読者のなかには、小学校か中学校の社会科見学で消防署を訪れた経験があると思います。ニュースや実際に火災現場で消火に当たっている消防官の姿や人命救助を見て憧れたことがありませんか。 公務員職として人気の消防官ですが、採用試験は難易度が高く、また就職・転職を考えるにしても年齢制限があります。 今回は、消防官の働き方や、気になる年収事情、また採用試験の内容などについて解説します。あわせて読みたい書籍も紹介しますので、興味のある方はぜひ読んでみてくださいね。
消防官は、火災や交通事故や一般事故などから人々の命や財産を守るのが仕事の職業です。主な任務には下記のようなものがあります。
それぞれどのような活動なのかを詳しく見ていきましょう。
◾️警防活動
警防活動には、消火・火災調査が含まれています。警防は、火災を早く消すための専門的な訓練を積んだ消火のプロです。消火後には火災の原因の調査をおこない、資料の作成などもします。
◾️予防活動
その名の通り、火災や災害などによる被害を予防、軽減することが任務となります。人々が安全に暮らす環境整備のため、建物に設置されている消防設備が消防の法律に適合しているかを検査します。
◾️救助活動
救助隊として活動する方たちは、選抜された隊員のみで構成されています。災害で動けなくなった人や、建物に閉じ込められた人などを救助するのが主な仕事です。
◾️救急活動
怪我や病気で苦しんでいる人を手当し、病院に搬送するのが救急活動です。迅速な判断と手当が求められるため、医療の知識を有していなければつとまりません。
一般的に親しまれているのは「消防士」ですよね。消防士は消防隊員のなかの職業名・階級名であり、消防士は最下位の階級のことを指します。ですので本来であれば、消防士の階級を持つ人のみが消防士と呼ばれるということです。
それに対し、消防官は実は正式な名称ではありません。本来であれば消防吏員と呼ばれるべきなのですが、「警察官」や「自衛官」が広く認知されていることから、消防吏員も消防官と呼ぶようになったと言われています。
消防官(消防吏員)は公務員のため、給料の月額は俸給表によって定められています。総務省消防庁が公開している「消防職員と一般行政職員との給与水準比較」によれば、平均給与月額は約42万円となっています。年収に換算すると約500万円ほどです。
しかしこの給与月額には諸手当が含まれています。手当には特殊勤務手当、時間外勤務手当、夜間勤務手当などがあり、その手当総額が約10万円ほど。そう考えると給料月額の平均は約32万円となります。
消防官は市町村職員です。消防車と救急車を観察すると、側面に○○市消防本部や○○組合消防本部と書かれているのに気付くかと思います。東京都については東京消防庁が管理していますが、原則として市町村または近隣の市町村が集まって広域で管理しています。
試験の受験資格や試験の内容については各市町村が管理する公式サイトに掲載されています。今回は例として東京消防庁の採用試験の内容を見てみましょう。
消防官の採用試験には4つの区分があります。その区分ごとに受験資格も異なっているのです。
<専門系>
1991年4月2日以降に生まれた人で、学校教育法に基づく大学(短期大学を除く)を卒業している人(2021年3月卒業見込みを含む)または同等の資格を有する人
<I類>
1991年4月2日から1999年4月1日までに生まれた人
1999年4月2日以降に生まれた人で、学校教育法に基づく大学(短期大学を除く)を卒業している人(2021年3月卒業見込みを含む)または同等の資格を有する人
<II類>
1991年4月2日から2001年4月1日までに生まれた人
<III類>
1999年4月2日から2003年4月1日までに生まれた人
専門系消防官は、高度の消防行政を担う職員として、専門知識を活用できる部署で働く職員のことです。しかし専門系消防官も、災害現場での消防活動には参加します。事務・技術職員以外は消防官としての業務に携わることに違いはありません。
採用試験は、1次試験と2次試験にわかれています。
◾️1次試験:教養試験
1次試験は、教養試験と論文・作文試験、適性検査がおこなわれます。教養試験において、I類は大学卒業程度、II類は短大卒業程度、III類は高校卒業程度の問題が出題されます。
<知能分野>
文章理解、英文理解、判断推理、空間概念、数的処理、資料解釈
<知識分野>
人文科学(国語、歴史、地理)
社会科学(法学、政治、経済、社会事情)
自然科学(数学、物理、化学、生物)
知能分野と知識分野からそれぞれ出題されますが、問題は広範囲からの出題となっています。公務員としての思考力を問う知能分野と、知識を問う知識分野の勉強をまんべんなくおこなう必要があるでしょう。
◾️1次試験:論文・作文試験
論(作)文試験は課題式です。I類、II類は論文試験、III類は作文試験をおこないます。
◾️2次試験
そして2次試験は、体力検査と口述試験となっています。体力検査では腕立て伏せ・懸垂・持久走・シャトルランなどがあるようですが、採用する自治体によって内容は少し異なります。
体力が必要な仕事のため体力検査が重要と考えられがちですが、実際には筆記試験が大切を言われています。筆記試験の点数は7〜8割を取れるよう目指す必要があるようです。
参照:東京消防庁
採用試験の倍率は、採用をおこなう市町村によって異なります。たとえば東京消防庁は全国的に見ても採用予定人数が多いですが、勤務地として人気のために倍率は20〜30倍の年もあります。
それなら地方の方が合格する確率が高くなるかといえばそうでもありません。地方の採用試験では採用人数がそもそも少ないため、その点で難易度が高くなっている場合が多いです。
そのため消防官を目指す人は、I類とII類を併願受験したり、受験のために全国を行脚することもあります。
消防官は、採用試験に合格するとすぐになれるわけではありません。消防官としての採用が決まったら消防学校に入学し、研修を受ける必要があります。
消防学校とは消防官として配属されるまでに研修を受けるための学校です。この学校で受ける研修のことを初任科教育といいます。この学校の訓練を修了しないと一人前の消防官になれません。
なお、消防学校という名前ですが、学費を支払う必要はありません。初任科教育を受けている期間は給料が支払われることになっています。
人命救助や安全の確保などをおこなう消防官。一度は民間企業に就職したものの、消防官という仕事への憧れから転職を考える方もいるのではないでしょうか。
実際に消防官として従事している方は、新卒5割、中途採用5割と言われてることもあります。そう聞くと転職は難しくなさそうな気もしますが、民間企業から消防官への転職は難しいのでしょうか。
消防官採用試験には年齢制限が設けられています。自治体によって異なることもありますが、大体が18〜30歳くらいまでとしています。
採用試験を受験するにあたって勉強や対策には半年以上かかると考えたら、転職が頭に浮かんだら早めに動き出すのがよいでしょう。
すでに社会人として働いている方は、現職を勤めながら消防官採用試験の受験対策をしていかなければなりません。大切なのは勉強時間と効率です。
消防官採用試験は筆記試験が重要と言われており、体力検査は参考程度です。そのため筆記試験の対策をしっかりとおこなう必要があるのです。
しかし筆記試験の内容は、人によっては初めて勉強する分野ばかりになるでしょう。文章理解や判断推理などの知能分野と、人文科学、社会科学、自然科学の知識分野をどれだけ効率よく勉強できるかが試験合格の鍵となります。
逆に、消防官から民間企業への転職事情はどうなっているのでしょうか。
消防官として働くことで得られる能力というのは潰しが効かないと言われています。専門的な知識が多いですから、同じような業務をおこなう仕事でなければスキルが活かせる機会は少ないでしょう。そのため、消防官から転職をする方は勤務年数3年ほどで転職することが多いようです。
- 著者
- Jレスキュー編集部
- 出版日
体育大学に在籍している、または高校・大学でスポーツ系のクラブ活動をしている方、体力に自信があって消防官として働くことを考えている方におすすめの本です。
この本では採用試験、1日の仕事以外にも意外な消防官の仕事を知ることができます。
消防官といえば、火災現場と救急活動で見ることが多いのですが、実際には消防署内における事務作業のほうに時間を割いている実情があります。そんな地道な消防官の仕事も知ることができるでしょう。
第4章では、消防官になってから取得できる資格についても紹介があります。消防車を運転するために必要となる中型車や大型車の免許を取得したうえで、国の定める「緊急自動車の運転資格」を満たし、内部資格を取得しなければなりません。
消防車を運転する資格を取得するのが狭き門であることが分かります。
また、消防官として採用され、救急隊員として勤務してから救急救命士になるための条件も紹介されています。大卒の場合、救急救命士の資格を取得してから消防官の試験を受ける人もいるようです。ただし、消防官としての仕事を経験してから救急救命士としての仕事をすることになるので注意する必要があります。
- 著者
- 直人, 新宅
- 出版日
消防署内の写真がまとまった写真集です。全38ページと少なめですが、消防署の建物について今と昔を比較した写真や、119番の仕組み、消防官の仕事などを写真を通して消防署を知ることができます。
消防官は市町村職員ですが、学生・会社員・自営業者など本業を掛け持ちしながら防災活動に関わっている消防団員について写真入りで紹介されています。
写真が多い1冊なので子どもにも分かりやすく、この本がきっかけで消防官に興味を持つ人がいるかもしれません。社会見学で消防署を訪れたことがない人や社会見学のことを忘れてしまった大人向けの本でもあるといえます。
- 著者
- 資格試験研究会
- 出版日
消防官の筆記試験は高卒・大卒・短大卒すべて教養試験のみです。
受験する区分によって問題の難易度が異なります。I類は大卒程度、II類は短大卒程度、III類は高校卒業程度の問題が出題されます。高卒程度で受験する方のなかで余裕があれば大卒程度の過去問を解いて過去問に慣れるのもよいかもしれません、
この本には平成9年度から令和元年度までの消防官採用試験の過去問が載っています。教養試験の過去問を繰り返し解いて解き方をマスターし、高得点を狙いましょう。
今回は、消防官の仕事内容、採用試験の内容、年収や手当、転職事情について紹介しました。消防官の採用試験は筆記試験だけでなく、体力検査もありますが、体力検査は参考程度で、重要なのは筆記試験の内容です。
また採用後にある初任科教育も重要です。消防学校における初任科教育については厳しすぎるために脱落するという話を耳にしたことがあるかもしれません。この初任科教育をいかに乗り切るかということが重要になるでしょう。
新卒・中途と採用枠は分けられておらず、年齢制限があるのみです。そのため就職を考える方は早め早めに動き出すことが大切です。