありますが、登場人物たちの心理描写にも注目していただきたい作品です。物語が進むにつれ、徐々に登場人物の過去が明かされていきます。
ヴァンパイアの力を手に入れた人間それぞれの「戦う理由」が明かされていき、巻を追うごとに作品にのめり込んでしまうでしょう。
- 著者
- バコ ハジメ
- 出版日
- 2017-05-12
こちらの記事では、『血と灰の女王』について細かく解説しています。
『血と灰の女王』は、3巻から面白くなる。画像つきで作品の魅力を紹介!|ネタバレ注意
無料アプリ「マンガワン」で読むことができるので、興味のある方は読んでみてください。序盤にグロテスクなシーンがあるので、苦手な方は要注意です。
次にオススメしたいのが、『かつて神だった獣たちへ』です。『チェンソーマン』と比べると過激な表現は抑えめですが、切ないバトルシーンが魅力です。
舞台は激しい戦争を終え、平和になった世界。
平和な世界になる以前は、大きな戦争をくり広げていました。その戦争を終わらせたのが、神から圧倒的な力を与えられた「擬神兵(ぎしんへい)」たち。
しかし平和になった世界には「擬神兵」の力は不要に。賞賛を受けてきた彼らは、しだいに人々から疎まれれ、神の力に心が支配されるようになります。彼らは誰からも必要とされない寂しさから、受け入れてもらうため人を殺すようになり……苦しみの中を生きていました。
そんななか、擬神兵を苦しみから解放する「獣狩り」と呼ばれる男がいました。擬神兵たちの苦しみを終わらせようと、彼らを葬ります。そんな彼の正体は……かつての擬神兵部隊の隊長だったのです。
仲間の苦しみに終止符を打つため、かつての仲間を手に掛ける旅が始まります。
孤独に苦しむ擬神兵たちも切ないですが、かつて戦友とのバトルシーンには胸が打たれます。
- 著者
- めいびい
- 出版日
- 2014-12-09
本作の魅力についてもっと知りたい方はこちらの記事もどうぞ。
『かつて神だった獣たちへ』の魅力を全巻ネタバレ紹介!無料で読める!
こちらも無料の漫画アプリで読むことができます。アプリでは1巻分無料ですので、ぜひご利用ください。