5分でわかる杜氏(とうじ)!就職先や転職事情は?気になるキャリアや年収も解説!

更新:2021.12.5

日本酒は蔵人と呼ばれる職人が手塩にかけて作っている伝統的なお酒です。日本酒造りの工程は複雑で、蔵人個人の技術はもちろん、酒造全体のチームワークも欠かせません。そんな蔵人たちを束ね、酒造りを取り仕切るのが杜氏という存在です。蔵人の統括、酒造の管理などを担い、日本酒造りを成功に導きます。杜氏になるには長い時間が必要になりますが、最近では20代の杜氏もちらほらといて、日本酒業界の新陳代謝が進んできています。 そこで今回は杜氏について、仕事内容や就職先や転職事情、年収などを詳しくご紹介していきます。杜氏を知るためのおすすめの本もご紹介するので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

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杜氏(とうじ)ってどんな仕事?300年続く杜氏の歴史

杜氏という職業には、あまりなじみがない方も多いでしょう。杜氏になるためには、まずどのような仕事かを知ることが大切です。また、杜氏は江戸時代から続く歴史の長い職業でもあります。杜氏の歴史や主な仕事内容をおさえていきましょう。

江戸時代から300年続く杜氏の歴史

古くから日本酒は作られてきましたが、「杜氏」という名前が登場したのは江戸時代からと言われています。貧しい地方の農民が農業ができない冬に出稼ぎとして各地に出向き、酒づくりをおこなったのが杜氏の始まりです。

通年で日本酒を作ると米不足になることから、冬季に集中して酒をつくるお触れも出されました。すると、冬の間酒の造り手である蔵人が不足する蔵元が増え、蔵元と農民の間で利害が一致し、酒造り職人になる農民が増えていったと言います。

酒師として各地に呼ばれる者も出始め、地域の名前をとって、丹波杜氏、会津杜氏、山内杜氏、南部杜氏など、現在も日本酒業界を引っ張る杜氏集団につながっていきました。地方の杜氏集団ごとに技術を高め、伝統を作り上げています。

日本酒の消費低迷によって、当初よりも杜氏集団は減ったものの、日本酒文化を残すために労働形態や雇用形態を変えながら、今も杜氏や蔵人が日本酒造りを支えています。

酒造りを取り仕切る杜氏の仕事内容

酒造には、さまざまな役割を持った蔵人がいます。雑用係や精米担当、蒸し担当など、日本酒造りの複雑な工程をチームで手分けして、日本酒を完成させます。日本酒造りのチームを束ねるのが杜氏の仕事です。

杜氏の仕事内容

  • 酒造計画
  • 人員配置
  • 設備管理
  • 品質、商品量の管理
  • 発酵状態の測定、分析
  • 事務作業
  • 日本酒イベントへの参加
  • 製品の営業

基本的に当時は現場の作業には手を出しません。作業にはそれぞれ適した人員を配置しているため、直接お酒と触れ合い、育てていく作業は蔵人に任せているのです。長年の経験・知識を蔵人と共有し、議論しながら進めていくことが杜氏の仕事であるともいえます。

酒造り全般を管理するので、複雑な工程をしっかり理解していることはもちろん、作業の進捗管理や的確な人員配置なども担います。

他にも、ひとつの日本酒完成に向けて蔵人をまとめ上げるリーダーシップや人間関係を円滑にするコミュニケーションスキルなど、さまざまなスキルを持ち合わせた、酒造全体をまとめる責任者です。杜氏は基本的に蔵に1人しかいませんが、酒蔵によっては杜氏を置かないところもあるのだといいます。

 

杜氏の年収。月給は20万円前後からスタート

残念ながら杜氏の給料に関する資料は一般公開されていません。またそもそも杜氏に関する求人は少なく、求人サイトを経由するならば蔵人からのスタートが一般的となります。

数少ない求人を確認する限り、蔵人の月給は20万〜22万円あたりが相場となりそうです。蔵によっては未経験10万円からスタートすることもあり、決して給与水準がよいとはいえません。しかし杜氏になると年収は500万〜1000万円と高額になると言われています。

また昨今では20代〜30代の若い人が蔵人や杜氏になるケースも見られ、そうした若い世代による日本酒業界での働き方改革もおこなわれています。蔵人や杜氏は体力仕事が多く、休みは不規則といった昔から引き継いできた仕事スタイルを現代の働き方に近付けている酒蔵もあるようです。

若い世代での日本酒ブームや、蔵人や杜氏の後継者問題などが顕著になってきたため、日本酒業界全体が少しずつ変わり始めているといえるでしょう。

参考:蔵元林本店/リクルート

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杜氏(とうじ)になるには?就職先や新たな雇用スタイル

酒造の責任者である杜氏になるためには、知識や経験、統率力などさまざまな要素が求められます。それらを身に付けるには長い道のりがあり、決して簡単になることはできません。

ただ、長い修行を終えた後には酒造りの中心的な存在になれるので、酒造りに携わりたい方が目標にしたい職業です。杜氏のなり方や求められるスキルをチェックして、杜氏になるまでの道のりをイメージしてみましょう。

杜氏になるには蔵元や酒造メーカーに就職する

杜氏になるためには、資格は必要ありません。農学や食物学、醸造学など大学・短大・専門学校で学び、蔵元や酒造メーカーに就職し、杜氏を目指すことになります。すぐに杜氏になることはできず、蔵元で酒造りに従事し、蔵元や周りの蔵人から認められることで、晴れて杜氏になることができます。

杜氏になるまでの期間は明確に決められていませんが、十分な知識・経験が必要になり、7~10年かかることもあるでしょう。

各地の杜氏集団が形成している杜氏組合に入って学ぶことで、杜氏として認められるという伝統的な道のりもあります。次で詳しくご紹介しますが、杜氏のなり方は多様化しているので、これまでよりも道が開かれているといえるでしょう。

社員杜氏、蔵元杜氏が登場

杜氏の雇用形態は近年変化してきています。これまでは蔵人として経験を積み、周囲に認められて初めて杜氏になるという道のりが一般的でしたが、蔵元の社長が杜氏を務める「蔵元杜氏」、年間雇用の「社員杜氏」などのスタイルが登場しているのです。

蔵元の社長から指名されると杜氏と名乗れる、実務経験があれば杜氏として採用するという蔵元も出てきており、杜氏への道のりが多様化しています。

杜氏に必要な資格はないけれど…

前述した通り、杜氏になるには実務経験や酒造りに関する知識が必要となります。そのため必要な資格はありませんが、蔵人としてある程度の経験を積んだ後に取得できる資格に「酒造技能士」があります。

酒造技能士とは

酒造技能士は、日本酒に関する正確な知識と技能を問う国家資格です。試験は学科と実技にわかれており、実技では酒造の各工程が試験内容となります。

20歳以上、実務経験が2年以上ある人のみ受験が可能です。しかし1級を受けるには7年以上の実務経験、または2級合格後2年以上の実務経験が必要になるため、取得するまでに時間を要する資格であることが分かります。

試験対策に関する教材が少ないため、日本醸造協会のホームページで販売している参考書を購入し、試験にのぞむことがよいでしょう。

参考:日本醸造協会/酒造技能検定過去問解説講座

杜氏への転職を考える。求められるスキルとは

酒造りの専門知識から一般的な社会人スキルまで

杜氏には、まず酒造りに関する総合的な知識・経験が求められます。蔵人として酒造で経験を積むなかで、工程ごとの知識を学び、身体で経験することが大切です。

杜氏は、蔵人を管理する存在なので、酒造全体を俯瞰するスキルも求められます。酒造りの計画や工程の管理、蔵人との人間関係などをトータルで管理するので、蔵人を率いるためのリーダーシップも必要です。

その他にも、酒造りでの機器トラブルに対応できるスキルや事務仕事を効率化できるパソコンスキルなどもあると、重宝される人材になるでしょう。

杜氏の求人は少ない。行動力と熱量が必要

調べてみると分かりますが、基本的には「杜氏」としての求人はありません。先述したように杜氏になるには酒造りに必要な知識や経験が求められるからです。そのためほとんどの方が蔵人からキャリアをスタートします。

その蔵人の求人も、ほとんど数はありません。業界や職種的に長く務める方が多いのがひとつの理由で、もうひとつは大量採用などは一切しないためです。

そのため、蔵人への転職を考えるには行動力と求人を探し出す熱量や粘り強さが必要になるでしょう。蔵元によっては中途採用の年齢制限をしているところもあるので、スピード感も必要となるかもしれません。

まずは全国でどのような蔵元があり、どんなお酒を造っているのかを調べ、求人が出ていなくとも働きたい場所にアプローチをしましょう。その際は酒造りへの熱意をどのように伝えられるかがポイントとなってきます。

杜氏のリアルな実態を知りたいときにおすすめの本

著者
山内 聖子
出版日

ライターであり、利き酒師でもある筆者が蔵元や杜氏の想いに迫った1冊です。5人の蔵元・杜氏に密着することで、杜氏の明るい部分だけでなく、リアルなドラマが書かれています。密着した蔵元・杜氏に共通するのは、厳しい状況に立たされた稼業を継いだという点です。

「蔵を継ぐ」というタイトルにあるように、覚悟を持って酒造りに継ぎ、日本酒ブームを支えた物語を体感することができます。この本で杜氏のリアルな実情・物語に触れることは、杜氏を目指す覚悟を決めるきっかけになるでしょう。

杜氏や酒造りを広く知りたいときにおすすめの本

著者
晶文, 増田
出版日

日本酒に関わる多くの書籍を執筆してきた著者が、日本酒の造り手にフォーカスして書き上げた1冊です。

知る人ぞ知るディープな日本酒にスポットを当て、全国各地の酒造を直接訪ね、造り手本人に酒造りのリアルを書き連ねています。造り手の言葉は深く、蔵元・杜氏の人間的な魅力に惹かれ、杜氏に必要なものは何かに気づかされるでしょう。

著者は、酒造りとともに日本酒文化にも言及しています。日本酒について深く知ることも杜氏には求められるので、お酒に向き合う著者の言葉から文化に触れてみましょう。

杜氏など職人とは何かを学べるおすすめの本

著者
早坂隆
出版日

杜氏は酒造りの職人であり、職人としての働き方や生き方を知ることも大切です。この1冊には、南部杜氏をはじめとして、加賀友禅や甲冑、大島紬など、各地の伝統工芸品をつくる職人の現場のリアルが詰まっています。

職人たちのすごさはもちろん、後継者問題や将来性、市場の状況など現実的な部分に切り込んでいるのが特徴です。写真や技術、工程などよりも職人が置かれている現状が書かれています。

他の職人の働き方・生き方は杜氏にも生きる部分が多くあるので、杜氏としてどのように生きるかを考えるためにぴったりの本です。

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杜氏は、日本酒造りの工程管理や蔵人の統率など、酒造全体を取り仕切る職業です。一般的には、酒造で修行をして経験を積み、限られた人だけが杜氏として認められます。蔵元杜氏や社員杜氏など新しい形態が登場しているものの、長い道のりが待ち受けています。 

しかし、長い修行・勉強を乗り越え、杜氏になることができれば、自分が思うおいしい日本酒造りに携わることができるでしょう。杜氏に求められるスキルやおすすめの本を参考にして、杜氏を目指して歩みを進めてみてくださいね。

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