孤島、館、山荘、実験施設に船……外界から隔絶された逃げ場のない閉鎖空間「クローズドサークル」で起きる事件や謎を題材にしたミステリー小説は、緊迫感が増して面白さも格別。今回は代表的なおすすめの6冊を紹介していきます。
年齢も職業も異なる8人の男女が、イギリス・デヴォン州の兵隊島に招待されました。しかし招待状の差出人であるオーエン夫妻は姿を現さず、2人の召使いを含む10人が島に閉じ込められてしまいます。
そして迎えた夕食の席。蓄音機から、10人がこれまでに起こした罪を告発する謎の声が響きわたります。直後、ひとりの青年が毒物によって死亡。翌日の朝には、召使いがひとり亡くなっていて……。
- 著者
- アガサ・クリスティー
- 出版日
- 2010-11-10
1939年にイギリスで刊行された、アガサ・クリスティの代表作。日本でも同年に、「死人島」というタイトルで雑誌に掲載され、1955年に『そして誰もいなくなった』のタイトルで刊行されました。物語の舞台は、迎えの船が来なくなってしまった絶海の孤島というクローズドサークルです。
10人中2人が死んだ後、残された人々は、10個あったインディアン人形が8個に減っていることに気づきます。2人の殺され方は、童謡「十人の小さな兵隊さん」の詩になぞらえた、見立て殺人でした。
犯人は生き残った者のなかにいる……クローズドサークルならではの、極限状態で疑心暗鬼に陥った人々の言動が見どころでしょう。
数々のトリックが披露されますが、犯人は最後までわかりません。時代を経ても色褪せることのない、本格ミステリーの傑作だといえるでしょう。
京都にある英都大学推理小説研究会のメンバー4人は、夏合宿と称して、矢吹山という場所でキャンプをすることにしました。
ところが3日目の朝、キャンプ場で仲良くなった他大学グループのうちのひとりが、行方不明になってしまいます。さらに、矢吹山が突然の噴火。
楽しいイベントが一転、陸の孤島と化したキャンプ場に閉じ込められてしまうのです。
- 著者
- 有栖川 有栖
- 出版日
1989年に刊行された、有栖川有栖のデビュー作。推理小説研究会の部長・江神二郎を探偵役、研究会のメンバーで推理作家を目指す有栖川有栖を補佐役とした「学生アリス」シリーズの1作目です。
本作のクローズドサークルは、噴火によって山崩れが起き、道が閉ざされてしまった矢吹山。救助がいつ来るかもわからない状態です。
そんななか、大学生の2人がそれぞれ遺体で発見されます。地面には、アルファベットで「Y」という1文字が残されていました。登場人物は、英都大学推理小説研究会の4人に加え、雄林大学のグループ10人と、神南学院短期大学のグループ3人。このなかに犯人がいるのでしょうか。
探偵役の江神が、純粋な推理のみで犯人を突き止めていくのが魅力的。タイトルの「月光ゲーム」の意味とあわせて楽しめる作品です。
ビデオを制作する会社を経営している高之。数ヶ月前に交通事故で亡くなった婚約者、朋美の父親に招待され、山荘に向かいました。朋美を悼むため、関係者が集まるといいます。
山荘に到着した高之は、7人の男女と合流。ところがその夜、逃亡中の強盗2人が山荘に押し入ってきて、拘束されてしまうのです。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1995-03-07
1990年に刊行された東野圭吾の作品。今回のクローズドサークルは、ミステリー小説の醍醐味でもある人里離れた山荘です。
高之たちは何とか脱出を試みるものの、何者かに妨害されてできません。さらにそんな状況で、メンバーのひとりが殺される事件が発生。強盗の仕業ではないことがわかり、犯人は高之たちのなかにいると明らかになるのです。
登場人物たちもお互いに疑いあいますが、読者も犯人を最後まで見抜くことは難しいでしょう。ラストに待ち受けるどんでん返しは、さすが東野圭吾といったところ。テンポもよく、一気読みできる一冊です。
本作のクローズドサークルは、奇妙なデザインの「十角館」がある角島という無人島。島唯一の建物である十角館では、半年前に館を設計した中村青司が殺される事件が起きていました。
その事件では中村のほかに3人が亡くなっていますが、いまだに未解決のまま。
そこで、大学のミステリー小説研究会に所属するメンバー7人は、事件の謎を解こうと角島へ向かうのです。
- 著者
- 綾辻 行人
- 出版日
- 2007-10-16
1987年に刊行された、綾辻行人のデビュー作。2019年には漫画化され、あらためて原作にも注目が集まりました。
角島に着き、十角館に宿泊した大学生たち。エラリイ、アガサ、ポウなど古典ミステリー作家の名をもじったあだ名で呼び合っていました。そんな彼らが、何者かの手により連続殺人に巻き込まれ、ひとり、またひとりと殺されていきます。
そのころ、本土では研究会の元メンバーである江南が、不可解な手紙を受け取っていました。中村青司の弟を訪ね、彼もまた、独自に事件に迫っていくのです。
過去と現在、2つの事件を並行して追っていき、ようやく核心に触れたところで衝撃の叙述トリックが。クローズドサークルの概念を覆す作者のテクニックにも脱帽の、本格ミステリー好きにはたまらない一冊です。
車を買うお金を貯めようと、アルバイト先を探していた大学生の結城。時給11万2000円という破格の仕事を見つけ、喜び勇んで応募します。
仕事の内容は、「1週間、ある人文科学的実験の被験者になる」という怪しいもの。しかし彼と同じく好条件につられた11人の男女が、山深い場所にある施設に集まりました。
- 著者
- 米澤 穂信
- 出版日
- 2010-06-10
2007年に刊行された米澤穂信作品。複数の文学賞やランキングにノミネートされ、ベストセラーになりました。2010年には映画化もされています。
クローズドサークルの舞台は、「暗鬼館」という地下にある実験用の施設。そこでおこなわれる実験は、一定のルールにもとづいて、参加者同士で殺し合いをするというものでした。人を殺せば報酬が増え、犯人だとバレると報酬が減るというもの。ただ何も行動を起こさなくても時給は貰えるため、参加者たちは1週間耐えればよかったのですが……。
欲と恐怖が渦巻くなかで、次々と死人が発見されます。金に目がくらんだ人の言動や、クローズドサークルの状況で精神崩壊を起こす人の描写は壮絶。読者の恐怖心を煽るデスゲームものですが、散りばめられた伏線とその回収の仕方は鮮やかで、読後はスッキリとできる一冊です。
特殊小型飛行船「ジェリーフィッシュ」は、飛行船を発明したファイファー教授と、技術開発メンバーの6人を乗せて、3日間の航空試験に臨んでいました。
ところが飛行船というクローズドサークルのなかで、 メンバーのひとりが死体となって発見されます。
さらにシステムがエラーを起こし、雪山に不時着。そこで新たな事件が起こり……。
- 著者
- 市川 憂人
- 出版日
- 2019-06-28
2016年に刊行された、市川憂人のデビュー作。市川は中学時代から新本格ミステリーに傾倒し、東京大学に在学中は文芸サークルに所属して執筆活動をしていたそうです。本作で「鮎川哲也賞」を受賞しています。
雪山に不時着した後も、次々とメンバーが死んでいき、ついには全員が殺されるという不可解なことに。凄惨な事件の様子と、2人の刑事の捜査が交互に描かれながら物語が進んでいきます。
『そして誰もいなくなった』を連想させる状況と、『十角館の殺人』をモチーフにしたという衝撃の一行。ミステリー小説好きにこそおすすめの一冊です。
閉じ込められた恐怖と、自分たちのなかに犯人がいるという恐怖を味わえるのがクローズドサークルの醍醐味。作家たちが工夫を凝らしたトリックや謎解きに挑戦してみたい人におすすめです。