「認定遺伝カウンセラー®︎」という職業は、日本ではまだまだ認知されていない資格です。なので、資格の名前自体を初めて耳にしたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。ですが、アメリカでは知名度が高く安定した職業として知られています。 本記事では、遺伝カウンセラーはどういった仕事しているのか、資格の有無や年収などを詳しくご紹介していきます。職業を選ぶ際に選択肢の1つとしてご検討いただければ幸いです。 また、遺伝カウンセラーに関する書籍もあわせてご紹介していきます。もっと遺伝カウンセラーについて知りたいという方は書籍も参考にしてみてください。
遺伝カウンセラーについて、東北大学東北メディカル・メガバンク機構人材育成部門では下記のように記載しています。
認定遺伝カウンセラー®︎は、遺伝医療を必要としている患者や家族に適切な遺伝情報や社会の支援体制などを含むさまざまな情報提供をおこない、心理的・社会的サポートを通して当事者の自律的な意思決定を支援する保険医療・専門職である
日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会により認定される資格であり、2005年より資格制度ができました。日本ではまだまだ認知度が低く、2017年12月時点で226名が資格認定を受けています。世界に遅れを取っているのが現状であるといえます。
遺伝カウンセラーの世界での事情を見てみると、1970年代より遺伝カウンセラーという職業ががすでに存在しており、アメリカでは多くの方が遺伝カウンセラーとして従事しています。特にアメリカでは人気女優、アンジェリーナ・ジョリーが遺伝子検査と遺伝カウンセリングを受けて乳房切除に至ったということで一時期話題にもなっています。
遺伝カウンセラーの仕事は、遺伝子や遺伝のメカニズムが関与する疾患や体質について、さまざまな問題を抱える方やそのご家族のお話を伺いながら、医療情報をわかりやすく説明したり、心理社会的なサポート、いわゆる「遺伝カウンセリング」をおこないます。
医師から説明された内容が分からない、納得がいかないという家族に医師の説明の補足や解説を加え、そのうえで治療方法などが決定できたり検査を受けられたりするように支援をします。また、必要に応じて関係各所と連携をとることも遺伝カウンセラーの仕事なります。
遺伝カウンセラーの9割は病院で働いています。
遺伝性疾患を扱うところのため大学病院など大きな病院が多く、この病院で治療を受けている方だけでなく他院から遺伝カウンセリングを受けるために受診される方へのカウンセリングもおこないます。割合としては1割弱程度ですが、研究機関や検査会社で働くということもあります。
また、経験を積むなどしてキャリアアップしていきたいと考える方は、講師として教鞭を取ることもあります。認定遺伝カウンセラー®︎になるための勉強をしている学生あるいは、看護学生など遺伝カウンセリングについて学ばれている方の育成をすることは、自身のキャリアアップにも繋がるのです。
遺伝カウンセラーの年収について求人情報を調べて平均をとったところ、病院勤務の場合は月収22~25万円程度が相場となります。企業で働いた場合は年収で400万~600万円と差があることが特徴です。
遺伝カウンセリング自体は自費診療ですが、受けた診療のお金が遺伝カウンセラーに入ってくることは少ないようです。
また、認定遺伝カウンセラー®︎は民間資格のため、資格手当などを付与しているところが少ないのも年収が上がらないことの理由のひとつであるといえます。
遺伝カウンセラーになるためには、遺伝カウンセラー認定養成課程を設置した大学院を修了し、「認定遺伝カウンセラー®︎」の試験を受けることが必要です。遺伝カウンセラーの養成課程を設置している大学院は14しかありません。そのため、自分の居住している地域に大学院がないということもあり得ます。
・岩手医科大学大学院
・お茶の水女子大学大学院
・川崎医療福祉大学大学院
・北里大学大学院
・京都大学大学院
・近畿大学大学院
・札幌医科大学大学院
・信州大学大学院
・千葉大学大学院
・東京女子医科大学大学院
・東北大学大学院
・長崎大学大学院
・新潟大学大学院
・藤田保健衛生大学大学院
大学院は関東圏に集まっているので、関東以外の大学に通っていて大学院に進学するという方は引越しなどが生まれるため、少し負担が大きいかもしれませんね。
「認定遺伝カウンセラー®︎」試験は、筆記試験と面接があります。筆記試験には必須問題と選択問題があり、遺伝カウンセリングについて幅広い知識を問われます。
過去問に関しては「認定遺伝カウンセラー制度協会」が取り扱っています。効率よい試験対策をおこないたい方は購入した方がよいかもしれません。
大学卒業後にストレートで大学院に入って資格を取る方もいますし、他の医療職である程度の経験を積んでから資格を取る方もいます。そのため、大学院に通われている方の年齢層は非常に幅広いことが特徴です。
日本では2017年時点で資格保有者数が300名にも満たない遺伝カウンセラーですが、どんな人に適性があるのでしょうか?
遺伝カウンセラーだけでなく、医療の現場というのは複数の職種が連携して展開しています。
遺伝カウンセラーが働く現場では、遺伝性疾患のある患者さんが就職や結婚、出産などのタイミングでカウンセリングにくることも多くあります。その時に臨床遺伝専門医やその他の専門職の人も交えて、患者さんの課題に対してチームで対応していかなければなりません。
がんや心疾患、先天性障害、妊娠にまつわる問題など遺伝カウンセラーの携わる範囲は幅広いです。そのため、現役の遺伝カウンセラーも常に情報を収集したり、勉強会などへ行き、知識をアップデートしており、常に勉強し続けることが必要な職業であるといえます。
遺伝カウンセリングでは、疾患の解説や療育に関する情報などを分かりやすく患者さんに伝えていきます。相談相手の年齢や境遇はさまざまです。プライバシーに関わる相談も多いため、遺伝カウンセリングについての知識に加えてコミュニケーション能力や倫理的配慮が問われる職業です。
直接、医療行為をおこなうことができませんが、困難に直面した患者さんを支え、人間への理解を深める意欲のある人は適性があるといえるでしょう。
ここからは、遺伝カウンセラーになりたいと考える方におすすめしたい書籍をご紹介します。
- 著者
- ["公子, 滝澤", "豪昭, 千代"]
- 出版日
遺伝カウンセラーになるにはどうすればいいのか、遺伝カウンセラーはどういう職業なのかがまとめられている1冊です。遺伝カウンセラーという職業に就いて知りたい、あるいは遺伝カウンセラーになりたいという方はまず手にとってみてはいかがでしょうか。
遺伝カウンセラーになるために通う大学院での過ごし方なども書いてあります。そのため、実際に遺伝カウンセラーの道を歩み始めた際のイメージをつけやすいと思います。
この本の著者は小児の専門病院で遺伝カウンセリングをおこなってきた医師です。遺伝カウンセラーの今後についての話も詳しく書いてあるので、遺伝カウンセラーになる前からなった後までずっと参考になるの1冊といえるでしょう。
- 著者
- ["山内 英子", "吉野 美紀子"]
- 出版日
遺伝の関係が濃厚であるといわれている病気の1つに乳がんがあります。その乳がんについて、遺伝という観点からまとめた1冊です。
本書の中には実際に遺伝カウンセリングでどのような話がされるか、がんの患者さんに対して遺伝カウンセラーがどのようなかかわりをしているかなど、遺伝カウンセラーの役割が詳しく載っています。
クライエント目線の話なので、遺伝カウンセラーになる前の方は特に遺伝カウンセラーの仕事について分かりやすいのではないでしょうか。
この本の著者は実際に大学病院で遺伝カウンセラーとして働かれている方です。そのため、遺伝カウンセラーの役割と遺伝カウンセリングについての内容が非常に分かりやすいことが特徴です。
これから遺伝カウンセラーを目指す方にはぜひ読んでいただきたい1冊です。
- 著者
- 植前和之
- 出版日
まずは遺伝子について知りたいと考える方におすすめしたい1冊です。
遺伝カウンセラーは遺伝による病気とその患者さんに向き合う職業ですが、この本は病気という観点ではなく、人と遺伝の関係性について書かれた1冊です。
たとえば遺伝と肥満の関係、遺伝と老化の関係など日常生活で疑問に思うことを遺伝子の観点から解説しています。自分の生活に直結しやすい内容で遺伝子について書かれているので分かりやすく、読みやすい内容となっています。
プロの立場からやさしく遺伝子について解説されるので、まずは遺伝子について知りたい方はこちらの本から読み始めてみてはいかがでしょうか。
実際に活躍している遺伝カウンセラーの年齢幅は広く、そのため「認定遺伝カウンセラー®︎」は年齢関係なくチャレンジできる資格であるといえます。また、医療が進むにつれて遺伝という観点からの病気の解明はさらに重要視されるので、今後需要は高まってくるかもしれません。
活躍するには、知識だけでなくコミュニケーション能力や倫理観など問われます。常に勉強も必要で大変かもしれませんが、患者さんが前を向いて歩き出す姿や、カウンセリング後の感謝の言葉など、その分やりがいも感じられる仕事でしょう。
ここでご紹介した本を読んでみて、遺伝カウンセラーという職業に興味が沸いたという方はぜひ資格取得にもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。