『告白』以外の湊かなえおすすめ5作品!イヤミスが苦手な人向けの本も

更新:2021.11.15

人間の内面に潜む闇を掘り下げて描く、イヤミスの女王として注目を浴びる作家・湊かなえ。今までに、数々の作品が映像化されてきました。ここでは、『告白』だけにとどまらない、湊かなえの魅力がぎゅっと詰まった、魅力的な作品をご紹介していきます。

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人間の危うさを巧みに描く作家・湊かなえ

湊かなえは1973年、広島県因島市に生まれました。小・中学校と図書室で多くの時間を過ごし、江戸川乱歩や赤川次郎を愛読していたそうです。大学を卒業後、一旦は就職しましたが、1年半後に青年海外協力隊員としてトンガに派遣され、栄養指導に携わります。帰国後、高校の家庭科講師を勤めたのち結婚。湊かなえが執筆活動を始めたのは、第一子を出産した後のことでした。

2007年小説推理新人賞を受賞したデビュー作・『聖職者』を第1章として、新たに加筆された作品である『告白』が2009年本屋大賞を受賞。映画化もされ、大ベストセラーとなりました。その後も数々の傑作を発表し続け、2016年には『ユートピア』で山本周五郎賞も受賞した、注目の女性作家です。

学生時代に戻ったよう。見えないカーストの息苦しさを描く作品『リバース』

目立つことの無いごく平凡な主人公が、唯一抱える後ろ暗い過去の秘密。『リバース』は、そんな消したい過去を思い起こすことになり葛藤する、男の姿を描いたミステリー長編小説です。

著者
湊 かなえ
出版日
2015-05-20

主人公・深瀬和久は特に取り柄があるわけでもない、普通のサラリーマンです。目立たず地味に過ごす毎日の中で、楽しみといえば美味しいコーヒーを飲むこと。「クローバー・コーヒー」というコーヒー豆専門店に、毎日のように通っている深瀬は、そこで見知らぬ女性・美穂子と出会います。やがて付き合うようになり、幸せな気分に浸る2人でしたが、ある日その状況が一変することに。美穂子のもとに、「深瀬和久は人殺しだ」と書かれた手紙が届くのです。

全てを聞かされた美穂子は深瀬のもとを去っていってしまいます。いったい手紙を送りつけてきたのは誰なのか?深瀬は真相を究明するため、心の奥にしまい込んでいた、大学時代の「あの件」について、記憶を巡らせることになります。

大学時代の友人たちに劣等感を抱き、自分に自信の持てない主人公の心理描写には、なんとも言えない痛々しさを感じます。思い起こせば学生の頃、友達同士の間には、暗黙の上下関係が存在してはいなかったでしょうか。この作品には、そんな学生特有の人間関係が、とてもリアルに描かれています。誰もが感じたことのある痛みが描かれているのです。

物語の終盤、主人公は強烈な事実に直面し、読者とともに見ていた世界全てをひっくり返されることになります。リアルすぎる人間関係や、主人公の持つ暗い感情。そして前を向き歩いていこうと決めた途端突きつけられる、驚きの真実。これぞ「イヤミス」の女王・湊かなえの作品!としみじみ思ってしまう、粋な毒が効いている作品と言えるのではないでしょうか。

歪んだ母娘関係を描く湊かなえの傑作!『母性』

すれ違い続ける、悲しい母娘関係を描いたミステリー長編小説『母性』は、著者の湊かなえが、この作品を書き上げることができたら、作家を辞めてもいいと思うほどに没頭して完成までこぎつけた渾身の一作。女の持つ母性とはいったいなんなのかと、深く考えさせられる作品になっています。

著者
湊 かなえ
出版日
2015-06-26

ある日、女子高生が自宅の中庭で倒れているのが発見されます。4階にある自宅から転落したらしく、警察は事故と自殺の両面から見て捜査をおこなっています。マスコミの取材に対し、「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて……」と答える母親。娘が亡くなってしまったのは事故なのか自殺なのか。物語は、母親と娘の両方の視点から、これまでの日々を綴ります。はたして二人の間の絆とは、母性とはどんなものだったのか……。

母親であるルミ子は、娘が生まれても大人になりきれず、自分の母親に愛されることばかり考えています。娘はそんな母親・ルミ子の愛情を求め、必死に理想の子供を演じます。その歪んだ母娘関係には、だれもが愛を求め続けて満たされることを知らない飢えが漂っています。親子だからといって、なんでも気持ちが理解できるとは限らない、という悲しいすれ違いを痛感し、もどかしさが募ります。

二転三転するストーリー展開には引きつけられ、母性というものが、女なら誰でも持って生まれるものではないのかもしれない、と考えさせらます。ミステリーというストーリの切り口で母性について描いた傑作です。

島と人々の心の物語。苦しさの中に希望が見える短編集『望郷』

ある島を舞台に描かれる作品『望郷』は、多くの人から絶賛され、日本推理作家協会賞・短編部門を受賞した『海の星』を含む、6つの物語が収録された連作短編集です。2016年、広末涼子、伊藤淳史、濱田丘主演で、テレビドラマ化もされたことでも話題になりました。

著者
湊 かなえ
出版日
2016-01-04

人口2万人の小さな島・白綱島。この閉鎖された空間である島を舞台に、それぞれの物語が綴られていきます。『海の星』の主人公・洋平は白綱島の出身。今はもう島を離れ、都会で家庭を持ち暮らしています。ある日届いた、島の同級生からの手紙をきっかけに、父が失踪した当時の島での記憶を思い起こします。

その他、25年前男と駆け落ちし、島から逃げた姉が、人気作家になって戻ってくる『みかんの花』。子供の頃から島で夢見ていた「東京ドリームランド」へ、ついに訪れた主人公の、複雑な心情を描く『夢の国』など、どの作品も、島で起こった様々な「事件」について描かれています。

それぞれの登場人物が抱える思いは、切なく悲しく心に残ります。湊自身も、因島で生まれ育ったとあって、その美しい風景描写や、閉鎖的で古い風習が残る島の様子、そしてそこに住む人々の考え方など、どれを取ってもリアルで、読み応えがあります。生まれ育った場所への愛を感じることもでき、自分の故郷を思い出す方もいるのではないでしょうか。

どの物語でも、人の心をあるがままに描き、人間の残酷さに戦慄する一方、人間とはこんなにも優しくなれるのか、という希望も感じることができます。息苦しくなるようなストーリー展開の中、ラストはどこか温かい気持ちになれることでしょう。残酷なだけではない、湊かなえの巧みな人間描写が光る、おすすめの作品です。

北海道の風を感じる。イヤミス嫌いな人にもおすすめの作品『物語のおわり』

結末の書かれていない未完の小説が、人から人へと渡り、様々な人に読まれていく『物語のおわり』。北海道を舞台に、それぞれ事情を抱えた旅行者の間を、1つの小説が巡っていく、8編のストーリーが収録された連作短編集です。その中の1作目である「空の彼方へ」についてご紹介します。

著者
湊 かなえ
出版日
2014-10-07

山間にある小さな町のパン屋さん「ベーカリー・ラベンダー」。そこの1人娘である絵美は、毎日のように山と青い空を眺めながら、山の向こうにある世界を空想していました。小説家になりたい、と漠然と夢見ていた絵美でしたが、時は過ぎ、店の常連客・ハムさんと結婚しパン屋を継ぐことを決めます。そんな絵美に、小説家になるチャンスが、思わぬ形で舞い込んできたのですが……。

この物語を皮切りに、誰が書いたのかわからない、未完の小説が様々な人のもとへと渡っていきます。結末のない小説を読んだ主人公たちは、皆思い思いの結末を作り出していくのです。

様々な事情や悩みを抱え、北海道を訪れた旅人たち。主人公が置かれている環境によって、同じ小説を読んでいても、全く違う捉え方なのが興味深く、人の感じ方や考え方は、本当に人それぞれあるものだと感じます。人生に悩み、傷ついた主人子たちが、1つの小説を通して前を向く力を取り戻す姿がとても感動的です。

北海道の雄大な自然を、巧みな風景描写で表現しているこの作品は、イヤミス作品を多く描く湊かなえには珍しい、読後感の非常に良い物語です。重苦しい物語ではなく、爽やかで優しい物語が読みたい、というときに、手に取ってみてはいかがでしょうか。人間描写が巧みな湊かなえの実力が爽やかな物語となって結実した作品です。

3人の女性をつなぐ鎖とは?巧みな構成を楽しめる作品『花の鎖』

3人の女性を主人公に、それぞれの物語が徐々に絡みあっていく物語『花の鎖』。2013年、中谷美紀、松下奈緒、戸田恵梨香主演で、テレビドラマ化されたことでも話題になりました。凝ったストーリー構成で、読者を物語の世界に引き込む傑作です。

著者
湊 かなえ
出版日

1人目の主人公・梨花は27歳。英会話スクールで講師を務めていましたが、会社が倒産してしまい職を失います。両親を3年前に事故で亡くし、祖母の手術費用を工面しなければいけない梨花は、母の生前、高価な花束を毎年贈ってきていた謎の人物Kを頼ろと考えます。

2人目の主人公は、叔父と同じ会社に勤める和哉と結婚し、幸せな新婚生活を送っている美雪。イラストレーターであり、絵画講師をしながら和菓子屋でアルバイトをしている3人目の主人公・沙月。この3人の女性の視点から、それぞれの物語が綴られていきます。3つの物語には、共通してKという謎の人物が現れます。

なんの繋がりもないように思える3人の女性の人生が、まるで鎖で繋がれているかのように絡みあっていき、その絶妙なストーリー構成には驚かされるでしょう。登場人物たちの心の中には、悪意が見え隠れし、人間関係がどんどん複雑になっていくので、謎は見えそうでなかなかその正体がつかめない、もどかしくストーリーの構成の巧みさを感じられます。物語の中には、様々な仕掛けが施されており、そのヒントを探すのもまた楽しいものとなっています。

すべての伏線が回収され、物語の全容が明らかになったとき、そこには想像以上に美しい人間ドラマが浮かび上がってきます。決して長くはないページ数の中に、湊かなえの巧みな技により、3人の女性の人生が濃密に描かれた、繰り返し読みたくなるミステリー作品です。


湊かなえのおすすめ作品を5つご紹介しました。告白のイメージが強い作家ですが、他にも優れた作品がたくさんあります。どの作品も読み応え十分なので、興味のある方はぜひ読んでみていただきたいと思います。

他にも湊かなえの作品を知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。

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