宇宙を舞台に活躍する宇宙飛行士。宇宙空間での研究や宇宙について伝える講演活動など、宇宙に関わるさまざまな仕事に関わることができます。宇宙に惹かれる方であれば、一度は夢見る宇宙飛行士ですが、夢を実現するためには長く険しい道のりがあります。選抜試験や、試験合格後の任命などは年単位でおこなわれるのです。 そこで今回は、宇宙飛行士について、なり方や宇宙飛行士選抜試験の概要、試験後の訓練など詳しく解説していきます。宇宙飛行士についてわかるおすすめの本もご紹介するので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
宇宙飛行士というと、ロケットで宇宙に飛び立ち、無重力空間で過ごしているイメージがないでしょうか。
実際は、宇宙での仕事はもちろん、地上での事務仕事や講演活動などさまざまな仕事があります。宇宙飛行士がどのような仕事をしているのか見ていきましょう。
宇宙飛行士が宇宙でおこなう業務は、ISSと呼ばれる国際宇宙ステーションでおこないます。ISS内には、日本の実験棟「きぼう」があり、宇宙空間での実験や研究をおこなったり、ISSや「きぼう」自体を維持・運用するために修理したりするなどが主な業務です。
宇宙服を着用してISSの外に出て、船外活動をすることもあります。これらの業務をおこないながら、ISSに最長6カ月ほど滞在し、地上に帰還するというのが一連のミッション活動です。
ISSでの搭乗業務だけでなく、地上での業務も宇宙飛行士として欠かせない仕事です。ISSに滞在している宇宙飛行士を遠隔でサポートしたり、実験装置の開発をしたりするなど、宇宙開発を地上から支えます。
宇宙開発に関わるものとして、講演活動やメディア出演などによって、宇宙の素晴らしさや現状を伝えることも大切な役目です。
宇宙飛行士として働くやりがいや魅力は、やはりまだ見ぬ世界に足を踏み入れ、探求できることです。限られた人しか行くことができない宇宙空間で仕事をしたり、地上で宇宙開発に関わったりすることは、人類にとっての大きな進歩につながっていくでしょう。
宇宙飛行士という仕事は、世界的にも600名ほど、日本人宇宙飛行士は2020年時点で11名となっており、誰にでもなれる仕事ではありません。宇宙飛行士になるということは、宇宙にあこがれる人に夢を与える存在になるということでしょう。誇りを持って働くことができる仕事です。
宇宙飛行士の大変さとして、任命されるまでの長く険しい道のりがあります。選抜試験に合格すると、本格的な訓練が始まります。サバイバル訓練や無重力訓練など、過酷な訓練を乗り越えなければいけません。
厳しい訓練をクリアしても、宇宙に飛び立てると決まったわけではないので、任命を待つ間、焦りや諦めなどが生まれることもあるでしょう。任命を待ち続け、モチベーションを維持して努力する信念や精神力が必要です。
一握りの人しかなることができない宇宙飛行士ですが、給与も気になるところです。何となく給与が高いと思いがちですが、実際の給料はどのくらいなのでしょうか。
宇宙飛行士の給料には、JAXAの職員給与規程が適用されます。過去に宇宙飛行士に任命された山崎直子氏や毛利衛氏などの著書のなかで給与に触れられており、年収800~1000万円ほど。
給与は役職によって変わってきます。常勤職員と研究職である宇宙飛行士では差が出てくるでしょう。「国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の役職員の報酬・給与等について」という資料によれば、職種別支給額は以下のようになっています。
こちらは賞与を含んだ金額です。全体的に給与額が高水準であることが分かりますよね。ちなみに年俸制の職員もいますが、常勤職員に比べると平均年収は少し低い500万円前後となっています。
また最終学歴や社会経験などによっても、給与の違いが生まれるようです。JAXAでは、役職員の報酬・給与についての資料や年収試算ツールが公開されています。詳しい給与を知りたい方はぜひチェックしてみてくださいね。
参考:JAXA年収試算
宇宙飛行士になるためには、不定期でおこなわれる選抜試験に合格する必要があります。選抜試験を受けるためには、募集要項が定められているので、学歴や職務経験なども求められます。
宇宙飛行士候補者試験の応募条件で詳しく解説しますが、まず自然科学系の大学を卒業する必要があります。自然科学系には以下の学部が該当します。
大学を卒業後、自然科学系の研究や設計などで3年以上実務経験を積むことが次の条件です。
宇宙飛行士候補者選抜試験を受けるためには、学歴・経験のほかに、知識・技能・泳力・語学力・人間性・医学的特性・心理学的特性なども求められます。
宇宙飛行士候補者選抜試験に合格してすぐ宇宙に飛び立つのではなく、訓練が待ち受けています。訓練を受けて、実際に宇宙飛行士になるためには、10年以上かかることもあり、数々の狭き門を乗り越える必要があるのです。
海外では、民間企業も宇宙開発に乗り出しており、有人宇宙飛行も成功させました。日本でもインターステラテクノロジズ社が北海道・大樹町を拠点に民間ロケットの開発に取り組んでいます。
今後、民間の宇宙開発ビジネスがさらに活発になり、成功を収めていけば、宇宙飛行士になれるチャンスが広がるかもしれません。
宇宙飛行士になるためにまず乗り越えなければならないのが、宇宙飛行士候補者選抜試験です。不定期で実施されており、直近では2008年におこなわれました。
4つの試験を1年をかけておこなう長丁場で、何百人の中から数名だけ選ばれる狭き門です。選抜試験の募集要項や試験内容、難易度などを詳しく見ていきましょう。
宇宙飛行士候補者選抜試験では、募集要項に応募条件が細かく定められています。学歴や経験、能力以外にも、身長・体重といった医学的特性、心理学的特性なども含まれ、試験を受ける段階から多くの条件があるのです。
応募条件は、以下のようになっています。
参考:宇宙航空研究開発機構
宇宙飛行士候補者選抜試験では、書類選抜を含めて、4回の試験がおこなわれます。2008年の試験は、6月・7月に書類選抜がおこなわれ、最終の第三次選抜は翌年の1月・2月に実施されました。第三次選抜まで残ると、半年以上に渡る長い戦いとなります。
試験には、知識を問う教養試験、語学力を問う英語試験、人間性などを測る面接試験のほか、医学的特性・心理学的特性を調べる医学検査・心理適性検査も含まれています。試験の成績はもちろん、精神疾患や健康の以上があれば、次の試験に進むことはできません。
最終の第三次選抜は、長期滞在適性検査として、閉鎖空間で約2週間他の候補者と生活をともにします。滞在中にさまざまな課題が課され、自分自身の成績だけでなく、候補者とのコミュニケーションなど協調性も重要な審査項目です。
書類選抜、第一次選抜、第二次選抜、第三次選抜にひとつずつ合格することで、晴れて宇宙飛行士の候補者になることができます。
参考:平成20年度国際宇宙ステーション搭乗宇宙飛行士候補者募集要項
宇宙飛行士候補者選抜試験で合格したきたのは、これまで試験ごとに1~3名です。第1回は毛利衛氏など3名、第2回は若田光一氏1名だけでした。2008年の試験では、3名の募集に対して963名の応募があったので、倍率は321倍もの高さになり、一握りの人しか通ることができない狭き門となったのです。
選抜試験に合格するためには、知力だけでも、運動能力だけでも十分ではありません。宇宙飛行士としての資質や人間性、幅広い能力をバランス良く持ち合わせた者だけが候補者になることができるのです。
難易度の高い宇宙飛行士候補者選抜試験に合格してすぐに宇宙に飛び立てるわけではありません。厳しい訓練を経て、宇宙飛行士に任命されて初めて宇宙に行くことができます。
どのような訓練がおこなわれるのか、任命されるまでどのくらいかかるのか、宇宙までの道のりをご紹介します。
宇宙飛行士に任命されるまでには、さまざまな訓練がおこなわれます。
訓練の結果によって、JAXA宇宙飛行士に認定され、次の訓練に移ります。ISSに各システムや操作技術を各国の宇宙機関で学ぶことになり、搭乗が決定すればさらに実践的な訓練が1年半ほど続きます。
他にもさまざまな訓練が待ち受けています。
訓練を終えても、必ず宇宙飛行士になれるとは限りません。JAXA宇宙飛行士への認定、ISS搭乗への任命を経て、初めて宇宙飛行士としてスペースシャトルに乗り、宇宙空間で搭乗業務に従事することになります。
日本人の女性宇宙飛行士の2人目となった山崎直子氏でも10年以上の歳月がかかっています。諦めずに訓練を続け、任命の時を待つのです。
- 著者
- 柳川 孝二
- 出版日
JAXAの宇宙飛行士室長を歴任した著者が、宇宙飛行士という仕事や宇宙で活躍するまでの道のりを解説しています。宇宙に関わってきたからこそわかる、宇宙飛行士に求められる資質や選抜試験の内容、任命を待つ宇宙飛行士の心情などがリアルに描かれていますよ。
宇宙飛行ミッションを数多くこなした、現JAXA理事の若田光一氏への特別インタビューも収録されています。宇宙飛行士とはどのような仕事かを現場目線で知りたい方はぜひ読んでおきたい1冊です。
- 著者
- 大鐘 良一 小原 健右
- 出版日
- 2010-06-17
2008年に行われた宇宙飛行士選抜試験に密着し、実態や候補者の心理をまとめあげた1冊です。2008年の試験は、取材を初めて許された試験・応募者数が最も多かった難関としても知られています。
閉鎖環境で候補者が生活する最終試験にも密着しており、普段知ることができないリアルな試験の様子を知ることができます。最終試験に参加した候補者の行動や心理を追い、宇宙飛行士に求められる資質や人間力にも触れられているのが本書の特徴です。
宇宙飛行士候補者選抜試験について知りたい方はもちろん、宇宙飛行士という仕事を深く知りたい方にもおすすめしたい1冊となっています。
- 著者
- 山崎 直子
- 出版日
二人目の日本人女性宇宙飛行士となった、山崎直子さんが勉強法について語ったおすすめの書籍です。勉強法に関する本は多くありますが、宇宙飛行士本人が宇宙飛行士になるための勉強法を語った本は本書だけではないでしょうか。
内容は、幼少時代の教育から大学受験、選抜試験、語学の習得まで幅広く紹介されています。宇宙飛行士までの道のりや勉強法を学べるだけでなく、著者の「諦めない心」にも触れることができます。
道を切り拓いた著者でも宇宙飛行士になるまで11年かかりました。長く険しい道のりを乗り越え、宇宙飛行士になるまでの心構えもわかる、宇宙飛行士を目指す上で必読の本といえるでしょう。
宇宙飛行士は、4回の試験に渡る宇宙飛行士候補者選抜試験、合格してからの厳しい訓練を乗り越え、任命されて初めて宇宙空間で仕事をすることができます。道のりは長く険しいですが、未知の空間である宇宙を舞台に活躍し、人々が夢見る存在になれることは他の職業にはないやりがいといえるでしょう。
今回ご紹介した本には、宇宙飛行士や宇宙に関わる著者の経験が詰まっています。気になった本を手に取って、宇宙飛行士について深く知ったり、目指すきっかけにしてみてくださいね。