繊維業界はアパレル業界や、その他にもさまざまな業界と密に結びついている業界です。洋服を作ることが真っ先に浮かぶ人もいれば、紡績や染色といった技術のほうが思い当たった人もいるでしょう。研究開発に関心のある人もいるかもしれません。 繊維業界について少しでも知っている方からすれば、過去も今も明るい話題が少ないことは否めません。しかし小規模ではありますが、前進しようともがいている面もあるのです。 本記事では、日本の繊維産業がどのようなことをしているのかをまとめ、繊維にまつわる書籍を紹介していきます。
繊維業界は、アパレル業界と非常に密接な関係にあります。繊維の研究・開発をおこなったり、工場で生地を制作したりして、そこからアパレルの工場へ卸されたり、販売したりしているのです。
では繊維業界では具体的にどんなことがおこなわれているのかを見ていきましょう。
繊維業界のなかでも、とくに大手である東レや帝人などのメーカーでは、新しい繊維の開発を積極的におこなっています。機能性と質感を両立するインテリア用繊維や、環境負荷の少ない化学繊維、導電性能のある繊維など、特定の目的に合わせた製品を開発しています。
大手ほど大々的に研究開発はおこなわないものの、繊維の生産をおこなっている企業もあります。「紡績産業」と言うと、社会科で習った知識と合致してイメージがしやすいかもしれません。
できあがった糸は、「原糸」と呼ばれ、一部はそのままの状態で使用されます。ニット用の毛糸や縫い糸などです。しかし多くの糸はこのあと生地に加工してから利用されます。
繊維の材料には、さまざまなものがあります。化学繊維だけでなく、羊・ヤギ・ウサギなどの動物性繊維、ワタ・アサなどの植物性繊維なども代表的です。複数の素材をブレンドして糸にすることもあります。
原糸の多くは工業用として生産されますが、ごく一部の繊維は家庭で消費される手芸用材料になります。
出荷された原糸は続いて生地へと姿を変えます。糸を織ると布になりますが、身近なところで布を探してみましょう。洋服・家具・寝具・電車やバスの座面など。用途も質感も異なるたくさんの生地が使用されているのが分かります。
また、一見繊維とは関係なさそうに見える合成皮革なども、裏地には布地が使われていることが少なくありません。生地づくりの工程では、原糸が目的に合わせてさまざまな布に変化を遂げます。
生地には糸の段階から色がつけられているものと、布になってから色がつくものがあります。チェックやストライプなどの模様は、複数の色糸を組み合わせることによって作られています。
一方でキャラクターのプリントや水玉模様などは、折り上がった色を染めたり、プリンタで印刷したりして付けられる模様です。生地作りの工程を担う企業は、織りの技術だけでなく染色・印刷の技術も独自に開発しています。
完成した糸・生地を卸・商社から出荷する
完成した生地や一部の糸は、多くの場合卸売り業者や商社に集められます。ここからアパレルの工場でや一般の小売店などに出荷されていきます。とくに繊維分野を得意とする商社は、原糸・生地生産の現場と提携してオリジナルの製品を開発することもあります。
「繊維産業」という呼び名には、この先の工程も含まれることがあります。アパレル・インテリア産業の生産現場です。アパレル業界については「5分でわかるアパレル業界」で紹介していますのでぜひご覧ください。
就職活動で情報収集をしていると、「繊維業界はなかなか大変らしい」という話を耳にするかもしれません。表ではアパレル業界の動向や話題が注目されがちですが、実は繊維業界もかなり厳しい状態に陥っているのです。
まず、国内全体の需要が減少していることがあげられます。一例としてアパレル業界を見てみましょう。
バブル期(1980年代後半〜1990年頃)と現在を比較すると、アパレル業界の国内市場規模は15兆円から10兆円へと減少しています。一方で供給量は20億点から40億点とほとんど倍になっているのです。
アパレルだけでなく、繊維産業が関わるさまざまな業界でこのような縮小傾向が見られています。少子高齢化の影響も少なくないことが予想されているため、今後もこの傾向が続くと考えられます。
日本のメーカーが開発した繊維はユニクロの「ヒートテック」にも使われるなど、実は国際的な競争力を誇っています。しかし、産業全体として見たときには輸出総額は大きいとはいえません。特に完成した衣料品の分野でこの傾向が強く見られます。
ファストファッションが流行した結果、アパレル業界は世界的に過当競争に陥っています。消費者が購入する市場での価格が大幅に下落しているわけですが、そのしわ寄せは生産・製造者に来ています。
原材料や原糸・生地が安く買い叩かれるという減少が発生しているわけです。そのため、体力のないところは取引先からの値下げ要求に応えられず、体力のあるところもぎりぎりの売上でやりくりするというのが常態化してしまっています。
「高品質なのに過当競争に陥っている」というのが、日本の繊維業界の問題点です。そのため、思い切ったビジネスモデル変更に踏み切るメーカーも現れています。
紡績メーカーが自社で高級路線ブランドを創設したり、たとえば「wafu」というリネンブランドでは縫製工場で端切れを独自に販売したりと、さまざな工夫が見られます。
今までのやり方が今後も続けられるとは限らないため、時代の流れを掴みながら繊維業界もさまざまな変革をおこなわなければならないタイミングになっているのです。
- 著者
- []
- 出版日
アパレルや日用品に使われる繊維について消費者が直接知る機会は少ない一方、比較的ダイレクトに生産側と消費者がコミュニケーションできる市場も一部にはあります。そのひとつがホビーの世界です。
編み物雑誌を見ると、糸そのものが商品として売られるという珍しい市場を確認できます。非常に小規模な市場ではありますが、新しい技術が開発されていたり、アパレル全体の流行を取り入れていたりと、おもしろい試みを知ることができます。
2020年10月時点では暗い話題も多い繊維業界ですが、このように前進している面もあることを知りたい方におすすめの1冊です。
- 著者
- 細井 和喜蔵
- 出版日
「繊維業界が大変」というのは、実は今に始まった話ではありません。イギリスで発生した産業革命の一端を担ったのも繊維産業でしたし、明治期以降の日本で輸出の主力だったのも繊維でした。
その一方で、繊維産業の労働条件は常に悪い状況でした。戦前の日本がどう売ったのかは『女工哀史』などを読むと知ることができます。業界の構造というのはなかなか変化することのないものなのだということも含めて、現在と比較して考える材料がたくさん出てくるでしょう。
- 著者
- 中谷 文美
- 出版日
あまり明るい話題の多くない繊維産業ですが、繊維自体は人間の生活になくてはならないものです。また、ある種の繊維には日用品以上の意味合いがあるという社会は珍しくありません。
日本であれば「同じ高級品でも大島紬は普段着にしかならないが、友禅は訪問着にできる」などといった規範があります。
このように、社会の構造と深く関わってきた繊維産業について、フィールドワークをまとめたのが『「女の仕事」のエスノグラフィ』です。
本書はとくにバリ島の伝統産業でもある織物に焦点を当てているため、社会構造やジェンダーなどが繊維産業を通して浮かび上がってきます。
日本の繊維産業の現状についてまとめました。消費財は社会情勢の影響を受けやすいため、現在はそれなりに困難な状況であることが否めません。ただ、そのような状況を打破するための試みも多くなされています。関心のある人にはやりがいのある仕事も見つけられそうです。