おもしろい小説に出会うと、このストーリーを映像でも見てみたいと思う人も多いのではないでしょうか。実際に、小説を原作とした映画が多数制作されています。この記事では、2020年に公開されることが決定している映画化小説をご紹介。映画が先か、小説が先か、どちらも楽しんでみてください。
先輩に頼まれて、臨時で当直を担当することになった外科医の速水。そこへピエロの仮面を被った男が現れて、自身が拳銃で怪我を負わせた女性の治療を要求しました。そしてそのまま病院に籠城すると言うのです。
院内では次々と異変が巻き起こり、ついにひとりの遺体が発見されました。速水は怪我をした女性、愛美の治療を続けながら、病院に隠された秘密に気づき、病院を抜け出そうと試みるのですが……。
- 著者
- 知念 実希人
- 出版日
- 2014-12-05
2014年に刊行された知念実希人の作品。知念は現役の医師で、知識と経験に裏打ちされた確かな医療サスペンスが魅力です。映画は2020年3月6日に公開されました。
本作で描かれているのは、たった一晩の出来事。ピエロの仮面を被った男の目的、病院関係者の怪しげな行動など謎が深まるなか、緊張感を保ちながら物語は展開。やがて明らかになる事実は、医師である知念だからこそ書けるものかもしれません。
医療ものですが専門用語は少なく、読みやすい文章で、最後までスリルとスピード巻を楽しめるでしょう。
物語の舞台は、1860年代のアメリカ。ニューイングランドに住むマーチ家は、父親が南北戦争の戦場へ行ってしまい、約1年間、母親と4姉妹だけで家を守ることになりました。
美しくて穏やかな性格の長女のメグ、先進的で快活な二女のジョー、病気がちですが音楽好きな三女のベス、勝気で絵を描くのが得意な末っ子のエイミー。個性豊かな4人の少女たちは、困難にぶつかるたびに優しい母親に導かれ、お互いを思いやりながら「リトル・ウィメン(小さくても立派な婦人)」へと成長していきます。
- 著者
- ルイザ・メイ・オルコット
- 出版日
- 1986-12-23
アメリカの小説家ルイーザ・メイ・オルコットが1868年に刊行した自伝的小説。世界的名作となり、これまでもたびたび映画化されてきました。2020年3月27日に「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」というタイトルで、日本で公開されます。
4姉妹の等身大の姿がありのままに描かれているのが最大の魅力。彼女たちは無邪気なだけでなく、自分のいいところと悪いところ、得意なこととそうでないことを学んでいき、内面を成長させていくのです。
彼女たちが困難にぶつかるたびに、優しく導いてくれる母親も素敵です。愛情たっぷりに生き方の教育をしていて、読者も4姉妹と一緒にさまざまな教訓を学ぶことができるでしょう。
作品のタイトルそのままに、みずみずしくて爽やかな読後感を与えてくれる一冊です。
結婚3年目を迎えた健一。妻の朋子とひとり娘の美紀とともに、幸せな家庭を築いていました。しかしある日、突然の病で朋子がこの世を去ってしまいます。
残された健一は、まだ1歳半の娘をシングルファザーとして育てることを決意。男手ひとつで奮闘しますが、うまくいかないことばかりです。それでも周囲の人に助けられ、なんとか美紀も小学生になりました。
そして健一にも、新しい1歩を踏み出す出会いが訪れます。
- 著者
- 重松 清
- 出版日
- 2012-03-23
『とんび』や『流星ワゴン』など、家族の再生を描きつづけてきた重松清の作品です。2009年に刊行されました。映画化され、2020年4月3日に公開されます。
全編をとおして、淡々としていながらも実直で、優しさに満ちた語り口が魅力的。登場人物の心から発せられたようなまっすぐな言葉たちも、読者の胸に響きます。
残された者は、悲しみを胸に抱いたまま、それでも生きていかなければなりません。父親ならではの葛藤、義両親や子どもができない義兄夫婦との関係……一筋縄ではいかないことばかりですが、美紀の成長が物語の大きな光となっているのです。小学校を卒業する最終章は、涙なしには読むことができないでしょう。
心に傷を負った誰かの支えにもなってくれるであろう、あたたかく優しい作品です。
主人公の鷹野一彦は、産業スパイ組織「AN通信」のエージェント。心臓には裏切り行為を抑止する爆弾が埋め込まれています。
ある時、ベトナムの新油田開発の利権争いの最中に、射殺事件が発生。鷹野は部下の田岡とともに背後関係を探るのですが、調査を進めるうちに田岡が何者かに拉致されてしまい……。
- 著者
- 吉田 修一
- 出版日
- 2012-04-25
2012年に刊行された吉田修一の作品。映画化し、2020年5月15日に公開されます。
登場人物が世界を股にかけて活躍するスケールの大きなストーリーで、利害関係が目まぐるしく変化するため、敵味方が二転三転する疾走感が魅力です。頭を使った情報戦にハラハラし、最後まで行きつく先が見えません。
鷹野をはじめ「AN通信」エージェントたちの胸に埋め込まれたチップは、毎日正午に組織に報告を入れなければ裏切りと見なし、爆弾が爆発する仕組みになっています。つまり彼らは、24時間ごとに死の危険にさらされているのです。
エージェントたちはみな壮絶で哀しい過去を背負い、非人道的な組織に従って自分以外の人間を信用しないように教育されて生きています。そんな彼らが、人間味にあふれた行動をとるのが見どころでしょう。
3年前、中学生で小説家デビューをした千谷一也。期待の新人といわれていましたが、それ以来売り上げは下がり続け、SNSでも誹謗中傷を受け、自信を無くしてしまっていました。
そんな彼のクラスに転校してきた小余綾詩凪は、ヒット作を連発する人気の高校生作家です。しかし彼女も小説が書けなくなっていました。
2人は編集者の勧めで共同で小説を書き、ベストセラーを目指すことになります。時に反発しながらも、ともにストーリーを紡ぐうち、一也は詩凪が抱える秘密に気づき……。
- 著者
- 相沢 沙呼
- 出版日
- 2016-06-21
2016年に刊行された相沢沙呼の作品。漫画化もされていて、2020年5月22日に映画が公開されます。
自己肯定感の低い主人公と頭脳明晰な美少女作家が、ともに小説を紡いでいく……夢と希望にあふれた青春小説のように感じますが、実際に読んでみると真逆の印象を受けるかもしれません。
彼らは不器用で、高校生ならではの幼さと脆さがあり、卑屈な面ももっています。小説を生み出すためにもがき苦しむ姿が克明に描かれ、読者の心も痛むのです。それでも「書くことでしか進めない」という彼らの言葉が、小説家としての覚悟を感じるでしょう。
本好きの読者は、どうして自分が小説を読むのか、あらためて考えるきっかけになるかもしれません。
江戸時代末期の1835年に武州多摩郡の農家に生まれた「バラガキ(荒くれ者)」の土方歳三は、武士になるために京都へ行き、第14代将軍である徳川家茂の護衛に志願します。
そこで芹沢鴨と知り合い、幕府の後ろ盾を得て、武装警察である「新選組」を結成。隊士の心情を鋭く読み取る能力を発揮し、「鬼の副長」として組をまとめながら、近藤勇や沖田総司らとともに討幕派を制圧するため活躍します。
しかし「鳥羽伏見の戦い」で敗れ、北に逃れたもののその翌年に34歳の若さで亡くなりました。熱くて儚い男の物語です。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
日本を代表する歴史小説家で、「直木賞」を受賞した経験もある司馬遼太郎の代表作のひとつ。1964年に刊行されました。『燃えよ剣』は幕末最強の武装集団「新選組」で活躍した土方歳三の生涯を描いた長編で、1966年にも映画化されています。今回は54年ぶりに制作され、2020年5月22日に公開されます。
土方歳三は農民出身ですが、武士に憧れ、江戸幕府が倒れゆく時代にひたすら武士でいようとした男。無骨で豪胆で、それでいて純粋な姿がかっこよく、使命を尽くそうとぶれない強さが読者を惹きつけます。
また土方以外の登場人物のキャラもたっていて、歴史小説ながらセリフの掛け合いも多く、読みやすいのもポイントです。
新選組を扱った作品は多数ありますが、やはり『燃えよ剣』を読まずには語れないでしょう。映画化を機にぜひ読んでみてください。
片倉ひかりは、中学2年生という若さで交際相手の子どもを妊娠。世間体を気にする両親に押し切られ、断腸の思いで「ベビーバトン」という特別養子縁組団体に生まれた子どもを託します。
引き取ったのは、長い不妊治療の結果子どもが授からないとわかった、栗原夫妻でした。
それから6年。親子3人で穏やかに暮らす栗原家に、「子どもを返してくれませんか」と、1本の電話がかかってきます。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2018-09-04
2015年に刊行された辻村深月の作品。「本屋大賞」の候補になったほかテレビドラマ化もされ、2020年夏に映画化されます。
片倉ひかりと栗原佐都子という2人の母親を描いた物語。彼女たちをつなぐのは、幼い子どもです。この子こそが「光」であり、佐都子は養子縁組によって光を得て、幼いまま母となったひかりは我が子を手放すことで光を失ってしまいます。特にそれから6年間のひかりの人生は想像もできないほど壮絶で、涙なしには読むことができません。
親子とは何なのか、家族のかたちを考えさせられる一冊。ラストは、長いトンネルを抜けて差し込むような光に救われます。
番組の企画で「事故物件」に住むことになった芸人が、実際にあった不思議な話をまとめた短編集。事故物件とは、前に住んでいた人が事故や自殺、殺人などで亡くなった部屋や家のことです。
実体験なのでリアリティは抜群。淡々とした文章が恐怖を誘います。
- 著者
- 松原 タニシ
- 出版日
- 2018-06-26
2018年に刊行された松原タニシのノンフィクション作品。松原はワケありの事故物件を転々としながら暮らしているお笑い芸人です。ホラー映画の巨匠、中田秀夫により映画化され、2020年8月28日に公開されます。
「インターホンに老人の霊が映る部屋」や「黒い人がゆっくり近づいてくる部屋」など、実際に作者が体験したエピソードが収録。すべてに物件の間取りが掲載されていて、読み手の想像をかきたてるうえに、一部は証拠写真も載っているのでたまりません。
そのほか知人の体験談や恐い噂などエンターテインメント性の高い話も掲載されていて、不動産業界の裏話なども知ることができます。
また作者の松原は、お笑い芸人でありながらその文章力は確かなもの。「本当の恐怖」を伝えようと、構成や言葉の選別にこだわっていることがうかがえる一冊です。
「僕」は三兄妹の真ん中。兄は美形で優秀で、妹もまた美しく、両親の関係も良好。そして愛犬のサクラに囲まれ、幸せな日々を送っていました。
しかし、ある時兄が交通事故にあってしまい、下半身不随の重症に。顔には無残な傷跡が残り、彼は「ギブアップ」という言葉を残して自ら命を絶ってしまうのです。
突然の悲劇に家族が壊れていきますが、それでもサクラだけは変わらずしっぽを振りつづけます。
- 著者
- 西 加奈子
- 出版日
- 2007-12-04
2005年に刊行された西加奈子の作品。2020年秋に映画化されます。
兄が死んでからというもの、父親は家族を捨てて音信不通になり、母親は醜く太って酒浸りになり、兄のことを「好きだった」妹は自暴自棄になっていました。「僕」は実家を出て東京の大学へ通っています。美しい家族の象徴だった兄の死を引き金に、家族はあっけなく崩壊してしまったのです。
そんな「僕」のもとに、父親から「年末、家に帰ります」という手紙が届き、ストーリーが動き始めます。
長谷川家には次々と事件や問題が起こりますが、そこにはいつでも愛犬のサクラがいて、彼女は辛い時も楽しい時もしっぽを振っていました。物語の重たい空気を緩和してくれる存在です。
崩壊したからこそ、再生していく過程が読者を惹きつける一冊。生きていくことは辛く大変な時もあるけれど、それでも尊いものだと教えてくれる作品です。
美しい美貌をもっているうえ、莫大な財産を相続した大富豪のリネット。親友であるジャクリーンの婚約者サイモンと出会い、一目惚れしてしまいます。そしてそのまま彼を奪い、結婚。2人はナイル川をさかのぼる豪華客船で新婚旅行に出かけました。
しかしその船にはジャクリーンも乗りこんでいて、彼らにつきまといます。不穏な空気が流れるなか、酔っ払ったジャクリーンがサイモンの足を銃で撃ってしまう事件が発生。さらに翌朝、リネットが同じ銃で頭部を撃ち抜かれ、死んでいるのが発見されます。
船に乗りあわせた名探偵ポアロとレイス大佐は捜査を開始。誰もがジャクリーンを犯人だと疑いますが、彼女にはアリバイがあり……。
- 著者
- アガサ クリスティー
- 出版日
イギリスを代表する作家アガサ・クリスティーが1937年に発表した『ナイルに死す』。クールで人情味あふれる名探偵の人柄が読者を虜にし、大人気となった「名探偵ポワロ」シリーズの一冊です。日本では1984年に刊行されました。これまでもたびたび映画化されており、2020年は「ナイル殺人事件」というタイトルで秋に公開される予定です。
いわゆるクローズドサークルの傑作。豪華客船の乗客全員が容疑者となり、それぞれの身元を洗い出していくのですが、ジャクリーンとサイモン以外の人物にもそれぞれ怪しい部分が。ポワロたちがひとつずつ謎を解決していく過程にワクワクが止まりません。
また謎解きだけではなく、ポワロの言葉から人生の教訓を得ることができるのも魅力的。悠久のナイル川の流れが登場人物たちに静かに審判をくだしていく、情緒を感じられる作品です。
主人公の澪は、幼い時に水害で家族を亡くし、天涯孤独の身。大阪で1番の名店といわれる「天満一兆庵」の女将に助けられ、そこで料理の腕を磨きます。しかし天満一兆庵が火事でつぶれたため、江戸に出ることにしました。
「つる家」で調理場を任されますが、当初は江戸と上方の味の違いから評判はいまいち。しかしさまざまな人の助けを借りて料理を考案し、「つる家」は徐々に江戸で評判の店になっていきます。
そんななか、澪の料理の腕を妬んだ日本橋の名店「登龍楼」が妨害を仕掛けてくるようになり、ついに「つる家」が燃やされてしまうのです……。
- 著者
- 高田 郁
- 出版日
- 2009-05-15
高田郁の大人気時代小説「みをつくし料理帖」シリーズ。何度かテレビドラマ化もされていて、2020年秋には角川春樹最後の監督作として映画が公開されます。
主人公の澪は、天性の味覚を持っている女性。心根が美しく努力家で、次々と降りかかる不運にじっと耐え、ひたむきに精進します。そんな彼女が不慣れな環境でもめげずに働き、花を咲かせていく姿に読者も励まされるでしょう。
彼女が手に入れるのは、大きすぎる栄光ではなく、ほんの少しの幸せ。ささやかで微笑ましいストーリーと、あまりにもおいしそうな料理の描写で、あたたかな気持ちになれる一冊です。
39歳で独身の歩。ある時思い立って、課長まで上り詰めた会社を突然辞めました。しかし同じタイミングで映画とギャンブル好きの父親が倒れてしまい、多額の借金が発覚してしまうのです。
そんななか、父親が雑誌「映友」に投稿していた歩の文章が編集部の目に留まり、そのまま雑誌の専属ライターへと転身することに。さらには父親も映画評論のブログを担当することになって……。
- 著者
- ["原田 マハ"]
- 出版日
2008年に刊行された原田マハの作品。松竹映画100周年記念作品として、山田洋次監督がメガホンをとり、2020年12月に公開されます。
小さなきっかけから始まった歩のライター生活と、父親のブログ。やがてブログは英語に翻訳されて各国で読まれるようになります。「映画の神様」がくれた奇跡は、さらに経営する傾きかけた映画館「テアトル銀幕」や、雑誌「映友」の命運までをも巻き込んでいくのです。
注目してほしいのは、ブログの内容。豊富な知識と切れ味鋭い文章で完成度が高く、紹介されている映画をつい観に行きたくなってしまいます。家族愛や映画愛、仕事愛などさまざまな愛に満ちた一冊です。
作者の原田マハの作品を他にも読みたい方にはこちらの記事もおすすめです。
初めての原田マハ!初心者向けおすすめ文庫作品ランキングベスト9!
人気沸騰中の原田マハは、小説家としてはもちろん、美術など多方面にわたって活躍しています。今回は、原田作品を読んだことがない人に、まずおすすめしたい文庫本をまとめました。
36歳の曽根俊也。父親の遺品を整理していると、カセットテープと黒革のノートを発見します。テープを再生すると流れてきたのは、31年前に起こりいまだ解決していない「ギンガ萬堂事件」で恐喝に使われた音声。そしてその声は、まさしく幼少期の自分の声だったのです。
一方、新聞社で文化部の記者をしている阿久津英士は、「ギンガ萬堂事件」の企画記事に応援要員として駆り出され、取材をすることに。
独自に事件を追う2人は、やがて交わり、新たな真相が浮かびあがります。
- 著者
- 塩田 武士
- 出版日
- 2019-05-15
2016年に刊行された塩田武士の作品。「山田風太郎賞」を受賞し、「週刊文春ミステリーベスト10」では1位を獲得。映画化され、2020年に公開予定です。
本作がモチーフにしているのは、1984年に起こった「グリコ・森永事件」。食品会社をターゲットに脅迫や放火がおこなわれ、未解決のまま時効を迎えています。
事件の発生日時や脅迫状の内容、さらには当時の報道の内容までほぼ史実通りに再現されているのが特徴。そこにフィクションとして犯人や事件の真相を加え、小説に仕立てあげた作者の力に脱帽です。
真実を明らかにすることに怖れを抱く曽根と、記者として真実を明らかにすることに執念を燃やす阿久津の心理描写も巧みで、どんどん読み進めてしまうでしょう。