刑事・犬養隼人と、患者に安楽死をもたらす謎の医師ドクター・デスの攻防を描いたサスペンス小説。犯人の正体を追いかけるミステリーとしての展開を楽しむだけでなく、単純な正義と悪では裁けない「安楽死」の問題について、読者も深く考えさせられる作品です。 この記事では、映画化が決まった原作小説の見所を結末までご紹介します。あなたはこの作品を読んでどのような感想を抱くでしょうか。
「お父さんが悪いお医者さんに殺された」という少年の通報から物語は始まります。
捜査にあたるのは主人公の刑事・犬養と相棒の高千穂。事件を捜査していくと、患者に安楽死をもたらすドクター・デスの存在が浮かび上がり……。
本作は実写映画化が決定しており、公開日は未定ですが、2020年11月に公開予定です。
謎の人物ドクター・デスの正体を追うミステリー作品ですが、犯人の手がかりがなかなか掴めず、続きが気になる展開から目が離せません。
同時に、「安楽死」という医療現場が抱える問題とも向き合っており、そのぜひについて読者も考えさせられる作品です。
そのテーマを扱っているということで、登場人物たちは複雑な感情を抱えています。刑事である主人公が犯人に迫りながらも密かに抱える葛藤、そして身内の死が差し迫った人々が抱える複雑な感情など、映画では生身の役者の演技を通して、よりリアルに感じられそうです。
また、特徴がなさすぎて似顔絵が作れないと言われるドクター・デスの姿が、映像ではどのように表現されるのかも気になります。後ろ姿や手元だけなど、表情が見えない角度で姿を現すのか?それとも、正体が明らかになるまで、役者は一切登場しないのか?
原作を最後まで読んだ上でも、どのような形で画面に登場するのかは予想ができません。「ドクター・デス」という存在が映画ではどのように描かれるのかは、映画鑑賞の際の注目ポイントとなるでしょう。
こちらではまず作品の見所の前に登場人物、映画のキャストのご紹介をします。
主人公は刑事・犬養隼人。映画では綾野剛が演じます。 かつて俳優を目指していた経験から、目の動きや表情から相手の嘘を見抜くことが得意です。 鋭い観察眼と推理力のみならず、時には犯人に直接メールを送るなど、大胆な行動力でドクター・デスの正体に迫っていきます。
切れ者同士の犬養とドクター・デス、2人の攻防は緊迫感があり、どんどん次の展開が気になっていくでしょう。
しかし、犬養は嘘を見抜いて人を追い詰めることが得意な一方で、子どもや女性にはどう接したらよいか分からず、怖がらせてしまうことも。そんな犬養の弱点をサポートしているのが、部下である高千穂明日香です。
不安な子どもを落ち着かせて証言を聞き出すなど、犬養には難しい部分を彼女が担っています。頼れる部下であるとともに、女性的な優しさを感じさせるキャラクターです。
映画で演じるのは北川景子で、凛々しさと優しさを併せ持つ女性としてピッタリのキャスティングでしょう。
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本作は、「刑事犬養隼人」シリーズの第4作目となる作品です。
第1作『切り裂きジャックの告白』は、被害者の遺体から臓器が持ち去られるという猟奇的な殺人事件と、「切り裂きジャック」を思い起こさせる犯行声明文というセンセーショナルな展開に引き込まれます。
第2作『七色の毒』は、短編集の形式となる一冊で、「赤い水」、「黒いハト」など各話のタイトルに色の名前が使われているのが特徴です。どの話も思わぬどんでん返しの展開に驚かされます。
第3作『ハーメルンの誘拐魔』では、少女の連続誘拐事件が起こります。事件には実際に起きている薬害が関わっており、犯人の真意には問題提起の意図を感じられるでしょう。
本シリーズは、臓器移植・薬害・いじめなど、医療や社会が抱える問題が事件の背景に関わっているのが特徴です。
しかし、それぞれの事件に直接的な繋がりはなく、人物の設定など必要な情報はその都度説明されるので、途中の巻から読み始めても問題なくストーリーを楽しむことができます。
それでは、このあとはいよいよ映画化の『ドクター・デスの遺産』の見所について解説していきましょう。
- 著者
- 中山 七里
- 出版日
- 2017-05-31
捜査の過程で、犬養が大胆な行動にでて読者を驚かせるのが本作の見所の一つ。
犬養には病気の娘がいるのですが、なんとその娘をオトリにし、安楽死を依頼するフリをしてドクター・デスと直接連絡を取ろうとするのです。
「娘を安楽死させてやりたい」という父親を装い、訪れる犯人を待ち伏せ……という作戦。しかし、約束の日時にドクター・デスは現れませんでした。作戦は見破られており、相手の方が一枚上手だったのです。
オトリ作戦を通じて、相手には既に娘の病状や入院施設も知られている状況です。 これ以上犬養が接近しようとすれば、牽制や報復のために、再び娘に危険が及ぶかも知れません。
それでも犬養は諦めません。その後もドクター・デスと挑発的なメールのやり取りをして、少しでも手掛かりを掴もうとします。文面は丁寧な言葉遣いですが、カマをかけつつドクター・デスのプライドを逆撫でするような内容でハラハラさせられます。
しかし、一連の捜査にも関わらず、なかなかその正体には辿り着けないのでした。犬養と犯人のやりとりがどう展開していくのか、どんどん続きが気になることでしょう。
本作が取り上げている「安楽死」の問題は、読者にとっても決して縁遠いものではありません。
ドクター・デスに安楽死を依頼した人たちが抱えていた問題は、読者にとっても他人事ではなく、同情や共感できるものばかりです。
介護の負担に苦しむ家族、望みのない治療にかかる高額な医療費、そして患者本人が抱える苦しみ……本作で起こっているのは「どこか遠くの殺人事件」ではなく、誰もが直面し得る問題なのです。
人間は誰でも皆、いつ大きな病気や怪我に見舞われるか分かりません。だからこそ、登場人物たちの葛藤にはリアリティがあり、「いつか自分や家族も同じ状況になるかも知れない」と考えさせられるのではないでしょうか。
自分の身近で起こるかもしれないという怖さが、本作の緊張感をより強いものにしています。
犬養はついにドクター・デスの正体にたどり着き、犯人を追い詰めます。しかし、いよいよ逮捕かという時に、思いがけない事故が起こるのです。
最終章では、なぜドクター・デスが安楽死を積極的におこなうようになったのか、そのきっかけとなる過去のエピソードも明らかになります。
そこには、綺麗事だけでは乗り越えられない医療の現実と向き合った経験がありました。
大切な人を失う辛さと、その人を少しでも楽にしてあげたいという思いを感じる真実。どちらも共感できる感情であるだけに、葛藤に苦しむ姿は読んでいて胸が痛みます。その果てに安楽死を肯定する結論に至ったのも、仕方のないことだったのかもしれません。
また、犬養もある決断を迫られることになります。
彼らを通じて読者も、まるで自分自身が安楽死の現場に当事者として立ち会っているような緊張を感じられるでしょう。そして、安楽死の是非について考えさせられることになるのです。
安楽死を望む人たちの心にある、「苦しみから解放されたい」という切実な願い。一方で、安楽死の処置が現在の日本では「殺人」として扱われるという事実……。自分自身にも起こりうる問題として本作をきっかけに考えてみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 中山 七里
- 出版日
- 2017-05-31
自分や大切な人に死期が迫ったとき、人はどう決断したらよいのか?事件のようには解決しない問題が心に刺さる作品です。