近年じわじわと人気が上がってきている職業である手話通訳士。一昔前よりも、通訳をしている映像をテレビなどで目にする機会も増えてきています。手話は思いを伝える手段だというイメージが強いかもしれませんが、実は手話は言語として位置づけられているんです。また通訳現場では幅広い知識や、個人的な情報を扱う際の倫理観なども要求されることが多く、正確で必要な技術力が必須です。 今回は手話通訳士の働き方や活躍できる場所、資格の取り方や収入面などを詳しく解説します。手話通訳士を目指す方やそもそも手話って何?という方に読んでいただきたい書籍も紹介していますので、あわせて参考にしてみてください。
手話通訳士という仕事は明確な定義はないものの、手話という言語を用いて人と人とのコミュニケーションを保障し、人と人とのつながりを支援していく仕事のことをさします。聴覚に障害のある方が聞こえないことにより不利益を生じないよう通訳することを目的とします。
手話通訳士は2019年時点で3695名が登録されており、女性が88.2%、男性が11.8%で女性の割合が圧倒的に多い仕事となります。
また手話通訳士の平均年齢は55.3歳となっており、いくつになっても働き続けられる資格であるといえるでしょう。
手話通訳士は働ける場所は複数あります。
行政施設の場合には、区役所や市役所などの公的機関があります。
福祉施設であれば聴覚障害者関連施設、特別養護老人ホーム、社会福祉協議会、介護老人保健施設で働くことができます。
一般企業の場合には、福祉機器関連会社、医療系企業、観光業や接客業で働くことができます。また、テレビ局なども番組の通訳として活躍することができたり政見放送や裁判などで手話通訳をすることもできます。
実は正確な手話通訳ができるのは30分と言われているため、ほとんどの仕事場において複数人の手話通訳士が必要となります。日本手話を言語として認め、ろう者とろう者以外の者が共生できる社会を目指すことを主旨にした「手話言語条例」を制定した自治体の数は、2018年からの1年間で倍増しています。そのため、手話通訳者が強く求められており、需要が高まってきていることがうかがえます。
実は、手話通訳士の資格取得者の59.4%(2010年3月)が資格とは関係のない職業に就いています。なぜなのか、下記の理由があげられています。
そのため手話通訳士として仕事をする一方で、副業をしている人も少なくはないのが現状です。ただ、テレビ電話や通話アプリを利用したコミュニケーションの増加など、従来とはまた違った新しい活躍場所もでき始めています。
従来は募集も少なく、給与面に関しても待遇がよいとはいえませんでしたが、こうした社会背景や今後の将来性を考えると取得したい資格のひとつと言っても過言ではなさそうです。
手話通訳士はどのくらい収入を得ることができるのでしょうか。社会福祉法人聴力障害者情報文化センターが調査した「手話通訳士実態調査事業報告書(2010年)」によると、全体の平均給与額は16万6783円となっています。全体の約67%が20万円以下の収入しか得られていません。
そもそも手話通訳士で生計をたてられている人は日本で数十人程度とされており、ほとんどの人が時給1000円前後のアルバイトで手話通訳をしています。また、企業においてはもともと別の資格などで従事している職員に手話通訳士の資格を取ってもらい、兼務として働いている職員もいます。
また、手話通訳士はボランティアでも活躍できるため職業としてではなくボランティアとして手話通訳士の資格を活用されている方もいることが現状です。
生計を立てるまでに至らないもうひとつの理由として、手話通訳士は国家資格ではないことも関係しています。
また、近年手話の番組も増えてきており、手話を学ぶ機会が以前よりたくさんあります。これにともない、独学で手話という言語を取得したという人が増えており、あえて有資格者を雇わなくても成り立っている施設が多いのも現状です。
実際に、手話通訳者として雇用されている方のうち、手話通訳士の資格を取得されている方は537%といわれており、約半数が無資格のまま手話通訳をしているということも分かっています。
社会的に重要な役割と担い、今後の需要が増していくなかで、収入の問題がどう改善されていくのか注目すべきポイントですね。
手話通訳士の資格は厚生労働省が定める手話通訳技能認定試験を受けて合格することが必要となります。受験資格は20歳以上の人となっています。
試験は毎年9月下旬におこなわれます。手話通訳士のための試験は会場は東京・大阪・熊本の3都道府県しかないため、試験会場となる都道府県へ出向くことが必要となります。
試験内容は学科試験と実技試験にわかれています。障害者福祉の基礎知識、聴覚障害者に関する基礎知識、手話通訳のあり方、国語に加えて、聞き取りと読み取りの手話通訳の実技テストもあります。
(1)学科試験
(ア)障害者福祉の基礎知識
(イ)聴覚障害者に関する基礎知識
(ウ)手話通訳のあり方
(エ)国語
(2)実技試験
(ア)聞取り通訳〔音声による出題を手話で解答〕
(イ)読取り通訳〔手話による出題を音声で解答〕
学習は独学だけでは難しいと言われているため、受験者の多くは専門学校や講習に参加したり、ボランティアに足を運んで実践的な経験を積んでから試験にのぞんでいます。
そうした一面から手話通訳士試験の合格率は10%台と低い傾向にあります。また、20代、30代よりも40代や50代の方が受験者が多く、年齢に関わらず受けられる試験といえそうです。
手話通訳士の仕事は、無資格でもすることができます。では、有資格者と無資格者の違いとは何なのでしょうか。
手話通訳の現場では、会話の中で個人情報やプライバシーに関することを知ることになることもあります。そのため、ただ手話ができて的確に言語を伝えられればよいというわけでもなく、手話通訳をおこなう方には高い倫理観とともに公正な態度、忠実に通訳すること、幅広い知識および高い通訳技術が求められます。
これができているかどうかを見るのが手話通訳士の資格であり、無資格な手話通訳者と比べて、より専門性の高い通訳ができるといえます。ですので、手話通訳そのものは無資格でもできる仕事ですが、有資格者の信頼は厚いです。
公共の施設や公共の場で手話通訳をしたい、手話通訳で生計を立てたい方にはぜひ取得しておいてほしい資格です。
それでは手話通訳士の資格取得を検討している方に読んでいただきたい書籍をご紹介します。
結論からいえば可能です。しかしその場合は数年単位の年月が必要となることは覚えておきましょう。なかには5年ほど独学で勉強してやっと手話通訳士の資格を取得した方もいるくらいです。
手話通訳の仕事は、通常の手話とは違い、生の声を聞きそれを手話でろう者に分かるよう伝えます。実際に資格試験でも、音声を聞いて手話で解答する試験や、逆に手話を音声で解答する試験などもあり、自分では伝わっているはずと思っても実際には伝えられていないことも多々あるのです。
そのため多くの方は専門学校に通ったり、特別講習を受けて試験に合格しているのが実情です。
前述した通り、現状では手話通訳士の仕事のみで就労することは難しく、生活することは厳しいです。そのため多くの人は手話通訳士以外の資格も取得しています。実際にどんな資格が取得されているのかをご紹介します。
ホームヘルパー(訪問介護員)は、介護が必要な方の自宅を訪問し、日常生活の手伝いをする仕事です。サービス内容は介護の状況によって異なりますが、主に食事や洗濯などの家事、通院のサポートなどをおこないます。
必ずしも手話が必要というわけではありませんが、聴覚障害の方のホームヘルパーを担当する場合もあり、そんな時に2つの資格を取得していると働きやすいでしょう。
社会福祉主事とは、福祉事務所現業員として働く際に必要とされる資格です。しかし単体では効力を発揮せず、あわせて地方公務員試験に合格することではじめて名乗ることが許されます。
仕事内容としては福祉事務所を訪れる人の相談や、生活保護申請の受付などをおこないます。生活面で不安や問題を抱えている人がその問題を解決できるよう指導したり、情報提供をしたりします。生活保護制度の利用者のなかには聴覚障害を抱える人もいるため、そうした場合にスムーズなコミュニケーションをとる方法として手話通訳士の資格を持っていると有利かもしれません。
保育士として仕事を勤めるなかで手話通訳士の仕事が必要だと感じ、取得する人は少なくありません。聴覚障害をもつ子供が全員、聾学校に通うわけではないのです。通常の園に通いながら別の機関で教育を受ける場合も多く、そうした場合に手話通訳士の資格を持っていれば、子供とも保護者とも信頼を築き、その子にあったサポートができるでしょう。
幼稚園や保育園に通う子供は聴覚障害についての知識を持ちません。そうした時に子供を守る存在としても活躍できるはずです。
その他にも、手話通訳士の資格を持ちながら、多くの人がさまざまな施設や機関で働いています。そのなかには手話通訳士の資格を後から取得した人も少なくはありません。どんな資格と合わせると手話通訳士の資格がもっといきるのか考えてみてくださいね。
- 著者
- ["木村 晴美", "岡 典栄"]
- 出版日
手話という言語について知りたい方や、手話通訳士の仕事とは何かということを知りたいという方にはこちらの1冊がおすすめです。
教育、医療、スポーツや国際会議、手話のニュースキャスターなど、さまざまな分野で活躍する第一線の手話通訳者たちの声を通して、手話通訳の魅力を紹介する内容になっています。
現場の声を知ることで情報の少ない手話通訳士の働き方を知ることができ、具体的な働き方をイメージすることができるでしょう。
資格取得までの流れについても記載されているため、手話通訳士を目指す方、手話を使った仕事に興味のある方には参考になる1冊です。
- 著者
- 丸山 正樹
- 出版日
聴覚障碍者についての理解が深まってきていることを契機に徐々に人気が高まっている本としてあげられるのが『龍の耳を君に』でしょう。発売から年数がたつにつれて売り上げを伸ばしている1冊です。
主人公が再就職のために手話通訳士の資格を取り、法廷通訳を引き受けたことをきっかけに過去の事件に向き合っていくミステリー小説です。
筆者は手話通訳士の仕事だけでなく手話が必要とする方へも丁寧に取材を重ねており、手話という言語や手話通訳士の仕事が読んでいて分かりやすいというところがポイントです。
手話通訳士の仕事を知るために読むというよりも、ストーリーを楽しみながら手話通訳士の活躍を見てほしいです。手話通訳士にも愛読者の多い1冊ですよ。
- 著者
- ["川崎 美羽", "吉田 玲子", "大今 良時"]
- 出版日
2016年に公開された映画が話題になった『聲の形』も手話について知るには欠かせない1冊でしょう。
今回ご紹介するのは映画を小説化したものです。漫画と映画はストーリーが若干異なりますので、漫画を読んだことがあるという方でも楽しむことができると思います。漫画は巻数も多く絵のタッチが非常にきれいで、絵に見惚れてしまうこともありますが、なるべく手短に完結したいという方や、ストーリーのみに集中したいという方にはこの小説版がおすすめです。
この小説には、手話通訳士や手話の通訳をする職業の方は出てきません。ですが、この本を読むことで耳が聞こえないとはどういう状況なのか、コミュニケーションの取りづらさ、社会的な孤立など実際に聴覚障害がある方のが抱えている問題などがきっと分かるでしょう。
主人公が青春を謳歌している学生という点で、学生を経験してきた多くの方が状況を想像しやすいのではないでしょうか。
耳が聞こえずコミュニケーションに不自由を感じている方のために手話通訳士としてどうありたいか、どうすればいいのか、手話通訳士としての在り方が見えてくる1冊です。手話に興味があるという段階でも楽しく読み進められます。
手話は言語のひとつであり、耳の不自由な方にとってはコミュニケーションを取るための大切な手法です。
近年、手話通訳士の需要は増えつつあるものの、仕事としてはやはり少なく手話通訳士の道だけで生活をしていくのが厳しい状況です。ですが、国家試験化の検討もされており、需要が高まっているという観点から、今後は手話通訳士のみで生計を立てられる時もくるかもしれません。
手話によるコミュニケーションの世界を本で学び、興味がわいてきたという方は手話の勉強、手話通訳士の資格取得へチャレンジしていただきたいです。