教育学と心理学を専攻していた学生、または現在専攻している学生の中には、大学で法務教官という仕事を耳にしたことがあると思います。 法務教官とは、少年院や少年鑑別署に勤務し、非行を犯した青少年の指導・教育をおこなう専門的な職業です。法務教官には教師免許などは不要ですが、教育学や心理学に精通している必要があります。青少年の心と向き合うには、とても繊細なコミュニケーションが大切なのです。 今回はそんな法務教官の仕事内容と採用試験について紹介します。あわせて、採用試験の対策に使える問題集や、法務教官をより知ることのできる本もご紹介していきますよ。
法務教官とは、少年院と少年鑑別所で勤務している国家公務員の法務省専門職員です。罪を犯した少年を指導・矯正させるのが主な仕事です。
具体的には、生活指導・教科指導・職業訓練だけでなく就労支援もおこなうことで社会復帰をさせます。
その他に、刑務所や少年刑務所および拘置所などの刑事施設に勤務する選択肢もあります。刑事施設に勤務した場合は性犯罪や薬物依存の指導に関わり、就労支援や教科指導も担当します。
少年院、少年鑑別所、そして刑事施設などで矯正指導が必要な青少年は、複雑な環境で育ったり、大人からの愛情を欲していたりといったケースは多く見られます。そのため法務教官は、青少年たちに対して丁寧に、かつ冷静に接することを求められます。
人の考えや行動を矯正するのは簡単なことではありません。厳しい一面も持ち合わせた法務教官ですが、忍耐強く接することで青少年が更生することがあれば、多いにやりがいを感じられる職業であるといえそうです。
勤務時間は週休2日制で1週間あたり38時間45分です。少年院など矯正施設で勤務することから、昼夜泊まりの勤務を担当することもあります。国家公務員行政職とは異なり、1週間の勤務が変則的となるため体力が要求されます。
給料については国家公務員一般職より高い水準となっています。法務省の法務教官区分のホームページによれば東京都に勤務した場合、初任給は約24万円です。
給料に加えて勤勉手当・超過勤務手当・住居手当などさまざまな手当が付くため、年収の水準は400万〜500万円の間が一般的です。公務員のため勤務年数が長ければ、その年収に応じた年収が見込めます。
また多くの人が家賃不要の官舎に住むため、お金を貯めやすいというメリットがあります。もちろん勤務先により月給には多少の違いはあるものの、全体を通してみると給料面は高待遇といえるでしょう。
法務教官と似たようなイメージの職業として「刑務官」があげられます。
違いとしては、刑務官は刑務所や拘置所に勤務し、主に成人の監督・指導やおこないます。それに対し法務教官は、少年院や少年鑑別所に勤務し、主に未成年者の矯正・指導を仕事としています。
刑務官の詳細が知りたい方はこちらの記事も読んでみてくださいね。
刑務官になるには?5分で分かる、給料や階級ごとの仕事内容、採用試験など
→https://honcierge.jp/articles/shelf_story/5959
法務教官は、非行を犯した未成年者に対して矯正・指導をおこなうため、適性があるかどうかはかなり大事なポイントとなるでしょう。
少年院や少年鑑別所に入所してくる未成年者は一筋縄ではいかない子が多く、法務教官を煽るような言葉をぶつけられることもあります。そうした時にカッとなり暴言を吐き返すことなく、冷静な対応ができる人は適性があるといえるかもしれません。
矯正・指導をおこなう未成年者に成長がみられることは、法務教官としてやりがいを感じられることのひとつでしょう。未成年者との信頼関係を築くまで辛抱強くコミュニケーションを取っていける熱意のある人は、法務教官の適性があるはずです。
昼夜泊まりの勤務もある法務教官は、言わずもがな体力がなければ長くは勤め続けられません。そのため実際に法務教官になるのは体育系大学を卒業している人が多く、体力があってコミュニケーション能力にも不安がない人は馴染みやすい環境といえるかもしれません。同僚同士の飲み会も少なくないため、その意味でも体力に自信のある人はおすすめです。
法務教官は約5、6年勤務すると研修を受けて専門官に昇任し、その後は統括専門官、主席専門官などのキャリアアップの道が開かれているようです。
また2020年7月時点で少子高齢化により減少していることを受け、入所者数や少年院の数が減ってきています。しかし一方で高齢受刑者が増えており、刑務官の人手不足が叫ばれています。そのため法務教官から刑務官へのキャリアチェンジをする人も少なくありません。
その他には教育・福祉施設に転職する人もいるようです。法務教官になる際に勉強した心理学や教育学の知識を活かすには最適な職業なのかもしれません。
法務教官には資格は不要ですが、公務員ですので法務省専門職員(人間科学)採用試験の法務教官区分を受験し、合格する必要があります。
法務省専門職員の職務内容は3つにわかれています。
それぞれ設けられている受験資格が異なるので、法務教官の採用試験を受けたい人は法務教官の受験資格を確認してくださいね。
また法務教官の採用枠は3つの職務のなかで最も多く、全体で約200名(2020年度)の採用が予定されています。
もちろん新卒採用枠が多めではありますが、社会人で他の仕事からの転職を考えている人も法務教官として働く道が開かれています。
法務省専門職員の採用試験は例年3月に申込の受付がスタートし、6月に第1次試験、7月に第2次試験、そして8月下旬には最終合格者が発表されます。内定が出るのは10月頃になります。
試験科目は3つの職務とも共通です。
▶︎第1次試験
・基礎能力試験(多肢選択式):公務員として必要な基礎的な能力(知能、知識)について
・専門試験(多肢選択式):法務省専門職員について必要な専門的知識について
・専門記述(記述式):法務省専門職員について必要な専門的知識について
▶︎第2次試験
・人物試験:人柄、対人的能力などについての個別面接
・身体検査:胸部疾患、血圧、尿などその他一般内科系検査
・身体測定:視力検査
基礎能力の試験では、知識に比べて知能に関する問題が多く出題される傾向にあるので、対策はしっかりおこなうのがおすすめです。
特に、「判断推理」「数的推理」「資料解釈」は基礎能力試験のなかで最も重要な科目です。問題数も16問と多いため、重点的な勉強が必要となります。
専門試験科目では、心理学や教育学、福祉、社会学に関する基礎的な知識が問われます。同じ専門試験科目でも記述式は難関といわれていますので、きちんと知識を身に付けてから論文記述の対策に入るのがよいでしょう。
採用予定枠に対し、例年、約10倍の申込があります。試験の難しさに加え、そういった意味でも合格率は低くなる傾向にあるようです。過去3年の合格倍率をみてみましょう。
その他の年の倍率をみても、大体5〜8倍あたりを推移しています。法務省専門職員(人間科学)のなかでは多い採用枠といっても、応募者数から見てみると実際は狭き門です。
詳細が知られていない職業でもあるため採用試験の対策情報が少なく、対策を十分におこなえていないという面もあるようです。
ここから先は、法務教官の仕事についてもっと知りたい、独学で試験対策をしたいという人に向けた書籍をご紹介します。
- 著者
- 宮口 幸治
- 出版日
法務教官という仕事に関心があり、非行少年について問題意識を持ち始めるようになったらこの本を推薦します。
『ケーキの切れない非行少年たち』は2019年に刊行されてから、多くの人に読まれている有名な1冊です。この本の著者は児童精神科医で、実際に非行少年と関わった経験を踏まえて書かれています。
非行少年に関する5つの特徴として、認知機能の弱さ、感情統制の弱さ、融通の利かなさ、不適切な自己表現、対人スキルの乏しさがあります。世間では「非行少年」と聞くとある一定のイメージが想像されると思いますが、それは表層的な部分にすぎません。
この本で特に強調されている「認知機能の弱さ」は、彼らだけに特別に共通することではありません。一定数の大人にも見られるということがこの本を通して読み取れます。
法務教官だけでなく、教育に関わる現場で働くすべての人にぜひ一度目を通してもらいたい1冊です。
女子少年院
2003年12月01日
非行少年にはいまだ「少年」のイメージが多いですが、非行を犯すのは少年だけではなく、少女も含まれます。しかし、まだ一般的には知られていることが少ない飛行少女たちの実情。
この本は、実際に法務教官として女子少年院に勤務していた著者によって書かれました。売春、覚醒剤、恐喝、集団リンチなど、さまざまな罪を犯した少女たちが何を考え、どうして罪を犯してしまったかのを考えさせてくれる内容となっています。
また少年院では実際にどんな矯正・指導をおこなっているかの詳細も描かれています。貴重な実情を知ることのできる1冊です。
- 著者
- 法学書院編集部
- 出版日
この本には、少年院や少年鑑別所などで活躍する法務教官の仕事内容と、試験の合格方法について書かれています。
実際に、現役で法務教官として働く10名の就業記でもあるため、さまざまな立場、あらゆる角度から法務教官という仕事の実態が分かるでしょう。
また、この本には法務教官としてどのような人材が求められていることも書かれています。ですので、まだ法務教官を目指すとは決めていないけれど、なんとなく気になっているという人とってもおすすめの内容です。
法務教官の主な仕事は非行少年の矯正教育で、少年が教育によって立ち直る姿を見ることができる、とてもやりがいがある職業です。人の心が健全な方向に再生していくさまを、これほど近くで見ることのできる職業はそう多くはないはずです。
給料については一般職より水準が高く、そうした面でも充実度の高い仕事でしょう。しかし、昼夜泊まりの勤務があるので変則的な勤務になり、体力が必要となるため、おすすめの仕事とは一概には言い難い面もあります。
心理学・社会学・教育学を専攻している読者で、これらの分野の知見を生かして公務員の職に就きたい場合、教師以外の仕事で少年の教育に携わりたい場合、法務教官を目指してみるのもよいのではないでしょうか。