義肢装具士(ぎしそうぐし)という仕事はなかなか接する機会がありませんが、パラリンピックの特集などでその仕事を知ったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。パラリンピックの注目度は開催されるごとに注目を増しているので、今後もますます注目される職種の1つと予想されます。 実はそうしたスポーツに携わる以外にも、義肢装具士はさまざまなところで活躍ができる仕事となります。仕事の内容や年収など義肢装具士という仕事について詳しくご紹介していきます。 義肢装具士をテーマにした書籍もご紹介しますので興味のある方はぜひ読んでみてください。
義肢装具士とは英語でPO(Prosthetist and Orthotistの略)と表記され、「義肢装具士法」では下記のように定められています。
医師の指示の下に、義肢及び装具の装着部位の採型並びに義肢及び装具の製作及び身体への適合を行うことを業とする者
義肢装具士の仕事は、義肢や装具を作ることです。義肢とは「切断により四肢の一部を欠損した場合に、元の手足の形態または機能を復元するために装着、使用する人工の手足」と定義され、義手や義足のことをいいます。
一方、装具は「四肢・体幹の機能障害の軽減を目的として使用する補助器具」と定義されます。装具は頭部から足部まで使用できるさまざまなものがあります。
装具には、医学的治療の手段として使用される「治療用装具」と、治療が終了した後に機能障害などの症状が残った場合に障害と付き合いながら日常生活が送れるように使用される「更生用装具」があります。
義肢装具士は患者さんの身体の型を取らせてもらい、金属、プラスチック、皮革、繊維材料などさまざまな材料を使って、その方に合った義肢や装具を作成します。作成した義肢や装具は、患者さんに合わせて細かく調整します。
また、装具の採寸から仮合わせなど完成のプロセスまで患者様と密に関わっていき、患者様の生活の質を向上させていくことのできる職業が義肢装具士であるといえます。
海外では義肢と装具を作る方は別々の職種となるのですが、日本では義肢装具士の資格ひとつで義肢も装具も両方とも作ることができます。
義肢装具士の働く場所は、主に民間企業である義肢装具製作事業所です。義肢装具士のほとんどがここに所属し、契約している病院や更生相談所等に出向き業務をおこなうのが一般的です。
事業所と提携している病院・リハビリテーション施設の場合は、その施設に籍を置いて他の職種と一緒に連携して働くということもあります。
他にも、フリーランスで働くこともできます。障害を持つ人のスポーツやレクリエーションのサポート、途上国などの国際支援活動をおこなうなど多彩な働き方ができます。
義肢装具士の年収は2016年に日本義肢装具士協会のおこなった調査によると、300万〜400万円の年収の方が多いという結果となり、1番多い方でも500万円程度とされています。
この収入は、企業に属しながら病院や更生相談所などで義肢装具を作られている方であり、フリーランスはその業務によって収入の変動があると考えてよいでしょう。
義肢装具士は国家資格のため国家試験を受けて合格しなければ資格を取得できません。義肢装具士の国家試験を受けるためには3つのルートがあるります。
しかし現在、養成施設のある大学は、私立4校、養成所は国立1校、私立5校と全校に計10校しかなく、2つ目、3つ目に対応することのできる大学や養成所がありません。そのため、義肢装具士国家試験受験資格のルートは3つあるのですが、現在は1つ目のルートしか選択肢がないのが現状です。
義肢装具士の養成所は1学年平均300名程度となります。そもそもの学校数が少ないため、入学することがまず難関である傾向にあります。
国家試験は年1回、2月下旬におこなわれます。試験科目は6つで、専門的な知識を習得するための勉強が必要になる内容となっています。
令和2年におこなわれた33回の合格率は788%でした。例年80%台から90%前半で推移しています。過去には100%だった年もあり、合格率だけでみればそれほど難しい試験ではないといえるでしょう。また令和2年時点で、試験の合格者は合計5,722名となっています。
ですが義肢装具士の国家試験は東京でしか受けられないという特徴がありますので、地方の方は試験のためにわざわざ東京まで出てこなくてはなりません。
それではここで、義肢装具士を目指す方に読んでいただきたい書籍をご紹介させていただきます。
- 著者
- 臼井 二美男
- 出版日
『転んでも、大丈夫:ぼくが義足を作る理由』は、著者が義足づくりの現場に飛び込んでから、著者の作った義足を履いた選手がパラリンピックに出場するようになるまでの過程を描いた1冊です。
著者は日本におけるスポーツ用義足製作の第一人者で、パラリンピックのアスリートたちにスポーツ用義足を作ってきた方です。生活用の義足はスポーツに不向きですが、日本人はこの生活用義足で今まではスポーツをしてきていました。
義足の方がスポーツをしたがっているという思いを知った著者は、たった1人で日本にスポーツ用義足を広めていきます。
義肢装具士の先輩であり、日本に義肢装具を広めてきた方の著書は、義肢装具士を目指す方ならぜひ読んでいただきたいです。この本は児童書であり小学校高学年向けに書かれているので読書が苦手な方でも読みやすいのではないでしょうか。
義足ランナー: 義肢装具士の奇跡の挑戦
2013年01月25日
こちらは先ほどご紹介した義肢装具士の方が実際に義足のランナーたちに義足を作ていく過程を追っているヒューマンドラマです。
スポーツ用義足で今までできなかったスポーツができるようになるという過程を診ていくことで、義肢装具士がつくった義足を実際に使用している方の思いも感じ取ることができます。この1冊でこの仕事の魅力をさらに実感することができるのではないでしょうか。
こちらの方が先ほどご紹介した本としての難易度は上がりますが、スラスラと読み進められます。先ほどご紹介した本と一緒にぜひ読んでほしいです。
- 著者
- 鬼島 紘一
- 出版日
戦争によって壊滅的になったアフガンという国で、地雷などによって足を失った方へ義足を作り提供してくご老人の物語です。
本書に登場するご老人は義肢装具士という資格があるわけではありません。ですが戦争によって傷ついた足だけでなく、その心も癒そうと全力を尽くす姿に胸を打たれる方は多いのではないでしょうか。
義肢装具士として働くには資格を持っている必要がありますが、資格だけがすべてではない。資格よりも前に、手足を失った人を支えたい、その人の一部となりえるような義肢を作りたいという気持ちが大切だということを感じさせてくれます。
義肢装具士として将来、国際的に活躍したい方におすすめしたい1冊です。
養成校に入学することから狭き門となる義肢装具士。ですが資格を得ることで、さまざまな働き方をすることができます。
足を失った方、身体が不自由となってしまった方に希望を与え、生活の質を向上させることができる素晴らしい職業です。興味のある方は、ぜひチャレンジしてほしいものです。
義肢装具士を題材とした本は多数あります。興味のある方はほかの本も手に取り、義肢装具士という仕事の知見をぜひ深めてみてはいかがでしょうか。